台北(前半)


 初めての台湾。そして4年ぶりに会う林(りん)さん。僕が林さんと初めて出会ったのは7年前。大学4年で研究室に入った時、博士課程3年の留学生だった。つまり、最下級生と最上級生の間柄。卒業研究も全面的に手伝って貰った恩人である。林さんは卒業したあと助手を1〜2年勤めて、アメリカへ留学された。そして台湾の母校に助手として戻られたのが1〜2年前。
 台北空港に迎えに来てくれた林さんは、あの頃と全く変わらぬ笑顔で我々二人を待ってくれていた。

 さあ、台湾旅行の始まりだ。


 「暑いときにさらに暑いところへ行くとは!?」と周囲にさんざん言われてやってきた我々であったが、台北空港に着いてみると、これが意外なほどに涼しかった。
 まず林さんが車で連れていってくれたのは、故宮博物院。ここには、蒋介石が中国本土から逃げて来るときに分捕ってきた歴史的な遺産の数々が展示されている。


 次に訪れたのが円山大飯店(通称グランドホテル)。台湾が世界に誇る中国建築様式の超豪華ホテルで、見る者を圧倒する迫力がある。丘の上にあるこのホテルで、林さんは結婚披露宴をしたいそうだ。(既に入籍と結婚式は済んでいる)。


 夕方になり、林さんの奥さんである張さんと合流して、とあるホテルのレストランで晩ごはん。ここからいよいよ本場の中華料理巡りがスタートした。食べ放題だったのでレストランを出た後、苦しい、苦しい。
 よしこは張さんと一緒に、台湾名物の烏龍茶を買いに出かけた。張さんは通訳の役。林さんと同じように張さんも九州大学の大学院に留学していたため、日本語がペラペラなのだ。張さんはとにかく優しい人で、しかも台湾大学(台湾でNo.1)出身→日本留学→台湾の一流企業係長という超エリート女性。林さん、若い頃は紆余曲折があった(笑)が、最終的には素晴らしい奥さんと巡り会えてよかった、よかった。
 さて、奥方様達が買い物中の間、亭主族はというと、今回の旅の大きな目的である「将棋対決」のため、グランド・フォルモサ・リージェントというお洒落な高級ホテルのロビーに陣取った。女性に人気のこのホテルで張さんは披露宴をしたいとか。林さん、どうする?
 ところで、林さんとは4年ぶりの直接対局となる。思えば林さんとの戦いの歴史は、出会った7年前からスタートする。僕が日本の将棋を林さんに教えて以来、恐るべきスピードで上達していった林さんとは、来る日も来る日も対局の連続。そして、林さんがアメリカへ旅立ってからも、日本−アメリカ間、そしてドイツ−アメリカ間でもインターネットで、たった1度か2度であるが将棋をしていた。あれから4年の歳月を経て、我々はついにまた、林さんのホームグラウンド・台湾の地にて相まみえることとなった。お互いに渇望していた相手だ。他の相手とやっても味わうことの出来ない、特殊な緊張感が二人の間にはある。宿命のライバルなのだ。星飛雄馬と花形満なのだ。
 これから4日間、僕と林さんは、場所・時間を選ばず、壮絶な戦いを繰り広げることになる。


 一夜明けて二日目。朝方、窓の外からすごい音が聞こえ始めたので見てみると、ものすごいバイクの集団。そう。台北市内はバイク天国なのだ。中国本土を紹介するTV番組などで、道いっぱいを埋め尽くす自転車の大群のシーンを見たことがある人も多いだろう。ここ台湾は、いわば、経済発展を遂げた中国。つまり、あの自転車がスクーターに置き換わっただけ。それはそれは、ものすごい数だ。しかも日本の常識では考えられないほどの運転マナー。はっきり言う。台北市内では、道路の上は無法地帯だ。車線や制限速度、時には信号でさえも全く意味のないものになる。車の割り込みのタイミングは、さながら自動車レースのカットインであり、バイクにおいては、車と車の間にわずかなスペースがあれば、そこを凄まじいスピードで縫うように走っていく。よくこれで事故が起きないものだ。いや、見てないだけで、起きているんだろう。とにかく観光者は、横断歩道を青信号で渡っていても、十分注意されたし。


 林さんが午前中仕事をしている間、我々は二人だけで市内観光へ。ああ、ガイドブックと自分の足だけを頼りに見知らぬ街を歩いていくこの感覚。懐かしい・・・・・ やっぱり、ひろちゃん&よしこの旅はこうでなくてはならない。
 左の写真は総統府。日本統治時代に作られたルネッサンス様式の美しい建物だ。もちろん今でも台湾総統がここにいるわけで、周囲は厳重な警備がしかれている。
 そこから南へ歩いていくと、植物園がある。南国らしい木々が、大都市・台北の清涼剤になっている。というか、台北市内は実際かなりの緑にあふれている。


 植物園を抜けると池があり、水面いっぱいに広がる蓮の花。思いがけず出会った美しい光景にはしゃぐよしこ。ここは南海学園と呼ばれる文化複合教育施設の裏側にあたり、表には、下の写真のような国立歴史博物館(左)や国立科学館(右)がある。小学生の団体で溢れ返っていた。


 そこからさらに歩くと中山記念堂。蒋介石の業績をたたえるために作られたもので、25万m2という広大な敷地面積を有する。白と碧の色使いが実に見事だ。天気が良ければ、それはそれは美しいに違いない。僕はここが台湾で最も気に入った場所になった。


 昼からは、林さん&張さん夫妻(中国、台湾は夫婦別姓)と合流。お二人が結婚前にデートで使ったという、美味しい飲茶(ヤムチャ)で有名な梅花庁(メイホアティン)というレストラン(兄弟大飯店2F)へ連れていって貰った。ここの飲茶は本当に最高で、特に小龍包(ショウロンポウ)という肉まんの親戚(右の写真)が絶品。繰り返すが、ここは本当に美味かった。ちなみに、この食事の後も、我々亭主族はしっかり将棋に燃えた。他の客達も日本の将棋が珍しいようで、我々のテーブルの横に立ち止まっては、興味深そうに見ていく。


 昼食の後に連れていって貰ったのが、龍山寺(ロンシャンスー)という、1738年創建の市内では最も歴史のあるお寺。極彩色で彩られた豪華絢爛な典型的中国寺院だ。たくさんの参拝客が、お経の歌を唱えていた。
 駐車場からお寺へ行く途中に、服の問屋街(左の写真)を通った。ここは、数百メートルの通り沿いの店が、全て服を扱う店。他にも、薬の店だけが並ぶ通りや、本の店ばかりの通りなどが市内に点々とあることに気づいた。あれって、ライバル店同士でやりにくくないのだろうか?


 二日目の夜は、中華料理ではなく、モンゴル風焼肉。市の南東部に位置する世界貿易中心の近くにある、地元の人に人気があるというレストラン「欣葉(シンイエ)」へ連れていって貰った。自分の好きな肉や野菜をお椀に盛り、自分でお好みのソースを調合してそれにかけ、そのお椀を料理人さんのところへ持っていって、目の前で焼いて貰うのだ。大きな鉄板の上でジャジャーッと独特のテクニックで炒めていくのを見ていると実に面白い。おかわりし放題なので、一椀平らげては、また自分で肉と野菜を盛りに行くのだが、いつも同じように盛るわけではないので、おかわりする度に少し味つけが変わる。それもまた楽しい。
 それにしても、連夜の食い放題だ。我々4人は満腹で苦しみながら店を後にした。


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