平塚研究室&産総研トライボロジーグループにおける摩擦機構の研究

1)研究の動機と目標
摩擦力がどのようにして発生するのか,はトライボロジー研究の中心課題であり,摩擦の制御もそれによってはじめて可能になります.産総研の安藤泰久先生と共同で,きれいな表面の純粋な物質の摩擦について調べています.もちろん研究の目標は摩擦のメカニズムを明らかにすることです.

2)我々の世界は水で覆われている
空気中には水分があり,細かいところ,細いところほど局部的に湿度が高くなっています.身近にあるすべてのものの表面は吸着した水で覆われているといっても過言ではないでしょう.摩擦を研究するときにはそれを考慮に入れなくてはなりません.

3)負の荷重でも摩擦力が生じる
小さな虫が天井を歩いているとき,見かけの荷重は負です.それでも落ちてこないのは,足と天井との間に凝縮水による凝着力が働いて,足が天井に吸い付いているからです.荷重が小さくなると,それに比べて凝着力が相対的に大きくなるために凝着力による摩擦力が無視できなくなります.

4)水に濡れない表面に水をたらすと
ハスの葉の上に落ちた水滴は容易にこぼれ落ちます.ハスの葉は水に濡れないので凝着力よりも逆に反発力が働いているからです.片方の面に水滴をつけ,それを撥水性の面に垂直に押し付けると反発力が生じ,両面は接触しません.そのまま面に沿って動かすと摩擦係数は千分の1オーダになります.これを水滴潤滑と名づけました.凝着力がなければ摩擦は非常に小さくなるのです.

5)吸着水のない世界
超高真空中で300℃以上に加熱すると表面の水分は蒸発して元に戻ってきません.それによって表面の水に起因する凝着力の影響をなくせます.また,荷重を小さくすることによって材料の塑性変形抵抗の影響を排除できます.そのようにして初めて,材料の表面の性質のみに起因した摩擦係数を得ることができます.

6)凝着力が働かないときの摩擦
このような状態では,二つの材料は接触させてもくっつきません.つまり凝着力は働きません.しかしながら,相互溶解度という,二つの材料が混じりあう程度を表す指標と摩擦力の大きさは同じ傾向を示しました.溶解度が高ければ原子が混じりあうわけですから凝着力は高くなるはずです.しかし実際には凝着力はなくとも相互溶解度の影響が現れたのです.

7)最近接原子間距離の差が摩擦を決める
実は,相互溶解度は二つの材料の最近接原子間距離の差が小さいほど大きくなります.そこで,最近接原子間距離の差と摩擦力の関係をプロットすると,見事に最近接原子間距離の差の大きさに比例して摩擦力が小さくなる関係が現れ出ました.摩擦力を原子レベルの物性を使って定量的に表現することができたのです.

8)摩擦の異方性
最近接原子間距離をキーワードとして,いくつもの面白い研究が展開できます.その一つとして現在単結晶材料の摩擦において,摩擦させる結晶面と摩擦方向をかえることで摩擦がどのように変化するかについて明らかにしようと取り組んでいます.


参考文献(要ID・パスワード)

 ・撥水性表面を利用した水滴潤滑
 ・異種金属間の摩擦を支配する要因
 ・摩擦異方性の発現機構
 ・軽荷重下のシリコンの摩擦
 ・摩擦に対する見かけの接触面積の効果

トップページに戻る  研究概要に戻る