100moments
乙姫静香
◇第二十一話◇
「繊細な人」
揺れる暖炉の火。
宮坂と一ノ蔵は冬の休暇を使って、都心から離れた別荘地に来ていた。ロッジで過ごす二人っきりの時間。もうじき宮坂の誕生日だけに、誕生日の夜を過ごす場所の下見に来たようなものだった。
暖炉の前に座り、床の上で本を読んでいる一ノ蔵と、その一ノ蔵の太もも辺りに頭を乗せて静かな寝息をたてている宮坂。冷えた夜の中で、そこだけ穏やかな時間が過ぎていた。
本に疲れた時は、視線を移しては宮坂の穏やかな寝顔を見つめる。一ノ蔵は「幸せってこういうことなんだなぁ・・・」としみじみ自らの幸福を噛み締めていた。
「ん・・・」
ふと、一ノ蔵がかけてあげたブランケットの下で、宮坂の身体が動く。起きるのかな?と一ノ蔵が息を飲んで見続けると、宮坂の手が枕にしている一ノ蔵の腿をぐっと掴んだ。
実は宮坂、結構寝言を言う方である。気にするといけないのであまり本人にそのことは伝えてないものの、一ノ蔵としては、最近ではどんな寝言を言うか楽しみにしているくらいであった。
「・・・の・・・・う・・・・」
耳をすませると、宮坂が何か言っているように聞こえる。一ノ蔵は読んでいた本を傍らに伏せると、息を止めて宮坂の声に集中した。
「・・・ドッ・・・・ドッ・・ドリフの・・・大爆・・・笑・・・」
「・・・・?」
夢を見ているらしく、モゴモゴとした声ながら、そんなことを歌ってるように聞こえる。
「ぶっ!」
思わず吹き出した口に、手を当てて堪える。どんな夢を見てるのかは分からないが、宮坂の口からそんな歌が漏れたことが、妙にツボに入った。
しかし、一体どんな夢で・・・・?
「ぶふっ!」
しかも、歌っているということは、夢の中で宮坂はドリフの一員・・・?おまけにあのフリつきで歌ってたりして・・・?考えれば考えるほど可笑しい。さらに、傍らの室内灯に照らされた宮坂の綺麗な寝顔を見ると、そのギャップが益々可笑しい。一ノ蔵は腹筋を細かく震わせながら、それでも宮坂を起こすまいと、傍らのクッションを自分の顔に押し当てた。
「っ・・・・!・・・・・くくっ・・・」
ヤバイ。本格的にツボに入ってしまったらしく、笑いすぎて腹が痛いことが更に可笑しい。そろそろ息も苦しいものの、クッションを離せば絶対に吹き出してしまう。笑いすぎて泣き出している自分にも気付き、更に抗えない笑いの波が襲ってきた。
『チャンネル回せば顔なじみ〜♪(←勝手に続きを歌ってるし)』
「・・・・っ・・・・・・」
助けてくれー!と、誰へともない叫びを心の中に響かせて、一ノ蔵が息を殺し笑い続ける。と、その時腿の辺りがふと軽くなった。
「っ・・・・っ・・・?」
抱きかかえたクッションを少し下にずらして、一ノ蔵が涙に濡れた目をさまよわせる。すると、目の前には少し寝乱れた髪もそのままに、半開きの目で自分を見る宮坂が居た。
「・・・・一ノ・・蔵・・・・さん?・・・あれ・・・僕・・・」
「はっ・・・・はい!・・・・っく・・・」
返事をしながらも、頭の中では先ほどの歌が周り続ける。笑いを堪えようと眉間に皺を寄せ、さらに涙を流している一ノ蔵に、目を擦った宮坂の表情が固まった。
「どう・・・したんですか?」
「いえ・・・なんでもないです。ちょっと・・・」
やばい。吹き出しそうだ。おまけに、なんの夢を見ていたのか聞きたくて仕方が無い。しかし、急にそんなこと聞いたら、宮坂は絶対に怪しむ筈だ。
「大丈夫?」
宮坂は、一ノ蔵の涙を誤解したらしく、優しく頬の涙を親指でなぞる。近付いた顔にキスをしたい衝動が沸き起こったが、ドリフにすべてかき消され、一ノ蔵は喉を震わせながら俯いた。
寝歌のことがばれたら、繊細な宮坂はきっと恥ずかしさに落ち込むだろう・・・と思う。一ノ蔵は強引に何度か深呼吸をすると、震える声で宮坂に言った。
「すみません。なんか・・・すっごくくだらないコト思い出しちゃって。その馬鹿馬鹿しさに笑いが止まらなく・・・・・ぶっ!」
言ってる端から笑いが止まらない。しかも、今度は声を殺さなくていいのだとなると、もはや歯止めは利かなかった。
「・・・え?・・・じゃあ、笑い過ぎで泣いてるの?」
「はっ・・・はいっ・・・・はははっ!ははははははっ!!!」
部屋いっぱいに響き渡る一ノ蔵の笑い声。宮坂はそれを、首を傾げて眺めていた。
後日、宮坂とカナメの二人は自宅でお菓子を食べながらお茶を飲んでいた。
「ふ〜ん、珠ちゃんがね〜」
「うん、そうなんだよね。笑ってごまかしてたけど、あれって多分、本に感動して泣いてたんだと思う。そういう一ノ蔵さんの繊細なトコロが、またいいなぁって、ドキドキしたよ〜」
その時の一ノ蔵の涙を思い出しながら、ほぉっと胸を温かくする宮坂。そんな宮坂を横目で見ながら、カナメは熱い紅茶を喉に流し込んだ。
「確かに、珠ちゃんてば時に、乙女チックな感じあるよね〜。わかるわかる」
その言葉にコクコクと肯く宮坂。
そして、優雅なティータイムは、その後もしばらくそんな調子で過ぎていくのであった。
恋。それはまさに「勘違いの産物」・・・?
−終−
ヤマもなければオチもない・・・。
ひさびさの更新がこんなんですみません(^^;)
でもこの後日の誕生日編の布石だと思って許してください(苦笑)
それにしても、宮坂は一体どんな夢を見ていたのか・・・。
「そろ〜ったトコロで始めよう〜♪」
ドリフネタがわからん人はすみません〜(^^;)