Touch me, then what ?

                               乙姫静香



 別に女っぽいってわけでもない。っつーか、完全に男だし。
 付くもん付いてて、ケンカは強ぇし、女にも困ってねぇ……と思う。女の趣味はちょっと疑わしいけどよ。キングなんて呼ばれて、チームのアタマやってたりもしてて、そういう意味では、全然女からは遠い。
 なのになぜ、俺はこんなにこいつと何度もやってんのか……?
 マコトはソファの上で正体なく寝ているタカシを、上半身裸で見下ろした。タカシの怪しげな会社とやらのオフィス。相変わらず、なにをやっているかは不明。タカシはかろうじて松葉杖で歩けるようになってからも、このオフィスで寝泊りしていた。
 窓を背に仁王立ちになったまま、濃い眉毛をこれ以上無いって程に寄せ、マコトがタカシを凝視する。
 実は、さっきもやっちまったし………。
 冷静に考えると、すごいことのような気がしてくる。回数を覚えるのも面倒くさいので、どのくらいやったかはもはや分からないが、とにかく、もう何度もやってる筈だ。
 今となっちゃ、抵抗とか意味わかんねぇし、普通に勃っちまうし。
 月明かりを受けるタカシの身体は、確かに白いけど、女に比べればゴツイし、背だって低いわけでもない。そりゃま、羽沢組の組長の女に比べれば、よっぽどアリかもしれないけど。
 ……に、したってなぁ…。
 思わず漏れる、ため息。
 マコトの影の中で、眠るタカシの口端が、キュっとあがった。






?????





 マコトが家に帰ると、居間にリボンでくるまれた怪しげなメロンが置いてあった。
「………?」
 タカシ曰く、アミアミのメロンというわけで、それなりの値段はするであろう。しかし、この、包帯みたいにグルグル巻きにされたリボンは一体………?
「おい、母ちゃん。これ………」
 と、呼びかけたものの、リツコの姿は見えない。とりあえず触ることもためらわれたメロンを見ながら居間に上がった。
「お前になんだって」
「うわっ!」
 どこから現れたのか、突然目の前に立っているリツコ。マコトは半歩退きながらガラス戸に手を付いた。
「び………びびらせんなよっ!危ねぇじゃねぇか!」
「こんなことでいちいちびびってんじゃないよ。それよりほら、それ。さっき、なんか陰気そうな女が来て、あんたに渡してくれって」
 マコトの罵声にもひるむことなく、リツコは指でピンク色のリボンにくるまれたメロンを差す。マコトは下唇を出してメロンを眺めたものの、アッサリと言った。
「んなこと言ったって、これうちの売りモンじゃねぇのかよ」
 リボンの間から垣間見えるシールは、紛れもなく真島フルーツで仕入れているもの。するとリツコは腰に両手を当てて返した。
「なに細かいこと言ってんだよ。うちで買ったものをあんたにくれるなんて、いいことじゃないか。リボン取ればまた店に出せるし」
「また売るのかよ!っつーか、そもそもこのリボン、ぜってー不自然だし」
「ハサミが見つからなかったんだよ〜」
 おめーが結んだのかよ!と思わず心の中で突っ込む。しかし、家に帰ってきた理由を思い出すと、メロンのことはとりあえず忘れて、マコトが言った。
「そうだ母ちゃん。晩飯」
「ないよ」
「はぁっ?」
 あまりの即答に、再び情けない顔になるマコト。リツコはテレビの電源を入れながら、その場に座った。
「だって、お前は何時に帰ってくるか分からないし、母ちゃん今日はブータン料理の会に出てきたからさ、冷蔵庫も空っぽなんだよ〜」
「豚料理?トンカツとかか?」
 隣に座りながら、出された湯飲みを素直にすする。
「違うよ〜。豚じゃなくてブータン!ちょっと小粋なアジア料理だよ」
「なんだよ、豚って言ったりアジって言ったり。肉かと思ったら魚かよ」
 するとリツコ。ちょっと考えた後に言った。
「あのメロン細切りにして、ソースで炒めてみるかい?」






−???−





 マコトはボーリング場にたどり着くと、鳴り始めた腹をさすって中に入った。
「お!マコト!なにシケタ面してんだよ」
 マサのいるカウンターに座ったマコトは、不景気そうな顔でカウンターに突っ伏す。よくよく考えてみると、今日は朝に食べたっきりなにも口にしていない。その後に運動もしたわけで、腹が減っているのも当然であった。
「ちょっとさ、お前何か食うもんない?」
「食うもん?なに、腹へってんの?」
 笑顔のマサに力なく肯く。するとマサがカウンターの下から、小さなケースを取り出した。
「じゃあ、これ飲んでみろよ」
「なんだよ、これ……」
 みるからに胡散臭い、黄色と白の錠剤。中には紫色をした錠剤まである。マサは色とりどりの錠剤をカチャカチャと振って見せると、マコトの目の前にそれを置いた。
「プロテインとかビタミンとか。俺いま、ちょっと鍛えちゃってんのよ、これが。これからモテるのは、腹筋の割れた男だかんな!」
 ガハハハっと笑い、ほのかに割れ始めた腹筋を覗かせるマサ。マコトは一度そのケースを覗いてはみたものの、あまりのカラフルさに、ひきつりながらケースを閉めた。
「なんかこう…腹にたまるもんねぇのかよ」
 ヤキソバとか…とマコトが言いかけたその瞬間。マサは再びカウンターの下に身を隠し、今度は分包された顆粒状のものを、周囲の目を気にしつつマコトに手渡した。
「じゃあ、どうだよこれ」
 マサがコソコソと、囁くように言う。
「なんだよこれ」
 そんなマサの様子を知ってか知らずか、マコトはいつもの調子で話し続ける。と、焦ったマサが叫んだ。
「あまりデカイ声で言うなよ!」
「おめーの方がよっぽどデカイ声で話してるじゃねぇか!」
 思わず当然の反論。するとマサは更に大きな声で返した。
「ヤローがこんなの飲んでるなんて分かったら恥ずかしいんだぞ!」
「だから、おめーの方がよっぽど注目浴びてるっつーのがわかんねぇのかよ!」
 するとマサ、黙って静かに周囲を見回す。確かに、自分に向けられている視線。そこで、ひきつった笑顔を皆に向けると、再びマコトの近くでこそこそっと言った。
「もしかして…最近の俺って、ちょっとイケてきてる?これの効果がでたのかな」
 皆の視線の理由が、大きな声にあるとは思わないらしい。
「これって……なんだよ」
「これな、ハイマンナンっつーんだよ。これ飲むと、腹が膨れて満腹感がでるから、あんまり飯を食わなくなって、痩せるらしいぜ」
「なんだよそれ、また変な薬じゃねぇだろうな」
「違ぇ〜よ、これはコンニャク。コンニャクの粉が水で膨れるんだよ」
 コンニャク…。空腹は空腹ながら、やはり食欲の萎える言葉。マコトはその分包をマサに返すと、力なく立ち上がった。
「おい、帰るのかよ」
 カウンターの下から、まだ何かを取り出そうとしているマサ。マコトは決まり悪そうに深呼吸すると、視線を彷徨わせて言った。
「……また来るわ」
 軽く手を上げて、振り返らずに歩き出す。マサは最後に取り出した大きな煎餅の袋を手に持ちながら、マコトの後姿を見送った。






−−?−−





 マコトは鳴り続ける腹に顔を歪ませながら、西口公園のベンチに座った。
 ポケットを探って見つかった所持金は六八円。いっそのこと、うまい棒のソース味を六本でも仕方ないかとさえ思えてしまう。さぁてどうしたものかとマコトが思い出した時に、よく知った声が聞こえてきた。
「よぉ、マコト」
「おぉ、サル」
 振り返り、立ち上がる。サルは舎弟を二人連れ、マコトの方に歩いてきた。
「どうした、一人か?」
「おぉ、お前の方は…相変わらずだな」
 どう見ても目つきの悪い男が二人、サルの背後に控えている。マコトはその二人からも会釈をされ、驚きながらも会釈を返した。
「ところでマコト、お前、ワイン詳しいか?」
「ワイン?」
 急に予想もしない言葉を出され、マコトが眉を寄せる。見れば、サルの手には分厚い本があった。
「いや……ワインってーと、あれだろ?赤とか白とか、かぼちゃとか」
「そりゃマンガじゃねぇか!…いい、お前に聞いた俺がバカだった」
 呆れたように力を無くすサルに、マコトは下唇を突き出す。なんだよ、かぼちゃワインってあるんじゃねぇのかよ…と思いつつ。
「なんだよ、いきなりワインって」
 少々腑に落ちないながらも、マコトがサルに問う。するとサルは大きなため息と共に返した。
「それが、今度組の接待を任されたんだが、その相手がワイン好きだとかで、勉強してる最中でな。シャトーがどうだの、当たり年がどうだのって、頭が痛いったらありゃしねぇ」
 聞いてる端からチンプンカンプンな言葉が飛び交う。ワインがどうやって都市に当たるんだよ、爆弾にして飛ばすのか?などと思いながら、マコトはとりあえず肯いてみた。
「そりゃ、当たる前に逃げねぇと危ないしな」
 瞬間、パチクリと目を開くサル。後ろの二人も、思わずマコトを見つめた。
 マコトはというと、自分に向けられたなんとなく不穏な空気に気付き、さらに眉を顰めて言った。
「なぁ…ブクロには当たったことがあんのか?」






−−☆−−





 結局、マコトは空きっぱなしの腹を抱えて、タカシの部屋に戻ってきた。部屋には小さな明かりが点いている。タカシが起きていることがなんとなく有難かった。
「おい……」
「あ、マコちゃん。やっぱり来た〜!」
 キッチンでヤカンに湯を入れていたタカシは、ヤカンをガスコンロにかけて振り返る。そのまま松葉杖でソファに来ると、マコトを手招きして言った。
「は〜い、これ。さっきコンビニに行ってコレみたら、マコちゃんのこと思い出しちゃって買っちゃいました〜」
 隣に座らされ、その手に乗せられるペヤング。マコトは胸のどこかがグラっと揺れたような気がした。
「でもさー、帰りに表通りを歩いてたら、屋台でもヤキソバ売っててさ〜。な〜んかマコちゃんが来るような気がして、こっちも買っちゃったのねぇ〜」
 さらに、手渡される白いビニール。中には、焼きたてホヤホヤの屋台のヤキソバが入っていた。
 鼻腔をくすぐる香ばしい匂い。ソースの焦げた香りもすばらしく、胃液もフル回転で出始めているような気がする。
「タカシ……」
「いまお湯も沸かしてるから、好きなだけ食べてちょうだ〜い!」
 思わず歪む視界。マコトはタカシの肩に手を置いて、心の底から言った。
「お前、イイ奴だなぁ……」
 タカシは、俯いたマコトの目に光るものを見て、内心仰天する。タカシの目には、明らかにマコトの方がイイ奴に見えているわけで……。しかし、きっとまたマコトにしか分からない何かがあったのだろうと考えると、特に追求することもせずに言った。
「じゃ、マコちゃんどっち食べる?」
 その瞬間、部屋いっぱいに鳴るマコトの腹。タカシは大きな目をゆっくり瞬かせると、屋台のヤキソバの上に割り箸を置き、いそいそと立ち上がった。
「あっちのに、お湯も入れるナリね〜」






☆☆☆☆☆





 ザ・満腹。屋台のヤキソバにペヤングも胃に収め、マコトは満足げに天井を仰いだ。
 タカシの部屋にはマイマヨ(マイ・マヨネーズ)も置いてある。まさに、文句無しの至福といったトコロであった。
「そういやさ、さっきマコちゃんなんか冷凍庫にいれたよね。なんか持ってきたの?」
 タカシは隣でプリンを食べている。そうだと言わんばかりにマコトは立ち上がると、冷凍庫に入れていたモノをタカシに渡した。
「おぉ、これ。六八円で買えるものっていったら、これくらいしか思いつかなくってよ」
 プリンの最後の一口を胃に収めたタカシは、マコトが差し出したコンビニ袋を不思議な目で見つめる。手に取って中を見ると、そこには懐かしのバニラアイス・ホームランバーが一本入っていた。
「マコちゃん…」
 泣くほど腹が減ってる時に、なんで自分の食べるものを買わないんだか。しかも、人の好みに合わせたもの買ってるし。うまい棒六本買った方が、マコちゃんの好みに合っただろうに。
 かつて、毎日のように食べていたアイス。ケンカの後にも食べてたっけ、マコトの隣で。
「おっかし〜よな、昔これって三〇円で売ってなかったか?二本買えると思ったのによ…」
 マコトは納得が行かなかったらしく、ブツブツと文句を垂れている。しかしタカシはアイス一本がよっぽど嬉しかったのか、口端をあげたままマコトを見つめていた。
 そして、その視線に気付いてしまうマコト。やばいと思った頃には、すでにタカシがマコトの隣にピッタリと張り付いていた。思わず強張るマコトの身体。
 そうか。こういうことか!
 なんとなく分かってくる。自分が完全に素の状態で気を抜くと、向こうのペースに合ってしまうのだ。ハマるんじゃない。合うってトコロがポイント。
 しかしマコトは、視線の端に食べ終わったヤキソバの容器を見つけると、何かを考え込むかのように固まった。そして、一瞬の後に、身体の力を抜く。
 そうか…、そういうことか…。
 マコトは小さく息をつくと、嬉しそうに身体を寄せているタカシに視線を投げる。
 どうしてコイツなのか……。
 その答えに一歩近づいたような気がする。マコトは思わず笑ってしまうと、気を取り直してタカシに言った。



 「なぁ、かぼちゃのワインって無いのかよ」


−暗転−










超久しぶりの更新がこんなんですみません(^^;)
なんとなくマコト視点の話が書いてみたかったんですけど
少々意味不明??
そして、作品に関する大切な解説は本の方に
載せておきますです(^^;)
分かる人には分かると思うのですけどね・・・えへ。