水沢光 4 November 1998

『 ウィトルーウィウス建築書』
森田慶一訳注、東海大学出版会、1992年7月20日、356p、\2,060。



「訳者あとがき」より この本の著者ウィトルーウィウスについては、彼がこの本の著者だということ以外は、その出生年月日も出生地も家系も生涯も全く知られていない。これまでの研究から、この本の成立年代は、紀元前33年から22年に至る約10年の間らしい。

第一書「建築とは?、城市の敷地配分」タイトルは、勝手に付けた。以後同様。
イムペラートル・カエサルに捧げる建築の教本。建築家は文書、描画、幾何学、歴史、哲学、音楽、医術、法律、星学の知識を持たなければならない。建築は、質的秩序、量的秩序(シュムメトリア)等からなる。城市の場所の選択について。熱と湿を警戒しろ。鉄は熱で弱くなる。人間も同じ。すべてのもには、熱と湿、地と気から構成されている。城壁をどうやって作るか。厚さは兵士が頂上で行き交えるように、塔は外側に張り出す等。城内の敷地、大路小路については、風を避けるように、設計する。風は8方向からくる。北風(セプテントリオー)。風は8方向は変?地球の円周は25万2千スタディウム(46 588500m)。このような広大な領域では、一つの風が屈折、後退するから多くの風に見える。神殿の敷地の選定。

第二書「建物の材料」
住居としての家の起源。火の発見。集団の形成。日々の改良。まず、煉瓦について。煉瓦は一様に乾くように、春秋に造られるべき。2年前に造って、乾かしておくとよい。使用後に収縮すると崩れる。割り石壁について。石灰について。石灰は水と砂を受け入れるとなぜ壁を強固にするか?説明)気元素を多く持つ物は固い。石切り場について。2年前の夏に切り出し、ずっと露天に放置される。風雨で傷ができた石は、基礎に使う。他は、地上に築かれて、持続する。それぞれの壁の長所・短所について。煉瓦は丈夫だが、場所を取る。ローマ市内は狭い。木材について。種子を宿すと、力が弱るので、その前に伐採されるべき。各木材の特徴。落葉松は、火元素、気元素が少なく燃えにくい。柏、ナラ、ブナ。

第三書「神殿の構成T」
神殿の構成はシュムメトリア(比例秩序に基づく美的構成)から定まる。人体とのアナロジー。8頭身。完全数6、10。神殿の外観について。柱の配置、密度によって、様々な種類がある。密柱式、集柱式。柱列の間隔が増大するにつれて、柱の太さも増されるべき。これらの建物の基礎について。固い地盤まで掘り下げる。正面の階段は、常に奇数にすること。柱自体のシュムメトリアについて。まず、イオーニア式の柱。エピステュリウムより上では、前かがみになる。その理由は、上方部分は、後ろに傾いて見えるから。

第四書「神殿の構成U」
ドーリス式は男子の身体の比例による。足は身長の6分の1。イオーニア式は同様に婦人の身体の比例による。後世の人々は、より意識が優美繊細な方に進み、7倍をドーリス式、 9倍をオーニア式の柱の高さに定めた。また、コリントゥス式は少女の繊細さを模して、さらに細い。コリントゥス式は柱頭を除いて、すべてイオーニア式と同じ。神殿は西向きに造られるべき。神殿の戸口の種類について。円形神殿の場合もある。

第五書「公共の建物」 まず、フォルム(広場)について。規模は人数に応じて作る。ギリシャ人はフォルム(ギリシャ語はアゴラ)をゆったりした二層の柱廊で方形につくる。フォルムに付設されるパシリカ(法廷及び市場として使用された大きなホールを持つ建物)について。劇場について。その前提として、ハルケモニー(音楽の学問)について。で、銅の壷がつくられる。この壷は、触れると、それぞれ決まった音階を発する。それから、劇場の座席の間に穴倉が作られ、この壷を逆さに据える。隣同士の壷が互いに共鳴するように配置する。すなわち、小さ目の劇場なら、高さの中ほどに横一列で13個。大き目なら、これを3列分。こうすることで、劇場の音響が良くなる。木造の劇場では必要ない。注)現在のところこの種の青銅壷はどのギリシャ劇場にもローマ劇場にも見出されていない。劇場そのものの形について。スカエナ(楽屋)。プロスカエニウム(高舞台)。オルケーストラ(ローマ劇場では高官の見物席)。ペリアクトイ(3つの場面を現わしうる回転装置)。ロゲイオン(高舞台)。オルケーストラ(演技の場)。浴場について。パラエストラ(体育館)。港について。

第六書「私人の住家」
建物の造り方、緯度により異なる。まず、都市の住家の構成について。アートリウム(ローマ式住宅の接客用の天窓を有する中央広間)。アーラ(小談話室として使用)。タブリーヌム(主人の接客用サロン。絵画、彫刻で飾られていた)。ペリステューリウム(方形の中庭に面して柱列をめぐらした廊)。オエクス(家族団欒の居間)。各部屋の造りについて。食堂の幅は、長さがその2倍であるべき。すべての細長い部屋の高さは、長さと幅の合計の半分。各部屋の十分適当な方角について。寝室と図書室は東向きであるべき。玄関、アートリウム、ペリステューリウム等は共用室で、招かれない者でも、そこに自己の市民権で入ることができる。田舎の家について。厨房のまわりに浴室、絞り器が必要。ギリシャ人の家について。地下室について。

第七書「仕上げ」
建物の仕上げに関して、どうすれば美しく強くできるか。砕石床について。壁への下塗り、中塗り、上塗りについて。湿った場所では、少し離して副壁を造る。間に通気孔を。アートリウム、ペリステューリウム等には、真実なものを手本とした絵を描くべき。獣頭の半身像など怪奇なものはダメ。仕上げ塗りの準備について。一様に消化された石灰を使うこと。大理石。様々な色の顔料について。朱色は開放的な場所ではすぐに駄目になってしまう。

第八書「水」
水の発見の仕方について。腹ばいになって、湿気が立ち昇る所を掘る。自生している植物に拠る等。深さ5ペース(1.5m)を掘り、青銅の盃を置く。次の日、湿っていたら、そこに井戸を掘るべき。これらの井戸は特に山地の北の方角に求められるべき。山のかげ。多くの重要な川は北から発する。温泉について。温泉には様々な効能がある。飲むと歯が抜けてしまう泉。そこで生まれた者が声が良くなる泉。だれそれは、いつも海外の容貌優れた青年と成熟した女子を買ってきて、婚わせる。その結果、声、容貌共にいい子ども。泉の試験。ほとりに住むものは健康か?青銅の壷に注いでも汚点が残らないか? 城市に水を引く方法について。溝、鉛管、陶管の3種の水道。陶管の方が安価で衛生的。同じ管を接合するので、誰でも修繕できる。深い井戸の掘り方について。酸欠を防ぐ仕組。排気孔。

第九書「日時計」
日時計をめぐる理。さまざまな星座について。惑星の運動について。宇宙について。日時計の造り方。昼夜平分時の影が採られるべき。アナレームマの描き方。水時計について。

第十書「機械類」
荷揚げ用引曵器について。石材運搬法。水揚げ装置。ポンプ。水力オルガン。車輪の回転を測る道具。戦時の機器について。軽弩砲、重弩砲。攻城用の「ヘーゲートールの亀」。防御側については、臨機応変な計略が大切。書くべき装置はない。