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乙姫静香



◇第十八話◇
「わがままな男・続々」



<前回までのあらすじ←必要あるのか?>
ナンパをしたいと言う友人(同じ趣味)と二丁目のバーで飲んでいた『わがままな男・大澤』は、モーションをかけて来る、自称放蕩学生・ジョーと出会い・・・。





 適度に酔いがまわり、なんとも良い気分。
 話してみると、これがまた十も年が違うとは思えない程、上手い具合に噛み合って来る。大澤が若いのか、ジョーがませているのかはさておき、年代のギャップを感じさせないトークに、お互いの敬語も消えていた。
「んで、とにかくジュード・ロウのナニが気になっちゃって、何度もビデオ巻戻してコマ送りで見直したりして」
「あ、それ俺もやった。しかもトモダチん家で!」
 わははははっと爽快に笑ってみせる。ちなみに今のお題は『見えそうで見えない映画の中のイチモツ』で、ジョーが『リプリー』の中で見えそうだったジュード・ロウのナニの話をしていた。
「それと、『ブギー・ナイツ(←だったよねぇ?)』の最後でマーク・ウォールバーグのモザイクかかってる奴。あれも気になるんだよなー。なんせデカいっつー設定だっただけになー」
 大澤が真剣な顔で言う。すると、ジョーが首を横に振りながら素直に言った。
「あ、それ俺観てない。面白かった?」
「んー。まぁとにかくデカいイチモツを持った兄ちゃんが伝説のAV男優になるッツー話なんだけど、ラストにそいつが自分のモノを鏡に映して見るんだよな。話的にはシメみたいな場面なんだけど、俺としてはその瞬間にソッチの方が気になっちまって、話の細かい部分はふっとんじまったからなぁ・・・・モザイクっつーのは余計に気になる」
「隠される方が気になるよね。さっぱり出てた方がかえって見逃しそう」
「そうそう。人間心理だよなー」
 こんな年下相手に、なにフツーに話してんだ?と思いながらも、かなり楽しんでいる大澤。ジョーは知ったかぶりもしない、無理な背伸びもしてこない。もう敬語は使ってないものの、妙な急接近もしてこない。
 そう、距離感の取り方が上手いのだ。不思議なことに感心しながら、大澤がジョーを見つめると、その視線に気付いたジョーが、口端をきゅっとあげて言った。
「だから、サラリーマンって好き。スーツ姿見ると、ちょっとトキメク」
「スーツ?・・・あぁ、そうだな。手と頭しか出ないもんなー」
 何杯目かのバーボンで喉を潤しながら、大澤がなるほど・・・と肯く。
「多分、父親が自由業でスーツ着てない所為もあるんだろうけど、すごくミステリアスだよね」
 大澤のスーツの胸元に視線を落として、ジョーが呟く。大澤はその視線になんとなく気付かぬふりで、テーブル席にいる二人の方をちらりと見た。
 それなりに向こうも楽しんでいるのか、こっちに戻って来る気配も無い。
 って・・・・おい。俺ってば、いま何を考えた?
 一瞬頭をよぎった考えに、大澤が空になったグラスを見つめる。今日、ナンパをしに来たのはアッチの方。自分は、適度に飲んだらさっさと帰るつもりだったのだ。それがなんだ?アッチが消える前にコッチが消えるつもりか?
「・・・・ね」
 突然、太腿に感じる手。大澤が振り返ると、ジョーが言いにくそうに言った。
「大澤さん、アイツの方が・・・・タイプ?」
 うわっ!いきなり来たなぁ・・・と、瞬時にして覚悟を決める。なんの覚悟かというと、そういう話になる覚悟ってことだけど・・・。
「さぁ、俺は特にタイプってないから」
 とりあえず本音で返す。見た目はそれほど気にしない方・・・だと思うから。
 すると、ジョーが途端に、ホッと安心したような笑顔を見せ、呟いた。
「そう、よかったぁ〜」
 う。こいつ計算でやってんのか?と大澤は思う。
 なんでまた、こんな無防備に笑うんだコイツは。今日はやる気の無い俺だからいいものの、やる気のある時なら、この場でその口塞ぐぞ。
「ところで、そっちのトモダチって、俺の連れについていくと思うか?」
 とりあえず冷静を装って、大澤がジョーに聞く。ジョーは本当に安心したのか、少し考えた後で向こうの二人組を見ながら返した。
「どうかなー。行くような気もするけど。アイツ、ふられたばっかりで淋しいって言ってたから」
「ふぅ〜ん」
 ということは、ナンパ成功か。まぁ、良かったな。
「あ、でも、俺はそういうんじゃないから。あいつの付合いで来ただけだし、二丁目も初めてなんだから。淋しいから次・・・っていうのも、なんかヤだし」
 目を丸くして大澤はジョーを見る。二丁目デビュー?これが?だからこそ、そんなにすれてない感じなのか?それとも、それも計算??
「じゃあ、実はストレート・・・とか?」
 目を丸くしたまま、大澤が聞く。すると、ジョーは笑いながら手を振った。
「あははっ。ストレートのオトコが、リーマンのスーツ姿にトキメク?」
 ほっ。まぁ、そりゃそうだな。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?おい俺!『ほっ』ってなんだよ!今、ほっと安心しただろ!俺!!大澤芳之31歳!!何にお前は安心してるんだ!?お前はなにをする気なんだーーー!!!
「・・・・大澤さん?」
 空のグラスを握り締め、眉間に皺を寄せはじめた大澤に、ジョーが心配そうな顔で問い掛ける。
「どうしたの?酔った?それとも・・・具合、悪い?」
 酔う→帰れない→ちょっと休憩→ホテル
 そんな図式が頭に浮かび、それを振り払うようにブンブンと頭を振る。
「いや、別に。そんなに弱くないから・・・」
 微笑みでジョーに返し、とりあえず自分を落ち着かせる。
 今は試乗キャンペーン中だっただろ?その場限りにできる奴としか、やる気はないんだってば。仕事は忙しいし、誰かと付合う時間はないんだぞ。しかも、十歳も年下の子とするっつーのも気が引ける。いくらなんでも若すぎるっちゅーの!!
 ジョーは一人で苦悶する大澤の横顔をじっと見ている。そして何やら胸を押さえると、少し「あれ?」という顔をしてみせた。
「・・・?・・・どうした?」
 黙るジョーの様子に気付いた大澤が、顔を上げる。
「ん・・・なんか、ちょっと具合が。空気が悪いからかな・・・・?」
「出るか?すぐそこに、公園があっただろ」
 口元に手を当てるジョーは、本当に気持ち悪そうな顔をしている。大澤が背中をさすると、ジョーが肯いて立ち上がった。
「うん。ちょっと・・・・・・行っててもいいかな?」
「あぁ、向こうには俺が言っとく」
「うん。・・・・ありがと」
 苦しそうな顔ながらも、ジョーが無理に微笑んで見せる。そのまま店のドアを開けると、夜の町に出ていった。
 大澤は連れのテーブルに行って状況を伝えると、チェックを済ませてすぐに店を出る。近くの公園に行くと、ジョーが水道の水を飲んでいた。
「大丈夫か?」
「・・・・うん」
 力無く言って、ジョーは傍らのベンチに座る。大澤が隣りに腰掛けると、ジョーが自然にその肩に寄り添ってきた。
「ちょっと・・・こうしてて・・・いいかな?」
「・・・あぁ。本当に、大丈夫か?」
 けだるくもたれかかってくるジョーに、声をかけながら、手が自然と煙草に伸びる。具合の悪い人間隣りにいてなにやってるんだ?と自分を戒めながらその煙草を引っ込めようとすると、その手をジョーが止めた。
「いいよ。吸って」
 重ねられた手に視線を落とし、でも・・・と、隣りに視線を投げる。するとその目が、肩に頭を乗せたまま上目遣いでこっちを見ているそれとぶつかった。
 まばたきひとつせずに、じっと大澤を見つめるジョーの瞳。大澤はジョーの手の重みを感じながら、ゆっくりと煙草を一本取り出した。
「なんだ・・・・仮病かよ」
「ははっ」
 煙草をくわえる大澤に、ただ笑顔で返すジョー。大澤はジョーに騙されたことに苦笑しながら、皮肉めいた声で言った。
「でもいいのか?吸わないんだろ、ジョー君は。・・・匂いつくぞ」
 それでもジョーは肩に乗せた頭をどかそうとはしない。大澤はため息をひとつつき、煙草に火を点けると、夜空に向かって白い息を吐いた。
「二丁目デビューとか言って、それも手って訳か?」
 からかうように言いながら、それでも肩を貸している大澤。
  仕掛けているのはどっちなのか、もはや大澤にも分からなかった。
「だけどな、悪いけど・・・・」
 俺はガキは相手にしないし、今はそんな気にはならないんだよ・・・と言いかけた大澤の口元に、すっと伸びるジョーの白い手。
 大澤の頭に疑問符がよぎり、煙草の紙の感触が口から消える。
 煙草を持っていかれたと気付いた瞬間、隣りを見る。まるでスローモーションのような一瞬の隙に、ジョーの薄紅色の口唇が、それまで大澤が触れていた部分に触れた。
 半開きのジョーの瞳が、夜の闇を受けて静かに輝く。人差し指と中指で挟まれた煙草の先が赤く揺れ、少しだけジョーの眉が寄った。
 大澤は、まるで映画でも見ているような気で、一言も発せないままその光景を眺めていた。
 ジョーの口唇から、白い煙草が離れる。そのまま何事もなかったかのように大澤の口に戻された煙草を、大澤は無言で吸った。
 ジョーは、大澤に寄りかかったまま、ため息をつくようにゆっくりと白い煙を吐き出す。そして、すべての息を吐き終わると、再び上目遣いで大澤を見、言った。
「ふぅん。大澤さんとキスすると・・・・・こういう味、するんだ」





 あぁ、やられたな。・・・と、大澤は思った。


−終−



すみません・・・これはここで終わるんです(^^;)。
この後どういう風に・・・とか読みたい人いるのかな?
とりあえずこれで無事に「大人〜」に続きます。
隠し部屋に載せちゃうようなヨッさんの話も書きたいような・・・・。
どうしよう(^^;)えへへ。






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