「プロポーズ」未成年の主張−サイト一周年記念番外編
乙姫
静香
カオル、高校三年生の夏。
その日は突然やってきた。
丁度一年前、イギリスに交換留学生として旅立ったユキヤが、日本に帰ってくることになったのだ。
「俺、イギリスには行きたいけど、先輩とも一緒に居たいです」
涙ながらにそう言ったユキヤを、「たった一年くらい何てことないさ」と送り出したものの、「たかが一年、されど一年」と感じたのは他ならないカオルの方であった。確かに、電話や手紙は出来る。今はメールなんて有り難いものもあるから、距離は感じないように思えた・・・が。
やっぱり会えないと淋しい。ユキヤの無垢な笑顔がどれほど自分を癒していたか、いまさらながらに実感した。心変わりなどするはずもなくこの一年は過ぎたものの、メールの文面からも感じ取れるユキヤの微妙な変化が気になる。それはユキヤの心変わりというよりも、確認できない成長というか・・・。
だからカオルは走った。
一刻も早くユキヤに会って、自分の懸念を吹き飛ばしたかったから。
ユキヤは放課後に顔を出すとのことだった。昨日寮に着き、今は荷物の整理と、時差ぼけ解消の昼寝らしい。
授業を受けることすらかったるい。受験生だから授業はしっかり受けるけど、心ここにあらず状態が一日中続いた。
最後の授業が終了するチャイムが鳴り、カオルがダッシュで走り出す。生徒会室に顔を出すと、ユキヤはまだ寮に居るとのこと。再びダッシュで寮へと走る。
部屋は以前と同じで、同室の相手も一緒だった。
「ユキヤ!?」
ノックと同時にドアを開ける。・・・・が、そこには誰も居なかった。
部屋の中には片付けしきれない荷物が置かれている。段ボールの外には何やら英語で書かれていた。
Yukiya・・・と読める。やっぱりユキヤは帰ってきてるのだ!
「あれ?先輩?」
この声は・・・。忘れる筈もない、ちょっと高めのキュートボイス。この胸くすぐる天使の囁き。
そう・・・・ユキヤだ!!!
「ユキヤッ!!!」
バッと振り返る。と、そこには少し背ののびたユキヤが立っていた。
髪も少し伸びたようだ。黒いストレートの髪が少し肩に触れる。けれど首を傾げて微笑む姿も、物腰の柔らかさも変わらない。昔通りのユキヤがいた。
「先輩っ!!」
「ユキヤっ!!」
すぐに駆け寄り抱きしめる。久々の再会だから、ちょっぴり大胆でもいいよね、とカオルは誰へともなく釈明。ユキヤもカオルの背に手を回して抱き返す。きゅっという感触が、心地良かった。
「先輩・・・俺、会いたかったですよう」
「俺も会いたかったよユキヤ!一年がこんなに長いなんて思わなかったよ」
じ〜ん・・・っと感動の再会。そのまま二人はベッドに腰掛けると、今までのブランクを埋めるかのように話し始めた。
イギリスでの生活のこと。学校のこと。生活のこと。友達のこと。
ユキヤが居なくなった後の東月学園のこと。生徒会の様子。・・・などなど。
どれも既にメールや手紙で知っていることが殆ど。でも口で話すのはやはり違う。二人は時間を忘れて、話に没頭した。
寮に差し込む日が徐々に傾いて行く。夕飯の時間まであとわずかとなった時、カオルが言った。
「じゃあ、俺そろそろ行った方がいいかな?夕飯食べ損ねると困るもんな」
そう言いながらも、本当はもっとユキヤと居たい。できれば本当は、再会の・・・・キス・・・とかしたいなと思っていたのだ。
「え?先輩もう帰っちゃうんですか?せっかく同室の奴が今晩いないのに・・・」
・・・・・・・え???ど・・・いないってどういうこと?で、それをユキヤが自分に言うのはどういう意味だ?とカオルは思う。それってそれって・・・・。
「一年前にした約束・・・俺、ずっと覚えてて・・・・」
どっくん!カオルの胸が壊れそうなくらいにフルスピードで高鳴り始める。
一年前にした約束。それは・・・・・。
『ユキヤが無事に戻ってきたら、初夜しようね』
というものだった。
そんな、そりゃあその気はあるけど、でもでも今夜?そんな唐突に?しかもユキヤの寮で?今日は、予定を決められるかなとか思ったけどさ、でも・・・予定をすっ飛ばして本番??いやあの、本番って言ってもそういう意味じゃなくって・・・・。
頭の中はショート寸前。カオルは自分の目が泳いでいるのを自覚していた。
「先輩は・・・忘れちゃったのかなぁ・・・?」
しゅ〜ん。そんな形容が似合いそうなユキヤ。カオルはユキヤの手を取ると、ぎゅぎゅぎゅっとその手を握り締めて言った。
「そ・・・そんなわけないって!覚えてるよ!その・・・ユキヤと・・・・」
二人が見つめあい、ポッと赤くなる。
それにしても付き合いだしてからすでに数年の二人。この初々しさはいったいいつまで続くのか?それとも、いままさにその初々しさに節目が来る時なのか?
「やっと・・・初夜、できるんですよね?」
「ユキヤ・・・・」
はにかむように俯くユキヤが、上目遣いでカオルを見上げる。そのいじらしい仕種に、カオルは困ったことに臨戦態勢になりかけた。
いやいやいやいや。おいおいおいおい。いいのかそんなことで?もっと・・・なんつーか、ちゃんとした状況で・・・いやでも、ムード的にはすでに満点。ど・・・どどどどうしよう!!
でも、これなら念願の再会のキスをしてもこばまれなさそう。大丈夫かな?と思いつつ、カオルがユキヤに顔を寄せる。ユキヤは静かに目を閉じて、カオルの口唇を待った。
そっと触れ合う口唇。最初は触れるだけ。それがちょっと押し付けられ、ぎこちなくお互いの口唇が半開きになる。カオルが手に汗を握りながら、ゆっくりと舌を絡めた。
「んっ・・・・」
ピクンとユキヤの身体が跳ねて、目が薄く開かれる。うす闇の中でカオルも少しだけ目を開けて、ユキヤの様子を見た。
ユキヤは少し驚いたものの、その頼りなく動く舌の動きにすべてを委ねている。心なしか上気して見える頬がなんとも愛らしかった。
「っ・・・・ん」
ゆっくりと離れる口唇。夢を見るような瞳でお互いを見交わす。
「なんか・・・先輩・・・・いつもと違う・・・」
うっとりと呟くユキヤに、カオルが照れて頬を染める。それからどうしようかなとカオルが躊躇していると、ユキヤが自分のカッターシャツのボタンに手をかけた。
「え!?・・・ユキッ・・・・」
カオルが驚いている間に、ユキヤがプツプツッとボタンを外して行く。
「俺もね、イギリスで勉強したんです・・・・・」
勉強?どう捕らえていいのか分からない単語に、カオルが心の中で首を捻る。ユキヤはシャツの前ボタンを全て外したものの、やはり恥ずかしいのかそのシャツは脱がずに、カオルの方に向き直った。はだけた胸の白さが眩しい。
「べ・・・・勉強って・・・・?」
「もちろん。初夜の勉強です!」
そんな、勉強っつったって、どうやってそんなこと?
「イギリスのみんなはとっても親切で」
「親切ぅっ!?」
待て待て待てい!!!どういうことだ?まさか・・・まさかユキヤ・・・・?
「俺の知りたいこと、たくさん教えてくれました!」
さーーーーーーっ
カオルの血の気が見る間に引いて行く。まさか・・・エゲレス野郎にユキヤは・・・?
「あ、もちろん実践なんてしてないですよ!俺も、先輩以外の人となんて考えられません!!」
ユキヤ・・・。あぁ、なんて可愛いんだ!オーマイスイートエンジェル!
カオルは高鳴る気持ちのままにユキヤを抱きしめる。一瞬でも疑ってしまった自分を恥じながら、無垢なユキヤがウマイ言葉に踊らされてないことを喜んだ。
「先輩。もう一度、キスしてください・・・」
うわっ!なんて大胆なセリフ!!鼻血が出そうになりながらも、カオルは言われるがままにユキヤにくちづける。とユキヤの片手がそっとカオルの胸にそえられ、その手がゆっくりとカオルのシャツのボタンを外し始めた。
絡める舌はさっきよりも幾分大胆に動き出す。カオルの前がすべてはだけられ、ユキヤがカオルのシャツをはらりと脱がした。
「えっと・・・・・」
ユキヤは教わったこととやらを思い出しているのか、時折手を止めて考え込む。そんな様子を、カオルはただ可愛いなぁと思いながら見つめていた・・・が。
「ここで、チャックを下ろして・・・・」
呟いたユキヤのセリフに、カオルが固まる。何をするのかと思っていたら、ユキヤの手がカオルのチャックに添えられた。
「まっ・・・まっまっ待って!!!」
「え?どうしたんですか先輩?」
「どうしたんですかじゃなくて!な・・・なにをするつもりなの??」
「なにって・・・・」
繰り返した後、ユキヤが恥ずかしそうに口に手を当てる。カオルは怖い想像に、思わず現実逃避をしそうになってしまった。
「まさか・・・俺の・・・・」
ボンッ!カオルの言葉の瞬間に、ユキヤの顔が爆発しそうに赤くなる。それですべてを察したカオルは、両手を前で広げ、後じさりながら返した。
「い・・いいから。それは、本当にいいからっ・・・・」
自然と片手がチャックを押さえる。いまそんなことをされたら、恥ずかしさで失神してしまうかもしれない。おまけに即・・・もしそうで。
「でもっ・・どっちにしてもチャック外さないと、その次が・・・」
「次って・・・・・なに?」
疑わしい目つきでカオルがユキヤを見る。ユキヤの向こうの友達とやらは、一体どんな奴だったのか・・・?
「先輩の・・・・その・・・・」
ゾクッ
嫌な予感に、何故かカオルは振り返る。いや、別に背後に誰かが居る訳ではないんだろうけど・・・。
「先輩・・・俺のこと、嫌いになったんですか?」
「えっ!?」
思わぬユキヤの発言に、カオルが慌てて振り返る。カオルとしては驚いただけで、ユキヤを嫌いになるだなんてとんでもない勘違いだ。嫌いになんて、なれるわけないのに。
「なんだか・・・先輩が嫌がってるように見えるから・・・・」
今にも泣き出しそうなユキヤに、カオルが目の前に出した両手をふるふると振って見せる。
「そんな!俺がユキヤを嫌いになるなんて・・・。ただ、ユキヤがあまりにも積極的でちょっと驚いただけだよ。ユキヤのこと・・・だ・・・大好き・・・だよ」
ぷしゅるしゅるしゅるしゅる
そんな一言を放つだけで、カオルは魂が抜けていきそうなほど放心する。いやでもしかし、今日は初夜なのだ。こんなことで負けてはいけない!
「よかった!先輩!!」
ユキヤが飛びつくように抱きしめてくる。そのままベッドの上に横たわり、ユキヤがカオルの上にのしかかった。
「先輩っ!大好きです・・・・」
ちう・・・っと口唇を奪われ、カオルの一部が緊張する。これはこれは、もしかして?と思った時、ユキヤの頭が少し下に移動した。
ん?どうしたんだ?
と思う暇もなく、襲ってくる刺激。そのあまりな感触に、カオルが声をあげた。
「んっ・・・・なっ・・・?」
ビクッと身体が震え、背中が反り返る。ジンと響いてくるような感覚。カオルが目を丸くして見ると、ユキヤがカオルの胸を吸っていた。
「ちょっ・・・ユキっ・・・」
ちょっと待てと言う間もなく、ユキヤは次の刺激をカオルに与える。カオルはユキヤのシャツを力無く握った。
「やっ・・・」
これって、なんか違うんじゃないか?とカオルの中で警報が鳴り響く。このままじゃ・・・このままじゃ・・・・。
「ユキヤッ!」
はぁはぁと肩で息をしながら、カオルがユキヤの肩に置いた手に力を込める。それでなんとか距離を保ちつつ、カオルはユキヤの目を見た。
「どうしたんですか?先輩・・・・良くなかったですか?」
良くって・・・違うでしょ?俺とユキヤがすることって違うでしょ???
「ちょ・・・ちょっと待ってユキヤ。初夜って・・・一体どんなものだと思ってるの??」
「それは・・・・」
再び恥じらい、口に手を当てるユキヤ。しかし、これで流されたらヤバイことになりそうだと、カオルはキッパリ言った。
「お願い!はっきり言葉で説明して!!!」
そんなカオルの声に、ユキヤもなにかおかしいのかな?と首を傾げる。次の瞬間、恥じらいながらもユキヤが形のいい口唇を動かして言った。
「あの・・・俺の・・・・を、先輩の・・・・・に・・・」
ふぅ〜〜〜〜〜っ
意識が遠のきそうになって、カオルがベッドに倒れ込む。するとユキヤが驚いてカオルの肩を揺さ振った。
「先輩!しっかりしてください!!俺!一生懸命イメージトレーニングもしたんですけど、違うんですか!?先輩!!!」
再び、ちうっと重ねられる口唇。カオルはかろうじて失わずに済んだ意識で、虚ろに目を開けた。
絡まる舌。そしてユキヤの手が・・・・・。
「駄目!チャック下ろしちゃ!!」
「でも、先輩。俺・・・一生懸命しますから」
「一生懸命でも駄目〜〜!!!」
しかし、カオルがテニス部ならユキヤも合気道部。腕力で簡単に負ける筈もなく・・・・・。
「駄目〜〜〜〜っっっ!!!!」
カキーンッ
どこかでノックの音が聞こえる。
もしかして俺・・・・失ってしまったのだろうか?
そんなことを考えながら、カオルは瞼に鈍く感じる光に目を開けた。
「先輩!?大丈夫ですか!?」
ユキヤの心配そうな声。ユキヤの・・・ユキヤの!?
「ぎゃあ!!!」
跳ねるように飛び起きて、カオルは左右を見回す。その場に居たのは、ユキヤとマルガリ、そして相棒のトモキであった。
「先輩、しっかりしてください!俺のこと・・・分かりますか?」
ユキヤが心配そうに呟く。あれ・・・・・髪が、長くない。
「あれ?ユキヤ・・・イギリスは?」
「イギリス?なんのことですか?」
マルガリとトモキもなんのことだ?というような顔をしている。カオルは一体何がなんだか分からずに、頭を振ってみせた。
「すみません。野球部の練習の玉があたって・・・僕の愛しいカオル先輩に怪我をさせるなんて。もう少しで人工呼吸を試みるところでした」
よかった目が覚めて!・・・と心の底からカオルが思う。あと少し遅かったら、本当に奪われるところだった。・・・・が、え?
「なんで・・俺のシャツ・・・・ボタン外れてるの?」
「あ、それはこいつが心臓マッサージだとか言って・・・」
と、トモキがひょうひょうとミソノを指差す。カオルは一瞬目を丸くし、即座にグーでミソノの額を小突いた。
「心臓が止まってもいないのに、なんでマッサージの必要があるんだよ!!」
「一瞬の躊躇が愛しい人の死に繋がるかもしれないと焦りまして・・・・」
ミソノはというと、小突かれたことさえも素敵な接触とばかりに、二発目のグーを狙ってにじり寄る。カオルは逃げ腰になりながら、シャツの前を素早く合わせた。
「で、先輩。本当に大丈夫なんですか?」
これは傍らに座っているユキヤ。部活中だったのか、袴姿も可愛らしかった。
「え?あぁ、なんか痛いけど、たんこぶ位だろ?どうせ?」
「ちゃんと保健室に行きましょう?俺、心配です」
本当に心の底から心配しているのが分かる。カオルは、夢の中で拒絶したことをちょっぴり反省した。だからと言って、そういうポジションでいいという訳ではないけれど。
「じゃあ保健室に行こうかな?」
「いやに素直じゃねぇか。気持ち悪いなぁ。ユキヤ、一緒に行ってくれるか?俺は練習に戻るから」
ダブルスのパートナーなのに、トモキはなんとも冷たい。それともこれも、気を使ってるってことなのか?いや・・・違うな。
「はい。分かりました」
ユキヤはというと、単純にカオルと一緒に居るのが嬉しいのか、にこっと微笑み立ち上がる。
「さ、先輩行きましょ?立てますか?」
「あぁ、うん」
答えて、カオルも立ち上がる。トモキは、未練顔ですがり付きそうなミソノを引っ張って、どこへともなく消えた。
夢だったけど・・・・夢、なのかな?
ちょっぴりカオルは不安になる。それは上下問題ということでなく、ユキヤがイギリスに行ったこと。夢の中の自分はなんか妙に理解があったみたいだけど、実際に考えて見るとユキヤがいなくなるなんて考えられない。
「ねぇユキヤ・・・・」
「はい。なんですか?先輩?」
保健室への廊下でユキヤがカオルを見返す。カオルは、少し言いにくそうにユキヤを見て、それでも零した。
「留学とか・・・したいと思う?」
「あはは。さっきもイギリスがどうとか言ってましたね?無理ですよう。俺のばっちゃんが絶対に許しませんから。成人するまでは外国なんかにでかけるなって言ってます」
ビバばっちゃん。カオルは心の中でガッツポーズ。
するとユキヤがポッと頬を赤らめて言った。
「そう言えば、結婚すると新婚旅行とか言うものがあるんですってね?」
え?新婚旅行?どうしてそんなことを・・・・・・?
あ・・・・・・・・・。
「うん。・・・・・あるね」
カオルもつられて赤くなる。そして、しばらく黙って歩く放課後の廊下。
どちらからともなく立ち止まると、カオルとユキヤはお互いに目を向けて言った。
「一緒に・・・・・」
声が重なり、二人で驚く。次の瞬間、その驚いた顔が微笑みに変り、二人は手を繋いで歩き出した。
「今は、保健室ね」
カオルが呟き、ユキヤが笑う。
初夜にはまだまだ遠いけど。
それでも、二人は充分幸せ。
遅くなりましたが、サイト一周年記念の未成年の主張番外編です♪
「プロポーズ」というのはシーナ&ザ・ロケッツの曲のタイトルから
そのまま頂いてしまいました(^^;)私の中で「未成年の主張」の主題歌なもので・・・。
最近未成年の更新が遅いので、未成年ファンの方へこびこび・・・・。
そして、本当の初夜はいつやってくるのか・・・・??