≪インタビュー≫  聞き手・蛭田有一
弁護士から政治家になった理由は。
1998年に土井たか子さんが、これから有事立法が五月雨のように国会
に出てくるので国会で一緒に頑張ってほしいと言われたんですね。
私自身は楽しく市民運動と弁護士活動するのが転職だと思っていたけれ
ど、本当に有事立法や盗聴法が出てきたので、憲法9条を変えないとか
社会がおかしくならないようにするために立候補したということですね。
どういう政治家になりたいと思いましたか。
初めて立候補した時のキャッチフレーズが「市民の政策直行便」だった
んですね。できるだけみんなが望んでいるような立法をしようと思ったの
が一点。
2点目は、憲法9条を変えないで平和を実現する政治家になろうと思いま
した。
どんな政治家を尊敬していますか。
ネルソン・マンデラさんを一番尊敬しています。アウン・サン・スーチー
さんも尊敬しています。
マンデラさんは25年間の獄中生活の後、南アフリカ共和国の初代大統
領になったんですが、素晴らしい方です。
彼は黒人を迫害した白人に復讐する政治をやらなかったんですね。
アパルトヘイトで弾圧が山ほど起き、虐殺も起きたけれど、「真実と和解
委員会」を立ち上げて、そこで真実を言えば恩赦を与えました。
人々が憎しみ合って報復するよりも、共に生きる社会を作ろうとしたんで
すね。
だから彼は白人からも尊敬され、刑務所の看守からも尊敬された。
敵と言われる人たちを感化し変えていったわけで、それはすごいと思い
ますね。
当時、南アフリカ共和国は持っていた核兵器を廃絶するんですね。そし
て、死刑を廃止するんです。政治改革もやりました。
本当の意味で、共に生きる社会を実現したというのは、すごいと思います
ね。志というものを持ち続けて、しかも敵と言われる人たちも感化して
かつ憎悪と報復が拡大していくような政策を取らなかったのは、政治家と
してとても尊敬していますね。
格差社会が進行して深刻な社会問題を引き起こしていますが。
格差を拡大して命を粗末にしてもいいという政策が政治の中でどんどん
作られていることが最大の問題だと思っているんです。
例えば、労働者派遣法をどんどん規制緩和して、今では製造業も一般
職もほとんど可能になっちゃった。
パートや契約社員の人が働く人の3分に1.女の人だと2分の1.
若い人だと24歳以下が2分の1.年収200万円以下の人が24パーセン
トで、働く人の4分の1になってしまった。
社会保障費の負担もどんどん増えて、高齢者は後期高齢者医療制度で
75歳以上は、別建ての健康保険制度にして、保険料が年金から天引き
される。
つまり人間が人間として本当に扱われない。働く人や非正規雇用や子供
やシングルマザーの人や高齢者やハンディキャップのある人たちが差別
されたり、苦労したり、ひどい目にあっても恬として恥じない政治の風潮
を作っているということが問題だとおもうんですね。
例えば、シングルマザーの人が二つも三つも仕事を掛け持ちしながら、
ものすごく働く。正社員で過労死したケースとか、180時間残業で働いた
とかね。
みんながゆっくり考えて優しさを発揮するとか、他人のためにボランティ
ア活動をしようとか、ゆっくり高齢者の介護をしたいとか、そういうことを
許さない社会になっている。そこが問題です。
地域で人が当たり前に働いて、当たり前に子供を産んで、当たり前に歳
をとっていくという環境を急速に奪っている。
地方に行けばお医者さんがいない。岩手県遠野市では、2002年から産
婦人科医がゼロなんですよ。
そこは公設助産院を作って、助産師さんを公務員にしたり、モバイル検
診によってネットで9ぐらいの病院とネットワークを組んだりとかで、現場
の医療の崩壊や産婦人科不足をみんなが必至で支えている。
現場に行くと捨てたもんじゃないと感じますが、そこまで人を追い込んで
いる政策とか政治を変えたいと本当に思っています。
そういう社会をリードした自民党をどんな政党と思っていますか。
一握りの人間が一握りの人間のために政治をやって、恬として恥じない
というふうになっているんじゃないか。
一つは、政官業癒着。やっぱり政治を牛耳っている一部の人達は、自分
たちの権益のためにやっているということを国会では痛感するんですね。
自分たちの大きな票田のところで事業をやり、そこから献金を受ける構
図。みんなのための政治というよりは一握りの人のための政治になって
いる。
だから今の自民党は利権という面と、もう一つは小泉さん、安倍さん、福
田さんと続く構造改革の中で、強い者が勝つという政治を作っちゃった。
この両方が合体しているので、ひどい状況になっていると思いますね。
だから今の自民党政治を変えなくては、私たちの社会は変わらないと思
っています。
民主党についてはどう思っていますか。
民主党の中には仲間や話のできる人は沢山います。
でも自民党よりもある意味で幅があるか。右から左まで。ですから社民
党は民主党を変に右に追いやらないために、きちっと働きかけて歯止め
をかけるというのも大きな役割だと思っています。
ただ社民党しかできないことが三つあります。一つは平和の問題。
自衛隊派兵恒久法を作らせない、憲法9条を改悪させないこと。
二つ目は社会民主主義。ヨーロッパのように社会民主主義的な、人々が
共に生きる社会を作ること。
三つ目は、脱原子力をはじめとした環境政策。この三つは社民党しか担
えないと思っています。
公明党、共産党についてはどうですか。
公明党は残念ながら今与党ですが、本当の意味で自民党の歯止めに
なっているかどうか。
この間、国会で多くの法案が強行採決されましたが、それには公明党の
連帯責任があると思います。
ただこれまでの公明党自身は平和の党、福祉の党、人権の党という面も
あって、弱い人たちの立場に立つ部分もあったので、できれば自民党と
ではなく、違う立場で連携が取れればとは思いますね。
共産党は政策面では共通の部分が大変大きいです。ただ共産党は唯一
共産主義を目指す政党だと言っています。
社民党は社会主義ではなく、社会民主主義を目指す政党なので、究極
的に目指す社会というのは共産党とは違うのかもしれません。
社民党が政権を取ったら日本はどんな国になりますか。
私は単なる大きな政府に大きな社会保障とは思っていないんです。
政府があって、NGOやNPOや色んなグループの力を発揮してもらいた
いと思っています。
社民党が政権を取れば、憲法9条を変えないことがまず第一点です。
軍事が突出していくような社会ではない社会。本当に命が大事にされる
社会にもっとなると思っています。
二つ目は、社会民主主義で労働法制を規制したい。普通の人は長時間
残業するよりはワークライフバランス。
女性も男性も、望む人は働き続けながら子供を産んで育てられるような
安心して歳を取りたいと思えるような社会にしたいと思うんですね。
手本となる国はありますか。
規模は違うけれどスエーデンやノルウエー。それからヨーロッパの多くの
国は社民党が政権党ですから、そういう国を目指していますね。
デンマークをはじめ、ヨーロッパはみんな大学の授業料はタダじゃないで
すか。
デンマークは生活費も渡すんですよね。親のライフスタイルや資産に関
係なく、子供には手当を出して、病院はタダ、医療費はタダで安心して歳
を取ることができる。
社会保障を充実させる、労働法制のある種の規制、それから地方自治、
民主主義という点では、学ぶべき点が沢山あると思っています。
そういう政策は国民も歓迎するはずなのに、なぜ支持率が低いので
しょうか。
一つは、二大政党制、小選挙区制という制度に問題があると思っていま
す。今の小選挙区制では、51対49で49は切り捨てられるわけじゃない
ですか。
それだとどうしても、社民党みたいな政党は、二大政党制度の中では霞
んでしまいます。
二つ目は、もっと社民党の考えを分かり易くPRする努力が必要だと思っ
ています。それから社民党自身も高齢化し、連合などの労働組合の大
きな支持もないということで、アピールも不足しています。
若手を育てるという努力も含めて、いろいろ克服しなければならない点は
あると思っています。
福島さんが党首になって社民党はいい方向に変わりつつありますか。
努力です。中特に女性、青年を育てようと頑張っています。
先日、伊豆大島ツアーに若者たちと行ってきたんです。心優しき平和を
愛する若者もたくさんいます。そこに対してもっと働きかけをやっていきた
いと思っています。
社民党の主張をマスコミは取り上げてくれますか。
一つは福田さんや小沢さんの二大政党ばかり取り上げないで、もっと政
策や新しい目も注目してほしいなと思っています。
自民党も民主党も憲法9条を変えるという点では一緒なんです。
自衛隊派兵恒久法を作りたいという点ではかなり共通していますね。
こ、れでは選択肢はありません。
マスコミが二大政党制ばかり取り上げるから、国民には二大政党制しか
目に入らず、必然的に二大政党論が強まっています。
恣意的に取り上げてくれないと感じることはありますか。
二大政党制を作りたいと思っている人たちが多いように感じますが、ただ
マスコミの悪口を言っても仕方ないので、それはこちらの内在的なアピ
―ル不足とチャーミングに訴える方法の工夫が必要だと思っています。
また、政治って汗をかいてなんぼで、非正規雇用問題や格差拡大の是
正は、社民党が一番初めに主張しました。
日雇い派遣の問題もずっと交渉を続けてやってきたのは社民党なので
す。額に汗して共に頑張ってきたことを忘れずにもっと頑張りたいです。
社民党は全国展開の政党ですから、党全体がダイナミックに動いて、市
民や労働者のみなさんに強く訴えられるように党の足腰強化も私の仕事
だと思っています。
社民党のイメージには国際性がほとんど感じられません。国際政治の
舞台で活躍する姿が伝われば、社民党のイメージは大きく変わると思い
ます。福島さんが首相だったら今度の洞爺湖サミットで世界に向かって
どんなメッセージを発信しますか。
社民党は「もう一つの洞爺湖サミット宣言」を発表する予定です。
環境、平和、人権の三つが柱です。
先ず平和について、武器輸出禁止を維持し、クラスター爆弾や劣化ウラ
ン弾をなくす努力を今社民党がやっているんですが、武器輸出禁止、軍
縮、核兵器廃絶などを日本は主張すべきだと思うんですね。
環境でいえば、地球温暖化防止と自然エネルギーの促進、脱原子力で
すね。
人権については、アジアはビルマ、バングラディシュフィリピン、インドネ
シァなど、たくさん人権問題を抱えているので、アジアの人権問題の解決
を洞爺湖サミットでは、日本はアジアの一員として言うべきだと思ってい
ます。
それから国際政治の取り組みでは、洞爺湖での宣言以外に三つあって
一つ目は、北東アジアにおける安全保障というのを、土井さんの時代か
ら言ってきました。
モンゴルに行ったり韓国に行ったり中国に行ってきました。
六か国協議の議長の武大偉さんがわざわざ社民党に来て、六か国協議
の決議の中に、社民党が言っていた北東アジアにおける安全保障構想
をちゃんと決議として入れましたと言ってくれたんですね。
二つ目は、社会主義インターナショナル。
社民党は社会民主主義ですが、世界には南米を含め、スペインの社会
労働党や社会主義インターナショナルに加盟する政党が多いですよね。
そういうところと連携しています。
アメリカの新自由主義的な支配とは違う、もうひとつの世界の動きの中に
社民党はあると思っています。
三つ目は、ミャンマーの軍事弾圧やフィリピンのポリティカル、キリング
(政治的殺害)などいろんな人権、難民問題に取り組んでいるんです。
だからアジアや世界の人権問題に取り組んでいる政党だということをPR
したいですですね。
社民党が政権の一部に入ったとしたら、核兵器廃絶、或いは劣化ウラン
弾やクラスター爆弾を禁止することに頑張りたいと思っています。
政界再編の動きに社民党はどう対応しますか。
一つは社民党が塊として残ることが第一義的に重要だと思っています。
社民党の旗は降ろさない。つまり民主党と合流したり、埋没するというこ
とはない。
それは、さっき言った社民党独自の役割があるからです。
二つ目は国民の、自民党政治を変えてくれという願いをすごく感じるんで
すね。ですから新しくできる政権の中に、社民党が加わる可能性はある
けれど、その時の条件は、例えばその政権の間は憲法9条を変えない
などの、はっきりした獲得目標を打ち出します。
現在の参議院の与野党逆転は少なくとも社民党がないと成立しないんで
すよ。
そのための影響力は行使しているし、大いに行使したいと思っています。
他党との連立はあっても合流はないと。
合流することはあり得ないですね。共産党以外に、憲法9条を変えないと
いう政党が国会の中に無くなったら困るというのが、私が10年前国会議
員になった最大の理由なんですね。
やっぱり一つしかないと、それが潰されたらアウトじゃないですか。
だから社民党が残って、広げていくように頑張りたいと思っています。
今後の政治家としての目標は。
命を大事にする政治の実現ですね。
具体的には憲法9条を変えないで、平和を実現していくことです。
また自民党憲法草案には、軍事裁判所を設けるとあるので、憲法が変わ
ったらなんにも表に出てこなくなりますよ。
非公開で検察官や裁判官が軍人で、なにひとつ事実が表に出てこない、
そんな社会は全く望まないので、やっぱり憲法9条を変えず平和を実現
する。
二つ目は、社会民主主義の実現。
競争はあっても、社会保障や雇用のセーフティネットがあり、誰もが生存
権や幸福追求権が尊重される社会、平等や公正、誰がどんな親の元で
生まれようと生きていける社会を作るべく頑張りたいと思っています。
頑張ってください。
ありがとうございます。