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文・佐藤勝彦 |
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しかし、不思議なことにこの何回も何回も画いていくことが、かつひこに光 |
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を与えてくれたのだった。 |
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「人間一度きりの人生を、今生きてそのあかしとなる絵を画いているんだよ。 |
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どんなものができあがっても、すばらしいことではないのかね」とか、 |
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「人間、いつ死ぬるともわからんじゃあないか。明日死んでしまうと思え |
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ば、いまどんなことをしても尊いものになるよ。」とか「つらいつらいと思っ |
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ていても、つらいと思えることでも生きて呼吸できているからじゃあな
いか。 |
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生きておられるということほど尊いことはないんじゃないか」とか、画きな |
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がらかつひこは自分に語りかけた。 |
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いつの間にか画いていることを忘れたかのようになっていった。むしろ、 |
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手を動かして何が画けているのか知らないが、自分と語るそのなんともいえ |
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ない状況にむしろ気持ちよさを感じていた。 |
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天上天下にかつひこという一人がいてその人が画いたということは光なんだ |
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と思えてきた。 |
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忘れた頃に十万枚の紙がなくなっていた。 |
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