平塚研究室における摩擦物理の研究
1)研究の動機と目標
きわめて身近でありながら,まだメカニズムがよくわかっていない摩擦帯電,ならびに,それに伴う放電や発光と摩擦との関係はどうなっているのかという疑問を持ちました.研究の目標は摩擦帯電と摩擦発光の関係,さらにはそれらとトライボケミカル反応との関係を明らかにすることです.
2)オイルタンク内の放電
オイルがフィルタ部を通過すると,オイルの電荷がフィルタに蓄積されて火花放電が生じ,オイルの酸化が促進されます.アースしても防ぐことができません.この原因はオイルとフィルタの間の接触帯電にあります.オイルはフィルタの隙間を流動摩擦していますが,帯電にはせん断を伴う摩擦よりも,それを伴わない単なる接触の方が重要だということです.
3)摩擦帯電に摩擦は必要か
そこで,固体同士の摩擦帯電においてもすべり摩擦に意味があるのかどうかを明らかにするために,滑りと転がりの両方の摩擦方式を同じ装置で実現させました.転がり摩擦においては相対すべりはおこらず,単なる接触と分離が繰り返されます.実験結果はきわめて明白で,滑りと転がりにおいて帯電量の飽和値は同じになりました.これは摩擦帯電にとって,何と摩擦は不必要であることを意味します.
4)帯電の次は放電
その系で許されるよりも多く帯電するとどこかで放電します.それは潤滑油にラジカルを生じさせ,自動酸化を導き,オイル劣化.バルブ固着などの事故を引き起こします.トライボケミカル反応と呼ばれる,摩擦によって促進される化学反応の原因の一つは帯電と放電にあるといっていいでしょう.現在,摩擦帯電と潤滑油の化学反応を結びつける研究を行っています.
5)さらに発光へ
固体や気体にエネルギーが与えられて電子が励起状態になり,それが基底状態に戻るときに発光が生じます.ポリマーを加熱すると酸化してカルボニルが生じ,その過程で光りますが,その色は可視光です.それに対してポリマーを摩擦させて出る光は紫外光です.これはポリマーを摩擦すると,温度を高くしたとき以上の高エネルギー状態が生まれていることを意味します.これもトライボケミカル反応を引き起こす原因となることに間違いありません.
主たるテーマ
<摩擦帯電>
・すべりと転がりによる摩擦電気発生の共通点と相違点の解明
・潤滑剤の存在による電荷蓄積作用の解析
<摩擦発光>
・プラスチックの摩擦による発光のスペクトル分析
・摩擦発光に対する雰囲気気体の効果