「記者手帳」
日本経済新聞 「政界」欄  2006.3.9
 その情報収集力で「カミソリ」の異名をとり、昨年九月に九十一歳で亡くなった後藤田
正晴元副総理をしのぶ写真展が東京の日中友好会館美術館で十四日から始まる。
撮影は写真家の蛭田有一氏(64、写真)。一九九四年、芸術家の肖像写真を集めた作
品集を出版する際、唯一、取り上げた政治家が後藤田氏だった。
「表現者の自由な活動を守るのは政治の仕事。ハト派の重鎮、後藤田氏を撮りたい」。
議員会館を訪ね緊張した面持ちで主旨を説明。後藤田氏は一枚一枚「この人は知って
るよ」「この人の作品は持ってる」と丁寧に感想を語った後、「こんな顔で良かったら」と
快諾したという。
 「責任を重んじ、恥を知る古武士のようだ」とほれこんだ蛭田氏は、政治活動から自宅
や別荘での私生活まで十年以上、密着。写真展では六十点余りが語録とともに展示さ
れる。
「日本の平和と日中友好に寄与するのが私の仕事」ー自衛隊海外派遣や小泉純一郎首
相の靖国神社参拝に批判的であった後藤田氏が晩年、厳しい表情で日本の行く末を案じ
る姿を、蛭田氏は今も忘れられない。
(紙面の記事のみ掲載)