「新ねじれ時代、私はこう読む」 
東京新聞  2010.8.19
Q: 政治家を被写体として選ぶようになったきっかけは。
「私は人間の生き方への好奇心を原点に、人間の写真をとってきた。ある時、
人の幸せや不幸は政治から来ていると気づき政治家を撮らなければならない
と思って(元官房長官の)後藤田正晴さんにお願いした。
撮影の時、僕の目を射抜くように見つめられ、その存在感に圧倒された。被写
体として始めてのタイプだった。
『すごい人だ』と思い約3年間撮り続けさせてもらった。これがきっかけです」
Q: 続いて中曽根康弘元首相、鳩山由紀夫前首相の写真に取り組んだのですね。
「中曽根さんは国際的にも活躍し長期政権を維持した人。権力の中に深くカメ
ラを入れたいという思いもありお願いした。
鳩山さんは友愛という理念をかかげ民主党を立ち上げた時、日本の指導者に
なると予感した」
Q: 鳩山氏は後藤田、中曽根の両氏と比べると迫力はないと思うが。
「よくお坊ちゃまと言われるが、長いスパンで政治を見ていて信念を持った人
だと思った。党の同僚にも『国民のために命を捨てて政治を担うべきだ』と言
っていた。本気で思っていたと感じた」
Q: 写真を撮るだけでなくインタビューしているのは何故か。
「写真はイメージの世界。被写体が日々何を考え何に感動しているのかは写
真をひっくり返しても出てこない。人物写真家として、それも伝えなければなら
ないと思った。専門分野に立ち入ることはできないが、人間像が出ればいい。」
Q: 誰の話が印象に残っているか。
「国民新党の亀井静香さんは面白かった。小泉純一郎さんとの政治闘争に敗
れた話の中で『自分がもう少し男前だったら首相になれたのに。自分の顔でど
れだけ苦労してきたか』と。冗談半分の言い方だったが本音が出たと思う。
総務相の原口一博さんが『政治家に欠かせない資質は』という質問に『理想を
現実にする力』と答えたことも印象に残っている。私は写真家だから直感で判
断するが、原口さんからは熱意、ひたむきさ、さらに政治家に必要な義憤が感
じられる。
Q: 今後いちばん撮りたい人は。
それは(民主党の)小沢さんでしょう。小沢さんの側近にもお願いしたが、実
現していない。無条件で小沢さんに関心があるので、ぶつかってみたい。
Q: 小沢さんを撮るならどんなポーズで撮りたいですか。
「(小沢さんに限らず)私は最初からポーズは考えない。広角レンズを使って
至近距離で正対する。僕もドキドキ、相手もドキドキ。緊張感の中で反応を見
ながら、意外な展開を期待しながら撮る。」
Q: 写政治家は被写体としてどうですか。
「浮き沈みの激しい権力闘争の世界で苦闘している。人間の生き様を丸出しに
した人たちなので、被写体として魅力的だ。ただし撮りにくい。」
Q: なぜ撮りにくいのですか。
「権力者をイメージ化するのは難しい。さらに政治家は人に注目される商売な
ので人の視線を気にして素顔をなかなか出さない。カメラにすきを見せず、
つくり笑いする。
政治家の笑顔ほど美しくないものはない。だから、なるべく無表情の写真を撮
る。見る人はそこから怒った顔や笑った顔を想像してほしい。」
Q: 菅直人首相は被写体としてどうですか。
「若いころ、薬害エイズ問題に取り組んだ毅然としたイメージが強い。あのこ
ろはいい写真が撮れたと思う。しかし今は政治状況を反映して、沈んだ表情
だ。被写体としてハッキリした印象を描けない。
ただ9月の民主党代表戦で再選されれば、本来のしたたかな表情に戻ると思
う。その時、ぜひ撮らせてもらいたい。」
Q: 最後に政治に対する期待を。
「日本の衰退の根底には日本人の劣化があると思う。長期的、国際的な視座
を持った政治家が出てくることを望みたい。」
(紙面の記事のみを掲載)