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乙姫静香



◇第十六話◇



「わがままな男」






 大澤は、わがままな男である。
 別に誰に迷惑をかけている訳でもないし、むしろ社会的には見事に適合しているので、厳密に言えば「わがまま」というよりも「自己主張がはっきりしている」タイプなのだろう。しかし、大澤にとって「わがまま」と呼ばれることはそれほど嫌でないらしく、宮坂やカナメに「わがまま」呼ばわりされると、ふと一人ほくそ笑んでいたりする。
 ただ、恋愛に関しては本当にわがままで、だからこそ長続きしないというか、大澤の主張に振り回されるタイプの人間ではうまくいかないのが現状だ。
 大澤の頭の中では自分が王様なだけに、肉体的なことはさておいて(というか、言わずもがなでイロイロやってるに違いないが)、その他の部分で恋人に尽くしたり、貢いだりということをしない。そういうことが嫌い・・・というのもあった。
 しかし、そんな大澤が唯一尽くしてもいいと思う相手がいる。それが何かと言うと・・・。
「おっ!猫麻呂だ!」
 大澤は、コンビニのレシートを覗き込みながら自分の後ろをトロトロと歩いて来る宮坂を振り返る。その顔は、宝物を見つけた時のように輝いていた。
 そう、彼が愛してやまないのは猫。元々、動物全般は嫌いではない方だが、彼は特に猫が大好きであった。猫を見ればすべてを「猫麻呂」と呼び、とりあえず近寄ってみるのだ。
「え?・・・なに?」
 宮坂は大澤が指差す方を横目で見ながら、それでもやはりレシートを覗き込んでいた。
「ほれほれ。こっち来い」
 大澤はジーパン姿でしゃがみこみ、猫を呼び寄せようと必死である。宮坂はその傍らに立ち止まると、しゃがんでいる大澤に言った。
「ねぇ、なんか買ったものよりも多くお金とられたような気がするんだよね。ちょっと戻ってこようかな」
 まるで主婦のようなことを言いながら、宮坂が眉を寄せる。大澤はとりあえず座り込んでこっちを見ている白黒のブチ猫を、じーっと見つめていた。
「う〜ん。この貫禄。この猫麻呂はこの近所のボスに違いない(←宮坂の話と全く関係無し)」
「まだ店出たばかりだから、今行けば大丈夫だよね?(←こっちも大澤の話と全く関係無し)」
「おい、忍。猫が食べるものくれ」
 地道なアプローチは面倒くさいとばかりに、大澤が手を出す。しかし、宮坂はコンビニ袋を覗きながら、小さく首を振った。
「猫が食べられるようなものなんかないよ。ビールとおでんと食パンと・・・」
「ん〜、おでんのチクワは塩分が強くて猫麻呂の身体には良くないからな〜」
 一定距離を保ちながら身繕いを続けるブチ猫。その貫禄、そのでっぷりとした体型。ボス猫かもと思えば思う程、大澤はひと撫でしたくてたまらない(←こんな姿を会社の女の子が見たら、幻滅するであろう)。
「見ろよ、あのブチャイクっぷりっ!可愛いじゃないか!!」
「う、うん・・・・」
 宮坂は大澤の猫キ○ぶりを知っているので、敢えて逆らうようなことはしない。人間に対しては面食いなくせに、なぜか猫はブサイクな方が可愛く見えるようである。いまいち、そこらへんが掴みにくい。
「じゃあ、芳之ここに居てよ。俺(←一ノ蔵の前では僕なのに。まぁ、まだ出会う前だけど)、ちょっと今のコンビニ戻ってくるわ」
「あっ!それなら、猫麻呂の飯買ってきてくれよ」
 と、大澤はあくまでもブチ猫攻略の夢を捨てないらしく、宮坂に自分の財布を渡す。
「随分汚れてるからなぁ、飯もろくろく食ってないかもしれない。きっと立派なマシマロ(←キン○マ)を持っていて、近所には子や孫がたくさん・・・」
 出会ったばかりのブチャイク猫の人生をそこまで考えるなんて・・・と、宮坂は思いながらも口に出さない。おまけにかなり太ってるようにも見えるし、汚れてはいるけどご飯には困ってないように(宮坂の目には)見えた。すると、その時・・・。
「あれ?」
 目の前の猫麻呂が何かに聞き耳を立てている。大澤と宮坂の二人が息を飲んで見守ると、猫麻呂がすっくと立ち上がり、歩き出した。二人に尻を向けて・・・。
「メス・・・じゃない?あの子?」
 宮坂が呟く。大澤を見ると、あからさまに目を逸らされた。
「いや、でもきっとここら辺の女ボスで、ワイルドな生活を送っているに違いない」
 苦し紛れに言って、猫麻呂の後をジリジリと追い始める。そこまで言われると、なんとなく事実を確認してみたくなってきた宮坂も、その後に続いた。
「ジャクリーヌ〜!」
 どこからか声が聞こえる。自然と猫麻呂の重い足も速まったように見え、二人も焦ってついていくと、そこは誰かの家の玄関だった。
 太い身体をよいしょっと動かして、玄関前の階段を昇っていく。大澤と宮坂の二人は、その玄関前に立つや、上を見上げて呆然とした。
 豪邸&美青年。あまりにも出来過ぎた光景に、思わず声を失う。そして、そのギリシャ彫刻のような綺麗な肌をした美青年は、汚れまくったデブ猫を見ると、白い頬を赤く染め、嬉しそうに言った。
「ジャクリーヌ、おかえり。今日もそんなに汚れて。どこまで行ってたんだい?」
 ジャクリーヌ・・・。
 どうみたってふてぶてしい顔をしたブチ猫に、ジャクリーヌ・・・。しかも、ワイルドもへったくれもなさそうな超豪華な家。抱っこをした美青年の腕が折れそうに見えるほど太っているのも、道理であった。
「あの?・・・なにか?」
 美青年は、玄関先で固まっている二人をみつけて声をかけてきた。固まり続けている大澤を置いて、とりあえず宮坂が答える。
「いえ、あの・・・猫ちゃんを見かけて、事故に遭わずにちゃんと帰れるかどうか見届けたかったんで・・・。可愛いですね、ジャクリーヌちゃんっていうんですか?」
「はい。箱入り娘なんですよ〜。どうしても隠せない気品って言うか、そういうものがでちゃって・・・」
 隠せない気品・・・。
「そ・・・そうですね・・・」
 宮坂、親ばかに負ける。隣りで固まったままの大澤は、小さくため息をついて空を見上げた。
「じゃあ、失礼します」
「どうも〜」
 宮坂が挨拶をして、二人で歩き出す。結局コンビニに戻ることにしたその道すがら、大澤は誰に言うでもなく呟いた。
「猫麻呂道・・・・奥深し・・・・」





 大澤芳之、31歳。猫好きだが、猫を見る目はないらしい。


−終−



すみません・・・とことんくだらないです。
しかも全然ボーイズじゃないし(^^;)
ミニミニヨッサンシリーズを書こうとしたら、
しょっぱなからこんなことに・・・(−−;)
おかしいなぁ・・・・??



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