†††††††

 「本当に、なにがなんだか分からないよ」
 しどけなく浴衣の前をはだけたまま、明はソファの上で脚を組んだ。ネルガルはきっちりと服を着込み、窓辺に立っている。相変わらず激しい雨の勢いをその瞳に映しながらも、雨のひと粒をも見てはいなかった。
「『殺さずの水』は、確かにもらったけど、僕は飲んじゃいないし。それ以外に虎狼丸からもらったものなんて、ないよ。案外、僕が変わったんじゃなくて、君の方になにかがあったんじゃないの・・・?」
 そこまで言うのだから、明の言っていることは本当なのだろう。しかし、ネルガルのあの体質が簡単に変わるものでないことも、ネルガルは良く知っている。
 なら、どうして?
 ネルガルのこの体質に屈しない者など、そうはいない。そもそも、この間は明にも効果があったのだ。一体、この短い間になにが?
 いやまて、屈しない者が、身近に一人・・・。
「アスカロト・・・か?」
「え?」
 ネルガルが思わず呟いた一言に、明が眉を上げる。ネルガルは座る明の向かいに腰を下ろし、真剣みのない明を真正面から見据えた。
「お前・・・アスカロトになにかしたのか?」
「僕が?アスカロトに?」
 何の話だといいたげに、明が首をかしげる。しかし、視線を揺らしながら記憶を辿るうちに、明が「あぁ」と短く声をあげた。
「そういえば、アスカロトともしたんだった・・・」
 言いながら、明が自分の口唇を指先でなでる。それがキスを意味していることは、ネルガルにも分かった。
 そういえば、マルコキアスもそう言っていた。しかし、たかがキス程度でここまでの効果が得られるのだろうか?なにか、他に原因があるような気がする。
「それだけか?」
 ネルガルの低い声に、明は再び視線を彷徨わせる。そして、汗の引いた首筋を自分で撫でながら、小さく息をついた。
「どうだろうねぇ・・・。なにか・・・・。あ、そうだ」
 明は思い当たった瞬間に、こっちが当たりだと思ったのであろう。なにかを含んだ笑いをネルガルに見せると、ソファの上に座ったまま、喉をそらせて小さく笑った。
「なにが可笑しい」
 苛立ちを隠しながらも、先を促すようなネルガルの声。明はそんなネルガルの反応も楽しいのか、微笑を絶やさないままに言った。
「舐めたんだよ・・・血をね。アスカロトの血を・・・」
 それはアスカロトと共にベッドから落ちたとき、アスカロトの手首に滲んだ血だった。戯れに這わせた舌のせいで、こんなことになるとは思ってもみなかった。
「ふぅ〜ん。アスカロトは悪魔だから君としても平気なんだと思ってたけど、特別・・・ってことか。これは面白い。悪魔の血に、こんな効果があるなんてね・・・」
 アスカロトの血?確かに、アスカロトにはネルガルの体液は効かない。しかし、それを舐めて明にもその体質が受け継がれたのなら・・・。
 ネルガルは眉を寄せて考える。しかし、ネルガルが明に向かって口を開くよりも先に、雨の音にも負けない声が屋敷中に響き渡った。
「誰か!誰か来て下さい!ネルガル様っ!」
 それは切羽詰ったアンリの声。瞬間、ネルガルは弾けたように部屋の外に飛び出した。
「アスカロト様っ!アスカロト様っ!」
 廊下を渡って響いてくる声。ネルガルは声のする方に向かって廊下を走った。明も、浴衣の裾を乱しながらネルガルの後に続く。
「アンリッ、どうした!」
 それは聡が寝かされている部屋。ネルガルが飛び込むと、聡のベッドの脇に、アンリが屈みこんでいた。アンリの影から見える、アスカロトの足。
「ネルガル様!アスカロト様が・・・っ!」
 アンリは床に倒れているアスカロトを、腕にしっかりと抱きかかえていた。力なくダラリと床に下ろされた腕や足が、アスカロトの意識がないことを物語っている。アンリは当惑の顔でネルガルを見上げると、ネルガルの言葉を待った。
 ネルガルは、アンリの腕に抱かれたアスカロトを見下ろした後に、ベッドの上の聡に視線を投げる。聡も、アスカロトと同じように、目覚める気配はなかった。いつもと違って、わずかに乱れたベッド。聡の腕が、布団の上に出されていた。
「・・・何度呼んでも、叩いても反応がないんです。ネルガル様、アスカロト様はいったい・・・」
 ネルガルが何も言ってくれないことが不安になったのか、アンリが早口で告げる。ネルガルはアンリの脇に屈むと、意識のないアスカロトの頬に手を添えた。
「おい・・・」
 ネルガルが、多少手荒くアスカロトの頬を叩く。アスカロトは、叩かれるままに首を小さく左右に振ったものの、目覚める気配はなかった。
「なに?まさか、この子も殺さずの水を飲んだってこと?」
 部屋の入り口で、壁に背を預けたまま腕を組んでいた明が面白そうに言葉を挟む。ネルガルは眉を寄せて明を見返すと、アスカロトの身体を抱き上げて言った。
「アンリ、こいつが聡に触れないように見ていてくれ」
 視線は、明を見ている。瞬間、明が口端を下げた。
「はい、かしこまりました」
 アンリは肯きと共に、しっかりと答える。すると、明がその言葉に反応した。
「ちょっと待ってくれ、なんで僕が聡に触れちゃいけないんだ?君達こそ、兄には触れられない筈・・・」
 明が言葉を切ったのは、ネルガルの視線のせい。どこまでも冷ややかな視線で見つめるネルガルに、明も何かを感じていた。
 ネルガルは何も言わぬまま、アスカロトの身体を抱えて部屋を出て行く。明は、すれ違いざまにアスカロトに冷たい視線を投げたものの、それ以上聡にも近づこうとはしなかった。






†††††††





 アスカロトは、流れ込んできた膨大な聡の記憶に、意識を奪われていた。自分の体験のように、それは次から次へと襲ってくる。五感のすべてを使って辿る聡の記憶の旅の中で、アスカロトは半ば自分を忘れていた。
 と同時に、不思議な違和感を感じていた。
 それは、わずかに残されたアスカロトとしての自分が感じた違和感。聡の目を通して過去の映像を見ながら、アスカロトは徐々に問題の核心へと近づいていた。






†††††††





 母の次は、叔父だった。
 心臓発作だと、主治医は言った。しかし、叔父の心臓が弱っているなんて話は、今まで聞いたことがなかった。昨日まで、あんなに元気だった叔父が、今日は冷たくなっている。
 聡は自室で頭を抱えたまま、ピクリとも動かなかった。胸の中に渦巻くどす黒い感情。不安と、不信と、絶望と。
 この間は自分を慰めていた従兄弟の二人も、今日は一言も口を開かなかった。その気持ちは、自分にもよく分かる。聡ももう、部屋を一歩も出たくなかった。
 そんな時、聡の目があるものを捕らえた。古びた、蓋付きの箱。両手で持って丁度いいくらいの大きさだ。細工の見事さから、安物でないことが分かる。あんなもの、この部屋にあっただろうか?今までに見た事がないような気がする。
 父か母の持ち物?葬式のどさくさにまぎれて、この部屋に入れられたのだろうか?もしも、誰かの持ち物ならば、返さなければならない。
 聡の手が、ゆっくりとその箱に伸ばされた。






†††††††





 ネルガルは、アスカロトの身体をベッドの上に横たえると、そのしどけない姿を見下ろし、ため息をついた。
 一体、どんな無茶なことをやろうとしたのか。おそらく、聡に触れていたことは確実だ。しかし、触れて、何をしようとしていたのかまでは、ネルガルにも分からなかった。
 ゆるやかな胸の上下と、時折寄せられる眉。
 ・・・夢?
 ネルガルはベッドに腰かけ、眠るアスカロトを振り返る。
 すらりと伸びた脚に、投げ出された腕。手首には、傷跡が赤い筋になって残っていた。
「じゃあ、お前はアスカロトをアイツに差し出すっていうのかよ!?」
 ふいに、ネルガルはマルコキアスの言葉を思い出した。
 この事件が終わって魔界に帰ったら、アスカロトを連れて宮殿に行かなければならない。もしかしたら、それが最後になる可能性もある。ベルゼビュートがアスカロトを気に入ったなら、手放さなくなることは必至。アスカロトを生かすも殺すもベルゼビュート次第となってしまうからだ。
 ネルガルに手をかけられて尚変わらない羽のことは、ルシフェルからベルゼビュートに伝えられているのだろう。だからこそ、ベルゼビュートも興味を持ったに違いない。変わったものが好きなのは、昔からだ。
 そして、一度手にいれたいと思ったら手段を選ばないのも昔のまま。邪魔をするものに、容赦はなかった。
「それも、これの運命か・・・」
 アスカロトを差し出すことに抵抗はない。どうなろうと、それはアスカロトの問題であり、自分の問題ではない。そもそもアスカロト自体が、身柄を預かっただけに過ぎない、一介の堕天使なのだから・・・。
 しかし・・・。
 変わらない羽。屈しない気質。そして、自分と肌を重ねても己を失わない体質。
「ネジを回す手があって、初めて時計は動き出すのですよ・・・」
 かつて、母に言われた言葉を思い出す。そう、もしも巡り合わせがあるのだとしたら・・・。
 しかし、ネルガルは首を振ってそんな想いをかき消す。たかが、堕天使の一人。特殊ではあるけれど、非力な子供に過ぎない。気にするだけ時間の無駄だ。
 ネルガルは立ち上がると、再び眠るアスカロトを振り返り、冷たい一瞥をくれた。
「逆らえるわけなどなかろう、ベルゼビュート様に・・・」
 ネルガルは踵を返して、部屋を出る。閉ざされた空間の中で、アスカロトは一人、静かな寝息を立てていた。






†††††††





 桜が咲いていた。
 それはもう、屋敷を埋もれさせるかのように、見事に。散り行く間際の、満開の美しさが、彼の心を打った。
 風が吹くたびに、限界を迎えた花びらがハラハラと散っていく。月の明かりを受けて、それはまるで雪のようだった。
 ふと、背後に人の気配を感じて振り返る。するとそこには自分と同じ顔を持つ彼がいた。
「もう、なにも心配することはないよ」
 彼は、どこか淋しそうに笑った。風に舞う花びらが、二人の間で揺れている。きっと、彼にも自分は同じように見えている筈。こんな夜は、自分が誰なのかも忘れてしまいそう。いっそ、何者でもなければ、こんなに苦しむことはなかっただろうに・・・。
 これで、松平家を継ぐ者は自分と彼しかいなくなってしまった。それとも、自分たちも消されて、遠縁の誰かが後を継ぐのか?こんな結末を、自分は望んだのだろうか?そのために、自分はあの者に・・・。
「僕が消えれば、なんの問題もなく全ては君のものだ。争うものがいなければ、きっと平和が訪れるんだよ・・・」
 彼の声は、まるで夢のように響いた。風のせいか、桜のせいか、はたまた月の明かりのせいか、目の前にいるはずの彼の姿は幾重にも重なって見え、彼の声は幾方向からも届いているような気がした。
「僕らは二人で一人なのにね。他の誰にも、それは理解できない。ひとつに重なるこの二つの魂を引き裂かれるくらいなら、いっそ消えてしまった方が楽だと思うんだ・・・」
 目の前で微笑んでいる彼は誰?自分と同じ顔をした、けれど、まるで別人のように見える彼。
 どうして微笑むの?どうしてそんなに悲しげなの?

 血に濡れた手は、誰のものなの・・・・?






†††††††





 アンリは広げていた本を閉じ、長いため息をついた。
 気が付けば、もう夜の闇がそこまで近づいている。屋敷の全てが眠ったかのような静寂。その中からかすかに聞こえてくる足音に、アンリは耳を立てた。
「マルコキアス様」
 立ち上がり、部屋に入ってきた主人を出迎える。マルコキアスはいつもの飄々とした和服姿でアンリを見ると、懐手のまま聡に視線を投げた。
「なんだ?静かだな」
「はい、アスカロト様は倒れられて、松平明も眠っているのかと・・・」
 ふぅんと小さく肯いて、マルコキアスが聡の近くに寄る。
「ネルガルは?」
「ネルガル様は、御自分の部屋にこもられてらっしゃいます。そういえば、先ほどネルガル様のもとにルシフェル様より便りが届いていたかと」
 きびきびと答えるアンリ。すると、その時ネルガルが二人の元にやってきた。
「お越しでしたか。・・・丁度今、ルシフェル様より許可が下りました」
「そうか・・・なら、もう何を待つ必要も無いな」
 ネルガルの報告に肯くマルコキアス。アンリは二人の中で決定されたことがなんであるか、暗黙のうちに理解していた。
「では、アスカロト様に任せるというのは・・・?」
 少しの迷いの後に、アンリが切り出す。すると、ネルガルが聡の傍らに寄って言った。
「目覚める気配のないものに任せるわけにはいかない。魔界に帰らなければいけない事情もできた今となっては、これ以上の時間を費やすことも不可能だ」
 ベルゼビュートは気の長い方ではない。下手な怒りを買わないためにも、なるべく早くにアスカロトを連れて行くべきだとネルガルは判断したのだろう。
 アンリは何を言うこともできずに、俯いた。アスカロトの今後のためにも、この事件はアスカロトに解決させてあげたかった。
「なぁに、みんな揃って辛気臭い顔してるのさ」
 そこへ現れた明。普段着のシャツ姿。手には洗面器とタオルを持っていた。
「悪いけど通してくれるかな。聡の身体を拭きたいんだ」
 三人の身体を押しのけて、聡の傍に寄ろうとする。しかし、それをネルガルが遮った。
「それは断る」
 腕をつかまれ、明はあからさまに不愉快な顔をネルガルにしてみせる。ネルガルは眉ひとつ動かさないままに続けた。
「聡には、手を触れないでもらおう。これは、お前の為に言ってるんだ」
「なにわけのわからないこと言ってるんだよ。聡の世話を、僕以外の誰ができるって言うんだ?お前たち三人には、触れることもできないんだろ?」
 優越感を湛えた表情で、明がネルガルの腕を払う。しかし、今度は聡のベッドの前に、アンリが立ちふさがった。
「・・・なんだお前?」
「聡には触れさせるなという命令ですので、ここを通すわけには行きません」
 穏やかながら、真剣なアンリの目。明は動きを止めると、アンリを見返し、次にマルコキアスとネルガルに視線を配った。
 誰も何も言わないながらも、アンリのその言葉が本気であることを証明している。明は眉を寄せ、アンリの肩に手を乗せた。
「一つ言っておくが、アンリは俺の大切な部下だ。髪の毛一筋程度の傷だとしても、つけたら容赦はしないぞ・・・」
 アンリの肩を掴みかけた明の腕が、ピクリと震えて止まる。マルコキアスは、八重歯を覗かせながら明を見て、ニヤリと笑った。






†††††††





 その頃、アスカロトはベッドの上でパッとその目を見開いた。
 額や首筋には玉の汗が浮かび、荒い呼吸に胸が激しく上下する。おそらくずっと力いっぱい握り締めていたのだろう、震える指でシーツを放すと、身体を起こすこともなく視線だけで周囲を伺った。
 ここはどこ?自分は・・・誰?
 震える口唇。声の出し方さえ忘れてしまったかのように、アスカロトはじっと天井を見つめる。そして、ぎこちない動きでベッドを下りると、すぐには歩き出せずにその場に転んだ。
 膝に力が入らない。自分の身体を腕で支えようとし、それも上手くいかずに床に額をつく。
 頭の中を駆け巡る記憶。あれは・・・一体なに?途端にこみ上げる吐き気。胸はむかつき、頭はギリギリと痛む。目を開けると視界がぐらつき、アスカロトはその場で嘔吐を繰り返した。
 しかし、立ち上がらなければいけない。今自分が見てきたことは、紛れも無い事実のはず。ならば、一刻も早く聡のもとに行かなければ。
 不安定ながらも、立ち上がる。壁を伝いながら、アスカロトは弱々しい一歩を歩き出した。






†††††††





 「な・・・なんなんだよ・・・。確かに、僕の魂は僕の死後に君らのものになるだろうけど、生きてる間は僕に手出しはできないはずだろ?それが、契約だろ?」
 ネルガルとマルコキアスから感じる不穏な空気に、明が後じさりながら虚勢を張る。マルコキアスは笑いながら明に一歩近づいた。
「そうだな、お前の言うことは正しい。・・・ちょっと前まではな」
「ちょっと・・・前までは?」
 あくまでも笑いを止めないマルコキアスを、明がにらみ返す。すると、マルコキアスの代わりに、その背後のネルガルが口を開いた。
「そうだ。お前とアスタロト様との間に交わされた契約は、解除された。いや・・・そもそも契約自体が成立していなかったと言った方がお前には分かりやすかろう」
 瞬間、明が激しい殺気を伴った視線をネルガルに向けた。それまでの育ちのいいお坊ちゃんからは想像もできないほどの、殺意。
 その時、部屋の入り口でカタリと音がした。一瞬で、全員が振り返る。緊迫した空気の中、そこにいたのは、よろめきながらもここまでたどり着いたアスカロトだった。
「アスカロト様!」
 即座に反応したのはアンリだった。しかし、アスカロトはアンリに答えるよりも先に、搾り出すように言った。
「いけない・・・みんな、離れて・・・」
「・・・・・アスカロト様・・・?」
 震える足で、ようやく部屋の中に入ってくる。皆が息を飲む中、アスカロトは上がる息を抑えつつ続けた。
「みんな、その男が殺した。孝蔵は確かに病気で死んだけど、房子を二階から突き落としたのも、病気に見せかけて孝次郎を殺したのも、みんな・・・みんなその男だ。そこにいる・・・聡なんだ・・・」
 アスカロトの言葉に、ネルガルとマルコキアスが小さく息をつく。マルコキアスはネルガルの胸を軽く叩くと、口端をニッとあげて言った。
「意外とデキる奴かもな・・・」
 しかし明は目に見えて逆上すると、アスカロトに掴みかかり、首を締めあげながら叫んだ。
「何を言ってるんだ!聡がそんなことをするわけはないだろっ!言いがかりも・・・」
「違うっ!」
 明を見返す紫の瞳。アスカロトは精一杯の力で抵抗すると、自分を見下ろしてくる明に言い切った。
「俺は見てきた。もう騙されない。・・・・・・聡は、お前だ」



 それは舞い散る桜の中。目の前の彼が差し出した小さな瓶だった。
「僕の全てを君にあげるよ。誰にも君を傷つけさせない。君を守れるのは、僕だけなんだから・・・」
 瞬間、明は聡が毒を持っているのだと思った。
 自分がいるから、兄は争いを避けるために毒をあおるのだと思った。
 迷うよりも先に、身体が動いていた。
 海の底にいるように、全ての音が低く遠くに聞こえる。聡の叫び声も、今は届かなかった。
 踊る桜の花びらが止まって見えるような空間の中で、ゆっくりと伸ばされる腕。明は聡の手にある小瓶を奪い取り、自らの口に運んでいた。
 口内に広がり、喉を潤していく液体。
 飲み下した瞬間に、視界が大きく揺れた。もはや自分の手や足が、自分のものかも分からない。
 遠ざかる全ての感覚。わずかに残った視力の端には、桜の花びらの残像。
 そして、最後に見た兄の顔は、少し・・・微笑んでいるように見えた。
 訪れるのは静寂。なにも見えず、なにも聞こえず。浮いているのか沈んでいるのかも分からない。ただ、自分をぬるく包み込む闇があるだけ。
 目の前でゆっくりと崩れ落ちた明の姿に、聡はしばし呆然と立ちすくんだ。
「・・・・は・・・・ははっ・・・・」
 屈んで明の顔に手を当てれば、ちゃんと呼吸していることも分かる。胸に手を乗せると、緩やかながらもちゃんと心臓が動いていることも確認できた。
 これが、虎狼丸にもらった殺さずの水の力。聡は明を抱きかかえると、桜吹雪の下で暗い夜空を仰いだ。口元には、自然に浮かんでくる笑み。
「はははっ・・・・・ははははははっ・・・・・」
 どこか乾いた聡の笑い声。狂気を湛えたその声は、風にかき消されることなく夜空に響き渡った。



 偽りの明は、アスカロトから手を放し、冷ややかにアスカロトを見つめた。
「明は・・・ずっとお前のことを信じてた。お前の行動がおかしくなってからも、お前のことだけは信じてた。なのに・・・どうしてお前は明を・・・?」
「どうして明を?」
 目の前の彼は、たった今アスカロトが明の記憶の中で見てきた聡の表情に変わると、ハッと吐き捨てるように笑って言った。
「僕が、明をどうしたって言うんだい?殺さずの水で眠らせたことが、そんなにいけないことなのか?」
「明が邪魔だったとしても、こんなことしなくたって良かったじゃないか!明は、喜んで全てをお前に差し出したのに・・・」
 アスカロトの、叫びにも似た言葉。するとアキラは、今までで一番満足そうな顔をしてアスカロトを見た。
「そうだな。それは僕も同感だよ。明は絶対に僕を裏切らない。だからきっと、明はそうしただろう。けれど、それじゃ困るんだ・・・。全てを差し出したいのは、僕の方なのだからね・・・」
「え・・・?」
 アスカロトが眉を上げると同時に、アンリも眉を寄せる。マルコキアスは、壁を背に、小さく息ため息をついた。
「誰が、当主になりたいなんて言った?そんなこと、一度だって言ったことは無いのに、どうやら継承権は僕にあるらしい。でも、それは困る。僕は妻を貰う気だって無いし、なにも欲しいものなんか無い・・・・明以外にはね」
「・・・お前・・・」
 アスカロトは混乱しそうな頭で、なんとか状況を整理しようとする。ということは、目の前のアキラは明が邪魔だったのではなく・・・。
「幼い時は母以外の誰にも、僕らの区別なんかつかなかったんだ。聡は明であり、明は聡でもある。どちらにでも成り得た僕たちは、鏡を見るよりも先に、お互いの顔を見て育ったんだ。それを、自分としてね・・・」
 アキラが欲しかったのは、明。それも、誰にも汚されず、誰のものにもならない明。
 物心つくよりも先に愛した、たった一人の双子の弟。
「明は繊細だから、眠ったままの方がいっそ幸せなんだ。だから、あの夜アスタロトに言ったのさ。彼に財産を相続させ、幸せな一生を迎えさせることができるのなら、僕の命などくれてやるってね」
 アキラはなぜか、とても楽しそうだった。全てが明らかにされたことで気が楽になったのか、それともすでに望みの殆どが叶えられているからか。
 アキラはポケットに手を入れると、床に膝をついたアスカロトを見下ろした。
「どうだろう・・・。確かに僕は明の名を語った。それは、僕が明にならなければ、明を聡として当主にし、その傍にいることが叶わなかったからだ。でも、どっちにしてももう明は目覚めない。明の名を語ったことで契約が反故にされるのだったら、聡として新たに契約をすれば・・・」
「それは不可能だ」
 アキラの言葉が終わる前に、ネルガルの低い声がそれを遮る。アキラは不快な顔でネルガルを振り返ると、ため息混じりに言った。
「なんだよ、僕が母を殺したからか?肉親殺しは重罪だって?やらなければこっちがやられてたとしても?叔父と姦通し、父の死んだ後に息子の僕たちよりも、叔父に後を継がせようとしたのは母だぞ!それでも母の方が正しいって言うのか?」
「母親が正しいとは言っていない。松平房子の罪は、その魂を査定する際に考慮されるであろう」
 冷静なネルガルの声。そして、アキラがそれに対して何かを言おうとした瞬間。アスカロトが小さな声で言った。
「それに、契約はもう・・・されている」
「なに?」
 再び、勢いよくアスカロトを振り返るアキラ。アスカロトは、眠る明に視線を投げ、続けた。
「お前がアスタロト様と契約をするずっと前に、明が・・・本物の松平明が、アスタロト様と契約をしているんだ」





 明は半信半疑ながら、その箱の中にあった本の通りに、魔方陣を描いてみた。
 日も時間も本に載っている通り。部屋の古びた箱の中にあった不思議な本。そこに書かれていたのは、悪魔の呼び出し方であった。
 自らの魂と引き換えに、なんでも願いを叶えてくれると本には書いてあった。
 本当だろうか?疑いはしたが、祈ってはいた。本当であって欲しいと・・・。
 そして、本に書いてある召還のための言葉を唱える。・・・と、間もなく魔法陣の中に、何者かが現れた。
 彼はたとえようもなく美しかった。目にしていることさえも疑うほど。過去にこれほど美しいと感じるものを、明は見たことなどなかった。しかし、性別を越え、引力さえも感じさせるほどの魅力を持つ彼が明を見た瞬間、明の背筋にはそのまま凍りつくかと思うほどの冷たいなにかが走った。
 今までの自分の中の確かなものが不確かなものへと変わり、グラグラと音を立てて崩れていくような気さえする。どうしようもなく惹かれる気持ちと、同時に沸き起こる恐怖心に、明はそこから一歩も動けずにいた。
「お前か・・・?私を呼んだのは・・・」
 血に濡れたように赤い口唇が、静かに動く。よく見れば左右の目の色が違う。向かって右側の淡い緑色の目と違い、反対側の金色の目は肉食獣のもののように鋭く光っていた。
「そ・・・そうだ・・・私だっ・・・」
 自分でも、口唇が自然に動いてないのがよく分かる。しかし、悪魔と契約をするときには、毅然とした態度で臨むことと書いてあった。弱みを、決して悟られるなと・・・。
「ほう。こんな本がまだ残っていたか・・・。道理で、めずらしい呼ばれ方をしたものだな」
 喉をかき切れるような、細く長い爪。白い指先が明の持った本を指す。
 彼が言葉を発するたびに、周囲の空気全てが細かな震動を繰り返し、明を包んだ。
 これが、悪魔。
 明は二の句が告げないままに、じっと彼の白い肌を見つめる。
「さぁ、用件を言うがいい」
 決して温かいとはいいがたい微笑で、明を見下ろす。
 彼の艶やかな髪が、サラリと揺れた。





「そう、お前がアスタロトを呼び出すよりも先に、明はアスタロトと契約をしていた。アスタロトは同じ名前同じ顔の人物から別々の依頼を受けたことを不審に思って、この二人をここに寄越したってわけなんだよ」
 マルコキアスの言葉に、アキラは驚きに目を見開き、眠る明を見つめた。
「じゃあ・・・なんでお前は、僕に協力を・・・?」
「協力?さぁね、なんのことだか。俺が協力したのはただ一人、アスタロトにだけだ・・・」
 腕を組んだままで、マルコキアスが笑う。アキラはキッと目に力を入れると、アンリを押しのけ、明の眠るベッドの向こう側に回った。背後の窓には、打ち付ける雨。
「おっと、言っておくが、罪を犯したお前の魂じゃ、明の望みを覆すほどの契約はできないからな。ついでに、お前に踊らされて殺人の片棒を担がされた挙げ句、お前に消された医者は、そこに証人として連れてきてるぞ」
 視線の先には、診察室でマルコキアスを出迎えた、密告者の魂。
「それに、契約を交わすには、大事なコトがお前には欠けている」
 明に触れようとするアキラに、マルコキアスが投げかける。アスカロトはベッドの近くに歩み寄り、アキラの次の行動に注意した。
「大事なコト・・・?」
 ジリジリと間合いを取りながら、明に近づくアキラ。望みが叶わないと分かった今、アキラが明を道連れにすることは充分に考えられた。
「あぁ、そうだ。お前には分からなくても、俺には分かる。なんなら、お前自身にも良く分かる形で、そいつを証明してやるよ」
 と、次の瞬間、マルコキアスはアキラに対して警戒をしていたアンリを軽く手で制した。同時に、アスカロトにも目で合図する。手を、出すなと・・・。
「え・・・?でも・・・」
「マルコキアス様の言うとおりにしろ」
 戸惑うアスカロトに、ネルガルが短く告げる。アスカロトは不安げながらも小さく肯くと、ベッドから一歩退いた。
 アキラは不敵な笑みを浮かべて、少しづつ明に近づく。そして、明の微動だにしない身体を覆っているシーツをはぐと、捨て台詞のように言った。
「なんだ・・・僕を捕まえなくていいのか?野放しにするなら、明を連れて行くだけだ。願いが聞き届けられないのなら、僕の魂も明の魂も渡しはしない!」
 そして、アキラが明の身体に手を伸ばす。キラリと光るマルコキアスの瞳。アキラが眠る明の腕を掴み、引き寄せようとしたその時だった。
「ぎゃあっ!」
 突然の激痛に、アキラが左手を広げたまま床に転がった。開いた手の平には、真っ赤な火傷の跡。力強く握ったせいか、それはアンリの怪我よりもずっと重く、表面の皮膚は焼け爛れて溶けていった。
「アキラッ!」
 叫んだのはアスカロトだった。
「なんだよネルガル!どうして、アキラがっ?」
「お前の血を飲んだからだ・・・」
 隣からアスカロトの疑問に答えたのはネルガルだった。
「堕天直後とはいえ、悪魔のアスカロトの血を飲んだのだ。殺さずの水でこの明が清められたように、お前は闇に近い身体になったのだ。今のお前は、明に触れることはできない」
 そして、冷静にネルガルはアキラに現状を告げる。
「なにっ・・・」
 肉の焼ける嫌な匂いが部屋に充満する。爛れていく手を右手で掴みながら、アキラが苦しげにうめいた。額には、汗が浮かぶ。
「安心しろ。本物の松平明の願いは、ちゃんと聞き届けられるだろうよ」
 皮肉っぽく笑うマルコキアス。アキラは立ち上がると、全員を半睨みで見返しながら、二、三歩後じさった。
「明の願いとは、なんだったんだ?」
「さぁ・・・それは、契約者でないお前に言うことはできないねぇ」
 あっさりと答えたのもマルコキアス。アキラは口惜しげに口唇を噛むと、さらに二、三歩後じさる。そこで背が窓に触れ、アキラは軽く振り返り、それ以上後には引けないことを悟った。
「はっ・・・そういう訳か。これが結末ってやつか・・・」
 アキラは視線を全員に配りながら、右手でゆっくりと窓を開ける。アスカロトがそれを止めに入ろうとしたが、今度はネルガルがアスカロトを手で制した。
「所詮、悪魔は悪魔だな・・・。願いなど、託すものではない・・・か」
「待てっ!」
 アスカロトが叫ぶよりもほんの少し早く、アキラが窓枠に登る。ネルガルの手を振り切ってアスカロトが飛び出すと、ほぼ同時に、アキラの身体も窓から外へと舞った。
「アスカロト様っ!」
 アンリの叫びも虚しく、アスカロトはアキラの身体を追いかけて窓から飛び降りる。全員が窓辺に駆け寄ると、瞬間、暗い窓の外に真っ白い閃光が走った。
 暗い闇を跳ね返す、純白の光。
 雨の粒を乱反射させる、清らかな光。
 そう見えたものは、腕にしっかりとアキラの身体を抱きとめたアスカロトの背から左右に広がった、アスカロトの羽だった。
「なんだ・・・ありゃあ・・・」
 笑いの消えたマルコキアスの口から、思わず零れた言葉。自らも上級天使の羽を持つマルコキアスでさえ、アスカロトの羽には驚かざるを得なかった。アンリも、主人の隣で言葉を失っている。
 これが初めてではないネルガルも、アスカロトの羽を見つめて息を飲んだ。穢れることなどありえないようなアスカロトの翼。どこまでも清廉な、二つの白い光。
 青白い光を放つアスカロトの羽は、ゆるやかに羽ばたき、アキラを抱えたまま雨空の中を飛んでいく。
「おい・・・追わなくていいのか?」
 我に帰ったマルコキアスが、力なく呟く。ネルガルが顔をあげると、アンリが窓枠に手をかけて叫んだ。
「私がっ!」
 直後に広がるアンリの灰色の羽。遠目にもまだ見えるアスカロトの白い羽を追って、アンリが雨の中を飛んでいく。マルコキアスは視線をネルガルに戻し、何かを言おうと口を開く。しかし、結局何も言えないままに視線を床に落とした。
 そして、ネルガルもそれを分かっているかのように、何も言いはしなかった。






†††††††





 アスカロトは、アキラを抱えたまま夜空を上へ上へと飛んでいた。
 顔に打ち付ける雨に薄く目を閉じる。本当はどこかに降りたかったのだが、元々あまり飛んだことのないアスカロトは、どうしたらいいのか分からなかった。
「放せ!僕をどうするつもりなんだっ!」
 腕の中でアキラがもがく。アスカロトはそんなアキラを放さないようにギュッと抱きしめた。
 しかし、アスカロトにもどうするつもりかなんて分からなかった。ただ、咄嗟に身体が動いていた。あのまま、アキラを逝かせてはいけないという強い気持ちだけがあったのだ。
 時折、光って見えるのは雷だろうか。渦巻く雲を真上に見ながら、アスカロトがぎこちなく止まってみると、やっと横に飛ぶことができた。
「アスカロト!」
 叫ぶアキラ。眼下に広がるは、ただ漆黒の闇。アスカロトは息をつくと、声の限りに叫んだ。
「これで終わりにできるわけないだろっ!」
「お前にそんなこと言えるのかっ?僕の魂を回収に来たのはお前らじゃないか!」
 アスカロトの身体に腕をかけ、離れようとする明。雨で滑る肌、さすがに一人分の体重を支えるには限界があった。
「動くな!本当に落ちるぞ!」
「アスカロト様!」
 アスカロトが叫んだ瞬間、背後から聞こえてきたのはアンリの声だった。
「アスカロト様、いけません!お戻りください!」
「でも、アンリ・・・」
 雨に濡れそぼったアスカロトの身体。それでも、羽はそこだけくっきりと美しく輝いていた。
「いいから放せよ。僕だって、これで終わるだなんて思っちゃいない・・・」
「え?」
 痺れる腕からは徐々に感覚がなくなっていく。アキラの言葉に、アスカロトとアンリの神経が向けられた時だった。
「お前も早く気づくんだな、ネルガルの身体にある、あの・・・」
 強い風の音に混じって、それでもはっきりと耳に届くアキラの声。しかし、次を続けようとした瞬間、今までに無い大きな光が三人を包んだような気がした。
「アスカロト様ーーっ!」
 遠くに響く、アンリの声。





 眼下に広がるは、ただ漆黒の闇・・・。






†††††††





 雨上がりの晴れた午後、本物の松平明はベッドの上で静かに目を覚ました。
 ベッドの脇には見知らぬ顔。明は当惑を隠さぬまま、ベッドの脇に立っている金髪の青年を見つめた。
「あ・・・あの・・・」
「松平明だな」
 唐突に問われ、考える間もなく肯く。窓辺に視線を投げると、不思議な服を着た長髪の少年が、不機嫌そうに窓の外を眺めていた。腕や脚には小さなかすり傷が無数にある。それはまるで、林の中を走り回ったかのようだった。
「アスタロト様の命により、お前との契約を果たしに来た。お前の望むものは兄・聡の家督相続・・・だったな?」
 それにも無言で肯く。アスタロトの命ということは、この人物も悪魔?もしかして、窓辺の少年も・・・?
「しかしながら、聡は、聡という存在そのものをお前に託したのだ。よって、今後はお前が聡として家督を継ぐがいい」
 一瞬、明は自分が何を言われているのか分からなくなった。いきなり、聡になれと言われたという・・・ことか?
「それは・・・どういう?兄は?兄はどこにいるのですか?」
 明がそういうと、窓辺の少年がゆっくりとこちらを見た。目の色が少し変わって見えるのは、気のせいだろうか?
「さぁ・・・どこにいるんだろうな・・・」
 少年はそれだけ言うと、再び口を閉ざして窓の外を見た。
「自分の身に、なにが起こったのかを知りたければ、秘密屋の虎狼丸を訪ねるがいい。ただひとつ言えることは、お前は通常の人間よりもはるかに長い時間を生きられるようになってしまったということ。そして、それをしたのは、お前の兄だということも・・・」
 金髪の青年はそういうと、ベッドの傍らに小さな瓶を置いて続けた。
「お前を目覚めさせるために使った。もしも、早々に己の魂をアスタロト様に引き渡したくなったら、これを飲むがいい。その時改めて、回収に来よう」
 明は身体を起こそうとし、思うように動かないことを悟る。一体自分は、どれだけの間眠っていたのだろう。窓の外に、あんなに綺麗に咲いていた桜の花は一輪も無くなっていた。
 そして、金髪の青年は窓辺の少年を促すと、部屋から出て行こうとする。明は軋む身体を横に倒し、固まった腕を伸ばした。
「ま・・待てっ!お前は、一体・・・」
 すると、二人が部屋の入り口で振り返る。青年は冷ややかな視線で明を見ると、形のいい口唇をゆっくりと動かして言った。
「私の名はネルガル。そして、これは助手のアスカロト。・・・地獄から送られてきた、悪魔だ」
 明は、口唇を半開きにしたまま、何も返せずに二人を見る。ネルガルとアスカロトの二人は、再び明に背を向けると、そのまま空気に溶け込むようにその姿を消した。
 そこにあるのは、いままで通りの部屋の入り口。そよぐ風の音が、時が流れていることを教えてくれた。
 明は、網膜に焼きついた二人の姿を追いながら、いつまでも部屋の入り口を見つめていた。





 アキラの行方は、ようとして知れない。



−第一章 ・ 了−

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