長谷川裕一という作家
長谷川裕一のマンガは面白い。
この人ほど冒険SF少年マンガを描ける人はいないだろう。
ていうか、こういう作家にこそ週刊少年漫画誌に描かせるべきじゃないだろうか。

多分名前を初めて知ったのは、たがみよしひさの
『NERVOUS BREAKDOWN(なあばすぶれいくだうん』)のコミックスの巻末広告にあった『マップス』の告知だったと思う。
第一印象は
「随分と下手な絵だな〜。これで単行本になるほど人気あるんだ?」
だった。
しばらくして『月刊少年キャプテン』に『轟世剣ダイソード』の続き(掲載誌が休刊したしたらしく、『少年キャプテン』に拾われた)が連載開始したのが第2次接近遭遇。
いきなり途中からの開始だったので話の筋がよくわからないってのもあったが、それでも「あ、この人結構ちゃんとマンガ描けるじゃん。」と、少し好印象。
しかしながら『ゲッターロボ號』の連載終了後、『少年キャプテン』を知らない内に買わなくなって行ったのでそれっきり。
その後、かなり経ってから富野由悠季自身がシナリオ手掛けてるというコトで『機動戦士クロスボーンガンダム』で初めて長谷川裕一の単行本を買う。
何でこんな下手なヤツに描かせるのかな? とか思ってた(しばらく長谷川作品に触れて無かったので評価が下がってる(笑))が、やっぱりちゃんと「マンガ」が描ける人なので、読んでく内に好印象。
決定打になったのが、同時期に単行本化された『機動戦士VS伝説巨人 逆襲のギガンテス』(『機動戦士Vガンダム 外伝』角川書店刊、の単行本に収録)。
コレ、ガンダム対イデオンをガンダムの世界観の中で破綻するコトなく上手いこと、かつ面白くまとめているんですよ。
そりゃもう『ガンダム』の「正史」に組み込んでもイイくらい。
コレ読んで、自分の中で「長谷川裕一は良い作家」という位置付けを築きました。
そしたら読むトコの無い連載陣がひしめく『月刊マガジンZ』の中でオアシスとも言ってもイイくらい面白かった『クロノアイズ』は2003年の星雲賞(SF界では老舗の賞)まで受賞しちゃうし。
ああ、みんな見てる人は見てるんだなー。と何だか嬉しくなります。

作家として特筆すべきはこの人、女性の裸描いても全然イヤらしくないんですよね。まあ、絵柄のせいもありますが。
ちょっとしたエッチなシーンも凄く健全で少年マンガとしてはそれこそ王道。
はっきり言ってこの人の絵に「萌え」はありません。
昨今の週刊少年マンガ誌に載ってる少年マンガって、あざとく「萌え」受けを狙い過ぎて「媚び」てる線を描くマンガ家の如何に多いコトか。
別にラブコメマンガが多いとか、そういう意味じゃなく普通のストーリーマンガとかでも。
いや、むしろ普通のストーリーマンガがそうだからこそ始末に負えない。
やたら胸のでかい女キャラにピチピチの制服着させてるとか、パンチラさせるのが前提のようなミニスカート履かせてみたり、とか。
人気を得るためにそういうコトしなきゃならないってのはわかるケド、そんなコトにばっか力を入れて、お話や構成が全然マンガしてないってんじゃそれこそ本末転倒。
ゴロゴロしてますよ、そーゆービジュアル系ダケのマンガが。
長谷川裕一は多分「媚び」のある絵柄を描けないと自覚しているであろうからこそ(逆に実は本人そこに関しても凄い努力をしてるとは思うんですケドね。女のコキャラの目がおおきかったりとかしてるし。富野にイヤがられてますけど(笑)。)、ストーリーや構成力、そのセンスオブワンダーで勝負しているのじゃないだろうか。
しかしながら、それこそが「面白いマンガ」の本来のあるべき姿だと思う。
つくづく、マンガは絵だけでは無い。と思い知らしめてくれる。
そこがイイ。
彼は解ってらっしゃる。
特に「少年マンガ」の何たるかを。
さすが松田一輝氏に師事してたダケのコトはある! といったトコロだろうか。

こうなると、知っていながら無視してた『マップス』の評価をごめんなさいして、ちゃんと読んでみたくなるなー。
文庫化も確かしてるみたいだし、読んでみようかな。

2003年12月29日