機械発明史

A.P.Usher, A History of Mechanical Innovations

アボット=ペイザン=アッシャー著

富成喜馬平訳

1998522 小林

 

  1. 経済史上における技術工学の位置
    1. 地理学的要因と技術学的要因の特質
    2. 経済史=人間社会とその環境その環境との間に行われる相互変化の物語

      重要な二つの要素

      1. 地理学=経済的変化の説明を気候,鉱物資源など.人口はこれによって決定づけられる.→環境に対する受け身の適応
      2. 技術工学=

      →人間の努力による環境の積極的適応

       

      人口の増大は,人口集団が各地域に再分配する結果生じる国境の発展

      →運輸技術の変化(すなわち技術の発展)と密接な関係.

       

    3. 社会進歩の主要要因たる技術的革新の過程

    技術の進歩は連続的な変革

    歴史過程とは前進的過程,したがって技術の進歩は歴史的過程

     

    ●科学者,発明家,発見家と政治家の役割

    経済史は過去の人間の業績を無視してきた.→最大の弱点(諸階級,各種の運動,唯物史観的説明をあまりに重視)

    しかし,経済史上真の英雄は,科学者,発明家,発見家.彼らによって人間の生活は真に変化.

     

    技術変革は天才がInspirationを働かせるわけではない.いろいろな人の積み重ねがある技術の変革をもたらす.

     

    政治家の仕事

    =独創的革新ではなく社会の法制組織を経済情勢の変化に順応させること→社会変化の過程で最後の段階

     

    技術上の変革→諸条件の発展→法律・習慣の修正(順応)

     

    歴史の真の成果とは特殊の制度に求むべきでなく,『人類の有する各般の精神的財産及び経験(宗教,芸術,文学,科学,音楽,哲学)の内に求むべき.人間精神相互間の交流の中に求むべき.

     

     

  2. 機械発明の過程
    1. 学習過程の一様相としての革新
    2. 革新(Innovation)は天才に頭の中に浮かんだInspirationによって成し遂げられるわけではない.

       

      革新=学習過程の主要部分,革新力は神秘的なもの,だがそれは天才のInspirationと何ら変わらない.

       

      2つの精神過程

      @総合的・構成的・創造的活動=革新

      A分析的・模倣的・保守的活動=

       

    3. 発見と発明の相違
    4. ●発見

      =自然界に存在していた.いろいろな関係を知覚すること.(ただ複雑すぎてわからなかっただけのこと)

       

      ●発明

      =いまだかつて存在しなかったことを樹立すること.

       

      迂回の問題(the detour problem)

      動物を三方取り囲んだ囲いの中に入れ,空いているところと反対のところにえさを置く.

      雌鳥→ほとんど解決できない

      小猿・小犬→躊躇することなく解決.ただ餌を柵のすぐ側に置くと失敗することも.

      つまり,目的を達する手段として,直接的なものではなくねんごろ間接的なものを選ぶためには実は革新が要る.

       

      テネリッフ島の類人猿→

      餌を三方取り囲んだ囲いの中に入れ,餌を取るには棒で餌を押し出さなければならない.ほとんど解くことができない.自分が本当に欲しいものを自分から遠くに押しやらなければならないことは,実に容易ならない障壁.

       

      最も簡単な発明の形態=新しい状況に適応するための熟練の獲得

       

    5. 発明過程の性質
    6. 第一の要素

      不満が生じたある形態を改善すること.

      誰もニューコメン機関の性能や機械的効率が不完全だということは誰も知らなかった.

      第二の要素

      発明家個人の経験全体の中にある.→研究業績には一定の限界がある.

       

      発明とは天才のインスピレーションではない.→経験によって得られたある事と問題点との間に介在する関係を暗示するような具合に発明家の中に浮かんでくる.

       

      発明には道具が必要(例えば白熱電球のフィラメント)

      →発明が成功するかどうかは発見のうちにある.

      発明とはある単一の,新しい考え方,工夫,範型,すなわち形態が成就されると同時に完結する.

       

    7. 発明完成の過程,古代に於いては経験本位,近代に於いては構成的創造力が優位を占む
      1. 古代に於いては経験本位
      2. 目の前の目的を,直接的手段を用いて解決する.

         

      3. 近代に於いては構成的創造力が優位を占む

      発明の目的が比較的高遠になると,全体が見えてくる.

      とうてい届きそうにないゴールに向かって一歩一歩近づいていくしかない.

      →研究所の必要性

      発明が組織的・規則的になって来たのでInspirationたいした意味を持たなくなる.

       

      レオナルド=ダ=ビンチ以来の結果

      @慎重な実験に基づく組織化された科学知識の総体

      A単純な抽象的原理のうちに潜在的に含まれている色々な結論や応用の可能性を敏感な創造性を敏感な創造性によって看破すること.

       

      科学による普遍化←経験主義からの脱却

       

    8. 完成過程の経過
    9. @比較的相互に関係のない発見と発明の一系列

      A色々な実験=総合

      B実用化

      機械の批判的要素には何も触れずにただ機械の構造や設計に磨きがかけられる.

      この過程は,分析と総合の結合体

      初めと終わり=批判的分析

      中間=総合

       

    10. 発明における前意識精神の機能

    ●革新や発明が社会進歩の重要な要素.しかし偉人達のその過程は特別な営みだから偉大なのではなく,ただ征服すべき抵抗が並々ならぬものだから.

     

    ●革新や発明にとっての障壁は権威とか各個人の習慣ないし習性など.

    偉大なる業績は真理・科学・芸術が進歩発展するものだと考える人たちによって作られた.

    →過去はInspirationの源となる.

    ●人間の意識は保守主義的傾向がある=下意識的活動,理性の活動とは批判的活動→分析

    →革新とはまったく別,理性的というよりも審美的かつ直感的なもの

     

    高級なる精神能力=冷静かつ保守的.到底偉大なる業績を遂行し得るに足る目的もなければ又その力もない.しかしこれは不可欠な批判的統制を提供する.

     

  3. まとめ
      1. 技術革新は社会を進歩発展させる重大な要素
      2. 今まで軽く見られていた個人の力を評価→万人共通の学習過程における連続的批判的発展の結果.天才の神懸かりではなく個人の経験による無意識的下意識・習慣による.