日本共産党衆議院議員・穀田恵二
2008.10  於国会議事堂正門玄関
穀田恵二 日本共産党、衆議院議員
≪インタビュー≫  聞き手・蛭田有一
政治を志した原点は。
私は京都の立命館大学で学びました。立命館大学に「わだつみ像」という
反戦平和の像があるんです。
「わだつみの悲劇を繰り返すな」というのが私の政治を志した大きなポイン
トだと思っています。
私は両親が共産党員の家庭で育ちました。父は地方銀行の組合活動を
やっていたこともあって、労働の現場の厳しさというか、たたかうことの大
変さというものを教えられましたね。
それで私も共産党に入ったんですが、立命館大学の総長だった末川博
先生の「戦争を二度と起こしちゃならん、わだつみの悲劇を繰り返すな」と
いう教えを原点にして政治を志しました。
大学を出て同じ立命館大学に就職し、2年ほど働いてから共産党の専従
職員になりました。専従職員になって16年経ってから市議会議員に立候
補して市議会議員に当選し、一期勤め、そのあと衆議院議員に出ました。
政治家としての信念は。
私は自分のスローガンとして、ポスターにも書いているんですが、ひとつは
「政治を国民の手に」ということを、引退された寺前巌議員から受け継ぎま
した。国民が主人公を、私なりの言い方で表したものです。
かつて蜷川虎三さんが京都府知事時代に「憲法を暮らしに生かそう」とい
う垂れ幕を、ずっと京都府庁に掲げていましたが、私もそういう世代です。
ですから「憲法を暮らしに生かそう」というのを、もうひとつのスローガン
にしています。心情としてこれは譲れないと考えています。
政官業はもとより、近年は一般国民の間にも無責任やモラルの崩壊が
広がっています。この状況をどう捉えますか。
ことは重大な問題になっている点は、蛭田さんと認識を共有します。
ただ私は日本人全体がそうなっているとは思っていないんです。
一般市民のルール無視が広がっています。日常化したゴミの不法投棄、
悪質なひき逃げ等々、後を絶ちません。こうなった原因は。
凶悪な犯罪を許せないのは同じです。少し意見が違うのは、本当に犯罪
の数値が多くなっているのかとか、凶悪犯罪が多いかというとそうでもない
んです。
モラルが退廃しているという問題については、危機的な意識はあります。
一般国民が全部悪くなっているというふうには思っていないんですね。
むしろ問題なのはこういう傾向をなんでも道徳律の問題だと考える場合が
あるけども、果たしてそうでしょうか。
やはり政治の退廃が根本にあると思っていますね。政官業の癒着があっ
たり、それから経済では儲け第一主義で、目先の利益だけを追うというや
り方、それが当然一定の思想ですから広がっていくわけでね。
金の延べ棒を集めた政治家がいたり、官で言えば、国民全体への奉仕者
でありながら実際は談合をやって、一部の政治家とゼネコンなどがつるん
で悪行を行っています、高級官僚ですけど。
民間で言えば、ホリエモンとか村上ファンドとか、あたかも時代の先駆けの
ように言われたけれども、いまや虚偶であったことが明らかになっている
んですけどね。
そういうものを煽ったメディアにも責任はあると思いますし、政治の責任も
あるし、経済が目先の利益だけを追っていくというやり方にもあるんじゃな
いですか。
庶民の側に立った政策を掲げながら、共産党が議席を伸ばせないのは
何故ですか。
蛭田さんが今、庶民の側に立った政策を掲げながらと言われましたが、
そう思っていただくだけでも私はうれしいなと思っていますけども。
実際そう思っている人は多いと思いますが。
やっぱり今、かまびすしくやられている二大政党制の中で、それを打ち破
るだけの実力っていいますかね、力がないということを率直に反省してい
ます。
実力というのはどういうものですか。
国民の理解を得て、やっぱり共産党が必要だという風に思っていただくと
いうことですね。政策はいいけけれども、国会を動かしていくというか、政
治を動かしていくという力がないと思っている方もいらっしゃる。
街中で自民党や民主党よりも熱心に活動しているのに、投票につながら
ないのは。
投票行動っていうのは、自分とこの頑張っている姿だけじゃないんですよ。
例えば、いいこと言っているけども、国会では議席が少ないわけだからそ
う簡単に実現できないじゃないかという多くの方々の思いもあるわけです。
政権選択の話になれば自民か民主かと宣伝されるじゃないですか。
共産党に入れても死に票になるだけと宣伝されるわけですよ。
多くの人たちに共感を得るような、いや日本共産党が伸びれば政治が変
わるんですよという訴えが、多くの国民の心に響くところまで、まだ届け切
れていない結果でしょうね。
でもその結果が何十年も続いているわけで、今までやってきたことに問題
はなかったんですか。
何十年もって言われましたけども、日本共産党ができてから86年なんで
すね。戦前ですと23年間ですよ。
私たちはその点では確信を持っていまして、党が生まれたときに、民主主
義とか平和とか、基本的人権なんて言っているところはなかったわけでね。
私たちの先輩が掲げた理想が、戦後の平和と民主主義を要求する闘いを
通じて、憲法に結実したわけですよ。
まさに歴史的に役割を果たしたと私たちは思っています。だから長い目で
見れば前進をしていると。
また戦前に弾圧を受けただけじゃなくて、戦後もレッドパージをうけて排撃
されたり、職場で差別を受けたりしました。
さらにはソ連やその他の出来事について名前が同じじゃないかと攻撃を受
けるとか、数々のことをやられながら、前へ前へ進んできているわけです
から、そういう意味では私どもは楽観主義っていいますか、楽天的にもの
ごとを考えて前へ行こうと思っていますけどね。
党名を変えたらもっと支持者が増えると言う人もいますが。
私たちは党名の問題には拘っているんです。日本共産党という党名を掲
げて最後まで頑張ります。
私は今の社会体制が一番いいとは思っていません。もっといい社会を作
ろうというのが私たちの考えなんです。
資本主義社会はやはり儲けが第一ということですね。全ては儲けなんです
ね。あとは野となれ山となれという考え方なんです。
新聞やテレビで資本主義の限界ということが取り沙汰されていますが、特
に環境問題とか経済不況、それから食料とか、それらの問題が解決でき
るんだろうかという根本的疑問が提起されています。
そういう問題を資本主義では解決できないと私は思っているんです。
人類はやがては資本主義の矛盾を克服して、未来社会へ進むときがくる
と考えています。
人間一人ひとりの個性が花開いて、自由で平等な社会、真に国民が主人
公の社会を作ろうという理想と結びついた名前が共産党なんです。
二つ目の理由は何といったって、あの戦争に反対した共産党だということ
で、私たちとしては歴史を語り継いでいく上で、ゆるがせにできない名前だ
と。未来と歴史という二つ点で日本共産党という党名を我々は変えるつも
りはないということですね。
社民党という政党をどう捉えていますか。
あまり他の政党のことをあれこれ言ったことはないんですが、例えば憲法
の問題では改悪反対の立場で一緒に努力する、共闘したいと思っていま
す。
部分的にあえば共闘すると。
それはどの党に対してもね。仮にどんな政権になるにせよ、日本共産党
が選挙で伸びれば、後期高齢者医療制度は廃止しようと、それから労働
者の保護法制は作ろうという積極的提案を行っていきたいですね。
ただ政権となるとね、政治の根本方針が問われますよね。
憲法を変えるのか変えないのか、それから消費税をやるのかやらないの
かという一番根本の問題の意見の違いがあるときにね、政権と一緒にや
るとなったらそれは野合と言われますよね。
だから私たちはとしては、少なくても政権の協力はないということを国民に
言わないと嘘になりますからね。その辺はクリアにしたい。
国民要求の実現のために、一致点にもとづく国会内での協力は進めてい
ます。
労働者保護法制についても協力する方向で協議を進めています。
BSEの問題でもやりました。その過程の中でね、例えば後期高齢者医療
制度を廃止しようという場合でも、民主党は年金からの天引きは残そうと
いう意見だったんですね。
それはあかんと、いちばん怒りの対象になっているのは、先ず天引きされ
ることなんだと。だからうちは天引きをやめるという提案にしようと最後ま
で粘ったわけですけど。
筋を通す。国民の要求に忠実である。そういうことが私たちの役割だと思
っていますけどね。
日本は民主主義国家とは言えない端的な事例は。
やっぱり「職場に憲法なし」ってことだと思いますね。現場へ行けば分かり
ます。憲法には政治的自由が規定されていますよね。
例えば関西電力、東京電力、中部電力で日本共産党員であることを理由
に昇進や給料で差別があったということで裁判しましたが、勝利的和解を
しました。
これらの事実からも憲法が職場に入れば通用しないというのが日本の民
主主義の状況の一断面じゃないでしょうか。そこに今の問題があると思い
ますけどね。
それと敢えて言えば、憲法との関係で無視できないのは、アメリカ言いな
りと安保条約の問題ですね。例えばなぜ首都に基地があるのかとか、在
日米軍に対する思いやり予算というのがなぜあるのかという問題は大事な
問題ですよね。
だってアメリカ軍に対して便宜供与している国は27カ国ありますけれど、
日本が貢いでいる金は、残りの26カ国分を上回る金を出しているわけで
すから、あまりにも異常と言わなければならないと思うんですね。
だから私は基地の中に憲法なし、職場の中に憲法なしということが、今の
日本の民主主義の最大の欠陥だと思いますけどね。
自民党の政治家でも日本はアメリカに隷属したとても独立国とは言えない
と言う人がいますが。
ええ、そういう方いますね。後藤田正晴さんもおっしゃっていたように、
アメリカの窓からしかものを見ないと。その根本は軍事的な従属がある
からだと思いますけどね。
日本の安全をアメリカに守ってもらっていると。
というふうに言っていますわね、自民党は。
私たちは何もアメリカとことを構えようと言っているわけじゃないんです。
私たちはアメリカと対等、平等な関係を作ろう、日米安保条約を廃棄して
「日米友好条約」を結ぼうと提案しているんです。
安保条約は日本の国土を守る代わりに、基地を置かせるという一応の法
律体系になっていますが、アメリカ軍は日本の国土や国民を守ることにな
っているでしょうか。
配置されている海兵隊にしろ空軍、海軍、陸軍にしろ全部、殴りこみの軍
隊ですよ。日本を守る仕事などしていませんよ。
日本を守るために置いているわけじゃないんですよ。日本を拠点にどこを
攻めるかという部隊を置いているわけですから。
後藤田さんも似たようなことをおっしゃっていましたね。
後藤田さんも著書でそう指摘されていますよね。外交官の話を聞いて、
アメリカの言うことしか見てないと。こんな外交ではどうしようもないと
後藤田さんは指摘しています。
その点では、私も何度か後藤田さんと話をしたことがありますけど一致し
ていたと思いますね。
日本政府は、アメリカのやり方に対して一度として文句を言ったことはない
ですよね。例えばベトナムの侵略に文句を言ったとか、今のアフガンでも
イラクでもそうですが、アメリカの行う報復戦争、特に無辜の民を殺戮する
空爆にさえノーと言ったことはない。
つまり後藤田さんも言っておられるように、アメリカのやり方に対して日本
の政府は一度としてノーと言ったことがないわけですね。
自民党の政治家で、日本はアメリカに従属して独立国家とは言えないと
本当に思うのなら、ちゃんとノーと言っては如何かと、私は思いますけどね。
在日米軍に対する思いやり予算2500億をやめろと、これ言えるかどうか
なんですよ。
米軍がグアムに移転する費用を、日本が3兆円も負担するのは反対だと
堂々と主張できるかということですよ。だけどそういうことは言えないと思
いますよ。
なぜなら自民党の方々は従属をよしとしているんですよ。蛭田さんも、なぜ
言えないんだといっぺん今後のインタビューで問い詰めてくださいよ。
我々は従属なしで生きられると言っているわけです。世界は平等だと考え
ている。そこに哲学の違いがある。
日本はアメリカにとってどんな存在なんでしょうか。
私は思うんだけど、もしアメリカが日本に対して事を構えるとすれば、日本
の経済力って無視できないですよ。だってもし日本から輸出が止まり、輸
入が止まったりしたら、アメリカだって大弱りですよ。貿易ひとつとってみ
ても、そのくらい深い間柄ですよ。
従属をやめられないのは官僚や政治家たちが、従属をやめようとしたとき
に曝されるであろうアメリカからの脅しやプレッシャーを自ら背負いたくな
いという事なかれ主義に起因しているのでは。
そんなことはないでしょうね。だって麻生さんや自民党が主張しているの
は、日米同盟が絶対的機軸だというわけですね。
この同盟なしに日本の存在はないといっているわけですよ。まれに従属は
おかしいと言う人はいますよ。日米同盟をやめるとは絶対に言わないです
って。日米同盟で生きているんですって、こうした皆さんは。
アメリカに頼らなければ日本はやっていけない思っているからなんですよ。
私たちは違うんです。ハッキリしているのは世界軍事同盟ではなく、共同
の時代に入っていると、平等な時代だと。
「紛争は話し合いで解決する」という東南アジア友好条約(TAC)地球人
口の6割を占めることに見られるように、平和の共同体づくりの波が広がっ
ているんですよ。
毎日新聞が世論調査を毎年1月にやっていますよね。日米同盟が絶対だ
と思っている人は少ないんですって。
そこに自民党などの日米同盟絶対という考え方と乖離があるわけですね。
例の新テロ特措法の論議だって,政党の配置図というものを明確に映し出
しましたよね。私たちは憲法に関わる重大問題だ、アフガニスタンの現状、
アフガン政権の動向、戦争でテロはなくならない、などについてしっかり議
論する必要があると主張しましたが、結局最後は自民党も民主党も、この
国会での質疑はちょっとでいいと、すぐ手を握っちゃうわけでしょう。
テロ特措法については国民の多数が反対ですよ。真っ二つに割れている
のを、たった二日間の審議で通そうなどということ自体、国民をバカにして
いる議論ですよ。
ここにも政治が退廃していることが現れていますよね。
日本共産党が最終的に目標にしているものは何ですか。
先ほどの党名に関するところでお話ししたことですが、私たちは社会主義、
共産主義を目指しています。
先ず資本主義の枠内での民主的改革を実現するということが大方針です
ね。それは大企業中心のルールなき資本主義を正して、国民の暮らしと
権利を守るという経済社会、つまりルールある経済社会を作るということ、
アメリカ言いなり政治を改めて、独立、平和の日本を作ることですね。
そういう社会を作る可能性はありますか。
国民のための改革は、21世紀の早い時期に実現できるように頑張ります。
最終目標の社会実現には長くかかると思います。
10年、20年という単位ではなくて、相当かかると思いますけどね。
時間がかかっても諦めないと。
諦めるとか諦めないとかじゃなくて、例えば資本主義の今のありようとし
て、資本主義の限界と言われるような現実に直面していますよね。
投機マネーが暴走して、いまやカジノ資本主義の破綻と、それに伴うアメリ
カ発の金融不況が起きていますよね。こういうカジノ資本主義や投機マネ
ーの暴走などが永遠に続くとは思えないですよ。
極端な金融自由化と規制緩和のもとで、マネーゲームに狂奔するような
社会は続かないというのが私たちの考えです。こんなこと長続きしません。
格差社会になってきた今、「赤旗」が売れているそうですね。
少しづつではありますが。「しんぶん赤旗」は増えて、日本共産党員もこの
1年ほどの間に1万2千人増えていますね。(笑)
世の中がおかしくなると伸びて、安定すると減るというのでは困りますよね。
そんなこともないですよ。蛭田さん、誤解あると思うんだけどね。日本社会
なり、資本主義社会が混乱すれば日本共産党が伸びるとそう思っている
んじゃないですか。
そういう話を聞きますが。
そこが誤解なんですよ。例えば1972年に日本共産党は伸びているんで
す。
田中角栄氏の日本列島改造で、経済がグーッと伸びた時代に、うちもガバ
ッと伸びている事実があります。ことは単純じゃないですわね。
私たちは、先ほどお話したように、ルールなき資本主義を正して、ルール
ある経済社会を作ることが当面の目標なんです。それはルールある資本
主義を作ると言い換えてもいいでしょう。
資本主義が健全に発展すればするほど、次の社会に進む条件が熟する
というのが私たちの立場なんです。
もちろん今の自民党、公明党の悪政はひどすぎますよね。この悪政への
怒りが政治を変えたいとの思いになり、その役割を日本共産党が受け止
める。その受け皿であるとは言えますね。
今後の大きな目標と決意をお聞かせください。
やっぱり大目標は憲法ですね。
憲法を暮らしの中に活かしていくということが必要な時代が来ます。
平和主義を徹底し、生存権を規定している憲法というのは、世界にほとん
ど例がないくらい先駆的ですよ。
生存する権利を高らかに謳いあげた憲法を、実際の政治と生活に実現さ
せることですね。
憲法が本当にこう花開いていく社会というのを私は目標としているし、その
目標を実現するために最後まで頑張りたいというのが決意です。
ありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。すいません、いろいろ言いまして。
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