読売新聞 「プラットホーム」  1994.12.18  
「20世紀末彩る103人」
激動の1900年代もあとわずか、まもなく21世紀を迎えようとしている。
一九八八年、私は写真展「スペインの巨匠たち」(現代スペインを代表する芸術家
43人の肖像とメッセージ)を終え、次なるテーマ、20世紀末日本を彩る日本人の
撮影を開始した。
音楽、演劇、美術、文学、舞踊、政治、スポーツ、大道芸等々幅広い分野で活躍する
「表現者」たちの肖像。
今年、丸6年を要して念願の百三人を撮り終え、先月写真集「人間燦々
(さんさん)
(求龍堂刊)として発表した。同時に開催した写真展は盛況だった。
この六年間、撮影のため各地を訪ね、エキサイティングな、そして心温まる出会いを
重ねてきた。
独創的な生きざまに直接触れ、目を見張ることもしばしばだった。百三人との出会い
は昨日のように脳裏に焼き付いている。
このうち、笠智衆さんは亡くなられる前の年に撮影した。写真を見るたびに当時の波
の音やまぶしい陽光、ここちよい潮風までがよみがえる。
暗室で笠さんの写真を初めて伸ばした時、現像液の中から現れた笠さんの姿にひとり
感激し、胸が熱くなった。
赤塚不二夫さんとの出会いも印象に残っている。赤塚さんは私に、あなたの好きなよ
うに撮っていい、注文があればどんなことでも、どんな格好でもすると、また、でき
た写真はあなたのものだから僕は何も言わないよと笑顔で言われた。私は一瞬身構え
た。怖い人だと思った。
私にとってこれほど有り難い理想的な条件はない。しかし、それだけに半端な写真は
撮れない。のど元に剣先を突き付けられたも同然で、とても撮影日の相談まではでき
なかった。それから二か月近く毎日、赤塚さんをどう撮るかを考え続けた。
ある日、この写真のアイディアが浮かび、早速、氏宅に飛んで行き快諾を得た。後日
楽しい撮影になったのはもちろんである。
百三人の撮影条件も様々だった。撮影交渉してから撮るまでに数年を要したり、撮影
時間がわずか数分ということもあった。しかしどんな条件下であれ、百三人と同じ時
空を共有できたことを心から感謝している。
撮影のほか、人生観や価値観を中心にインタビューを試み、その中から最も印象的な
部分を抜粋して彼らからの「メッセージ」とした。「メッセージ」には自由、勇気、
ひたむき、そして優しさがあふれている。
六年間を通して、私はそれぞれが自分らしく、ありのままの姿で生きることの素晴ら
しさを改めて実感し、自由で独自性に満ちた生きざまに人間本来の輝きを感じずには
いられなかった。
今後も日本人への旅を続けたいと思っている。