自民党衆議院議員・平沢勝栄
2008.2.17  於葛飾区柴又、自宅書斎
平沢勝栄 自民党、衆議院議員
≪インタビュー≫  聞き手・蛭田有一  
警察官時代、犯人と格闘して逮捕したという経験はありますか。
私にはそれはない。犯人逮捕の現場に行ったことは何回もあるんです。
いろんな重要な事件の指揮を取ったこともあります。例えば、茨城カントリ
ー事件とか、豊田商事事件とか、大型詐欺事件の指揮も取りました。
写真家の関係でいうとアラーキという写真家の逮捕を指揮したのは私なん
です。樋口加南子の写真集が出たときは、私は防犯部長をやってまして、
警視庁の担当が検挙すると言ってきたんです。
樋口加南子の写真集自体は芸術性のあるものでしたが、当時はヘアが出
ているかどうかで自動的に卑猥か卑猥でないかを判断していたからです。
警察ではなく第三者に判断させたほうがいいだろうということでマスコミや
学者、主婦の代表とかいろんな方に判断させました。
そしたら驚いたんですが、全員が検挙する必要はないと、地検も検挙する
必要はないということで、従来の方針を変えたのです。
自身をどんな警察官だったと思いますか。
自分自身、その時点で評価されなくても、いずれ分かってもらえればいい
ということでやってきたので、おそらく周りの見る目は、はみ出し警察官だっ
たと思いますよ。
政治家は地元に行ったらどんな人とでもあって話をするわけですよ。
どんなふうにはみ出していたんですか。
例えば卑猥の方針を大きく変えたときもそういうふうに思われたでしょう。
それから1988年「パチンコ疑惑」というのが起こったんですけど、あれも
火をつけたのは私なんですよ。
それはパチンコ業界の脱税がワーストワンを、ずっと続けていましたので、
売り上げを明らかにする方法を業界に考えろと言って、プリペドカードの導
入を支援したのですが、まあもの凄い嫌がらせや攻撃を受けました。
あの業界は北朝鮮系がもの凄く多かったもんですから、北朝鮮に対する
嫌がらせや狙い撃ちだということなんです。
当時外国籍のパチンコ業者や朝鮮総連から献金をもらっていた人たちは
一杯いたんです。
朝鮮総連は国会議員だけではなしに、マスコミなどいろんなとこに手を廻し
ていましたから、私はあちこちから集中攻撃を受けて、もう本当に火達磨
でした。
仕事とはいえ大変でしたね。
ですから政治家も役人もそうですが、その時点での評価をあまり気にせず
に、正しいと思ったら突っ走って、後は後々の判断に任せればいいんです。
後藤田先生も最初は悪の権化みたいに言われたけれど、最後の頃になる
と、いろんなマスコミから政治家の良識の代表みたいなことを言われた。
まあそういうもんじゃないですか、世間やマスコミというのは。
政治家にはいろんな人が近づいてくるんでしょうね。
誰とでも会わなければならないのが我々政治家です。政治家や警察、お医
者さんは、人を選ぶわけにjはいかないんです。
政治家は地元に行ったらどんな人とでも会って話をするわけですよ。
すると大体分かりますよ。この人が何を考えているのかがね。
選挙の直後、真っ先に駆けつけておめでとうございます、おめでとうござい
ますと。そして一番前で万歳、万歳と言う人の中には、全然応援してくれな
い人もいる。よく分かるんですよ人間が。
そんなこと言って大丈夫ですか。
構わない、構わない。そういう人もいたということね。
選挙をしていると本当に人間というのが分かる。要するに選挙というのは、
一番苦しいときに必死になって応援してくれる人、途中から応援してくれる
人、選挙が終わってから応援してくれる人、選挙が終わっても応援してくれ
ない人といろいろです。
見ていれば、応援をしている振りをして全然応援してくれない人は全部分か
る。
それは顔ですか。
表情で分かる。顔の表情で応援してくれているか大体分かる。
選挙応援に行ったとき、集まっている人たちの表情を見る。そうするとこの
選挙が勝てるかどうかが大体分かる。
ひとことで言うなら、命を懸けてでも応援するという人がどのくらい集まって
くれるかが選挙の決め手になるんです。
選挙をやると人間というのがよく分かる。本当に信頼できる人間かどうかが
すぐ分かる。だから人間を知るという点でも政治の仕事は最高だと思いま
すよ。
私が政治家になるときに言われたことが二つあって、ひとつは書道とダンス
を勉強しろと、もうひとつは政治家の世界は人間が信用できない、いつ裏切
られるか分からないと言われて政界に入ったんですが全くその通りでしょう
な、これは。
だから状況の変化でカメレオンみたいにくるくる変わらない人たちを、いか
に自分の傍に置くかということでしょう。たとえ自分の意見と違ってもいい。
その人が絶対に変わらない、ぶれない人かどうかということです。
影響を受けた政治家は。
私はイギリスの大使館で保守党を担当していたことがあるんです。
サッチャーの時代に、イギリス病ということで経済はどん底に落ち込んだ。
ストライキは続くわ、失業者は増えるわ、街頭でデモは起こるわ、治安は悪
くなるわで、それを立て直すためにサッチャーは大鉈を振るった。
それと北アイルランド紛争が熾烈を極めていましたが、これに対するサッチ
ャーの毅然としたリーダーシップには非常に感銘しました。
もうひとつ感銘を受けたのは、フォークランド紛争ですね。アルゼンチンの
近くにあるイギリス領の島に、アルゼンチンの軍隊が進駐したことにサッチ
ャーは怒って、あんな遠くにまで軍隊を派遣して、それを取り返してしまっ
たんです。それはサッチャーのリーダーシップですよ。
北アイルランド紛争では、獄中のIRAの連中がハンガーストライキで次々
死んでいくわけですよ。
そのときサッチャーが言ったのは、死んだって私は絶対に譲らないと。
まさに鉄の宰相というか、それを見て私は、リーダーシップとはこういうもの
かと思った。
日本では後藤田さんからいろんなことを教えてもらいました。後藤田さんの
ぶれない姿勢。
もうひとつは、後藤田さんは下の人間に非常に暖かい。逆に、上に対して
これだけ厳しい人は珍らしい。
普通の人は逆なんです。私は秘書官でしたが運転手とかSPとか、そういう
人間に対しては物凄い配慮をして、逆に上の人間には物凄く厳しい。
後藤田さんが役人やマスコミに言っていたことが三つありまして、一つは、
お前たちは名刺が偉いんであってお前たちは偉くないんだぞと。それから
一日30分でもいいから必ず本を読んで勉強しろと。
もう一つは、何かこの分野で絶対に人に負けないという専門分野を持てと
必ず言っていますよね。実際ご自分でも努力しておられた。
社会全体に非常識、無責任、利己主義が蔓延しています。日本人がこう
なったのは何故。
子供も大人も役人も政治家もみんな同じレベルになっちゃったんです。
かつては政治は三流だけど経済や学問は一流と言われましたけど、経済
も三流、学力も三流、モラルも三流。日本はどんどん後進国になってしま
った。
以前、中国の李鵬首相が日本はこのまま行けば、20年後にはこの地上か
らなくなると言ったことことがあるんです。残念だけどその通りになっている
んじゃないですか。
そうならないためにもその原因を追究しなければ。
山田洋次監督が2月号の「文藝春秋」に、昔の子供は貧しいけれど目がき
らきら輝いていた。今の子供たちの目はどんよりしていると書いている。
昔の子供は貧しいけれども目標があった。
今、子供たちは豊かで目標を失ってしまったとも書いている。
結局何をしていいかわからない。目標を失って右往左往している中で、いろ
んな問題が出てきている。私はそうだと思いますよ。
子供だけでなく政治家や官僚、企業家、一般市民までおかしくなっている。
何故でしょうか。
社会全体がおかしいとなって、突き詰めれば戦後の社会のあり方ということ
になるし、日本国憲法にも問題があると思う。
日本国憲法を見てみれば、憲法の中に権利というのが十いくつも書いてあ
る。義務というのは教育と納税、それに勤労だけじゃないですかね。
義務というのはほとんどないですよ。
私は日教組の教育が間違えていたと思います。子供たちの競争を悪とし、
みんな平等であると。
旧ソ連に対する憧れを教えていたし、北朝鮮もすばらしい国だとずっと教え
てきたわけで、私はこういう弊害も大きかったと思いますよ。
学校現場も偏っていたし、社会も歪んでいたと思います。そういう中で私た
ちの頭は洗脳されていったわけですから、日本の社会がおかしくなるのは
当り前だと思いますよ。
日本の戦前にはいいところが一杯あった。軍国主義や皇民主義に走ったの
は間違いだったけども、良いところも一杯あったんですよ。
ところがその良いところもすべて捨ててしまった。時計の針でいえば、戦前
は右にぶれていた。その反動で左にぶれて真ん中に戻っていない。
その真ん中に戻っていない過程で、今いろんな問題が出てきたんじゃない
かという感じがします。
日本の常識が世界の非常識、世界の常識が日本の非常識なんてことは山
ほどあるわけです。何故こうなってしまったかと言うと、日本のあり方の問
題、憲法も教育も含めて全て戦後のあり方に起因するんじゃないかなと思
いますね。
日米、日中関係でなにか問題を感じることはありますか。
日米関係は大事ですけど、それが全てではないんです。
アメリカの悪いところは自分たちのやり方が世界中で通用すると思っている
んです。これは間違いなんでね。
アメリカは自分たちと違う生き方、考え方、文化、伝統があることを尊重しな
いと、世界中に敵を作ることになりかねない。
日米同盟は大事ですけど、そこはしっかりとアメリカとは自制しながら付き
合わないといけないと思います。
日中関係は将来のことを考えたらきわめて大事で、中国に従属するという
形ではなく、対等なパートナーシップとしてどうやって良好な関係を築くのか
を考えていかないと、これまでのアメリカと同じように中国の植民地にもな
りかねないという感じがします。
要するに国会は親米派と親中派に分かれて、親米派はアメリカとパートナ
ーシップで行くんじゃなくて、アメリカの植民地みたいな形で行くのが親米だ
と思っている。
逆に親中派の人たちは、中国の植民地みたいな形で行くのが親中派みた
いな感じになっている。どっちも不幸な形になると思いますよ。
アメリカも大事、中国も大事。それはものを言える関係を作っていかなけれ
ばならないと思いますけどね。
アメリカとの植民地的関係が日本人の根底を歪ませていると思いますが、
そこから抜け出すためには何をなすべきか。
日本がアメリカの植民地的な状況でいるというのは二つあって、一つは安
全保障上、もう一つは経済なんです。
日本はかつてアメリカがくしゃみをすれば風邪を引くといった関係にありまし
たが、今でもその状態は残ったままです。
アメリカは日本との貿易では大幅な赤字を出しているんです。ですから、
日本の経済にとっては大変なプラスになっているわけです。
もし本当に植民地から脱していくためには、安全保障上の問題で日本を取
り囲む核保有国から日本の安全をどう守るかということも考えなければなら
ないんです。
今、日本の核抑止力はアメリカに頼っています。経済では日本は今中国に
どんどん依存していますが、アメリカにも大きく依存している。
この状態からどう脱却していくか。この両方ができない限り、本当に日本が
独立できるとは私は思わない。どの政党が政権を取ってもこれは同じだと
思いますよ。
政権交代のメリットは何ですか。
日本の唯一最大の不幸は政権交代がないことです。これがないために政
治、行政、いろんなところに病弊が溜まっているんです。
大改革をやろうとしたら、政権交代がないとこれはできないでしょう。
日本の本当の劣化は政権交代がないことによる緊張感のなさからかも知れ
ません。政権交代がないから緊張感が出てこない。政治家にも、企業の経
営者にも役人にも緊張感が出てこない。みんな出てこない。
政権交代が行われれば経済政策にしろ公務員改革にしろ教育政策にしろ、
みんなが鍋を削って競争するでしょう。必死になってやりますよ。
最大の目標は政権を取ることなんですが、自民党は政権党であることを当
然のことのように思っているし、野党は野党であることの満足しちゃっている
んですから、これじゃあ政治がよくなるはずがない。
政治が良くならないというのは、他の分野が全て良くならないということに繋
がってくるんです。
政界再編はどんな理念の違いで分かれたらいいですか。
小さな政府にするのか、大きな政府にするのか。或いは高福祉国家を目指
すのか。自己責任型の社会を目指すのか。こういうことで分かれてくる。
保守かリベラルか、憲法改正か反対かではどうですか。
憲法改正とか教育のあり方とか、そういったものも当然アジェンダになるで
しょう。新米か親中かという分かれ方もあるかもしれません。親米というのは
親台湾ということです。
例えば平沼赳夫さんや中川昭一さんたちは完全な親台湾派ですからね。
安倍さんも麻生さんも親台湾です。
新聞で言えば産経は親台湾です。そういう形で行くことはあり得ると思いま
す。
親台湾というのは少数かと。
いやそんなことはないです。結構いますよ。中川さんのグループは多くが
親台湾派でしょう。60人とかいます。
民主党の中でも例えば、日本会議所属のメンバーは大体親台湾派です。
こういうので分かれるというのはありますけど、ただあれだけ韓国、中国に
距離を置いた人が総理になった途端に先ず韓国、中国に行くという方もおら
れましたから、変わる可能性があります。
この考え方で政界再編をやってもこれを本当に貫き通せるかどうか。
絶対に変わらないのは、簡単に言えば市場原理を導入するのかしないのか、
自己責任でいくのかいかないのか、そういうことで大きく分かれる。
平沢さんはどちらの方ですか。
私は基本的には自己責任の方です。ですから大きい政府、高福祉型では
ありません。高い税金でスエーデン、ノルウェー、デンマークなどの福祉国
家型を目指すのか、それともみんな競争をやってその競争から落ちこぼれ
た人には再チャレンジの機会を与え、ドロップアウトした人にはセーフティ
ネットを張る。そうしないと社会は活性化しない。
今、日本の医療は世界に冠たる平等なシステムなんです。医療はある程度
仕方がないとしても、他の分野に平等主義をやったら日本はどんどんダメ
になってしまいます。
だから努力した人にはそれなりに報われる社会を作る。ある程度の格差は
仕方がないです。
みんな平等というのはかつてのイギリスがそうだった。イギリス病と言われ
たときのイギリスは所得の高い人からめちゃめちゃに税金を取ったんです。
結局イギリスの金持ちはどんどん外国に逃げちゃって、本当にいい人がい
なくなっちゃった。
こうしたこともあってイギリスは社会全体が沈滞化してしまった。
日本もそうなりかねないです。
政治家としてぜひとも実現した課題は。
まだ日本の戦後は終わっていません。例えば北方領土は帰っていません。
北朝鮮との外交関係も樹立していません。戦争直後に起こった問題をまだ
引きずっているのは世界で今この地域だけなんです。
ですからこの戦後を終わらせるというのが外交的には一番大きな問題でし
ょう。国内的には、ぜひやりたいと思っているのは競争社会と小さな政府で
す。政治の一番の役割は税金をできるだけ安くして、所得の少ない人もお
金持ちにもできるだけ安くして、そのためにも行政とかの無駄を徹底的に
省く。そして最低限のセーフティネットを張る。
これが政治の目的なんですよ。ところが日本は何でもかんでも面倒を見よ
うと、行政を肥大化してやろうとするが、これでは税金をいくら取っても足ら
ないですよ。だから行政については全面的な見直しが必要です。
しかし今の自民党じゃできないと思いますよ。自民党はどうしても今までの
負の遺産、しがらみを引きずっていますから。
ではどこの党ならできますか。
新しい党を作らなければならない。やっぱり政界再編がないとダメですね。
今までのしがらみを切り捨てなければできないですよ。役所は既得権益を
絶対に離さない。役所に無駄はいやというほどあります。ですから民主党が
言っていることは基本的に正しい。
いろんな無駄を省けば相当出てくる。しかし民主党の言っていることで一つ
だけ間違いは、そう簡単にこの無駄は省けない。政権交代でも簡単にはで
きない。
日本を作り直すためには、もう一回GHQに来てもらうしかないと思っている
んです。日本を本当に作り直そうと思ったら。
政治家の本当の力量が問われますね。
小泉さんみたいにあれだけ国民的支持、人気があっても、できることとでき
ないことがある。なぜかというと議会制民主主義をとっているからです。
大統領制だったらもっとできるんです。
私は前々から日本を本当に立て直そうと思ったら、もう一回戦争に負けるか、
もう一回GHQに来てもらうか、そのくらいのつもりでやらないとできない。
日本の前途は絶望的ですね。
ですからその問題意識を国民全員が共有できれば、そこでまた変わって
くるでしょう。今のままだったら私はダメだと思う。
日本が変わるためにGHQに来てもらうと今言いましたが、もう一つの方法
としては落ちるとこまで落ちたらいい。落ちるとこまで落ちたらこれではダメ
だと、何かしなければという危機感がでてくる。
こんなことはあっちゃならないけど、日本の山中にミサイルが打ち込まれる、
そのくらいのことがなければ目覚めないんじゃないかという気がしないでも
ないです。
落ちるとこまで落ちないで日本を立て直す方法を考えるのが政治家の仕事
なんです。だけどこれは大変だと思います。例えば小泉さんだって大統領
制だったら思い切った改革ができたと思います。
いくら頑張っても日本の総理大臣の権限なんて極めて限られていますから。
常に党に気を遣わなければならない。アメリカの大統領は4年間の身分が
保証されている。
韓国だって5年間保障される。日本の総理なんて回転寿司のようにくるくる
変わるわけですから。
中国の李鵬首相が20年後にこの地上から日本という国がなくなると言った
ことは、癪だけど当たっているなという感じがしますね。
規制のシステムを全部ぶっ壊して新しいものを作る。そのためには今の制
度、システム、社会状況の中で、革命的な改革ができるかどうかに係って
いるんじゃないですかね。まあ難しいと思うな、これは。悲観的になっちゃい
ますけど。
結局日本は過去のいろんな問題を引きずったまま、一進一退を繰り返しな
がら、国際スタンダードの中でどんどん立ち遅れていく、ということになって
いくんではないですか。
長時間ありがとうございました。
いやいやありがとうございます。
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