100moments
乙姫静香

◇第三十一話◇





「運命の五人」



 それはとある週末の夕方、宮坂と一ノ蔵、そしてカナメと大澤の四人がマンションのリビングでDVDを見ている時のことだった。見ていたのはアメリカのTVドラマ。そのドラマの中に出てくるエピソードにカナメが呟いた。
「ねぇねぇ、忍と珠ちゃんの間にもあるの?この人なら許すっていう五人」
 この人なら許す五人というのは、恋人公認で浮気をしてもいい相手のことである。まさに目の前のドラマでも、恋人同士がその話をしている最中。とはいっても、身近な相手ではなく、あくまでもそういうロマンスが起こりえない芸能人相手の話ではあるが。
「いや、特にそういう決めは無いですけど…」
 呟いたのはソファに座っていた一ノ蔵。すると宮坂がその隣で明るく言った。
「じゃあ、決めるとしたら、誰を選ぶの?」
「お、いいのか?」
 それに問いかけたのは、二人の向かいに座っている大澤。手にしていたビールのグラスをテーブルに置くと、ニヤニヤと笑いながら宮坂を見た。
「別にいいよ〜。だって、ゲームみたいなもんでしょ?先ず、ありえないし」
「ほぉ〜、余裕じゃん。ほら珠ちゃん、誰選ぶ?」
 興味深々という顔で一ノ蔵を見る大澤。一ノ蔵は、三人の目を交互に見ると最終的に大澤に向かって返した。
「そ…そういうヨッさんは、誰を選ぶんですか?」
 質問を質問で返された大澤は、そうきたかと言わんばかりの顔で一ノ蔵を見返す。しかし、それに反論するでもなく、あぐらをかきなおすと、う〜んと唸った後で言った。
「女なら、エマニュエル・ベアール、キャメロン・ディアス、ヘレン・ハント、チャン・ツィイー、それと…常盤貴子かな。理由はそれぞれあるけど…」
「分かるような、分からないような…」
 大澤の答えに、カナメが首を捻りながら唸る。一ノ蔵も、首をかしげて低く唸った。
「男だったらどうなるの?」
 それに鋭く突っ込んだのは宮坂。一ノ蔵も力強く肯いた。
「男だったらか〜、そうだなぁ。難しいけど…」
 そして再びう〜んと唸る。一同が見守る中、大澤はゆっくりと口を開いた。
「キップ・パルデュー」
「おお〜」
 大澤の答えに、なぜか大きく声をあげる。それがどういう意味なのかは、全くわからなかったが。
「レスリー・チャン」
「もう無理じゃないですか」
「まぁ、あえて可能ならばってことで」
 一ノ蔵の突っ込みを肯きで制し、大澤は再び考え込む。確かに、すでに他界している人を含めるのは不利かもしれない。
「そ〜れ〜と〜〜〜、そうだなぁ。ジョニー・デップ」
「あ!それは!」
 再び宮坂の大きな声、一同が振り返ると宮坂はなぜか大澤を制止するかのように両手を出していた。
「僕…が…」
 そして呟きながら徐々に我に帰っていく。咄嗟にとった自分の行動の恥ずかしさに気付いたようだった。
「どうぞ、続けて」
 前に出した両手を横にスライドしながら、宮坂がぎこちなく笑う。大澤は肯くと、今度はすぐに言った。
「あ、佐藤浩市」
「ああ!それ…も…」
 思わず立ち上がる宮坂。さすがに今度は大澤も言わずにはいられなかった。
「いいじゃねぇか、別にかぶったって。どっちのもんって訳でもないんだし」
「そりゃそうだけどさ、もしも一緒に会ったら、ややこしいことになるじゃん!」
 ただの仮定の話であるにもかかわらず、宮坂の頭の中ではかなり進んだところまで行っているようだ。ここまで宮坂がエキサイトするとも思ってなかった一ノ蔵は、少し驚きながら言った。
「とりあえず、まぁヨッさん、あと一人ですよ」
「そっかそっか。そうだな、ラストは〜…V6の岡田かな」
「ジャニーズ!?」
 カナメの目がひときわ大きく開き、大澤を見る。大澤はなんでそこまで驚かれなくちゃいけないのかという顔で、カナメに返した。
「別にいいじゃねぇか、ジュニアをどうこうしようって訳じゃないんだから」
 カカカっと笑い飛ばす。その瞬間、一ノ蔵が真剣な顔で言った。
「ジュニアをどうこうしたら犯罪ですよ」
「わぁってるって!」
 だから、しないって言ってるじゃないかといいたげな大澤。しかし、ふと思いなおしたのか、冷静な顔で続けた。
「でも、安住アナも捨てがたいな…」
「えぇ!?」
 叫んだのはカナメ。もはやカナメは、不思議な生き物を見るような目で大澤を見ていた。
「はぁ〜、あんたも手堅くなったわね〜」
「なにが手堅いんだよ。パッパッと頭に浮かんだのを言っただけだろ〜。明日には変わるかもしれないしな。うんうん」
 こんなのお遊びだしな〜と言いたげなムードが漂っている。しかし、そのムードに乗り切らない宮坂が、腕を組んで呟いた。
「そうか…芳之は、あれを捨てるのか〜…」
「あれって誰ですか?」
 聞いたのはもちろん一ノ蔵。もはやどこをどう聞いても戯れとは思えない雰囲気の宮坂に、それなりの覚悟を決めていた。
 宮坂はというと、自分が普段に比べてどれだけ熱くなっているかなどという自覚もないままに答えた。
「……ブラピ」
「おお!」
 瞬時に人差し指を宮坂に向けたのは大澤。そして、これまた深く肯きながら言った。
「忘れてた。それもいれとかないとだよな〜」
「ブラピ…ですか…」
 一ノ蔵はふぅ〜んと冷静に受け止める。その姿に宮坂が不思議そうに言った。
「一ノ蔵さんは、ブラピ好きじゃないんですか?」
「好きじゃないわけじゃないですけど、そういう対象としてだったら、好みじゃないかな…」
「えぇ!?なんでだよ!だってブラピだぞ、珠ちゃん!」
 だってブラピだぞと言われても興味が無いものは無いわけで。これってまるで「のび太のくせに生意気だぞ」ってセリフみたいだなと一ノ蔵は思った。
「ブラピだったら、クリス・オドネルの方がいいかな〜、三銃士でダルタニアンをやった頃の。あ、でも、あれも捨てがたい、ほら、えっと…キアヌ・リーブスに似た感じの」
「クリス・クライン?」
 横から助け舟を出す宮坂。さすがに俳優の名前は早かった。
「あ、そうです。あの子の方がいいかな。この間忍さんと見た『ギリーは首ったけ』が可愛かったんで」
「はぁ〜、なるほどね〜」
 なぜか納得のカナメ。すると大澤が決意も新たに言い切った。
「いや、俺は絶対にブラピは捨てられない!やっぱレスリーは死んじゃってるからアウトで、ブラピがインだな」
「ブラピは切れないよね〜。ジョニデも切れないし、佐藤浩市なんか、絶対に切れない…。となると、あと二人?うわぁ〜」
 あまりにも無邪気かつ真剣な宮坂に、一ノ蔵は隣で困惑する。これは、ヤキモチを焼くべきなのだろうかと…。
「トニー・レオンもジョシュ・ハートネットもいるし、リチャード・ギアもハリソン・フォードもジョン・ボンジョビもいるし、ジャン・レノもジョン・ローンもデンゼル・ワシントンもチャン・チェンもショーン・コネリーもアンディ・ガルシアもノア・ワイリーも〜〜〜!」
 溢れんばかりに俳優の名前が出てくる。しかも、国籍も人種も年齢層さえも入り乱れ気味で、いかに宮坂が混乱しているかがよく分かる。一ノ蔵はヤキモチを通り越して、感心にも似た気持ちで宮坂を見ていた。
「おい忍。忘れてるぞ」
「え?」
 宮坂リストを静かに聞いていた大澤が、人先指を横に振り、チッチッチと舌を鳴らす。隣でカナメも深く肯いていた。
「うん、一番の本命を忘れてるね」
「一番の…本命、ですか?」
 聞いたのは一ノ蔵。宮坂はその瞬間、眉を寄せて考え込んだ。
「そう、本命も大本命。しぃちゃんは前に、この人に誘われたらアオカンでもするって言ったことがあるくらいなんだから」
「あぁっ!」
 カナメの説明に思い出した宮坂が目を閉じて何度も肯く。そして深いため息の後に言った。
「そう、ジョージ・クルーニー。そうだよね〜、大本命だよね〜」
 大本命は自分じゃなかったのだろうかと、一ノ蔵はそれを聞きながらちょこっと傷つく。ゲームみたいなもんだと宮坂は言っていたが、あきらかにゲームと思えなくなってきている人物がここにいた。





 その翌週末、一緒にDVDを見て過ごすべく、一ノ蔵と宮坂はレンタルビデオ屋にいた。
「何借ります?」
 棚の前を歩きながら、一ノ蔵が呟く。宮坂は特に考えた風でもなく返した。
「そうだなぁ、一ノ蔵さんは『オーシャンズ11』見ました?」
「いえ、見てないですね。面白いんですか?」
 宮坂ほど映画熱の高くない一ノ蔵は、これといったこだわりもないままに答える。そういえば、そんな映画のCMを見たことがあった。
「面白いよ。今度続編の『オーシャンズ12』も公開になるそうだから、僕ももう一回観たいと思ってたし、それにする?」
 そして、トコトコと歩いてDVDを持ってくる。ジャケットの裏を見てみると、そこにはあらすじとキャストが書いてあった。
 軽く読んでみると、これがナカナカに面白そうな話。これでいいかなと一ノ蔵が思った瞬間、その次が目に入った。
 ブラッド・ピット、アンディ・ガルシア…そして、ジョージ・クルーニー…。
 思わず手が伸び、そのままコトンとDVDを棚に戻す。そして、隣で不思議そうな顔をしている宮坂を見下ろすと、一ノ蔵は力の無い声で言った。
「すみません。今日はなんか、動物モノとか家族モノとか、そういう感じのでもいいですか?」
 宮坂は特に何を疑うわけでもなく、明るく肯く。それが余計に、一ノ蔵の心をチクチクと突付いていた。
「うん、じゃあ適当に取ってくるね」
 一ノ蔵は、我ながら心が狭いと、一人自己嫌悪に陥っている。しかし、先週の今週でそれは、あまりにも…だった。
「お待たせ。『ベイブ』にしたけどいいかな?実は、僕まだ見たことがなかったんだ」
 ブタなら大丈夫だろうと、一ノ蔵がほっと安心する。確か、この映画には動物と老人しか出なかった筈だから、これなら宮坂が変な気を起こさなくて済むだろう。
「あ、いいですよ。面白いらしいですもんね」
 ニコニコっと微笑みあい、カウンターに向かう二人。一ノ蔵も、ラブラブな週末に向けてハッピー全開だった。
 その数時間後、宮坂がベイブの飼い主のホゲット爺さんに心をときめかせることになるのだが、それはまだ、先のお話。
 そして、先週の宮坂はかなり酔っていたということに一ノ蔵が気付くのも、まだまだ、先のお話だった。


−終−



ごめんなさい(^^;)。映画に興味の無い人には
全く面白みのない話だろうと思われ・・・。

ちなみにワシが一夜の相手を選ぶんだったら、
(ハリウッド&生きてる人2004年版)
ジョージ・クルーニー
ブラッド・ピット
ジョシュ・ハートネット
ジョニー・デップ
ヒュー・ジャックマン
・・・ってなトコでしょうか。
人柄とかそういうことは全く無視で
要はそそる人ってことで(←褒めてます)。
日本版はまた後日(笑)(←書くんかい!)。

珠ちゃんチョイスもまた後日(←やっぱり書くんかい!)。




※余計なお世話の解説 (独断と偏見による代表作紹介)

ブラッド・ピット … 「リヴァー・ランズ・スルー・イット」、「インタビュー・ウィズ・バンパイア」、「セブン」等
ジョージ・クルーニー … 「ER」、「アウト・オブ・サイト」、「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲!」、「素晴らしき日」等
ジョニー・デップ … 「妹の恋人」、「ギルバート・グレイプ」、「ショコラ」、「スリーピー・ホロウ」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」等
キップ・パルデュー … 「ドリブン」、「タイタンズを忘れない」、「ルールズ・オブ・アトラクション」等
ジョシュ・ハートネット … 「パラサイト」、「ハロウィンH20」、「O(オー)」、「パール・ハーバー」、「恋する40days」等
レスリー・チャン … 「さらば、わが愛〜覇王別姫」、「男たちの挽歌2」、「ブエノスアイレス」等
クリス・オドネル … 「セント・オブ・ウーマン〜夢の香り」、「三銃士」、「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲!」等
クリス・クライン … 「アメリカン・パイ」、「アメリカン・サマー・ストーリー」、「ギリーは首ったけ」等
アンディ・ガルシア … 「アンタッチャブル」、「ゴッドファーザーPARTIII」、「男が女を愛する時」、「絶体×絶命」等
ヒュー・ジャックマン … 「X−MEN」、「恋する遺伝子」、「ニューヨークの恋人」、「ヴァン・ヘルシング」等

決して「作品の出来がいい」というわけではないものも中にはあります(苦笑)。
あくまでも「その人を見るなら!!」というポイントの代表作です。



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