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乙姫静香
◇第十七話◇
「わがままな男・続」
今日も、大澤芳之はわがままである(←よく考えるとあんまりな言い方だな、おい)。
どういうワガママか・・・に関する説明は省くとして(←おい)、今夜、大澤は趣味を分かち合えている友人(もちろん男、でも彼じゃない)と二丁目のバーに飲みに来ていた。
上手いやり方というかなんというか、大澤は職場の同僚などに「ゲイの友人がいる」ということを話している。だもんだから、こんな所で偶然誰かと鉢合わせしたとしても、「あ、そうか。トモダチいるって言ってたからだな」と思ってもらえるのだ。その『偶然いる誰か』の事情も気になるところだが、今回は触れないことにする。
「ゲイの友人がいる」とは言っているけれど、「自分がそうである」ことは言わない。あくまでも「すべてを言わないだけで、嘘ではない」のが大澤の上手いトコロだ。やはりサラリーマンとして、まだまだそこら辺への理解を得るのは難しいことを、大澤は良く知っていた。
さて、思い切りが良くてサバサバしている大澤は、男女問わずに、それなりにモテもする。今夜も友人とカウンターで飲んでいる大澤を、チラチラと見ている男に大澤は気付いていた。
相手に分からないように、観察をする。ん、まぁ悪くないかもしれない。しかし、今は誰とも付合う気はないからなー・・・などと思ってみる。今夜も、ナンパをする気満々なのは友人の方で、大澤は飲みたいという気の方が強い。『物色する気のないとき』の方がヒット率が高いのは、なんともおかしな話。これぞ、無欲の勝利ということか?
「おい。あの子、お前のこと見てないか?」
横から友人に言われて、「あぁ」とも「うん」ともつかない声で答える。
「キライじゃないタイプではあるけど・・・」
元々、面倒くさいことが大嫌いな方である。特に、今は宮坂と一ノ蔵の関係を突っついている方が楽しい。要は、退屈してないのであった。
恋愛は退屈凌ぎじゃないけれど、片手間で出来るものだとも思っていない。それなりにエネルギーを必要とするし、そこそこエネルギーを注ぐことが、相手に対しての礼儀の様に思えるところもある。
「めんどくせぇからなぁ・・・」
「お前、そんなこと言ってるとモテナイ奴に刺されるぞ」
友人は「コンチクショー」というような、それでいてからかうような表情で、大澤の横顔を見る。そのまま大澤がグラスを傾けると、友人が立ち上がりながら言った。
「よっしゃ、俺、あの子のトモダチ狙って来るから。お前、あの子よろしく頼んだぞ」
「責任は持たねぇからなー」
意気込んで乗り込んでいく友人の背中に冷たく言い放ち、大澤がグラスを空ける。横目で追い続けると、そいつは向こうの二人連れに話し掛け、そしてそのまま向こうのテーブルについた。こちらを指差して、何かを二人に囁いている。
話している内容は想像するまでもない。こりゃまた面倒なことをしてくれたもんだと、大澤はため息にも似た深い息をつく。と、間もなく大澤をチラチラ見ていた青年が、大澤の背後に回ってきた。
「隣り、いいですか?」
思ったよりも高目の声。光の加減によっては金髪にも見える薄い茶色の髪が、ふわりと揺れた。
「・・・どうぞ。・・・どうせ、帰れないしな」
二人っきりになって盛り上がろうと試みている友人のテーブルを横目で見ながら、大澤が青年に言う。余りにもぶっきらぼうなその物言いに、大澤は多少ヘコまれることを覚悟していた。
「そうですよねー。トモダチの邪魔できないし」
ん?
ヘコむどころか、笑顔で返して来る。その自然な雰囲気に、ちょっと、相手のポイントがあがった。
「何飲む?」
隣りに座った相手に、聞いてみる。ポイントアップした分のサービスである。
「そっちはなに飲んでるんですか?」
敬語を使って来るところも好印象。大澤は出会い頭にタメ口を聞いて来る人間が、そりゃもう大嫌いだった(←ショップの店員とかな)。
「バーボン」
「じゃあ、同じの」
バーテンをつかまえて、自分の分も頼む。すると、グレーのフード付きトレーナーを着た彼は、大澤を見て言った。
「ども、ジョーです」
言いながら、軽く頭を下げて見せる。
へぇ・・・と、これまた感心。名乗りやがった・・・と思ったのだ。
しかも、その言い方が・・・・なんというか、ツボに入った。
「煙草・・・・いい?」
灰皿を寄せながら、大澤がスーツの内ポケットを探る。ジョーと名乗った明らかに学生っぽい青年は、屈託の無い笑顔とともに再び軽く頭を下げた。
自分で自覚もあるのだが、大澤はかなりの雑食だ。どんなタイプでも、食うことは可能。しかし、付合うという点で考えると、かなり好みはうるさい。だから、長続きしないのだと、前にカナメに言われた。
その大澤が、いいと思うのだから、かなりレベルの高い予感。
いやいやしかし、チェックポイントはまだあると、大澤はとりあえず火を点けるついでに冷静に息をついた。
背は・・・見た目よりも大きそうだな。自分と変わらないくらいかもと見積もる。良く見ると、目の色素も薄そうだ。肌は白いし、しっかり男の顔をしているわりには睫毛が長い。華奢という感じでもないし、かといってマッチョでもない。手足が長すぎるのか、弱冠細く見えるもののひ弱ではなく、むしろ成長途中のようなアンバランスさを感じさせた。
「大澤です」
名乗ってもらったからには名乗り返す。ジョーはカウンターに両肘をつき、大澤の顔を覗き込んだ。
「会社勤めですか?」
「しがないサラリーマンです」
大人の笑顔で返す大澤。それにジョーは笑顔で返した。
「放蕩学生です」
やっぱり学生か・・・と思う。その時、目の前にグラスが二つ置かれた。
「どうも、はじめまして」
カチンとグラスを合わせて、口に含む。バーボンの匂いが、鼻にすっと抜けた。
さて、何を話そう。学生っていうと、ハタチくらいか?若いなー、俺より10も年下かよ。話しとか合わねぇんだろうな・・・。
「大澤さんは、音楽って聴く方ですか?」
なるほど、無難なラインで来たな・・・と思う。
「聴く方だと思いますよ」
相変わらず大人の笑顔で返す。と、その時ジョーが一瞬目を丸くして言った。
「どうして、俺に敬語使うんですか?」
「だって、君が使うから」
すると、ジョーはなにやら考えるような顔をして、更に言った。
「大澤さんの方が大人な訳だから、俺が敬語を使うのは当然かもしれないけど、大澤さんは俺に敬語を使う必要はないんじゃないですか?」
「そうかな?俺は、年上ってだけでいきなりタメ口をきいて来る奴なんか嫌だけどな」
瞬間、ジョーが弾けたように笑い出す。大澤がそんなジョーを見つめていると、ジョーが笑いすぎて滲んだ涙を指先でぬぐって言った。
「うん。俺も大っ嫌ぇ、そういう奴。年齢聞いた途端、やたらガキ扱いしてくる大人も嫌い」
その時はがれた敬語の壁が、なぜか今は心地良い。
おい、ちょっと待て俺、やる気なのか?
−続−
すみません・・・続いちゃいます。
「大人〜」の本編を進める前に書いておかなくちゃー(><)!!
って話なんで、時期的には同じ位と思っていただいて結構です。
メールなどで、ヨッさんの恋愛話も読みたいです♪
と言ってくださった方々、お待たせいたしました。
・・・という程のものではないです(←おい)。