ジャーナリスト・鳥越俊太郎
2008.8.20  於港区六本木、六本木ヒルズ
鳥越俊太郎 ジャーナリスト
≪インタビュー≫  聞き手・蛭田有一
人間・鳥越俊太郎が嫌悪感を覚える対象は。
「権力をかさに着たり、権力を正しく行使するのはいいんですけど不正に行使
するのはイヤですね。
例えば警察であるとか、検察とか裁判所とか、いろんな行政官庁もそうですけ
どね。」
ジャーナリストとして大事にしていることは。
「僕はジャーナリストと自分で呼んだことはないんですけど。
ジャーナリストというのは日本ではまだちゃんとした市民権を得ていません。
意味もよくわからないのでそういう言葉は使いたくないんです。
大事にしていることは、まず第一に現場に立つこと。それから自分の直観力
を大事にすること。好奇心を常に失わないこと。人と同じことは絶対にしない
という強い気持ちを続けることですね。
それから人間観というものを自分なりにちゃんと持ってものを見るということ。
歴史的に物事を考えるということ。
絶対的に正しいとか、絶対的に正しくないということはないないと思っている
んですね。だから絶対性を言い立てる人がいると反発したくなりますね。」
いま日本の社会に噴出する様々な問題の裏に何があるんでしょうか
「それは日本が豊かになっていろんな問題が出てきたということですね。
豊かさです。豊かさという病だと思います。
明治以来日本人は西欧の豊かさを追いかけて一生懸命努力してきた。
1980年代から90年代にかけて、日本は豊かになったわけです。
世界の有数の、ひよっとしたら一番かもしれないという豊かさの中には、
安全、便利、清潔という三つの要素を含んでいるんですが、その豊かさを実現
していく過程で、同時に豊かさという名の病が日本人を蝕み始めたわけです。
いろんな変な事件はそういう豊かさの中で起きたいる。
少年が人間を殺してみたいと思って殺人事件を起こす。そういうことは貧しい
時代にはありえなかった。昔はみんな生きることに必死だったけど、今は必
死な時代じゃないですね。
お金さえ出せばなんでもありますから。そういう時代の流れですからどうしよ
うもないですね。だからそこから出てくるいろんな社会的な病巣にひとつづつ
対処していくしかないですね。」
国民の政治への関心をどう思いますか。
「政治は全然ダメでしょう。政治の最終的な責任は国民にあるわけですよ。
国民が政治家を選んでいるわけですから。
投票率は首長選挙ですと50パーセント切りますね。衆議院選挙でも60パー
セント切っていますね。
若者20代の場合はおそらく投票率20パーセントか30パーセントですよ。
税金を払って自分たちの国の運営を政治家や行政官庁に委託しているわけ
ですね。
それが上手くいっているかどうかをちゃんと監視していないと、税金がいい加
減に使われたり、無駄使いを一杯されるわけです。にも拘らず国民はそれに
無関心です。投票率が低いわけです。
これが日本の政治の一番根源的な問題なんです。これでは本当の意味の
ちゃんとした政治家は出てこないんですよ。国民の姿、形に似た政治家が出
てくるだけです。
国民のレベル以上の政治家は出てこないということですね。」
人心の荒廃は国の衰退にもつながりますね
「歴史的に、ローマ帝国から始まって豊かさの頂点に立つと、必ずそこから衰
退が始まるんですよ。つまり人間が豊かさの中でダメになっていくんですよ。
貧しいときは必死に生きなきゃいけないから、真摯にものごとに対処し、一生
懸命に生きていく。
所が豊かになってくると、少年の変な事件も起きてくるわけです。
満月は必ず欠けるんです。これは英国病もアメリカ病もそうだし、いま日本で
は、日本病です。日本も満月のように満ち足りて、今やどんどん欠け始めてい
るわけでものごとってみんなそうですよ。頂点に達したら衰退が始まるんで
す。止められません。」
真面目で礼儀正しいといわれた日本人が、何故こうも急激に荒廃したのか。
「それは短時間に豊かになったからです。その中でみんな育っているわけです
から。昔の貧しい時代は守らないと、礼儀とかあマナーとかルールをちゃんと
守らないとやっていけない社会だったから、みんなそれを守りながら生きてき
た。
今は社会規範を守らなくても、フリーターであるとか、ホームレスであると
か、要するに自由に生きられるんですよ。ものが一杯あるから。
昔はちゃんとルールに乗っといて生きてないと社会から放り出される。そうす
ると死ななきゃいけない。
だからみんな我慢してルールや規範や礼儀を守りながら、我慢するところは我
慢して、つまりセルフコントロールができたわけですよ。
いま日本人はセルフコントロールの能力をほとんど失っているんです。
欲望を満つためにとことんやっちゃう。そういう社会になっちゃった。だから
もう落ちるとこまで落ちないとダメですね。」
最近そういうことを言う人が増えていますね。
「これね、家庭教育がどうとか、学校教育がどうとかいろいろ言うけどね、
教育で何とかなると言うほど簡単な問題じゃないです。
もっと根源的な社会の最も根深いところで起きている崩壊現象ですから、これ
は止められません。
まあ、落ちるとこまで落ちてみんなの目が覚めて、やっぱりこれではいかんの
だと、やっぱり真面目に働こうと、ルールはちゃんとッ守っていこうというふ
うに、みんなが我に帰らないとダメなんです。」
日本が落ちるとこまで落ちる姿は見たくないですね。
「でもね、まだまだ日本人は捨てたもんじゃなくて、ちゃんとした日本人も一
杯いるんですね。僕もカメラを始めて写真集を作りたいと思っているんです。
日本の職人さんをね。
日本の職人100人とかね。そういうのを僕はやりたいなと思っているんで
す。素晴らしい職人が、誰にも知られずに町の片隅でこつこつと仕事をしてい
いる。
もう10年、20年経てばこの人たちはいなくなる。そうするとこの技もなく
なってしまう。伝承する人がいない。
職人がやっているような仕事を若い人たちがやりたがらない。ITだとか、金融
だとか、ちょっと恰好いいところに行きたがる。ホリエモンなどというバカ者
が若者にとんでもない幻を植え付けたもんでね。」
最近、街中から人格を感じさせる顔が消え、人格者という言葉も死語になりつ
つありますね。
「それはきっと人格者を滅ぼすのは欲望なんですよ、誘惑して。
大分県の汚職問題があるでしょう。学校の先生は一応人格を求められるわけ
じゃないですか。ところがみんなお金で自分の職場の仕事を買ったり、汚職が
起きてるじゃないですか。
あれは日本人の姿ですね。今の日本人の醜い姿ですよ。お金を出せばなんで
もできると思っている愚かな日本人の姿です。
あれは大分県だけじゃないと思いますね。ああいう考え方は日本中に蔓延して
いますね。」
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最悪なのは日本の支配者である官僚が絶対責任を取らない集団であるという
ことですね。
「そうですね。責任を撮らないことの具体例が日本の借金です。
いま800兆を超える国の借金があるでしょう。これは官僚が予算を作って無
駄使いをしてその責任を先送りしたままだれも責任を撮らなかったから借金が
増えたわけですよ。
そのツケは全部国民に回される。それを放置してきた政治家やマスコミ。その
大借金は僕らが言ったぐらいではどうにもならない。
責任を取らない一つの証拠が日本が抱えている大借金です。無責任ですよ、
全く。
人の金だからジャブジャブ使うんですよ。道路をつくるよりも先に大事なこと
があるだろうと。いっまだったら介護の問題とかね。これから高齢化社会でど
んどん老人が増えていくわけですよ。
ところがそれに対応する介護をしてくれる若者は少子化でどんどん減ってい
る。しかもそういう仕事はしたくないと。だから介護は今、インドネシアとか
フィリピンとか外国の人達にやってもらおうと、こないだからやっているで
しょう。バカじゃないかと思うんですよ。
先ずね外国人に頼る前に日本人が同じ日本人の介護をする。つまり自分たち
を育ててくれた、自分たち国を守ってくれた親や、またその親の世代の最期を
看取っていくということはやらなくてはいけないんです。これは責任ですよ。
それをやらないでインドネシア人やフィリピン人にやってもらう、これほど無
責任なことはないですよ。」
僕の娘夫婦もやっていますが本当に過酷な労働環境です。
「その割には報酬が安いでしょう。もっと介護にお金をつぎ込んで報酬を高く
して介護についている人の社会的なステータスを上げないとダメですよ。そう
しないと介護の事業は成り立たないです。
10年間で59兆円道路の整備計画に使うと言っているんです。道路は砂利道
でいいからこの59兆円を介護の事業に回して下しと僕は言いたいです。
59兆円で介護についているヘルパーさんとかデイサービスをやっているヘル
パーや介護福祉士とか、そういう人たちの給料をせめて月に30万40万ぐら
いは保証すると。
今介護に関わる人で月に20万にも達しないじゃないですか。結婚できないで
すよ。これじゃ介護は成り立たない。」
役人の介護に携わる人たちへの蔑視が根底にあるのでは。
「そこは変えないといけないですね。やっぱり介護に携わる人が社会的に尊敬
されるように変えていく。そのためには報酬を上げないとダメです。
報酬が高くなるとそれだけ社会的な地位も高くなる。今低いから蔑視されるん
ですよ。本当は重要な仕事をしているにも拘らずね。
だから先ずね、道路整備の59兆円、悪いけど道路は砂利道でそのまま放っと
いていいです。舗装しなくていい。
その59兆円はまるまる介護事業に振り向けてくださいと、それがいま私が一
番言いたいことです。」
日本はアメリカに従属して、とても独立国家とは言えないと言い切る政治家が
少なからずいますが。
「世界でこんなに米軍基地を持っている国はないでしょう。
ドイツよりも多いですよ。イタリアよりも多い。敗戦国の日本とドイツとイタ
リアはアメリカの基地を持たされました。その中で、占領時代そのままに、
こんなに基地があるのは日本だけですよ。
日米同盟という美名の下で、日本の政治家がそれを改善しようと思わないの
に、僕は腹が立つ。
沖縄に行ってごらんなさいよ。沖縄の真ん中の重要な所を全部米軍基地で押
さえているじゃないですか。そこの地主さんには我々の税金から時代を払って
いるんですが、これを使っているのはアメリカですから。こんな不自然なこと
はもうやめなきゃ。
だからね、早く自民党じゃない政権ができて、日米同盟という対米従属同盟を
一回ご破算にして対等な日米同盟を結ぶ政権を作らなきゃだめですよ。
基地をもっと整理して、どうしても必要な基地だったらしょうがないとして
も、大半の基地はもう全部返してもらいますと。」
その際、アメリカからの厳しい圧力、反発があるでしょうね。
「圧力があったといってもね、日本がアメリカのドルを一杯買っているんです
よ。これでアメリカの経済が成り立っているんですよ。いざとなったら日本は
ドルを売りますよと。
橋本龍太郎の時それをやろうとしたんですが、アメリカはものすごく慌てたん
です。」
国益のためにはどんな手も使ってくるアメリカに屈しない覚悟と強い意志が
日本人にあるか試されますね。
「それは急に変わることは出来ないでしょうけどね。国民がそういう覚悟を持
って、そういう政治家を選んで、そういう内閣ができれば行政官庁は最終的に
は従いますよ。
だから民主党の政権になって、どこまで対米関係を変更できるか。僕はそれを
注目しているんですけどね。
恐らく次の選挙で自民党は負けるでしょう。公明党がまた自民党から離れて民
主党にくっついてきますからね。公明党も入れて民主党、社民党、共産党、国
民新党㋨政党が連合して政権を撮る。
その中でどこまでそういうことができるか、それは簡単ではないでしょうね。
民主党の中にも今の日米同盟を指示している前原なにがしのような人がいま
すからね。」
今のねじれ国会をどう評価していますか。
「ねじれ国会は結構なことですよね。国民の意思がちゃんと現れているわけで
すから。ある意味でチェックが効くわけですからね。
衆議院選挙の時、小泉マジックで圧倒的多数を自民党は作った。しかしその夢
から覚めた国民は参院選では野党の方に多数を与えた。つまり国民の思考の
プロセスがそこに現れているわけですから、これは結構なことですね。
もう自民党は昔のように勝手に何でも自分の好きなようにはできないんです
よ。要するにね、参議院選挙の結果、国民は自分たちの一票で政治が変わる
んだということを学んだわけですね。」
どんな理念、哲学を対立軸にした政界再編が望ましいですか。
「やっぱりできるだけ平等な、格差のあまりない社会ですね、北欧のように。
もともと人間の能力には格差がある。能力の格差は経済的な格差になり、社会
的な格差になる。
ただその格差をほっといたら治安が乱れ犯罪が多くなる。だからそういうもの
を出来るだけ小さくしようと、それをセイフティーネットと呼んでいる。
政府がそういうセイフテーネットを維持して格差をできるだけ少なくするとい
うことを歴史的にヨーロッパはやってきている。
日本もそういうヨーロッパ型の道を選ぶしかないと思うんですね。そうすると
これは大きい政府になりますよね。といっても昔のように只無駄使いをする大
きい政府じゃなくて、できるだけ格差のない平等な社会を目指す。
それからアメリカとは対等な関係を結ぶ。中国とも対等な関係を結ぶ。」
そうするともう一つの軸は小さな政府ということですか。
「小さな政府というのは聞こえはいいけどね、それは競争一点張りなんです
よ。政府は全然介入しないで自由競争に任せるわけですから。
自由競争というと聞こえはいいけれども、アメリカのようにものすごい格差の
できる社会、つまり優勝劣敗、弱肉強食ですね。
生産力を上げるために競争は必要かもしれない。しかし競争力だけが原理と
なっている社会は危うい社会ですね。アメリカ見たらわかる。アメリカは競争
原理で成り立っている。
アメリカにはワーキングプアが3700万人いるんです。日本では今500万
人ぐらいかな。年収200万に達しないワーキングプア。一方ではものすごい
高級取りがいる。」
護憲か改憲か、鳥越さんはどちらですか。
「僕は護憲ですよ。憲法9条は日本が世界に誇る宝物だと思います。
憲法9条は何としても守る。これは日本国民だけでなく、アメリカも含めて世
界中の人々の英知が生み出したひとつの結晶なんです。
武力で国際紛争を解決することはやめましょうと、すべて話し合いでやりまし
ょうと、そのための武力を持つことはやめましょうと。これが理想なんですよ。
日本は理想を掲げて、理想とは違う自衛隊を持っている。
しかし自衛隊はあくまでも専守防衛型だから、攻めて来られたら守るけれども
こちらから攻めていくことはやらない。
だからこれまでの自民党政府といえども集団的自衛権は否定してきた。
ところが最近はイラクに派兵したり、会場の給油をやったり、一歩踏み出して
いるわね、集団的自衛権を。
これは非常に誤っていると思いますね。小泉政権がやった最大の過ちです。」
若者たちに一番訴えたいことは。
「自分たちが支払っている税金の使い道について厳しく見てくださいと、それ
が一番大事なことです。
税金の使い道について何も考えない、そういう国はダメになります。
昔は農民からの年貢、もうちょっと前は租庸調、中世になると年貢米、明治か
らは税金。
税金で国が成り立ち、社会が成り立っているわけです。でもその自分たちが出
した税金について日本は天引き制度だったために、サラリーマンはどう使われ
ているか全く関心を持たないで戦後生きてきたからこんな国になっちゃった。
もっと自分たちが払った税金の使い道に関心をもって厳しく見ていけば政治の
状況も変わるでしょう。
国と国民との関係、社会の成り立ち、すべてのスタートはそこからです。そこ
に一番関心を持っていただきたいなと思いますね。」
ニュースの職人として今後どんなことに力を注いでいきたいですか。
「僕は癌をやってあと何年生きているかわかりませんから、そんなに将来につ
いて考えたことはありません。
まあ写真集を作りたいなとか、本はもちろん書きたいなとは思うんですけど。
あとは娘と二人でコンサートを今やってますから、全国ツアーをもっとやりた
いなと、今年だけでももう7回ですよ。
そういうことはやりたいなと、それは楽しみの方ですが。」
病気を抱えながらもぜひ実現したことはありますか。
「いやもう先は長くないですから、そんなにね。日本の国はやっぱり職人の国
ですからね。職人というものの存在をもっとアッピールするような仕事はして
みたいですね。
それから若い人が職人の仕事を受け継いで喜んでするような、そういうことに
ちょっとでも携われればいいかなと。大それたことは考えていません。
いや、そりゃあ日本からアメリカの基地をなくしたいですよ、本当は。でもそ
んな簡単にできないじゃないですか。
沖縄から米軍を叩き出したいですよ。そういい続けることは必要ですけどね。
そうすると、そんなことしたら日本は核武装しなきゃいけないとか言う人がい
るけど、バカじゃないかと思うんですね。
米軍がいなくなったら、なんで日本が核武装しなきゃならないのか。北朝鮮が
核のミサイルを撃って来たらどうするんだとかバカなことを言う。」
お疲れのところ長時間本当にありがとうございました。
ハイ。
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