平塚研究室における摩擦触媒の研究
1)研究の動機と目標
これは,触媒を摩擦するとその気体反応活性が上がる,という研究です.摩耗機構の研究の最中,摩擦中に気体が消費されるのを目の当たりにし,二つの気体が触媒表面に吸着すれば摩擦によって反応が促進されるだろうとの着想を得ました.研究の目標は,摩擦触媒と通常の触媒,光触媒,電気化学触媒などとの共通点,相違点を明らかにすることです.
2)最初の感動
触媒を摩擦すれば活性が上がるだろう,との予想のもとに始めたわけですが,摩耗を少なくして機械的刺激を吸着物がついている表面のみに限定した方が反応が多くなるのでは,と仮説を立てました.以前から貴金属は酸化物と摩擦すると摩擦・摩耗ともに極端に小さくなることを知っていたのでパラジウム同士の摩擦をアルミナとパラジウムの摩擦に変更したのです.すると,一酸化炭素と酸素から二酸化炭素を合成する反応で,反応量が数倍多くなりました.これには感動でした.
3)アルミナの役割は何か
アルミナの役割は吸着物の表面拡散を促進するのだろうと仮説を立てました.パラジウム上での反応が表面拡散律速のLangmuir-Hinshelwood機構で進行しているからです.1993年のEurotribで発表したところ,司会のカイダス先生が興味を持ってくれました.カイダス先生はアルミナを摩擦するとエキソ電子がでるのでそれが反応のトリガーになっているのでは,との仮説を立てました.
4)NIRAMアプローチ
エキソ電子の中でもエネルギーの小さい電子は分子に衝突した際に,それを壊すことなく付着して陰イオンラジカルを形成します.あるいはラジカルと陰イオンに分解する場合もあります.電子が出た後に固体中に形成された正孔に陰イオンが吸着します.この過程ならびにラジカルの形成がエキソ電子放出によって促進されるというわけです.これがカイダス先生のNIRAMアプローチです.
5)エキソ電子は触媒反応のトリガーになるのか
エチレンから酸化エチレンを作る反応で,エキソ電子が多く発生している時に酸化エチレンの反応量が増大する事実が発見されました.因果関係は明らかではありませんが,エキソ電子と触媒反応が関係していることは確かです.すると,エキソ電子を出しやすい摩擦材を選べば触媒反応が増大することが予想されます.その一つの例がアルミナ対パラジウムだったのかもしれません.
6)これからの課題
触媒とエキソ電子の関係は魅力的でいろいろな人がこれまでチャレンジしてきました.が,その割には定説がまだ作られていません.我々も摩擦面からの電子と気体反応を同時に計測することによって,この古くて新しい問題に答えを出そうとしています.
主なテーマ
<合成反応>
・水の合成
・二酸化炭素の合成
・酸化エチレンの合成
・メタンの酸化
・摩擦ポリマーの生成
<分解反応>
・二酸化炭素の摩擦分解
・一酸化二窒素の摩擦分解
・プラスチックの摩擦分解による気体放出
・電子顕微鏡ー質量分析計システムによる摩耗に伴う気体反応の計測