≪インタビュー≫  聞き手・蛭田有一
前回の選挙では小泉旋風が、今回は民主党へ追い風が吹きましたが、この
国民の風をどう思いますか。
特に最近は風というものが強く、国民も意識しますし、私たちも意識するよ
うになりましたね。
それはどうしてかというと、いま日本が曲がり角に来ていると思うんですよ
まだその曲がり角の行き先が分かりませんから、ちょうど国民が試行錯誤
する時期だと思うんです。
小泉さんの時は、正にアメリカ流の改革で一回やってみようと国民が大き
く舵を切ったわけですよ。
ところがどうも上手くいかない。ある程度の差は必要ですけど、ここまで拡
がると今度は社会がかえって停滞してしまうんで、これじゃいけないとまた
国民が舵を切ったということだと思うんですね。
結局日本の行く道がまだはっきりしていない。どうしていいか国民もわから
ないし、政党もわからない。
そこで大きく右に行ったり左に行ったり舵を切ることになる。
それが風と呼ばれているんじゃないかと私は考えていますけどね。
そういう意味では風を肯定的に捉えていると。
はい、悪いことではないと。
今の試行錯誤の時期では、これはやむを得ないと思います。
だから今度、民主党の改革がおかしくなったら、またもう一回揺り戻しがあ
ると思っています。
政治家として一番力を発揮できると自負する分野は。
財政と経済ですね。
財政というのは、国の借金や予算の作り方をどうしていくのかということ
で、経済というのは、お金を回して行くことですけども、日本はそのほかに
多額の借金を抱えていますから、この借金の重みで日本の国が潰れない
ようにするにはどうするかが、これは私の専門分野ですが、これからの
課題ですね。
政策を実行できる与党となった今、これだけは実現したいと思う政策は。
なるべく増税しないで財政を再建するということです。
今回民主党の政権で新たな借金を44兆円に留めた。この44兆円という
のは去年、自民党が作った借金ですから。
私はこれを上回ってはいけないと思いまして、国会の予算委員会で鳩山さん
に是非これを守ってくださいと言ったら、鳩山さんも守ると言ってその約束
は守られたんでね。
やっぱり借金というのは次の世代が返さなきゃいけないわけですよね。
今の世代は沢山いますけども、次の世代は少子化ですから。もうこれ以上
借金してはいけません。
増税するのは簡単なんですよ。消費税を上げちゃえばいいんですから。
だけど今、消費税を上げられる状況にはないんでね。
いつか負担を求めなきゃいけませんが、今はできるだけ増税しないで、どう
やって借金を減らしていくかということに一番心を砕いていくと、これからもね。
近年の日本の社会や日本人そのものの荒廃をどう思いますが。
しょっちゅう憤っていますね。それこそ交通ルールを、赤信号なのに車も突
っ走るし、自転車も信号無視して凄いスピードで走るし、歩行者だって守ら
ない。交通信号だけじゃありません。親殺し、子殺し、それから友達を平気
で裏切るとか、先輩とかも。
年長者に対する敬いが全然ないですね。もう少し社会が敬意を払わなきゃい
けない。
それなりの経験を積んでいるんですから、若い人達はお年寄りから学ぼうと
する姿勢がなきゃいけないと思いますね、これは。
日本人の劣化も日本の衰退の一因になっているのでは。
一言でいうと人間力が落ちたと。
今、劣化という言葉をお使いになりましたけどね、人間力、それは自殺が多
いとかそういうものにもね。
それから自分が死ぬだけじゃなくて、周りの人を平気で道ずれにするとか
ね。今、確かに厳しい時代なんですよ。
こういう時代だからこそ人間力というか、しなやかな強さが求められるんで
すが、ちょっと日本はそういうところがね。
やっぱり年間3万人も自殺するというのは異常ですよ。世界にないですよ。
逆協を生き抜いていく力強さというか精神力の強さがないですね。
これは教育にも問題がある。これからは子供たちがいろんな苦難にあっても
耐えしのいでいけるような、くじけない強さというものを教えていかなきゃ
いけないと思いますね。
日本の将来には悲観的ですか。
私はネアカな方ですから楽観的です。
ただ長期的に見れば楽観的ですけど、ここ10年位は悲観的にならざるを得
ないですね。
10年ぐらいですか。
はい、だからその10年ぐらいっていうのは、おそらく私が政治家として活
躍できる最後の10年かなと思っていますんで、その意味でいうと大変な時
代だなと思いますね。
最終的には楽観していると。
最終的にはこの10年を乗り切ることが出来ればなんとかなる。
それは少子化、高齢化の時代に合った安定した日本の国の政治、経済、社
会が出来上がると思いますね。
たださっき言ったように、その間は試行錯誤ですから、大きく揺れるという
のもしょうがないことかなと思っています。
だから10年の間にそういう厳しさに耐えうる力を日本の国全体に付けてい
きたい。それが私の役目かなと思っています。
高く評価する政治家はいますか。
チャーチルです。
チャーチルはまさに第二次世界大戦の一番厳しい時代に、イギリスを上手く
舵取りしてドイツとの戦争に勝ったんです。
厳しい時代に、彼はイギリス国民をひとつにまとめ上げたということ。
やっぱりこれからは政治家としてチャーチルのしぶとさに学ばなきゃいけな
いと思う。
日本で学ぶべき政治家はいますか。
日本人の政治家でいうと、うーんあんまりピンとくる人はいませんね。
だってこういう時代というのは初めてですからね。
それこそ坂の上の雲で、ずーっと登りつめて行って、戦争をやって負けて、
それから今度は経済で坂を駆け上がって、今はそのなだらかな下り坂にい
ると。
これは初めての経験ですから。これから新しい時代に対処していくわけで、
今までにないことですからね。
小沢さんとよく比較されますが、鳩山さんをどう評価するか、評価しない点
でもいいですが。
いやいや、評価できます。
それはもう昔からの盟友ですし、民主党の中で誰に聞いても鳩山さんを悪く
言う人はいないですよ。
彼の人柄の良さというのは私も敬服しているところです。
ただ鳩山さんと小沢さんという二人の力を併せ持った一人の人間というのは
いないですよ。無理ですよ、それは。
だから鳩山さんと小沢さんが力を合わせて今の難局を乗り切っていくのが
一番いいんですよ。
小沢さんを個人的にはお好きですか。
好きとか嫌いとかじゃなくて、やっぱり政治家として厳然たる力をもってい
ますからね。
これは好き嫌いで言う次元じゃなくなっていますね。(笑)
小沢さんを本当に知った人はファンなると言う人もいますね。
ものごとの評価がはっきりしています。分かりやすいです。
今、小沢さんと一緒にいろんな仕事をやっていますけども、指示が的確です
ね。ああでもない、こうでもないと言わないで、これとこれをやってくださ
いと言われれば、ハイ分かりましたと今やっていますけど。
凄いなと感じるところは。
決断力ですね、小沢さんの場合は。
鳩山さんはどちらかというとそれに欠けるところがあって、 だから二人で
上手くコンビを組んでいくのが一番いいと思っていますね。
憲法改正についてはどんなお立場ですか。
僕は今の憲法をそのまま絶対に守らないといけないなんて思っていないで
す。必要があれば変えればいい話であって、ただこの時期に憲法改正が必
要かと言えばそうじゃないと思う。
これから10年の間、今の憲法でしのいでいって、その中でいろんな矛盾も
出てくると思いッます。
その時に変えればいいので、私たちの次の世代がやればいいことだと思っ
ています。
10年なんてあっという間に経ちますよ。私も政治に携わってもう16年で
すが、あっという間でしたから。
どうしても今変えなければ日本が立ちいかなくなるということではないと僕
は思っているんですよ。
ただ30年も40年も絶対変えちゃいけないと、護憲だけを旗印にすること
は僕はやりっません。必要があれば変えればいいんであって、ただ今の憲
法が何か齟齬がきたしているかといえばそうではない。国際貢献だってでき
ますしね。
首相の靖国参拝については。
私なんか靖国が選挙区ですからよく行きます。
行ったときには参拝して手を合わせて頭を下げてきますよ。それでいいんじ
ゃないかと思いますね。わざわざ俺は行くんだと言ってね。
あそこは宗教ですから、それに対しては個人的に参拝すればいい話なんで
す。
首相は行くべきではないと思いますか。
いや、首相だって行っていいんですよ。
それを何も俺は行くぞというんじゃなくて、自分が行きたいと思ったときに
行けばいいんです。内面の問題ですもの。
だから通りかかったときにちょっと寄って行けばいい話であって、僕なんか
そうしていますからね。
日米関係でこれだけは納得できない、変えるべきということはありますか。
今、基地があるということはしょうがないことなんです。
日米安保条約でアメリカが日本を守りますと、日本はアメリカを守りますと
いう約束はしていないんですよ。
その代わりに、守ってもらうについては基地を提供しますよということを約
束しているんですよ。これが日米安保条約です。
守ってください、その代わり基地を提供しますということですから基地をな
くすわけにはいかない。守ってもらっている間はね。
ただ地位協定というものがあって、今も沖縄で問題になっていますけども、
犯人が起訴されるまで身柄引き渡しができないというのはおかしいです。
だから地位協定はもう少し平等なものにすべきだと思っています。
それにしても米軍基地はあまりに多すぎますね。
ちょうど2010年が安保条約から50年なんですよ。
70年とか60年とか10年ごとに安保の見直しをやりましたけども、それ
以来全然やっていない、自動延長で。
私は安保破棄の立場じゃないです。ただ蛭田さんがいま言われたように基地
が多すぎるんじゃないのとか、特に沖縄には過剰に負担がかかり過ぎるん
じゃないかとかそういうことを今度の2010年はちょうどいい機会ですからね。
一つ一つについて本当のこれだけの基地が必要なのか、極東の安全にどう
一つ一つの基地が貢献しているのかということをもう一回チェックし直すこ
とが必要だと思います。
鳩山さんは独立国家の尊厳として、米軍基地の状況は好ましくないという
捉え方ですが。
理想論から言うと確かにその通りですけれども、私はもう少し現実論者で
す。例えば今、北朝鮮のような国がある間はやっぱり安保条約は必要です
からね。
安保条約で日本がアメリカを守る程の軍備はできませんから。そしたら守っ
てもらう以上、基地を提供するのは致し方ないことです。
確かに独立国として鳩山さんの考え方は一つの理想ですよ。だけどそれは
まだもう少し時間がかかるかなと思っています。
日本の米軍基地はアメリカの国益と本土防衛のための基地であって、
日本の防衛は二の次では。
だけどそこは信じるしかないですよ。今、アメリカを敵に回していいことな
いですから。ちょっと現実論ですいませんけどね。(笑)
やっぱり、国民の生活にちゃんと責任を持とうとしたらしょうがないことです
よ。鳩山さんはそこを突き抜けちゃうからね、理想論で。僕はもう少し現実
的ですから。
今、経済的にも軍事的にも強大化する中国は、将来日本にとってどんな
存在になると思いますか。
これはもう完全にライバルであることは確かですね。
ただそのライバルをいいライバルにしていくのか、憎悪に満ちた敵対国に
していくのか、正に私たちの責任であって、これはやっぱりいいライバルに
していかなければならないというのが私の考え方ですね。
近年、日中間で日本が不快に感じることが続いていますが、このままだと
将来が不安ですね。
そこは正しく一つひとつについてはっきり中国にものを言っていかなければ
いけない。ただその時に本当に友人としてものを言っていくのか、それとも
悪意に満ちてものを言っていくのか、ということで違うわけです。
中国は共産主義だからダメだと頭から決めつけるんじゃなくて、中国は共
産主義を看板に掲げているけど、一般の人と話をしてみれば、私たちと全
然変わらないですよ。
だけどそういう人たちが全部日本と同じような民主主義の制度で保障され
ているかというと、そうではない。
だけどそれは彼らが考えていく話であって、私は、そこは今の現状を認め
て、だけど敵視するライバルにならないように、政府間だけじゃなく、民間
同士においても外交努力をしていけば、お互いに理解できますよ。
中国だって対日感情が非常に悪かったけれども、あの四川大地震の時に
日本の救援隊が行って死者に対して尊厳を払ったら、自分たちが忘れて
しまったことを日本の国民はやっているといって、一挙に日本への感情が
よくなったという点もありますから。
お互いが努力をしていかなきゃいけないことだと思いますね。
一方的にどっちかがやる話じゃない。おかしなときはおかしいと言わなきゃ
ならない。
今後、政治家としてどんなことに力を尽くしていきたいですか。
政治家に必要なのは、社会保障と安全保障なんです。
国民の生活を守るということと、日本の独立と主権を守るという、この二つ
なんですよ。
今までどちらかというと、社会保障の問題がお粗末になってこういう形にな
っているから、これをもう一回作り直しをしなきゃいけない。
安全保障の問題においても、アジアの中で真の友人は一体どこの国なの
か、ということを考えないといけない。
やっぱり近くに真の友人を作っておかないとダメですよ。
何も中国だけじゃなく、ASEANとかそういうものも含めてやっていかない
といけないと思っていますね。
そういう部分でも大いに貢献したいと思っていますね。
ありがとうございました。
はい、どうもありがとうございました。