100moments
乙姫静香
主要な人々(というかこの人たちの話)
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| 小野寺くん クールビューティ、企みの笑顔。 |
一平くん 情緒欠陥(?)のカワイコちゃん。 |
おまけの佐藤くん 明るく楽しく悩み無く、物事深く考えず。 |
◇第二話◇
「小野寺くんと一平くん」
ここは横浜某所にある『愛の夫婦出版(アイノメオトシュッパン)』。
アヤシイ名前とお思いだろうが、別にそんなアヤシイ出版社ではなく、結構業界では名の知れた、ちゃんとした会社である。
ちゃんとした自社ビルを持ち、メインの発行物は『すてきな夫婦(めおと・略してステメオ)』。最近ではターゲットを若くした同棲・同居マガジン『一緒に暮らそう』も人気を博している。
そしてその『一緒に暮らそう』編集部にはがけっプチトリオと呼ばれる大学4年生のバイト三人組がいた。
「小野寺〜」
呼ばれた彼は振り返ると、呼んできた相手を無言で見つめ返した。別にケンカを売ってる訳ではない。ただ、どっちかというと無口なだけ。冷静沈着、沈思黙考、眉目秀麗。そんな四字熟語が似合う22歳のクールビューティ。何も考えてなくても、黙っているだけで何かを企んでるように見えてしまうのは長所か短所か?
「これ、4時のバイク便までに校正終えて編集長戻しね」
「4時?」
話し掛けてきたのは佐藤。小野寺と同じく22歳のバイトくん。トリオの中では一番今風。TVドラマやファッション雑誌に出てきそうなチャパツのほわほわヘアもよく似合ってるし、一番ギャル受けする顔をしている。なのにいかんせんモテきらないのは、脳みその中身も今風だからか。
「4時は駄目」
小野寺は短く言うと、渡された原稿を突っ返した。
トリオといわれる所以は、年齢も身長も生まれた月も、果ては就職活動の状態のやばさも等しい所から来ている。とりあえず突っ返された原稿を受け取ると、佐藤は無表情の小野寺をきょとんと見た。
「え?でもお前いま、なにも仕事もってないだろ?なんで、駄目なの?」
「今日は3時あがりだから」
時計を指さされ、佐藤が見れば今はまだ2時。
「大学に求人見に行くのか?」
「今日こそは行こうと朝から決めてたんだ」
余裕なのかなんなのか、小野寺の就職活動に「あくせく」という言葉は似合わない。『焦る』という言葉が似合わないのも小野寺であった。
「え〜、でもまだ一時間あるじゃん。それまでやってよ」
「断る」
別に怒ってる訳ではないのだけど、無表情なだけにすご味がある。佐藤は説得できないことを悟ると、原稿を持ってすごすごと自分の席に戻ろうとした。
「いいんだいいんだ。どうせ口で勝ったことなんてないし・・・」
「何?」
「いや、なんでもないです」
佐藤のつぶやきが悲しいため息に変わる。と、そこへトリオの残りの一人、一平がやって来た。
「よ、一平。どこに居たんだよ。姿がないから今日は来てないのかと思った」
佐藤が椅子を回して一平に声をかける。一平はこれまた重そうな包みをゆっくりと抱え直して言った。
「来てすぐ〜、ステメオの出張校正に駆り出されて〜、いま〜、帰ってきたの」
しゃべる子守り歌と言いたくなるスローペースの語り口調。身長177センチでありながら男にナンパされる程の女顔に、天然ボケのキャラクターは女子社員にも愛されていた。
「あ、そうか、昨日ヤバイって言ってたもんな」
「うん・・・でね」
眠そうな声。でもこれでも十分に起きている。一平は手に持っている分厚い原稿の束を小野寺に見せると、いつもの調子で言った。
「これ〜、5時のバイク便合わせなんだけど、小野寺くん手伝ってくれないかなぁ?」
佐藤がその言葉に振り返る。まぁ、どうせ俺みたいにそっけなく断られるんだろうな・・・と思いながら見ていると、小野寺が無表情であっさりと返した。
「いいよ」
「えっ!?」
4時合わせが駄目で5時合わせがいいとはどういうことだと言いたげに、佐藤が小野寺を見る。小野寺はそんな視線は全く感じていませんとばかりに涼しい顔で一平の原稿を半分受け取った。
「ありがと〜」
海面に浮かぶクラゲのように、一平がふわふわと自分の席に戻って座る。佐藤は座り直した小野寺の椅子に自分の椅子を寄り添わせると、声を潜めて言った。
「おい!なんで俺の4時が駄目で一平の5時ならオッケーなんだよ!ズリぃじゃん」
「別に、ズルじゃないよ」
自分の椅子の背に腕を乗せる佐藤を、小野寺が振り返る。
「じゃあなんだよ」
「愛の残業」
本人はきっと微笑んでるのだろうが、どう見ても「にやり」といった雰囲気の漂う小野寺。佐藤は一度目をぱちくりと閉じ、小野寺に確認するように聞き返した。
「それなら俺にも愛の残業してくれたっていいだろ〜!?」
すると、小野寺の眉が一瞬だけチラリと寄る。そして『こいつは一体何を言ってるんだ』とでも言いたげに、返した。
「僕は一平くんが好きなんだ」
「へ?」
いかんせん小野寺の言わんとすることを理解できない佐藤の脳みそ。
「それって・・・・ラヴ!とか・・・そういうこと?」
とりあえず、自分レベルの言葉で確認。すると小野寺はいともあっさりと言い切った。
「それ以外の好きって、あるの?」
「そりゃお前、家族とかさ・・・」
「それは好き嫌いで選べるもんじゃないでしょ。大切って表現なら分かるけど、好きっていうのとはちょっと違うんじゃない?」
そう言われるとそういう気がしてくる悲しさ。佐藤が首を傾げていると、小野寺がとどめをさすように言った。
「だから邪魔しないで」
それは今してる仕事のことか!?それとも一平を取るなってことか!?・・と、じりじりと椅子を転がしながら佐藤は一平の背後に忍び寄り、一平の椅子の背もたれに手をかけて言った。
「おい一平」
「なぁにぃ〜?」
赤ペン片手に原稿の校正をしながら一平が返事をする。
「お前は、小野寺のことどう思ってるんだよ。小野寺はお前のこと好きだってよ」
ちょっと意地悪な笑みを浮かべ、佐藤が一平の背中を叩く。一平はその刺激に顔をあげ、佐藤を振り返ると眠そうな顔のままで返した。
「僕も小野寺くんのこと好きだよ〜」
バイトで出会って早三年。衝撃の事実だった。
−終−
実在人物シリーズ(爆)スタート。
小説化を快諾(?)してくれたみなさんどうもありがとう!
こんどお菓子折りでも持って行きます(^^;)
さあて、どこまでがフィクションだか・・・。
「事実の方が小説よりも上だって教えてやろうよ」
と一平くんに投げキッスをかました小野寺くん!
君はツワモノだぞ!