「政界語る50人の肖像」
朝日新聞 「東京版」  2010.9.6
日本政治に影響力のある政治家やジャーナリスト、政治評論家らの姿を収めた写真展
「政界華肖像」が10日から、港区赤坂9丁目のミッドタウンで開かれる。
昨年秋の政権交代を挟み、大田区在住の人物写真家、蛭田有一さん(68)が50人の
肖像写真を撮影した。
同時に行ったインタビューから抜粋した印象的な言葉を写真に添える。16日まで。
国会議事堂近くで、自宅アパートや書斎で、おなじみの政治家らがまっすぐ前を見据え
る。モノクロ写真の中の50人は、ほとんどが無表情だ。
「政治家は被写体として魅力的だが、撮りづらい。どう見られるか常に意識している
から、カメラの前で素顔を見せない。特に笑顔は最悪だ。だから、無意識に無表情の写真
を撮ってしまう。そこから様々な表情を想像してほしい」
 2007年夏の参院選で、与野党の議席が逆転、「政治の大変動が起きる」と感じ、
50人を目標に撮り始めた。「政治家だけだと似通ってしまう」 とジャーナリストや評論家、
学者も対象に加えた。
撮影は短い。シャッターを切るのは冒頭の10分ほど。だが、その後に何倍もの時間を
インタビューに充て、発した言葉を作品の一部として写真展で紹介する。
「見る人が自由に鑑賞できるのが写真の魅力。だが、被写体が何を考え、どう生きてい
こうとしているのかまでは伝わらない。人物写真家として、そうした部分まで伝えたかっ
た」。
 1994年に発表した写真集「人間燦々」で後藤田正晴・元副総理を撮影したのが、
政治家を取り上げるきっかけになった。
国内の著名人103人を扱ったが、最後に出会った後藤田氏の「古武士のような風格」
に圧倒された。その後も撮影を続け、写真集「後藤田正晴」を発表。
99年には中曽根康弘元首相、02年には鳩山由紀夫前首相の写真集をそれぞれ出
版した。
 私生活など「素顔」を収めた写真集と違い、今回の写真展に出すのは「予備知識がな
いまま人間対人間のぶつかり合いで生まれた肖像写真」。
強烈な思想や哲学を持つ人たちだけに、好き嫌いはあったが、表情には出さずにシャッ
ターを切った。
党派や政治理念、世代などに偏らない幅広い人選を心がけた。「僕はそのままの姿を
お伝えするメッセンジャー。見る人に判断してもらえばいい」
若手政治家では、「庶民性と義憤を持っている政治家だと感じた」という名古屋市長の
河村たかし氏、「政治家としての熱意と誠実さが際立っていた」 という総務相の原口一
博氏が、印象に残ったという。
 今回の写真展には民主党代表選で注目される2人は登場しない。小沢一郎前幹事長
には、事務所を通じて申し込んだが返事はなく、菅直人氏側からは了解を得られたもの
の、首相に就任し、機会を逸してしまったという。
(紙面の記事のみ掲載)
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