≪インタビュー≫  聞き手・蛭田有一
どんな人物に魅力を感じますか
思いの深い人というか信念の強い人、そういう人に私は惹かれます。政
治家であれば何をしたいのか、それが何となく滲み出ますよ。
政治家以外にもいろんな職業の方と出会っていますけど、その人が明
確に言葉で表せなくても、この人はいろいろ思いがあって、それぞれの
ことに取り組んでいるんだなと感じる人には魅力を感じます。
例えば政治家ではどんな人がいますか。
この人はすごく信念が強いなと思うのは小沢幹事長です。
菅副総理も非常に強いです。それから仙谷大臣もそうです。そういう人
達にはすごく惹かれるんです。
性格的に合う合わないとか、立場がどうというのを越えて、何かを学べ
るんじゃないかと思って付き合っていただきました。
政治家を目指した原点は。
親がサラリーマンで政治家との接点は全くなィ家庭で育ちましたから、
そういう思いを持ったのは、学生の時です。
学生時代に障害を持っている方との出会いがあって、そのお手伝いを
したことが一つのきっかけでしょうか。
それと、学生時代に阪神淡路大震災があったんですが、もう少し行政と
か政治が本当の意味で決断して、責任を持って対応できていればなと
言う思いがあったのも大きかったです。
私の場合は、決して環境に恵まれていたということではありませんでし
たので、その実現性はどうかなと思っていたんですけが、丁度その頃、
93年の総選挙で細川政権が誕生したんです。
当時、前原さんとか枝野さん当選したのを見て、自分でもやれるかなと
思ったんです。
ですから政治の世界に関わってみたいと思ったのと、そういう政治の世
界に大きな動きが起きたのが、丁度同時だったというのが最終的にこう
いう道へ進むきっかけになったと思います。
尊敬する政治家はいますか。
政治家と言えるかどうかはわかりませんが、吉田松陰が好きです。
時代の先見性とか初めに申し上げた信念の強さというのは、歴史上の
人物の中でも卓越していると思うんです。
あとはそうですね、尊敬するというと全面的にその人物に傾注するという
ことですが、みなさんいろんな面がありますから、賛同できる面もあれ
ば、若干違和感を感じる部分もある中でのお付き合いですから。
今、一緒に政治をやっている中では、冒頭申し上げた小沢幹事長、菅
副総理、仙谷大臣何なんかは非常に惹かれる人物ですね。
若手では、前原さんは私が政治に入る大きなきっかけになった人です
ので、いい目標ですね。
副幹事長として、小沢さんの下で一緒に仕事をして、すごいなと感じた
ことは。
重要な判断をしなければならない場面というのは、政治家にはあるんで
すね。その時に一拍の溜がある、それが小沢幹事長の強みでしょうね。
即決、即断することにこしたことはないんだけども、その判断に誤りは許
されないですからね。
しっかりそこで溜を作るというのはすごく大事だと思うんですね。
今は、こういうスピードの速い時代に入って、携帯電話やメールが行き
交う時代ですから、そこできちっと溜を作って判断を間違いなくするとい
うのは非常に難しくなってきているんです。
下手をすれば決断力がない、或いは拙速だと言われますね。
ですから一拍置いて、当然情報も集めるし、いろいろお考えになるでしょ
う。時が来ると決断するわけです。
決断するとそこはもうぶれない。そのことが政治家としての重みにつな
がっていると思うんです。そこはすごく大事だと思います。
今、吹き荒れている民主党に対する国民の逆風の要因は。
半年経って期待されていたような成果が出ていないトいうこともあると思
うんです。ただ私が全国を歩いて聞こえてくる声というのは、もともと政
権が変わってもすぐに成果が出るとは思っていなかったんだと。
そこに失望しているのではなくて、むしろ腹が座っていないというか、右
往左往しているように見える。その辺のすわりの悪さというのが見透かさ
れている感じがするんです。
もう少しどっしり腰を落ち着かせてやればいいと思うんです。
これだけ景気を含め状況が大きく動いているわけだから、今、こういう事
態になっているのは、こうなんだと率直にやればいいと思うんですが、
選挙での大勝というのがありますから、そこを引きずってしまってできな
いというのがひとつあると思います。
マスコミの民主党バッシングも要因のひとつと思いますか。
そこは与党政府の宿命だと思うんです。ですから、いろいろご批判があ
れば、それを受け止めなければならないです。
もうひとつは、我々が本来持っていたはずの謙虚さみたいなものが、ち
ょっと失われているんではないかと思うんです。
権力を持っているのは事実だし、いろんな政策決定をしていかなければ
ならないというのも事実ですけど、一方で政治的な経験でいえば与党経
験のある人は極めて少ないわけだし、権力をどう適切に行使すべきかと
いうことについても、みんな逡巡しながらやっているわけです。
今は、とにかくひとつずつ成果を出そうと努力しているんだけど、その辺
が伝わっていないです。
もう少し民主党自身が謙虚にコツコツ努力くしている姿を見せないといけ
ないと思います。
マスコミはその辺をあまり取り上げてくれない。
どうですかね。このところ閣僚のみなさんも、そういう意識をすごく持つよ
うになってきているような気がするんです。
ひとつはやっぱり長崎で負けたというのが大きくて、衆議院選挙で全勝
した選挙区で、今度の知事選挙では負けたんですから。
そういう意味では長崎をひとつのきっかけに、もう一度原点に立ち返って
どこが至らなかったのか、どこをどう変えていかなければならないのか
と、ここ半年を反省して再出発するきっかけにできるんじゃないかと、ま
たしなければならないんじゃないかと思っています。
従来の民主党のイメージを小沢さんが一人で壊しているように見え
ますが。
小沢幹事長は、かつての民主党にはなかったいろんな文化を民主党に
持ち込んだことは間違いないと思います。
私が10年前に民主党に入ったときは、こんなに自由な政党なのかと思
いました。まだ今ほどに人数も多くはなかったけれど。
当時の代表が鳩山さんで、そのあと菅さんとか岡田さんになりましたけ
ど。
一年生議員でも平気で代表にくってかかってもよかったし、バンバン法
律も出せたし、発言の機会もいくらでもありましたね。そういう中で我々
は育ってきたんです。
逆にそういう環境でなければ、当時沢山いた20代、30代の若手が切磋
琢磨して育っていたかというと、そうでなかったかもしれない。
ですからそういう文化は民主党のいいところだったと思います。
ただ当時のことを思い出すと、みんなワーッと盛り上がっていい時はい
いですけど、なにかひとつ綻びが出るとガタガタになる。
ダメになってまたよくなって、ということを繰り返してきたんです。
だから、あの状態で政権を取れたかというと、私は難しかったんではな
いかと思います。
小沢さんが民主党と合併して、徐々に民主党の中で重きをなして、リー
ダーシップを取られるようになって明らかに変わりました。組織としての
体をなしてきた。
党内でいろんなことがあっても、中では議論するけど外向きには組織の
人間として行動するという、組織としての強さは出てきたと思います。
この文化は両面必要で、人が育つには自由闊達な部分もないといっけ
ない。
ただ危機になったときには国を動かしているわけですから、内部崩壊す
るわけにはいきませんので、しっかりまとまってやていかなければなら
ないと思います。
そういう意味では小沢幹事長が持っている文化も必要だし、民主党がも
ともと持っていた文化も必要で、そのバランスをどうしようかというので、
今、民主党の中に揺らぎが出てきたのかなとと思うんです。
国民からはそれが異質なものとはっきり見えているだけに、その対立が
強調され過ぎて、民主党どうしたんだとという話になっているという気が
します。
日本の政治はこの先二大政党制に向かうのでしょうか。
私も4回選挙をやりましたが、4回とも政権交代、政権交代と言いながら
初めの3回は政権交代が実現しなかったんです。
だから日本では政権交代が根付かないのではという迷いがずっとありま
した。
ただ去年の総選挙でこれだけドラスティックな結果が出ましたので、歴
史的な判断を日本国民はしたんだろうと思うんですよ。
我々は国民のみなさんが政権交代を選択したことによって政権を取って
いる当事者です。
今はとにかく二大政党制を根付かせて、自民党が50年やってきたこと
を考えれば、我々は石にかじりついてでも10年くらいはやらないと成果
は出ませんから。
大きな制度変革を実現することに力を注いでいきたいと思っています。
二大政党という意味では、自民党のみなさんにも頑張って頂きたいです
そこはお互いに競い合う状況を作ることが、民主主義を本当に機能させ
るのに重要なことではないかと思っています。
日本の政治を二つに分けるとしたらどんな対立軸がいいですか。
いくつか対立軸になりうるテーマはあると思うんです。
そのひとつは、例えば国の役割と地方の役割をどうかんがえるか。
民主党はもともと相当急進的な地域主権型㋨政党なんですよ。
国の役割はもっと限定すべきだという理念を持っているんです。それは
裏返すと、国会議員の仕事が少なくなるということですから、配れる予算
も少なくなるし、利権も少なくなるし、与党のうま味も小さくなるというこ
となんです。
民主党はまだ政権を取って僅かな期間しか経っていませんから、その
うま味を享受するとこまでいっていないです。だからこそ逆にできると。
自民党も理念としては地方分権と確かに言っていますけれども、彼らは
長く権限と予算を持つことで選挙に勝ってきているから、本気でやろうと
しているのは正直見えないです。
ですから長く与党にいて、地方分権というものに消極的であった自民党
と、そこを思い切ってやろうとしている民主党というのは、ひとつの対立
軸としてあると思っています。
ただ自民党も野党となりましたから、逆にそういうことをこれから言える
ようになってくる可能性はあります。
もうひとつは社会保障に対するスタンスです。
ナシ官に頼らず、ョナルミニマムをどこまでみるか、公的な役割をどう考
えるかです。
どきちらかというと民主党は社会保障を配慮すべという議員が多いです
ね。一方、自民党は比較的小さな方向を望む人が多いかもしれません
鳩山総理が新しい公共と言っているんですが、官に頼らず、NPOやい
ろんな企業も含めた民間のみなさんにも一定の公的な役割を果たして
もらって、全体として社会を安定的に持っていこうという手法を今我々が
投入しつつありますから、相対的な対立軸と言えるかもしれません。
外交を争点にする人もいますが、私は外交や安全保障はあまり与野党
で鮮明な争点にはしない方がいいと思います。
特に日本のように国際社会の中で生きていかなければならない国家は
メリカとも強固な同盟関係にしなければならないし、東アジアに対しても
開かれた国であることの必要性は論を待ちませんから、そこはあまり
対立軸にしない方がいいんじゃないかと思っています。
日本の長期にわたる衰退の原因は、バブル崩壊以降の日本人の
人間力の低下が根底にあるのでは。
私の世代は、ある程度ッ経済的に成長した後に生まれ育っていますの
で、豊かさを求める意欲は少ないのは少ないです。
現状に安住する気質がなくはないように思います。ただそろそろ、そうい
う状況から脱して危機感を持たなければならないし、もう20年もGDPが
ほとんど伸びていないわけですから。
世界における相対的な経済力も落ちている状況で、本当に今の生活水
準を維持できるかという危機感をそろそろ持つべきだと思います。
ただ今のままだと結構厳しいと思うんですよ。
というのは、人口が決定的に減っていきますし。日本人の気質がまた、
ガラリと変わるかというとなかなか考えにくい。
そこで一歩前に踏み込むべきひとつの大きなテーマは、例えばFTAを
積極的に推し進めて、自由貿易を実現して世界ともう一回競争していく
環境をつくるということがあります。
その更に先には、職業によっては外国人に入ってもらっての本の社会
自体に活力を与えてもらうということ。
そこが日本人を活性化する起爆剤になるもしれないと思っているんです
かつて明治時代に外国人が来て、日本人を覚醒させるきっかけにもなり
ましたし、戦後も一部そうですよね。
そういったことに踏み込むことも日本の社会全体にとって必要なことで
はないかなと思っているんですが。
今、少し日本人が自信を無くして、そういうものに恐れをというものを感じ
てきていると思う。内向きの発想になってしまって、社会全体にもなにか
閉塞感をもたらしているし、経済の閉塞感につながっていると思います。
そうじゃなくて、むしろ開かれた国家であることが、日本の経済も社会も
よくするんだという発想に何とか立てないものかなと思っているんです。
それは政治家の大切な仕事になりますね。
そうですね、政治家の大事な役割だと思います。
FTAの政策とか外国人労働者の問題というのは、大衆受けする政策じ
ゃありませんが、それをどれくらいテーマとして取り上げていくのかという
のは、政治家にとって非常に難しい問題ですが、大きなテーマでもあり
ます。
細野さんはどんな国づくりを目指していますか。
どういう国づくりというと大上段の話になってしまうので、私の役割として
申し上げると、最低限国が生きていき、国民が生きていくために政治が
やらなければならない役割を先ずしっかり果たすことだと思うんです。
例えば戦争を起こさないような安全保障の仕組みを作るとか、エネルギ
ーであるとか、食料は最低限確保すとか、これは国としての最低限の役
割です。
ところがそれが、21世紀の世界を見ると結構難しくなってくると思うんで
す。そこを少なくてもしっかりと確保するのが私のひとつの役割だと思っ
ています。
後は、これはあくまでもイメージの話なんですが、国民が政治に関心を
持っていただきたいと思う反面、政治に関心を持たないと生きていけな
い国家というのは不幸なんです。
ですから社会がそういう状況にならないように、どう政治が先回りして手
立てをしていくかということが私どもの役割だと思っているんです。
ですから私は大きな政治は求めない。政治が前面に出て、政治家の指
導力のもとに国民が一方に行かなければならないような状況は決して
幸福なことじゃない。
むしろ存在としては必ずしも大きくはないけれども、きちっと国民を支え
ているというのが私のイメージとしての政治の姿なんです。
そこの下支えができるような政治家になれればいいなと思っているんで
す。
時間が来てしまいました。ありがとうございました。
すいません、ありがとうございました。