100moments
乙姫静香



◇第二十話◇



「波ノカタチ・3」(1)





 あなたがそんなに泣くのならば
 こんな清らかさなんて
 もう
 いらない






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 遠くに見える高波。あれをゲットしたら絶対に気持ちが良さそう。
 即座にボードの上に腹ばい。パドルもいい感じ。
 来る来る・・・。もう少し・・・。
 予想通りの綺麗な波。半透明の弧を描いて、向こう側が歪んで透ける。
 必死にパドル。どうしても捕まえたい。
 よっしゃ!!
 テイクオフ。膝をついて立ち上がる。なかなかいいスピード。
 風が気持ちいい。BGMには波の音。
 波を横切り、ボトムからトップに駆け上ったりする。
 うわっ!最高!こんな波、めったにここじゃ会えない。
 俺は波の上を飛ぶように滑りながら、思わず声を上げた。
「ひゃっほう!!!」
 その夏、最初に会えた最高の波だった。






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「コーヘイ、さっきいいの乗ってたなぁ」
 2年に続き、3年でも同じクラスになったタクが、砂浜に置いたデッキチェアにまたがりながら言った。
「だろ?あれは多分今日最高の波だって。良かったぁ。ちゃんと捕まえられて」
 タクが小さなペットボトルを投げてくる。俺はそれを受け取ると、ふたを開けて勢い良く喉を鳴らした。
「そうだよなぁ。お前も去年はよく、いい波に追い越されてたからなぁ」
 おっしゃるとおり。パドルが追いつかなくて、いい波を掴み損ねた。いまだにそれはやるけど、今年の俺はちょっと違う。オイシイ波はちゃんと捕まえられるようになっていた。
「そうそう。もったいないお化けが出ちゃうようなねぇ・・・」
「なにそれ?」
「え?」
 聞き返され、スプリングを着てデッキチェアに座るタクを見下ろす。俺はウェットスーツ関係は一切持ってないので、ただの水着。だから季節モノのサーファー。
「もったいないお化け」
「え?もったいないお化け知らないのか?」
「知らないよ。なんだよそれ。またお前のおばあちゃんの知恵袋か?」
 そりゃ俺はばあちゃんっ子だけど。もったいないお化けはそういう世代じゃないでしょ。
「いや、ばあちゃんの・・・じゃなくって。・・・なんだろう?どこからでてきたんだろう?」
 言われてみれば出所はどこだったんだろう?もったいないお化け。物心ついた時から、我が家では標準単語だったような・・・。
「受験にはでないだろうなぁ」
 真剣なタクの目に、つい笑ってしまう。出る訳ないだろ。でも出たら、俺有利?でもないか。
「受験ねぇ・・・」
 高校3年の夏。本当ならこんなことしてる暇はない。しかし俺らときたら、週末といえば海にいる。最初は毎回運んでいたビニール張りのデッキチェアも今では置きっぱなし。夏休みになったら夏期講習とか行かなくちゃいけないのかなぁ。
「お前、どうすんの?」
 タオルを肩にかけて砂浜に腰を下ろす。こうしとかないと焼け過ぎて大変なことになるのだ。
「受験?」
 俺の声に「Yes」という顔でタクが肯く。
「まぁ・・・するけど・・・」
「ふうん」
 目の前では薄緑色の波が寄せている。白い空は薄い曇り。ぼんやりとした、眩しい風景。
「そういうお前はどうする訳?」
「うーん。そこなんだよな」
 タクはデッキチェアの上に寝そべると、頭の下で両腕を組んだ。180センチまであと5ミリの身長が横に伸びる。脱色と潮焼けで出来上がった金髪が、淡く光った。
「俺って、正直言ってなにしたいのかよくわかんねーんだよな」
 それは俺も同じ。受けるのも、何学部?と自分に聞きたくなる。
「この間お前に紹介したじゃん。千章さん」
「あぁ」
 Zeno Stoicのピアノ弾き、夏海さんの幼なじみで、これまた俺らのOBにあたる安澤千章(あんざわ・ちあき)さん。俺は良く知らないけど、プロの作曲家らしい。アメリカに住んでて、そっちで仕事してるってだけで、もうなんか想像もつかない世界。先月日本に帰ってきて、秋までは夏海さんのいる、マスターのセカンドハウスに同居するらしい。
「千章さんに聞いたんだけど、向こうの大学って、入学する時に学部とかって決めなくってもいいんだって」
「へぇ。そうなの?」
「先に一般教養的な単位を取ったりして、その間に自分の進みたい方向を決めてもいいんだってよ」
「いいなぁ、それ」
 そういう時間の猶予ってありがたい。俺が優柔不断なだけかもしれないけど、でも、他のみんなもそう思わないのかな?
「だろ?俺もいいなぁって思った」
 身体を起こしてタクが顔を寄せてくる。あ、それはマズイ。
「だからさ・・・」
「おい、タク」
「なに?」
 近くに誰もいないのに声を潜めるタクに、つい俺も声を潜めてしまう。タクはカタチの良い眉を動かして聞き返した。だから、それはマズイんだって・・・。
「あんまり近づかねー方がいいぞ」
 ペットボトルを口につけながら言った俺の言葉に、タクが首を傾げる。
「なんで?」
 あまりにも当然な質問。俺も同感。
「噂に・・・なるから」
「なんだそりゃ?」
 実はこいつ、すっごく女にもてる。それもそうだろう。竹を割ったようなサバサバした性格。スタイルはいいし、顔だって整ってる。Zeno Stoicみたいな所でバイトしはじめてからは更に良い男っぷりに磨きがかかった。あと5センチ身長があったら、俺が代わりにモデル事務所に売り込んでやりたいくらいだ。あえて欠点をあげるとしたら、うちの高校に受かったことが信じられないくらい、モノを知らないことくらい。でもそれさえも女どもは「タク君って天然で可愛い〜」になってしまうらしい。確かに、俺も女だったら惚れてたかもしれないけど。
「なんかこの間、うちのクラスの女どもが言ってんの聞こえてさ」
「ふんふん」
「タクくんと高池くんって絶対できてるよねぇ〜って・・・・」
 じとーっと横目でタクを見る。タクは金髪を更に白くしそうな勢いで、目をパチクリと何度も瞬かせた。
「・・・・・・・・・・はぁ?」
「だよな!お前もそう思うよな!・・・良かった」
 何に対してだか、ほっと胸をなで下ろす。もしかしたら俺も、心のどこかで「あいつが俺に惚れてたらどうしよう」と思っちまったからかもしれない。
「なんで、俺がおめーとできなくちゃいけねーんだよ」
 タクが腕を組んで抗議。良かった。やっぱりそう思ってくれたか。愛してるぜ親友!
「夏海さんとならいざ知らず」
「え?」
 耳に飛び込む信じられない一言。い・・・いま、なんて・・・?
「俺、結構マジだったんだけどな・・・」
「マジっ・・・て・・・?」
 今度は俺の方が白くなりそう。こんなに信じられないほど真っ黒な髪してるのに。
「あれ?お前気付かなかった?俺、夏海さんに惚れてたの」
「惚れて・・って・・・え・・・・・・・え〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!」
 思わず絶叫。ま・・マジですか?いつから、なんでそんなことに?ぐるぐると頭の中を言葉が回る。でも、マジだった・・って?
「でも、惚れてた・・・って?過去形?」
「あー・・・うん。すっぱりあきらめた。夏海さん恋人いるから」
 少し歯切れが悪いアイツの声。まだちょっと生傷だったらしい。すまん。
「そりゃあ、あんなに優しい人なら、女にももてるだろう。綺麗だしなぁ」
「いや。相手は、千章さん」
「げっ!」
 ど・・ど・・・どういうこと?
「ちょっと前に、忘れ物取りに店に戻ったら二人がキスしてた」
「キス・・・ねぇ。はぁ」
 今度二人に会う時にどういう顔したらいいのやら。でも、そんなところに遭遇って・・・。
「あ、これはなんか偶然のキスと違うな〜と思って・・・」
 偶然のキス?その言葉に少し胸がぐさっと・・・。
「中に入って聞いた」
「ほぇっ?な・・なに?キスしてる最中の人のところに行って、話かけたわけ?」
 こっくりとタクが肯く。恋する男の一念か?こいつってすげーと思った。
「な・・なんて聞いたの?」
「俺も夏海さんのこと好きなんですけど、駄目ですかね?って」
 うわっ。直球!ますます尊敬。俺には絶対にそんなことできない。一人で納得して終わるぞ。あ、失恋・・・って、うん。
「そしたら?」
 すまん。痛いのは分かってるけど、すげー気になる。俺って、おばちゃんみたいかも。
「そしたら、夏海さんが『ごめん』・・・って」
「・・・・・・・・・・・」
「とどめに微笑まれちゃったからな。なんかすげー、せつなくなっちゃって。こりゃあきらめなきゃなーと思って・・・『お幸せに』と・・・」
「お・・・お前!すげー男らしい!偉い!さすがわが友よ!俺はお前を誇りに思うぞ!」
 膝に肘を乗せ、頬杖をつくアイツの肩をバンバンと叩く。アイツの視線がまだ、どこか遠いことには突っ込まずにおいて。
「ま、飲めや」
「飲めって、ウーロン茶じゃねーかよ」
 タクは渡されたペットボトルを手に、げんなりとした表情。俺はそれをなだめるように、ひたすら笑顔で言った。
「まぁいいから。今日は俺のオゴリ。バンバン行けって」
「ウーロン茶でどこに行けっつーんだよ」
 不満気な奴の顔。それでも、コイツの本気の根が深いことは良く知ってる。マジでマジだったんだろうなと思うと、俺の方がちょっぴりズキンときた。コイツはそういうの見せないから。
「夜になったら店でビールおごるから」
 自分で近づかない方が良いと言ったのに、結局俺の方からあいつの肩に手を回したりしている。やっぱり、そういうのって人に言われて気にする方が変だよな。
 それと、ビールのことは、マスターが許してくれれば・・・だけどね。






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 にぎわう店の中に、夏海さんの弾くピアノの音が流れる。俺はコンサートとかでじっと座って聴くよりも、人の会話をぬって耳に届くピアノの方が好きだ。それはどこか、波の音に似てるような気がする。
「うーっす。お待たせ。」
 俺がカウンターに座ってぼーっとしていると、タクが椅子を引いて隣りに座った。今日は早番だから、もうあがっていいらしい。タクが座ると同時に、マスターがタクの目の前にどーんとカレーを出した。このバイト、食事付きっていうのもオイシイと思う。こいつが辞めたら俺が雇ってもらおう。
「いっただきまーす」
 タクはスプーンを手に、しっかりと合掌。俺は食べはじめたあいつを覗き込みながら、聞いた。
「何カレー?」
「今日はチキン」
「と、これはおまけ」
 答えるタクの声に続けて、マスターが焼きたてでジュージューと音を立てているサイコロステーキをカレーの上に乗せてくる。
「え?」
 タクが驚いて顔上げると、マスターがにやりと笑って言った。
「タク、お前失恋したんだって?」
「え!?なんで知ってるんすか!?・・・あ、さてはコーヘイお前・・・」
 目を丸くして俺を振り返るタクに、俺はひたすら横に顔を振る。俺、そんなこと言ってないってば。
「へっへっへ。ひっかかりやがった。コーヘイが今日お前に一杯飲ませてもいですかね?とかって言ってくるから、これは何かあるなぁと思って引っかけてみただけだよ〜。コーヘイは何も言ってないって・・・ね?」
 マスターがしてやったりと微笑みながら俺に同意を求める。本当に、この人いくつ?ははは。
「え?俺、はめられたの?自爆?・・・・・マジ?」
 スプーンを片手に握り締め、ポカーンと口を開けるタク。でも、別にそれで怒る気があるようでもなく、ばれちゃったと整った顔をくしゃっと崩して笑い、再びカレーに集中しはじめた。熱々のサイコロステーキを嬉しそうに頬張っている。
「ひょ・・ひょういへぱおはえ・・・」
「食うかしゃべるかどっちかにしろよ」
 俺の突っ込みに、タクが口を閉じて大きく肯く。喉を鳴らして口の中のものを一気に飲み込んだ。
「・・・っはぁ。死ぬかと思った」
 目にはうっすらと涙。一体こいつは、なにがしたい・・・?
「アホかお前は」
 呆れて呟く俺の前に置かれる、グラスが二つとビールが一本。・・・でもこのビールって・・・。
「これ、なんですか?見たこと無いですけど」
 丸っこくて小さい瓶。それは普段コンビニでも見るようなビールではなく、カタチもデザインもまったく初めて見るものだった。
「これはね、売りもんじゃない俺のプライベートビール。ベルギーの修道院で作られてるビールで、アルコール度数はなんと12%と普通のビールの倍以上。・・・・・失恋した時は、ガツンといっとけ!な!」
「ありがとうございます」
 マスター本当にいい人だよなぁ。どうしてこの人が彼女もいなくて独身なのかとっても不思議だ。見た目だって、悪くないのに。
 俺はそのビールを二つのグラスにあけると、一心不乱にカレーと格闘中のタクの前に、グラスのひとつを置いた。
「ほれ、飲んどけ」
「うーっす。乾杯!」
 カチンとグラスの端が鳴る。
「何に?」
「俺に」
 そう言って、もぐもぐ。
「お前に?」
「そう、俺様に」
 それで、更にもぐもぐ。確かに、食うかしゃべるかのどっちかにしてる。律義な奴だなぁ。
「じゃあ、お前に乾杯」
「どもども」
 二人してグラスを傾けはじめる。くはっ!なんじゃこれ!
「・・・・・うわっ!・・・・なんつーか・・・・・濃い」
「うん。・・・美味いな、これ。ビールっツーよりも、カクテルみたいだ。なんか、色も白いし」
 タクの言う通り、それはビールというよりもカクテルのようで、ビールというには甘みがあり、コクも充分だった。早く回りそうだなぁ。マスターの言う通り、失恋した時にはさっさと回る酒が美味しいのかもね。
「で、さっき何言おうとしたんだよ」
「さっき?」
 あいつは涼しい顔で俺を見返す。
「ほら、俺が食うかしゃべるかどっちかにしろって言った時の」
「あ・・・・あぁ、あぁ・・・なんだっけ?」
 答えながらもビールをごくごく。
「そりゃ俺が知りたいっツーの」
「そうだよな」
 それで、更にごくごく。本当にこいつ、鳥頭だよな。
「まぁ、思い出したら言うわ」
「思い出したらな・・・」
 その時はきっと来ないであろうことを思いながら、俺はそう言って微笑む。今まで謎のまんまの語り出しは山ほどある。そういう奴だから。コイツ自身は気にならないのかなぁ?
 それから、俺たちは意味があるような無いようなことをウダウダと語り合いながら飯を食って、酒飲んで、笑って、怒って、時間があっという間に過ぎていった。
「そろそろだな」
 閉店間近のマスターの呟きに顔を上げる。店の中には少数の客。俺たちは半酔っ払い状態で眠たい目をこすった。
「あ、マスター」
 夏海さんが呟いて、視線を上に上げる。テラス席になにかあるのかな?
「あー、そうか」
 マスターが小さく息を付く。と、そこへ入り口のドアの開く音が届いた。
「一杯だけもらえる?」
 あ、この声。思いながら俺は振り返った。すると案の定、そこにはワッフル地のサマーセーターを着こなす良いオトコが立っていた。
「あ、千章。・・・もうすぐ帰るのに」
 夏海さんが小走りに近寄る。言われてみれば、確かに雰囲気も出来上がってるような気がする。これは勝てる見込みねぇなぁ、タクよ。
「どーーーーーしても、ダイキリが飲みたくなって・・・来ちゃった。まだいいっすか?」
「そりゃダイキリ一杯くらい構わないけど。できたのか?」
 マスターは話しながらもシェーカーに氷を詰めていく。千章さんは、俺たちの隣りに椅子を引きながら、ため息交じりに返した。
「ダメダメ。こういう時は何してもダメなんだよねぇ。だから夜道を散歩でもしようかなと思って。あ、二人とも何飲んでるの?」
「あ、ビールです。マスターがくれたもんで」
 タクが即座に返す。その自然な受け方に、俺はまたこいつのことを尊敬した。だって、目の前にいるのは自分の好きな人の恋人な訳で、嫉妬とか、そういうことを全く感じさせないって、ある意味すごい。
「美味い?」
 千章さんの方も、あんな・・・っつっても俺はタクに聞いただけだけど、告白があったなんて感じさせない爽やかな会話。二人とも、大人だなぁ。
「あ、美味いですよ。ちょっと癖はありますけど」
「そうか、今度俺も飲ましてね」
 マスターに微笑んで、目の前に出されたダイキリに口をつける。
「そうだ!千章!」
 夏海さんが何かを思いついたように声を上げる。その声にマスターもなにやら気付いたように手を打った。
「そうだな。千章がいるじゃないか!」
「なに・・・なんな訳?」
 千章さんは訳が分からずに夏海さんとマスターを交互に見ている。すると、マスターが声を潜めて千章さんに言った。
「ミコト坊ちゃんがテラスにいるんだけど、寝てるのかなんなのか、呼ばれもしないんだよね、もう一時間以上も・・・。テラスには他にお客さんいないし、行くのもどうかと思ってそっとしてあるんだけど、もう閉店だし、千章行ってきてくれよ」
「え?何で俺?マスター行きなよ。マスターがマスターなんだから」
 もっともな話である。俺もちょっとそう思った。でもミコト坊ちゃんって、ミコト先輩のことかな?Zeno Stoicに来てるなんて知らなかった。
「千章!」
 夏海さんがそう言って千章さんを見る。目で語るとは、こういうことなのかなと、俺は思った。なぜなら、その後すぐに、観念したように千章さんが立ち上がったから。
「はいはい、テラスね。分かりましたってば」
「あ、待って下さい!」
 俺の隣りから声が聞こえる。隣りって・・・あ、タク。
「それなら、こいつの方が良いですよ。仲良いですからミコト先輩と。な?」
 なっ!・・・何を言い出すんだこいつは!仲がいいって・・・別に仲なんか良くない。ただ・・・少し話したことがあるだけで。キスを、二回したことがあるだけで・・・。
「ほら、コーヘイ行ってこいよ」
「コーヘイ・・・そうなのか?寺内のとことねぇ・・・」
 マスターが驚いたように俺を見る。なんで・・・そんなに驚くんだよう!おまけに、仲がいいなんて、そんなことないんだから。
「い・・・いや、仲がいいっていうか。・・・・ちょっと話したことがあるっていうか・・・」
「よし!頼んだ!様子・・・見てきて」
 マスターが拝みながら俺を見る。確かに、飲食業っていうのには色々あるとは聞いてるけど、マスターのところも例に漏れないって訳だ。なるほどね。
「様子・・・・見るだけですよ」
 それでもいいからと言わんばかりのみんなの視線に送られて、俺はテラスに出た。
生ぬるい風。暗い空。真っ黒な海には時折、白い波の線が浮かび上がる。
「失礼・・・・します」
 そろりそろりとテラスに出る。返事は、無かった。
「ミコト先輩・・・?」
 テラスには白い木のテーブルと椅子。先輩はその椅子に背を預けて海を見ていた。というか、見ているように見えた。
「先輩・・・?」
 先輩の前に回り込む。テーブルの上には空になったワインのボトル。一人で、一本あけたのか?
「あ・・・」
 テーブルの上のワイングラスに手をかけたまま、先輩は眠っていた。俺は先輩の細い肩に手をそえると、そのまま少し揺らして見る。
「先輩・・・?風邪ひきますよ」
「・・・・ん・・・」
 小さくうめいて、薄く目が開く。細い眉が動いて、眉間に皺が寄った。
「先輩・・・・起きて下さい」
「ん・・・?」
 眩しそうに目を開けて、彼は俺を見た。見た瞬間に、驚きに目が見開かれる。
「なん・・・で、お前がこんな所にいるんだよ」
「俺の友達が、ここでバイトしてて、俺・・・ここの常連なんです」
 納得したのかしないのか、先輩は俺のことを見上げている。が、次の瞬間再び彼の瞼がおりかけた。
「先輩っ!」
 肩を掴んで更に揺する。すると彼はもう一度目を開け、うつろな目で俺を見た。
「俺、先輩の家まで送りますから、帰りましょう?ね?」
 先輩は半開きの瞼で、小さく肯いた。






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波ノカタチ・3/続−



すんません(^^;)続きます。
読みきりじゃないですねぇ、とほほ・・・。
どこで発表するかを悩みながらズルズル来てしまいましたが
途中までここで書こうかなぁ・・・と。
長い予定ですけれども、お付き合いいただければ幸いです。


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