フランス小旅行記もいよいよ第3部。
戦い終わって日が暮れて。
ひろちゃん&よしこは試合後の余韻に浸りながら、
Toulouseの夜へとなだれ込んでいきます。
さあ、フランスでのたくさんの想い出をHannoverに持って帰ろう!

ひろちゃん&よしこのフランス小旅行記 by ひろゆき

第3部 「プラプラ気ままに二人旅」

−目次−

13.負けたけど美酒
14.そしてまた二人
15.ところ変われば・・・
16.またもや遅刻しそう
17.マイ・ホームタウン


13.負けたけど美酒

 サッカー日本代表は、その歴史的第一歩を黒星発進としてしまったが、世界の雰囲気は、むしろ「日本はよくやった」。我々も敗戦のショックと言うよりは、まずは世界の舞台を立派に踏みしめたという達成感でいっぱいであった。欲求はただ一つ、
「はやくビール! ビールゥーーーーーーッ!!」
両国サポーター間のエール交換も大団円の末に終了し、我々4人は大画面会場横の特設ビアレストランへと なだれ込んだ。通常ヨーロッパでは、この手の施設は試合終了と同時にさっさと 閉店してしまうらしいが、この日はToulouse市側が特別に配慮してくれたと後日新聞で読んだ。ありがたい。 店内で偶然一緒になった同じクリエイト 利用者の百瀬さん(青)&大島さん(白)とも合流し、なにはともあれ乾杯となる。太陽の下、 汗だくで大声を張り上げたあとのビールのなんと美味いこと! 

 百瀬さん&大島さんも、やはりチケットは入手できなかったらしい。しかし、 実際に現地まで来て、一生懸命に応援したという達成感だけは手に 出来たからヨシとしようという心境にはなったとのこと。試合後の国際交流が出来たおかげで、ここに来てよかったという気持ちになれたのは本当に同感。 ただ、やっぱり「あの1点」は防げたんじゃないかと、僕と百瀬さんは悔やみきれずにはいたが。 西君はすでにハイテンションで、200F紙幣を人差し指と中指に挟んでピッとかざし、
「ん? みんなグラスが空いてんのかな? んじゃ、もういっちょ〜いっとくか〜!?」
完全に飲ませオヤジと化した。 日本でもこんな調子という。なんたって熊本の男。アフターファイブの合い言葉はこうらしい。
「西さん、いきますか?」
「いくしかないだろ、おまえっ!」
何杯もおかわりおごってもらって、西君、ごちそうさまね。

 時計を見ると、そろそろ午後6時をまわろうとしている。そういえば、藤木さんと木村君はうまくスタジアムに入れたんだろうか? 待ち合わせの約束はToulouse駅に18:30。 というわけで、小宴会の終わりを惜しみつつも我々はビアレストランをあとにした。 S&西君とはトイレの際にはぐれてしまい、残りの4人で歩いて駅へと向かう。途中で四十歳・百瀬さんの いろんな体験談を聞かせて貰いとてもためになったが、トイレを借りるためだけにカフェに寄って コーヒーを飲んだりしたので、約束の時間を大幅に遅れることになってしまった。 駅前は案の定、人混みでごった返している。 他の4人と無事に落ち合えるだろうか? しかし、そんな心配は無用だった。 駅前広場で地元民がフォークダンスを披露するイベントが行われていたが、 なんとそれに混じってSも踊っているではないか。 目立つところで踊っていればすぐに我々も気づくだろうと考えたそうだ。いやあ、お気遣いありがとう・・・って、単に自分が盛り上がりたかったんじゃないのか、おい?

 早速、藤木さんと木村君に戦果をうかがうが、二人は首を横に振るだけ。 やっぱり全滅か・・・ しかたないよとみんなで慰め合っていると、代表ユニフォームを着た若者が一人、 我々の近くに寄ってきて、仲間に入りたそうにしてしている。我々はすでに敗者同士の仲間意識で、 どなたでもいらっしゃい状態だった。彼にも「やっぱり中には入れませんでしたか?」と救いの手をさしのべてみると、
「いやあ、楽勝で入れましたよ!」
・・・・・なにぃ? 甲高い声で自慢げに成功談をまくしたて始めた彼はモリモト君。英語、 フランス語に長けた大学生で、ToulouseへのTGV車内で日本人「以外」の客にチケットが 余っていないか声をかけまくり、なんと定価同然の500Fで入手できたそうだ。 ただしアルゼンチン側の席ではあったが。ともかく、こんないい目にあった人間も中にはちゃんといるんもんだね。ダフ屋ではなく一般客に目を付けたのが彼の勝因。しかし、あの自慢話は我々にはちょっと辛すぎたよ、モリモッちゃん・・・・

 我々は良い通訳を得て、総勢9人のちょっとした集団になった。辺りも暗くなってきたことだし、 いよいよ晩飯も兼ねて打ち上げといくか! 駅前通りの雰囲気のよさそうなレストランで、ひとまず残念会を開くことにする。メニューの和訳や注文も全てモリモト君にお任せして、 ワイワイガヤガヤかんぱーーーい。 我々の盛り上がりをよそに、周囲の客の目はみな上の方を向いている。テレビに映るクロアチアvsジャマイカの試合。世界は日本の歴史的W杯デビューなど何事でもなかったかのように次の試合へと動き出しているのだ。 そうか。まだ一試合が終わっただけなんだなぁ・・・  そんな感傷的に浸っている間もなく、クロアチアが圧倒的な攻撃力でジャマイカを蹴散らす。
「おいおい、クロアチア、ムチャクチャ強いやんか。」
我々は一同につばをゴクリ。でもまあ、いいじゃないか。 とりあえず今日は日本が善戦したと言うことで。次はなんとかなるさ。 みんなフランス料理のボリュームの少なさを何杯ものビールで補っていった。

 モリモト君は我々より一足先にTGVでパリへ。さてこっちもそろそろ夜行列車に乗り込む時間だ。 今回はちゃんとベッドを確保してあるという安心感のせいか、 それとも疲れた後に飲み過ぎたビールのせいか、なかなか駅へ足が向かない。それでも発車15分前、今度は余裕で乗り込んだが・・・・ そ、そういえば!  寝室を6人分確保しなきゃならないんだった! そして重要なことを我々は忘れていた。 それは発車時刻が0:25だということ。我々の部屋に着くと、案の定、もうすでに2人の客が 眠りについている。嗚呼、なんたる・・・ もはや手遅れ。寝てる人を起こして場所を変わって貰う 訳にはいかない。2次会はお流れか? いや、それでもSや西君は、トイレの前のスペースで パーティーを決行すると言い出した。しかしそれはあまりにもきつい。ひろちゃん&よしこは、 またもや早々と床につくことにする。まあ、疲れてたから、丁度よかったかも。深い闇に揺られながら、 我々は戦場Toulouseを後にした。死ぬまでにもう一度来ることが果たしてあるんだろうか? もしまた 訪れることがあったら、今度はゆっくり、ステキな顔も見せておくれよ? Toulouse・・・・



14.そしてまた二人

 疲れと深酒でどっぷりと眠りについていた。完全熟睡。
「あと15分でパリ〜、パリに着きま〜す。(多分こんな内容)」
車掌のアナウンスでようやく目を覚ます。Sも起こしに来てくれた。ええぇ〜?  そんなに早く着いちゃうのぉ〜? ひろちゃん&よしこは急いでベッドを片づけて朝の身支度をしたが、それでも下車する準備が整ったのは、終点だったから良かったものの、停車してから5分後だった。 いや〜、よく寝た。7:30、Paris-Austerlitz駅に到着。再びパリの大地を踏みしめる。 すぐ近くで、100人規模の日本人ツアー団体が隊列を組んで改札を出ていく。いまから日本にお帰りかな?  大島さんや百瀬さんの姿が見えない。下車と同時に自然解散してしまったようだ。 ともかく朝飯。残る6人で駅前にあるレストランのうちの一つに入り、 クロワッサンにカフェ・オ・レといった典型的なフランス式朝食をとる。 一息をついてから本日のスケジュールを立てた。Sと西君は飛行機が14:00過ぎの便だから、 それまでに大急ぎでパリ観光をするとのこと。木村君も昼からは別行動をとるらしい。 そして、藤木さんとはここでお別れ。いやあ、とても面白い人だった。外国を放浪しているという人に 初めて出会ったが、思ってた通り、スケールの大きな人柄の持ち主だった。 別れ際にメールアドレスの交換をする。放浪者がメールアドレスを持ってるのもなんだか変だが、 日本に帰れば立派な某一流企業のサラリーマンなのだから当然と言えば当然だ。 10枚つづりのメトロ回数券を買い、藤木さん以外の5人で2枚ずつに分けた。すでに回数券を持っている 藤木さんの提案だ。最後まで頼りになる人。いつかまた会うことを誓い合って、我々は別れた。

 まずエッフェル塔に行こうか。しかし、メトロではどうやって行けばいいんだろう? 地下に潜ったが、複雑な行き先表示に男性陣がしばし立ち往生していると、ここでまたもやよしこが活躍。現地人に得意のボディーラングウェッジ攻撃を浴びせる。
「Excusez-moi(ここだけフランス語)? I want to go・・・・ えっふぇるたわー!」
両腕を宙にあげて大三角形を描きアピール。正しい方向を教えて貰い、最後にとどめの「(笑顔で)merci!」でご帰還。「よしこ株」は上昇の一途。天井知らずだ。河野博士は先物買いが大成功とご満悦。 パリのメトロも東京などの地下鉄と同じように、地下に潜ったり地上に出たりする。丁度セーヌ川のほとりで地上に出ると、ルーブル美術館の壁に施された素晴らしい彫刻群を拝むことが出来る。エッフェル塔についたところで、スケジュールの関係から、S&西君、そして木村君とも 別れることになった。みんな楽しい想い出をありがとう。日本に帰っても連絡をとりあいたいな。 ドイツに来るときには必ず知らせてくれよ。そう言ってエッフェル塔の真下で互いに手を振りあった。 一抹の寂しさが残る・・・・ さあ、ここからはまたひろちゃん&よしこの二人旅だ。 思い切りパリを楽しんでハノーファーに帰ろう! 

 一昨日ここを訪れたときは週末ということもあって、エッフェル塔の足許にあるエレベータ搭乗口には 長蛇の列が並んでいたが、さすがに今日はすいている。 天下に名高いエッフェル塔、この機を逃さずにいられようか!  チケット料金は展望台の高さによって3段階があり、120m付近の第2展望台までは階段で上ることもできるが、 二人は迷わず最上階までの券を買う。エレベーターは各展望台で乗り換えが必要だが、 そのつど展望台に出て、次第に小さく遠くなっていく眼下の景色を楽しむことが出来る。 最上階から見下ろすパリはさすがに見事で、 はるか遠くまで360度一望できる。しかも驚きなのは、 300m以上の高さなのに、展望台は屋外にあるのだ。もちろん金網で完全に防御されてはいるのだが、 300m上空の空気に生で触れるのは、高所恐怖症の人にはちと酷か? 絶景に見とれているうちに、 あたりに霧が立ちこめてきた。霧? んなわけないな。こりゃ雲だ! とたんに雨が降ってきた。 しかも土砂降り。みんな一目散に屋内に入る。が、通り雨だったのだろう。地上に降りるまでには、 すっかり止んでいた。

 次に、かの有名なベルサイユ宮殿に行く計画を立てる。 ガイドブックを片手に再びメトロの駅へともぐり、窓口でベルサイユまでの切符を買おうとすると、 係のお姉さんと少しばかりのやりとりが。
「宮殿にも行くの?」
「うん、いくけど・・・ 」
「宮殿は月曜日は休みで、庭園しか見れないわよ?」
あっら〜、教えてくれてありがたいけど、休みとはな〜。よしこも非常にがっかりだったが、 こればっかりはしかたがない。ベルサイユ行きはまた次の機会ということにし、 シャンゼリゼ通りまで歩くことにする。土曜日は時間が無くて出来なかったが、 よしこの夢でもあった「シャンゼリゼ通りのカフェで一休み」を達成しに向かうのだ。 やっと最終日の今日になって本当にパリ観光らしくなってきた。

 シャンゼリゼ通りに着くころには、またもやお昼時で空腹状態の二人。 土曜日の時点で既にチェック済みの、 凱旋門からさほど離れていないレストランChez Clementに入ることにした。 ここはカフェではないのだが、お腹がすいているので何か料理が食べたいし、 なにより店の雰囲気が良さそうだ。 入り口で順番を待っていると、背が高くてスラッとしてて小粋といった、いかにもパリジェンヌらしいウェイトレスが、店の奥の方の席に連れていってくれた。ウィンクまでしてくれちゃって、やることなすこと、 にくいくらいにキザでかっこいい。よしこもウハ〜ッとカンゲキ。テーブルについてメニューを見ると、 フランス語の下に英語訳が書いてあったので大助かりだった。 本日のランチメニューを注文する。 出てきた料理も昼間っからボリューム満点で美味しかったが、値段もよかった〜。 となりのビジネスマングループのスーツも見るからに高級そうだもん。でもここでも、 ドイツのビジネスマンがランチでビールを飲んでいるのと同じように、 彼らは昼間っからワインをスイスイ飲んでいた。 我々も真似してワインを注文する。ワインの味はわからないけど、 ちょっとだけ高貴な気分を味わった気がしたのは、やはり田舎者の証明か? 

 よしこが、となりのテーブルをうらめしそ〜〜に見ている。隣の女性のところに、 いちごなどのフルーツとケーキとアイスとクレープと・・・・(よしこ回顧録)が美味しそうに盛ってあるデザートが運ばれてきたのだ。よしこはヨダレだらだら。それを見て、僕の隣のかっこいいスーツの男性が英語で話しかけてくれた。
「女性はみんなこれがスキなんだよね。君も頼んだら? 美味しいよ。」
よしこの「はぁ〜〜・・・・」というため息が聞こえたのだろう。 ちょっと恥ずかしかったが、これも真似して同じ物を注文した。 よしこの目がハートになっていたことは、みなさん、容易に想像できるでしょう?

 幸せな気分に浸りながら店を出た。あまりの上機嫌に、 店の前でかっこよく立っていた犬とその飼い主とも、 一緒にパチリ。怖そうなおじさんだったが、チ〜〜ズの声に笑顔。月曜日のシャンゼリゼ通りは、 土曜日のそれとほとんど変わらない雰囲気だった。人通りが多く、W杯で賑わっている。ただ一つ違うのは、 すれ違う人々がオレンジではなく別の色のユニフォームを着ているということ。しかも見慣れた色。 そして彼らの顔も見慣れた顔だ。フランス系とは違い、もっと白くて大きくてゴツゴツした人々。 ぬ、ゲルマン民族? そうか! 今日は我らがドイツがアメリカと、ここパリで戦う日なのだ。 土曜日ほどの騒ぎではないのは、今日の相手がまだ格下のアメリカだからだろうか?  僕もよしこも「俺達もドイツから来たんだぞ〜! ドイツを応援してるんだぞ〜!」と 一緒に騒ぎたい衝動に駆られてやまなかった。それにしても、この月曜日の昼間っから、 このドイツ人達、仕事は一体どうなってるんだろう? 僕もだけど。 やっぱり近くだから一日だけ休んで日帰りするのかな?  2002年では日本の試合は意図的に休日に組まれるんだろうか? やっぱり外国のサポーター達は、 平日の昼間でも日本の市内を練り歩くんだろうか? こりゃ開催都市は大変だな。 そんな余計な心配をしつつ、我々は東へと歩いていった。



15.ところ変われば・・・

 シャンゼリゼを抜け、再びコンコルド広場。噴水の周りにあるベンチに腰を下ろし、 ここ数日ずっと歩きっぱなしで疲れた体を癒やす。土曜日には気づかなかったが、よく見ると池の中央から吹き出ている水の色が緑だ。 池の水も緑色。水がずっと循環しっぱなしで出入りがないのだろう。こんな汚い噴水は初めて見た。 世界的にもすごく有名な広場なんだから、市当局もなんとかすりゃいいだろうに。 ともあれ、いろいろあったフランス旅行もあとわずか。ハノーファーへの飛行機は19:30に出発する。 あまり時間があるわけではない。そこで、 ガイドブックに載っている、近辺のお薦めショップをまわることにする。雨もポツポツ降ってきた。 二人は相合い傘を決め込み、「Walking in the rain」を歌いながらパリ中心部へと歩いていく。 でも、あれってフランスの歌じゃないような気が・・・・ いいのだ。 今はそのリズムにぴったりの気分なんだから。

 小雨の降る中、ガイドブックの地図を頼りに、小物ショップなどを見て回ったが、収穫はなし。 もうこの3日の累計で50kmほどは歩いているだろう。途中で蒸し暑くなって、二人はちょっとバテ気味。それにしても、パリの街はだだっぴろい。エッフェル塔の上から眺めると、凱旋門のさらに西に、新宿副都心のような超高層ビル街が見えたが、それ以外は、5〜6階立て以下の雑居ビルやアパートが広い範囲にぎっしり敷き詰められている。もっと時間があれば、他の店もじっくり見れたのだろうが、今回は違う目的で来たからね。というわけで、やはりパリと言えばメトロ。回数券もちょうどあと1枚ずつ残っている。使えるものは使わなきゃ。さすがにもう歩くのはいいだろう。路線図とにらめっこして、どこで乗り継げばいいかをしっかり確認。月曜の夕方。会社帰りのラッシュの時間だ。よしこがはぐれないようにしっかり手を引っ張り、怒濤の人並みに揉まれながらホームへと進む。乗車時刻まで少し間があったので、のどが渇いたこともあり、 ホームの自動販売機で水を買う。本家本元の「evian」。しかし! コインを入れても品物が出てこない。 やられた〜。2枚目のコインを入れて、結局倍の値段で水を手に入れることになるが、これも観光税か。

 福岡から東京に何度か出たことがあるが、バスの料金を払うタイミング、 ましてや乗降口の前後まで違うのには大いに戸惑った。あと、東京でラッシュ時の電車に乗ったら、 出口付近に立ってないと降りれなくなると聞いていたので、 ここなら大丈夫と出口付近のポジションをキープして安心していたら、まんまと逆側のドアが開いて、 大声を出して降ろして貰ったときも超赤面だった。僕の場合、異なる土地では、 しばしば交通機関を利用したときに出くわすトラブルが付き物だ。 そして今回も焦りました、このメトロ。さあ乗ろうと列の先頭に並んでいると、いつまでたってもドアが開かない。よく見るとノブが付いている。あらら〜、これって自分で開けなきゃなんないのね。こりゃまた日本とは全然違うシステムだな〜。閉まるときは自動なのに、開けるときは必要なドアだけを客が自力で開けるというのはやっぱり少しでも省エネという考え方なんだろうか? 



16.またもや遅刻しそう

 さて、例によって、フライトまであまり時間がない。しかも、帰りの便の航空会社Lufthansaは、 第何ターミナルだっけ? 再び確率は1/2。土曜日と全く変わらない状況になった。そして結果は・・・  またもや逆。我々はまず第2ターミナルへ向かったが、正解は第1ターミナルだった。これはいかん。 シャトルバスは20分に1本しかないというのに、もうフライトまで40分足らずになっている。 乗り遅れて帰れなかったらどうする? 一応、国際便に乗るんだから、 出国審査などの時間も考えて2時間30分前までには空港に到着しておくのが常識だ。 ましてや国内便でさえも15〜20前までにはチェックインをしないとまずいのに。

 そんな心配をしながら、シャトルバス乗り場に二人っきりポツネンと待ちぼうけをかましていると、 一台のワゴンタクシーが近くに停まり、日本のテレビスタッフらしきグループが ドヤドヤと4〜5人降りてくる。おそらく今日の夜の便で日本へ帰るのだろう。すると、ぬぬ? あれは?!  99(ナインティ・ナイン)の岡本じゃないか! おそらく彼も日本代表の試合を見に来ていたのだろう。 やっぱり芸能人だからちゃんとスタジアムの中に入れたんだろうな〜。それはともかく、 あたりを見回すと日本人はおろか外国人を含めても、その場にいるのはひろちゃん&よしこだけ。 騒ぐ者は誰もいない。チャンスとばかりに、二人で近づいてみた。よしこが話しかけようとする。
「あのう・・・」
あのうの「の」も発音し終わらないうちに、マネージャーらしき男が早口でそれを遮る。
「あ〜、ちょっと勘弁して下さい。」
よしこ、あえなく撤退。そのとき岡村は知らんぷりだ。 僕はあっっっったまに来た。 はは〜ん、これか。売れて生意気になってしまう芸人ってのは。やっぱり岡村でもそうなっちゃうんだね〜。 チラッとアイソぐらい振りまいてくれればな〜。 松岡修造の真摯な振る舞いを知っているだけに、チビの岡村が、余計チンケに見えた。 ちょっと笑顔でも見せてくれりゃ、我々はもっとファンになっていただろうに。

 気を取り直していざバスに乗り込むと、とてもゆっくり走っているように感じる。それに反して、時間はどんどん進んでるような気がする。ホントに間に合うのかな? やっとのことで第1ターミナルに到着したときにはすでにフライト15分前。仮に国内線に乗るにしてもギリギリの時間だ。ましてや我々が乗るのはまかりなりにも国際線。とにかく全力疾走するしかない! Lufthansaのカウンターへ着いて急いでチケットを見せると、係の女性は別に何の問題もないかのように落ち着いた笑顔で対応してくれる。もうチェックイン締め切り寸前の時間のはずだけど・・・・? パスポートの提示も何もなく、国内線に乗るときと全く同じ手順で搭乗待合室に。ここまできて、やっと一安心。ところが、ソファに座っていると、係員が慌てていなかった理由がやっとわかった。定刻になっても全く搭乗誘導アナウンスがない。ゲートに係員も立たない。大幅に離陸時間が遅れているのだった。助かったと言っていいのか、ついてないと言うべきなのか・・・・ というのは、今夜のドイツvsアメリカ戦の後半だけでも、自宅のテレビで見ようと思っていたのだ。一刻も早くハノーファーに帰りたいんだから早く出発しようよ〜、などとさっきまでフライト時間が遅れてくれたらな〜と願っていた僕は、またもや身勝手なお祈りをするのだった。

 ロビーに座っている間、日本人の観光団体(どう見てもW杯とは関係のなさそうな老人グループ)が、行き先がMunichと書いてあるゲートにぞろぞろ入っていく。どこなんだろう、ミューニークって? するとその下にMuenchenの表記が。あ、そうなの!? 研究室の学生達が「学会でミューニークへ行く」と最近僕によく話していたので、「ミューニークってなに?」って聞くと、「知らないはずはないよ、ミューニークだよ、ミューニーク!」と返される。だって全く聞いたこと無いんだからしょうがない。まあ、聞いたことがない名前ということは、さほど重要な都市でもないんだろうと思い、調べもしなかったが、ミュンヘンのことなのか。日本人にとってはミュンヘンは「ミュンヘン」としか言わないので、みんながドイツ語のわからない僕に気を使って英語名「ミューニーク」を連発してくれても逆にわからなかったというわけだ。

 ここでちょっと余談だが、ヨーロッパに来てみると、日本は意外にたくさんの非英語系外来語を使っていることに気づかされる。まあ、江戸時代から、日本はドイツやフランス、オランダ、ポルトガルなどからたくさんの文化や科学技術を輸入してるから当然だ。一応化学者の河野博士に身近なところでは、元素記号。みんな僕に話しかけるときは、Naは「ソディウム」、Kaは「ポタジウム」と英訳してくれるが、ドイツ人同士で話すときは、それぞれ「ナトリウム」、「カリウム」と呼ぶ。日本人にはそちらの方が断然なじんでいるのだが。ロシア人研究者のアレクサンダーにそれを話すと、ロシアでも同様に呼ぶといって驚かれた。そして「でも当然か。日本とロシアはお隣さんなんだから(笑)」と結論。なんだ、どっちかというと英語の方がかわった呼び方をしているだけなんだ。普通に考えて、Naと書くんだからナトリウムと呼ぶのが自然だもんね。これはアメリカの「インチ」や「フィート」が世界の常識からすると規格はずれなのに、アメリカが超大国という理由で、僕たちもしばしば頭の中で換算せざるを得なくなる状況に似ていると思うのだが。

 15分以上待っても搭乗アナウンスはない。こりゃドイツvsアメリカはいよいよ無理かぁなんて心配していると、有名な超音速旅客機「コンコルド」を発見。優雅に滑走路を徐行している。コンコルドなんて生まれて初めて見る。小学生の頃、「マッハ2以上で飛ぶ世界一早い旅客機がフランスにある」なんて記事を、学研の「X年の学習」で見たのが最初。「日本に初めてコンコルドがやってくる!」なんてニュースで世間が賑わっているのにも幼心にドキドキウキウキしていた記憶があるな〜。それが今になって、本場フランスで見られるなんて思いもしなかった。



17.マイ・ホームタウン

 30分遅れて搭乗。ドイツ戦はもういいや。まだ予選だし、どうせ楽に勝つだろう。ただお腹がすいていたので、機内食が待ち遠しくてしかたがなかった。よしこも空腹だったのだろう、ケーキを3つもおかわりする。ビールを飲んでもよかったんだが、まだ空港から家まで帰らなければならないので、控えめにオレンジジュースを頼む。ただ周囲のドイツ人達はビールの上にワインなどをバンバン注文している。やはりアルコールに対する免疫がケタ外れだ。飛行機は無事にハノーファー空港に到着。ここまで来れば勝手知ったるホームタウンだ。どこからどう行けばいいのか完全にわかっているということが、こんなにも疲れないですむものなのかと痛感した。この3ヶ月ですっかりハノーファー人になっている。土曜日からどこもかしこもフランス語だったので、空港のいたるところにあるドイツ語の表記がとても優しく僕たちを迎えてくれているような錯覚を覚えた。大げさに言っているようだが、こればっかりは経験してみてないとわからないことだ。やはり3ヶ月もいるとドイツ語も少しは慣れ親しんできたということだろう。

 バスに乗って市中心部へ。もう21:30を過ぎているが、まだ薄暗い中に街並みが見える。よしこがつぶやく。
「ハノーファーの方がパリよりもきれいで、ずっといい街よね。」
同感だ。たしかに繁華街の面積やビルの大きさでは負けるが、治安、街並みや施設の新しさなどを考えると、ハノーファーの方がはるかにいい街だろう。ハノーファーの中心部では、週末になるといつも流しのアコーディオンが美しく鳴り響き、あれをシャンゼリゼ通りで聞けたらどんなにか優雅だったか。路面もこちらの方がキレイだ。これはヒイキしてるわけではなく、日本人が「東京は住むのには適してない」というのと同じような感覚ではないか。

 ハノーファー中央駅でバスを降り、自宅まで歩くこと約10分。2泊3日のフランス旅行もいよいよ終わりだ。帰り道にたくさんあるパブでは、みなドイツvsアメリカの放送に釘付けになっている。チラッと覗いてみたが、どこも穏和なムード。ついに家に帰り着くと、二人ともパーッと靴を脱いでソファにくつろぐ。そして、お決まりの一言。
「いやあ〜、やっぱり我が家が一番!」
フランスではシャワーを浴びることもできなかったし、やっとゆっくりさっぱり出来る。おもむろにテレビをつけると、試合はもう終盤。当然ドイツはリード。まあ、次のユーゴスラビア戦が本当の勝負だな。そんなことを考えつつ、冷蔵庫から冷え冷えのビールを2本取り出す。まあ、なんにせよ、無事に帰ってこれて、よかったよかった。ドイツに来て初めての国外旅行。いろいろあったけど、とりあえず楽しかった。ひろちゃん&よしこは満足げにグラスをカチーンとならす。

「Proooooooooost(カンパーーーーーイ)!!」


- Ende -



あ と が き

 ドタバタだったフランス珍道中もなんとか無事に終えた。今回、あのおぞましいW杯チケット騒動にまさか自分達も巻き込まれることになるとは夢にも思わなかったが、異国の地に集まった日本人、アルゼンチン人、欧米人など様々な人間達と触れあい、フランスの良いところ悪いところ、日本にいるだけでは一生得ることの出来ないものを肌で感じることが出来、これからさらに続くヨーロッパ生活にとって非常に良い経験になったと思っている。業者が企画する観光ツアーに頼らず、言葉も方角も習慣もわからない場所で、自分の頭で方針を決め、自分の足で動き回ったことで、フランスのイヤな一面も見ることになったが、これからもヨーロッパ各地を旅するのに必要な何かをたくさん得られたような気がする。
 あと、これまで僕はガイドブックの力を見くびりすぎていたようだ。「ガイドブック片手に旅行」なんてミーハーだ!ってバカにしていたが、全然恥ずかしい事なんてない。おどおど右も左もわかりませんと言わんばかりに本をのぞき込んでいるから姑息に見えるんであって、単身軽装で本1冊を頼りに街を颯爽と闊歩する姿はかっこよくすらある。ガイドブックは、メトロの路線確認には不可欠だったし、地図としても重宝した。建物の歴史や背景など知っていればものの感じ方が全然違ってくるし、交通機関や貨幣制度についてなどの有用な情報が満載。非常時のHow toも詳しく書かれていて、これからのヨーロッパ旅行にも僕は絶対に堂々と持ち歩こうと思う。
 それにしてもパリがハノーファーからこんなに簡単に行けるとは。パリは想像していたような優雅で美しい都という訳では全くなかった。ゴミゴミしており、治安も悪かった。ただ、建築物や美術品には趣のある古い歴史が感じられることは間違いなし、ルーブルやベルサイユにもまだ足を踏み入れていない。ブランド商品を買いあさったりするのに興味がないひろちゃん&よしこにとっては、次回はもっと早めに計画を立てて、ゆっくり美術やオペラを楽しむのが最善の手だろう。それまでに、またしっかり時間とお金をSaveしておかないとね。



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