「王様がここにいらっしゃるだ」サムはおごそかに言いました。
「袋小路屋敷(※フロドが住んでた屋敷。後にサムに譲られる)に 来る!」こどもたちは叫びました。 「そうじゃないだ」サムが言いました。「王様は北のほうに来るだ。王様はホビット庄には入るつもりがないだよ。なぜって、王様はあのひどいこと(※ 原作にはある、「ホビット庄の掃討」一連の事件のこと)以来、“大きい人”がホビット庄に入ることを禁じる御触れを出したからな。王様は 自分で自分の出した法律を守りなさるだよ。でも王様は橋のとこまで来るだ。そして−  サムはちょっと間をおきました。「王様は特別のご招待をおまえたち全員に下さったぞ! そう、王の御名においてだ!」

 サムは箪笥のところに行って、大きな巻物を出しました。それは黒くて、銀で字が書かれていました。
「それはいつ来たの?」メリーがたずねました。「南四が一の庄の郵便局に、3日前来てたわ。」エラノールが言いました。「わたし見たもの。絹で包まれてい て、大きな封印が張ってあったわ」 「まったくそのとおりだよ、お見通しちゃん(※原文my bright eyes。…変な意訳ですんません。)」サムは言いました。

「さてごらん」彼はそれを広げました。「エルフ語と共通語の両方で書かれてるだな」サムは言いました。「こう書いてあるだ。

“ゴンドールと西方の地の王、アラソルンの息子、エルフの石、エレスサール・アラゴルンは、バランデゥイン川(※ホビットたちの言う「ブランディワイン川」)の橋に、春の一番最 初の日またはホビット暦で3月25日、に訪れ、彼のすべての友人たちに挨拶することを望んでいる。特に強く王が望まれているのは、庄長のサムワイズ・ギャ ムジー殿および彼の妻ローズ、そして彼の娘エラノール、ローズ、ゴルディロック、デイジー、および彼の息子フロド、メリー、ピピン、ハムファストと会うこ とである。”

ほらな、全員の名前がちゃんと書いてあるだよ」「でも、両方の人名簿が同じじゃないわよ」とエラノールが言いました。彼女は字が読めるのです。 「ああ」サムが言いました。「それは最初の名簿はエルフ語だからだよ。エリー、おまえはエルフ語でも共通語でも同じ。おまえの名前はエルフ語だからな。で もフロドはイオハイル(※原文Iorhail。以下同様)だし、ローズはベリル(Beril)、メリーはリベン(Riben)、ピピンはコルドフ (Cordof)、そしでゴルディロックはグロールフィンニエル(Glorfinniel)、ハムファストはマルサンク(Marthanc)、そしてデイ ジーはアリエン(Arien)。わかったかい」

 「すごい、びっくりだ」フロドがいいました。「じゃあ、おらたちはみんなエルフ語の名前があるだね?でも父ちゃんの名前は?」
「そうだな、ちょっくら変わってるだよ」サムは言いました。「エルフ語ではだな、もしおまえが知りたければだけど、王様は“本来はむしろランハイル(※原 文Lanhail)と呼ばれるべきペルハイル(Perhail)殿”と言っている。こではだな、おらが信じるに、“本来は『明らかに利口』と呼ばれるべ き、『ちょっと利口』、あるいは『半分だけ利口』殿”、という意味だよ。(※ 原文Samwise or Halfwise who should rather be called Plain-wise. サムワイズSamwiseを、Sam(some=少々)wise(利口な)とした、王様の冗談ですね」)さて、 王様がおまえたちの父親のことをどう考えてるか、ちゅうことがわかっただろうから、王様が言う言葉によく注意しているだよ。」
「そしてたくさん質問するんだ」とフロドが言いました。

 「3月25日っていつ?」ピピンが聞きました。彼にとって、日にちというものは、理解するには長すぎました。「それってすぐ?」
「来週の今日よ」エラノールが言いました。「いつ出発するの?」「わたしたちは何を着ていけばいいの?」ローズが言いました。 「おやおや」サムは言いました。「ローズ姫さまが必ずそう言うだろうと思ったよ。おまえはきっとびっくりするよ、ローズや。こんな日が来るのを予期してだ な、父ちゃんたちはずっと前から準備していただ。おまえは今までに見たこともないくらいすてきな服を着て、皆で馬車に乗っていくだ。そして、おまえたち皆 がとってもおりこうで今みたいにかわいくしてれば、王様が一緒に湖の向こうの彼の家に行こうって誘ったとしても、ちっとも驚かねえだよ。それにな、お妃様 もやってくるだよ。」

 「わたしたち夜ごはんまで起きてていい?」ローズが言いました。もう少しで大人の仲間に入れてもらえる年齢になる彼女にとって、このできごとは、頭から 離れそうにありませんでした。「おらたちは1週間ほどいることになるだろうな。少なくとも干草つくりの時期までは。」とサムが言いました。「おらたちは王 様の言われたことには従うだよ。でも間違いなくお妃さまが夕食に来るよう言ってくださるだ。さあさあ、おまえたち、今まで話したぶんで、何時間もひそひそ しゃべったり、お日様が出るまでうっとり夢見たりできねえっていうなら、父ちゃんはこれ以上何をしゃべったらいいかわかんねえだよ!

 星が澄み切った夜空にまたたいていました。その日は、毎年ホビット庄に3月の終わりにやってくる、澄んで明るい季節の始まりであり、また、毎年何か驚く べきことが、歓迎されてやってくる日でもありました。

 子供たちは全員眠っていました。ホビットの村ではいまだ明かりがまたたき、暮れ行く田舎街に多くの家々が点在していました。
 サムはドアの前にたち、東方を見ていました。彼はローズを彼の側に抱き寄せました。「3月18日(※下書き別バージョンでは25日になっているそうです。ちなみに追補編に掲載されている年表では、指輪が捨てられたのは3月25日。)」彼は言いました。「17年前、ローズ奥さんや、おらは おまえさん(※原文Thee。Youではないのを尊重し「汝」とか「そな た」などと訳したいところですが、サムのセリフの場合どう訳せばいいのやら…)に二度と会えないと思っていただよ。でも望みは持ち続けた だ。」

 [「私はまったく望みを持たなかったわ」彼女は言いました。「その当日までね。そして突然望みを持ったのよ。朝、私が歌いだしたら、父が「静かにせん か、でないと荒くれどもがくるぞ」と言って、私は「来させればいいわ。やつらの時はもうすぐ終わるわよ。わたしのサムが帰ってくるのよ」と言ったわ。そし て彼はやって来た」]
(※上の段落にある[ ]のカッコは、オリジナル原稿に存在するのだとク リストファーの注釈がありました)

 「そしてあなたは帰ってきたわ」ローズが言いました。「帰ってきただよ」サムが言いました。「世界じゅうで一番愛すべき場所に。おらは以前はふたつに裂 かれていたけど、でも、今は完全にひとつだ。おらが今持っているもの、そして前に持っていたもの、すべてを今おらは持っているだよ。」

 彼らは中に入りドアを閉めました。しかしその瞬間、突然、サムには海のため息とささやきが、中つ国の岸辺から聞こえてきたのでした。

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以上! ああ〜、もとの文章が味わいぶかいだけに、私のぎこちない訳が本当に恥ずかしい。ほんと、ぜひ原文をお読みいただきたいものです。 いや〜サム、いい味出してますねえ〜。しみじみ。