100moments
乙姫静香
◇第三話◇
「ユキヤ総天然色Vision」
恋をするって、実はまだよくわからない。
カオル先輩とつきあうようになってもう一月以上。俺の実家にも来てくれたりして、嬉しいんだけど、だから恋って何かと言われてもよくわからない。先輩は物知りでかっこよくて、頭もよくてもてるから、きっともうわかってるんだろうなぁ。
俺は放課後の校舎内を一人で歩いていた。
今日は中間テストの直前。部活動もなくみんなもさっさと帰ってしまってるようだ。俺は図書室から借りた本を返して、これから寮に戻るところ。静かな校舎の中からは、山の下に広がる街並みが見えた。
鹿児島から出てきてもう3年目。最初は心細かったけど、友達もできたし、いろいろ楽しいこともある。なにより、先輩がいるから淋しくはなかった。
「あれ?ユキヤ?」
背後からかかる声。振り返ると、そこにちょうど今、心の中で思っていた先輩が立っていた。こういうのって、なんだか嬉しいな。
「あ、先輩。どうしたんですか?」
ノートを片手に、先輩が小走りに駆け寄る。今日も先輩、かっこいいなぁ。
「図書室にこもって勉強してる奴から、貸してたノート取り返してきたんだ。ユキヤは?」
「俺もちょうど本を返してきました」
二人で並んで廊下を歩く。今日は部活してる人の声も聞こえない。学校が寝てるみたいに静かだな。
「へぇ、何読んだの?」
どき。本当は谷崎潤一郎の『痴人の愛』なんだけど、よく分からなかったし、それになんか恥ずかしいから言えないよう。
「えっ!?・・・あ・・あのっ・・・・・『ドリトル先生アフリカゆき』です」
なにか言わなくちゃと思って昔に読んだ本の名前を言ってみる。子供っぽくて笑われるかな?
「うわっ!懐かしいなぁ。動物と話すことができるお医者さんの話だろ?」
俺の心配もよそに、先輩は満面の笑顔を浮かべて俺を見てくれた。先輩って、すごく優しいなぁ・・・と思う。
「はい、そうです。俺、小さい頃は、大きくなったらあんな風に動物と話せるようになるんだと思ってたんですよ」
「あ、俺も思ってた。で、犬語を練習したいから犬を飼ってくれとか親に言って大変だったなぁ」
わぁ、俺だけじゃなかったんだ。先輩も一緒なんだ。
「俺もですよ!・・・なんか、そういうこと先輩と一緒って嬉しいなぁ」
「そう?」
笑顔で返してくれる先輩。嬉しくって、わくわくしてくる。俺、先輩とつきあえて良かったなぁ。
「はい。嬉しいです。なんか・・・・出会う前の先輩とも一緒に居れたような気がして」
俺は先輩を見上げて、言ってみた。ちょっと恥ずかしかったけど、本当に嬉しかったから。
すると、先輩が突然立ち止まる。俺は足を止めて先輩を振り返った。
「先輩?」
先輩の顔がちょっと赤い。どうしたのかな?
「ユキヤ・・・あのさ・・・」
廊下の前後を見回したあと、恥ずかしそうに視線をそらして先輩が呟く。俺が先輩の元に数歩戻って行くと、先輩が続けた。
「手・・・つないでも、いい?」
手?どうしたんだろう?そんなこといちいち聞かなくってもいいのに。
「はい。どうぞ」
先輩側の片手を差し出す。すると先輩の暖かい手が、俺の手をきゅっと握った。
トクン・・・・
あれ?なんだろう・・・・手を繋いだだけなのに、胸がどきどきしてくる。
誰も居ない廊下を、手を繋いで二人で歩く。誰かいたら、きっと先輩こんなこと言ってくれなかったんだろうな。誰も居なくって・・・良かったな。
繋いだ手がなんだかくすぐったい。先輩の顔も、さっきよりまた赤くなってるような気がする。俺ももしかして赤くなってるのかな?手に、汗かいちゃいそう。
「ユキヤ・・・・」
歩きながら、先輩の声。俺は顔を上げて先輩を見た。
「はい?」
俺の手を握る先輩の手に少しだけ力がこもる。どうしたのかなと思って見続けると、先輩が優しい笑顔を俺に向けて言った。
「・・・大好き」
途端・・・胸が苦しくなった。なんだろう。とても嬉しいのに、胸が締め付けられるようで。
目が熱くなってくる。どうして?
「・・・ユ・・ユキヤ・・?」
じわ〜っと涙がにじんで、先輩の顔が歪む。先輩は慌てたような声で、俺の肩に手を乗せた。
「ご・・ごめんっ・・・どうしたの?」
俺は説明できない涙に、ただ首を振る。止めたいのに止まらない涙。
恋が何かはわからないけど、先輩のことを好きになって良かったなぁ・・・と、思った。
−終−
ユキヤビジョンを通すとカオルも20%増し(当社比)にかっこよくなります(笑)
決して騙されないように。カオルは、あっち(未成年)のカオルが正しいと思います。
あくまでもユキヤビジョンっつーことで・・・(逃げる!)