下ノ廊下【1976年8月27〜29日】

下ノ廊下略図


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崖の狭いバンド状の道を上流へ
崖の狭いバンド状の道を上流へ
十字峡【左;棒小屋沢、中;剣沢、右;合流点】
十字峡【左;棒小屋沢、中;剣沢、右;合流点】

   ガイドブックでは『北アルプスの中核にある、鷲羽岳(2429m)周辺に端を発した黒部川は、全長わずか85kmで高度差約3000mという、すこぶるその勾配は急である』としている。尤も日本の河川を称して『これは川ではなく滝だ』と表現した外国人もいたそうであるから、何も黒部川だけが急勾配であるということではなく、日本の河川の世界の大河から比べた場合の一般的特長とも言えるのであろう。しかし黒部川は水量が豊富で、それにより深い渓谷が生まれたとあり、実利的には水力発電に利用される一方でその渓谷美は、登山者や一般観光客をも引き付ける。

   黒四ダム下流部の下ノ廊下は、夏季・秋季の安全な期間であれば、岩壁に穿った日電歩道を、岩や沢の経験が無くても、渓谷美を楽しみながら歩くことが出来る。ただし、足元が狭く危うい所もあり全く安全という訳にはいかないので、その辺はご自身の技量・経験とご相談の上入山することをお勧めしたい。

十字峡吊り橋
十字峡吊り橋
   下ノ廊下へは、黒四ダム側から黒部川を下流に向って下っても、欅平から阿曾原温泉を通って上流へ向っても大差ないと思うが、私は後者の経験しかない。どちらから入る場合も宇奈月〜欅平間の電車の予約等、交通の脚は確保しておく必要がありそうだ。

   下流から遡る場合は、一日目に阿曾原温泉小屋まで入る。露天風呂が小屋から谷の方に一寸下った所にあり、ここで一日目の疲れを癒すことが出来る。湯船は一つしかないので、男性用と女性用は時間帯によりタイムシェアになっていて、夕方遅い時間帯に小屋に着いた場合には、男性は入れない可能性があるかもしれない。

   翌日は、朝、明るくなってから出発しても良いが、私が行った時は、朝まだ暗いうちに出発したのでS字峡辺りではまだ暗く、懐中電灯を頼りに一人ずつ、恐る恐る釣り橋を渡ったことを覚えている。真っ暗な中を不安定にゆれる釣り橋を渡るというのは、いやなものでその時は、『二度と渡りたくない』と感じたものである。下ノ廊下の登山道は、大部分が左岸にあるが、仙人ダム近くのS字峡下流部では部分的に右岸にあり、この釣り橋によりS字峡下流部を一方から他方に渡るのだ。下ノ廊下の釣り橋は、他に十字峡の剣沢の上に懸かるものがあるが、こちらの方は少し斜めに傾いていたようだが、距離が短くしかもそこに達する頃には明るくなっていたので、特に怖いといった感じはしなかった。
渓谷美を鑑賞しながら、白竜狭へ 白竜狭
渓谷美を鑑賞しながら、白竜狭へ白竜狭
白竜狭を上流から観る 途中には雪渓も残っている
白竜狭を上流から観る途中には雪渓も残っている


   下ノ廊下は、紅葉の時期に来ると、その年にもよるが、とても素晴らしい眺めであるということであるらしいが、私はその時期に入山していないので判らない。兎に角、特別な登攀技術を持たなくても秘境の渓谷美を、多少スリルを感じながら、味わえる数少ないコースの一つが、下ノ廊下であることに間違いは無い。

   まだ暗いうちにS字峡の辺りを通り過ぎてしまったので、印象に残るということはなかったが、今度このコースを再び訪れるときは、明るい時間に通過したいものだと思う。

新越沢 黒部丸山東壁
新越沢黒部丸山東壁
   十字峡は、黒部川に支流の棒小屋沢と剣沢が両岸から直角に流れ込み、十の字型に流れが交差したように見えるところであり、珍しい光景である。勿論、このノードは、三方向(黒部川上流、棒小屋沢、剣沢)から流入した水が、一方向(黒部川下流)に流出するという、4方向のサーキッツの接続ポイントである。棒小屋沢も剣沢も上流部がカーブしていて、下ノ廊下の登山道からは良く見えない。

   十字峡を過ぎると、その上流部は白竜峡と呼ばれ、対岸の複数の小沢と両岸の岩壁の襞の曲線が絡み合い、その下を黒部川の本流が流れ、見る場所・角度によっては、自然という3次元スクリーンに表現された天然の芸術を思わせるところにかかる。

10時過ぎ黒四ダムに到着
10時過ぎ黒四ダムに到着
   ここは、ゆっくりと天然の芸術を鑑賞したいところであるが、まだ黒四ダムまで距離があるので、この日のうちに下ノ廊下を抜けるには、余り落ち着いてもいられない。

   黒部別山沢を過ぎり、対岸に新越ノ滝を見るなどしながら先へ進むと、やがて内蔵助谷の出会いにでて内蔵助平からの登山道を右に見て進めば、黒四ダムに達する。この山行の時は、黒四ダムの放流に出くわしたが、遠くから眺めただけなのでそんなに迫力を感じなかったと思う。いかに人間が作ったドデカイ建造物から大量の水が噴出しているといっても、土台自然のスケールには敵わない。
《2000年3月20日最初のタグを作成、2021年10月1日タグを更新》

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