CRUCIAL AFFAIRS 2

                                  乙姫静香




 「いい加減、退院して下さいよ〜」
 情けない顔で医者が言い、目の前のタカシはポヘーッとした顔で傍らの看護婦を見つめていた。
「治りかけるたびに病室で不埒な行いに興じて。その度に退院が延びてるじゃないですか。本当はとっくに退院して、リハビリだって進んでる筈なんですよ」
「ほわ〜い」
 気の無い返事で目の前のメガネ面を見る。それでも頭の中では看護婦のことが巡り、今度あのカッコウしたらマコちゃん燃えちゃうかなぁ・・・などと考えていた。
「隣りの病室のおじいさんは妙に元気になっちゃって・・・。前は看護婦のお尻を触るような人じゃなかったんですよ!聞いてますか?安藤さん??」
「ほわ〜い」
 パジャマの隙間から手を入れて、ぽりぽりと胸を掻く。そういやマコちゃんと最後にしたのっていつだっけ〜?と記憶をさぐった。
「とにかく、もう退院してもらいますからね!」
 勘弁して下さいと言わんばかりの顔で、医者が言い放った。
 あの事件から、そろそろ一年が経とうとしている。
 ありゃりゃ、何時の間にかそんなに時間が経っちゃったのねと思いながら、タカシは空を見上げた。この病室にもそろそろ飽きたしなぁ。そういや自分もハタチのオジサンなんかになっちゃってるし、話を聞くとみんなもなんだか変わったらしい。ただ、たった一人、変わらずにいて欲しい相手は、本当にそのままのようだけど。
「元キング!例の準備が出来ました!」
 エンデンジャーの声に、眠たげな瞳を少しだけあげる。タカシは振り返ると、伸びた髪にカチューシャをつけ、言った。
「じゃあ、そろそろ退院でもしちゃおうかな〜ん」





 「と、いうわけで、これをマコトさんに渡すようにって」
 そういって、ワッキーに渡された封筒をマコトは見つめた。なんてことはない白い普通の封筒。携帯だってあるのに、なんだってこんな?とマコトが思っていると、目の前のワッキーと目が合った。
「あの、マコトさんが見たこと・・・確認しないと」
「あぁ?・・・あぁ、そうか」
 そういうことなら・・・と、マコトが封を切る。中に入っていたカードを取り出すと、ワッキーが身を乗り出して覗き込んできた。
「ちょっ・・・」
 下唇を突き出したマコトは首を捻って背中を向ける。とりあえず見られないようにガードをしながら、カードを覗き込んだ。
『退院しちゃいましたぁ。会社つくっちゃいましたぁ。ってことで求人』
 やる気があるんだかないんだか分からない文字で書いてある。マコトは一気に読んで、声をあげた。
「なんじゃこりゃ?」
「そういうことッス!」
「うわっ!」
 自分の背中越しに聞こえて来る声に、驚いて振り返る。やっぱり覗いていたワッキーが、満面の笑みで肯いていた。
 覗くなよ・・・という言葉を飲み込んで、マコトがワッキーを見返す。ワッキーはというと、その視線の意味に気付くこともなく、えへへっと微笑んでいた。
「マコトさんも面接受けて下さいよ。面白いッスよ」
 面白い面接?まったく話の状況が見えないままに、マコトが首を傾げる。
「とりあえず、そこが本社ですから」
 と、カードに書いてある住所をワッキーが指差す。
 やっぱり池袋。っつーか、タカシが他に行くのも変だしな・・・とマコトは思った。





 雑居ビル?
 夜の池袋。マコトは今にも崩れ落ちそうな古ぼけたビルを見上げる。人の気配もなく、かといって変なものの気配だけはしそうなコンクリートの固まり。まぁ、でも住所は合ってそうなのでとりあえず中に入った。
「すっげー」
 動くのかさえもあやしいエレベーター。とりあえず上を押すと、ロボットが地下から這い上がってきそうな音がする。ゴゴゴゴゴ、ガシャンという音と共に、目の前のドアが開いた。
 おそるおそる乗り込んで『3』を押す。と、再びロボットアニメな音をたてて、マコトは三階に到着した。
 ギギギギギ
 苦しげに開くエレベーターのドア。本当にこんな所にタカシはいるのかと、マコトは首を捻る。が、目の前のドアに掲げられた表札に「いるな」と確信した。
 『会社』とだけエアブラシで描かれている。一体何の会社なのか、さっぱり分からない。呼び鈴もない。マコトはドアをドンドンと叩くと、普通の古びたマンションに見えなくも無い部屋の前で息をひそめた。
 返事は・・・ない。いないのか?と思いながら、もう一度ゲンコツでドアをノック。
「おい、タカシ?・・・俺、マコト。いねぇのか?」
 確かに、普通の会社だったら誰かいる時間ではない。現に他の部屋は無人のようで、静まり返っている。時間がまずかったかなとマコトが引き返そうとした時に、中から聞きなれた声が聞こえた。
「開いてるよ〜ん」
 言われて、ノブに手をかけると、確かに開いている。開いていれば開いているで「不用心だな」と思いながらマコトが中に入ると、うす闇の中に車椅子姿のタカシがいた。
「やっほ〜。いらっしゃいなのねぇ〜」
 病院で見慣れたつもりだったけれど、やはりこうしてみると少し胸が痛むタカシの車椅子姿。マコトは持っていたビニール袋を肩に回して言った。
「よ。退院おめでとう・・・・って、なんでこんなに暗いんだよ」
「だって、まだ電気来てないんだも〜ん」
 車椅子をぎこちなく回して、タカシがマコトの前に来る。部屋の中には、拾ってきたのか?というようなソファやら机やらが無秩序に置かれていた。
「だったらオメーも家に帰れよ」
 呆れたようにマコトが言って、くすんだ色のソファに座る。タカシはそんなマコトに、へらっと笑顔で返した。
「自分の状況を忘れて、みんなを帰してしまいましたぁ〜」
 自分の状況?と、マコトは暗い部屋の中を見回す。そして、自分にはなんてことのない玄関の段差や、重かったドアのことなどを思い出す。あぁ、そうか。一人で車椅子じゃあ、たしかにここからは帰れない。なんといっても、三階だし。
「だ〜から、マコちゃん来てくれて助かったぁ〜。昼からなにも食ってないんだよねぇ」
 タカシはあっさりと言っているものの、マコトは素直に笑えない。あれから一年、いつになったら昔通りのタカシが見られるのかと思い続けていた。それともまさか、このまま・・・・?
「あ・・・これ。一応お祝いに・・・・」
 歯切れの悪い口調で、マコトはコンビニ袋を差し出す。中には、真っ赤な苺が入っていた。
「それと・・・これも」
 一度立ち上がり、パンツのポケットから小さなスプレー缶を出す。タカシがうす闇の中で目を丸くした。
「なにそれ?」
「あ、生クリーム。お前パフェ好きだから、ちょっと雰囲気出るだろ?」
 ファミレスなどで使われてるホイップクリームの缶を、マコトが目の前で振りはじめる。マコちゃんにしては的を射た気の利き方してるのねぇ〜っと、タカシは少し感心。
「ほら」
 言うと同時に、マコトが指先にシャワシャワっと生クリームの渦を作る。固く角がたったそれを見つめて、タカシが口端を上げた。
「マ〜コちゃんったら、気が利くじゃな〜い。イチゴパフェで悩殺〜!」
 どうやったらパフェで悩殺になるんだよと、マコトが眉を寄せる。でもまぁ、腹が減ってるというのなら丁度良かったと、マコトがタカシの手から渡したビニール袋を取り戻し、パックの苺をテーブルの上に置いた。
「あ、マコちゃんその前に、お湯沸してよ。お茶飲みたいから」
 タカシが言って、車椅子でソファの裏に行く。マコトは、結構器用に動くタカシを見ながら、立ち上がった。
「お湯沸すって・・・電気来てねぇのに、ガスは来てんのか?」
「モチのロンで、きてましぇ〜ん。でも、代りにこれがあ〜るのさ〜!」
 車椅子の後ろに立つマコトに、タカシは簡易コンロとチャッカマンを指差す。傍らには何故か、飯盒と三徳ナイフ。なんだかアウトドアじみてるなと思いながらマコトが苦笑すると、マコトのそんな気持ちを読んだのか、タカシが嬉しそうに笑った。
「奥にはテントもあるナリよ。後で一緒に寝てみる?」
「ぶぁ〜か!」
 お約束の甘い誘いを速攻で却下しながら、マコトが飯盒の蓋を開ける。マコトの目が水を探すと、即座にタカシが言った。
「水はそっちね」
「うぇ〜い」
 床に置いてあったペットボトルから、タパタパと水を飯盒に入れる。チャッカマンで手際よくコンロに火を点けると、飯盒をその上に置いた。
 タカシは車椅子のまま、マコトに並んでその様子を見ている。マコトの一挙手一投足をけだるく見つめながら、ふいにタカシの口が開いた。
「ねぇ、マコちゃん」
「あぁん?」
 マコトの相変わらずな答え方に、次の質問を投げかけるよりも先に口端が上がってしまう。
 あぁ、こういう会話が出来るのって、やっぱりシャバって感じ?あ、でも別に刑務所に入ってた訳じゃないけどさ。
「舐めてあげようかぁ〜」
 ガシャンッ!
 キャンプ用のアルミのカップを出そうとしていたマコトが、思わずそれを取り落とす。派手な音をあげて落ちたそれを拾うよりも先に、暗い部屋に罵声が響いた。
「おっ!・・・・ばっ!・・・・いきなり、何言ってんだよ!」
 何を想像したのか、マコトは口をパクパクしながら結局頭を抱える。が、とりあえずは落とした物を拾おうと屈んだ時に、タカシが悪びれない顔で続けた。
「え?予告すればいいの?」
「ざけんなッツーの!もういいから黙れ!」
「ふぁ〜い」
 気の無い返事で、タカシが嬉しそうに口唇を突き出す。マコトは、今日こそはペースを乱されまいと、努めて冷静を装って言った。
「で、茶の元は?」
 茶の元・・・・。まさかマコトは、茶葉という言葉を知らないのだろうかとタカシは思う。でもまぁ、それもマコトらしいなと思いながら、コンロの隣りに置いてあった袋を指差した。
「それ。キムが今日持ってきた」
「あ、これか」
 と、マコトは袋に手を伸ばした瞬間に、なんだか嫌な感覚に取り付かれる。
 なんだこれ?どっかで見たことあるな・・・と思いながら、必死にその記憶を引き摺り戻す。
 なんだったっけ・・・・なんかすっげー嫌な思いをしたような・・・・。
「あぁっ!」
 ガツン!
 バシャッ!
「熱っ!」
 マコトの大きな手が横に振られ、飯盒にぶち当たる。
 コンロの火に手がさらされ、ヤバイと思った瞬間に、マコトの隣りから
 ゴンッ!
 という鈍い音とともに、静かな申告が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・・痛い」





 パンパンッ
 濡れた服を広げて、マコトが部屋の中に干して行く。干すといっても空いてる椅子の上に乗せてるだけなのだが、それでもしないよりはマシだった。
「ぶえっくしょん!」
 タカシは、思いっきり頭を振ってくしゃみ。ぐずついた鼻を指で擦ると、ため息交じりのマコトに言った。
「マコちゃん、そこにティッシュなぁい?」
「あぁ?・・・・あぁ」
 ポイッと、ティッシュの箱を投げて寄越すマコト。タカシはソファの上で、裸の身体に毛布をのせたまま横たわっていた。
「あんがと」
 マコトがアタックした飯盒は、空中で見事に一回転をした後に、タカシの頭に着地した。正確にはタカシの額にぶつかって、太腿の上に落ちたのだが・・・。
 幸いお湯になってなかった飯盒一杯分のぬるま湯はタカシにかかり、そして今、申し訳なさそうにマコトがタカシの服を干しているのだ。
 埃っぽい毛布の上に手を置いて、タカシが汚い天井を見上げる。ソファの袖に乗せた頭が、力無く横に振られた。
「ねぇ・・・マコ」
「おぉ〜しっ!終わった!!」
 タカシが言いかけた時に、車椅子を拭いていたマコトが声をあげて振り返る。
 瞬間に目が合って、お互いがその目を丸くした。
「・・・・なに?マコちゃん?」
「なにって・・・終わったから・・・・。お前こそ、何言いかけたんだよ」
 マコトが、使っていたタオルをテーブルの上に投げ、ゆっくりとソファの脇に回る。そして、タカシが足を乗せている袖に申し訳程度に腰掛け、タカシの返事を待つように鼻を擦った。
「別に、たいしたことじゃないけど・・・・・・」
「だから・・・何だよ」
 長い足を持て余し気味に伸ばし、スニーカーの先でテーブルの脚を撫でる。タカシが、そんなマコトの足の動きを目で追った。
「じゃあ、マコちゃんここに来て」
 ポンポンっと、毛布の上からタカシが自分の腰の脇を叩く。
 それなりに大きいソファだから、人が寝ていてもその位の余裕はある。けれど・・・というか、だからこそマコトは少し身構えてタカシの目を見返した。
 マコトはタカシに百万円の借りがある。それを返す方法も決まっているのだが、どう頑張ってもその借金は減っていかない。時には増えているあたりが、この契約の怖いトコロだ。
「マコちゃんってば、また変なこと考えてるっしょ。早いなぁ・・・」
 くすくすくすっとタカシは笑って、さらにポンポンと脇を叩く。マコトはそのタカシの笑顔に「あれ?それじゃないのか?」と思いながら、素直にソファの真ん中に腰を下ろした。
「なんだよ・・・・」
 うす闇の中に見える、タカシの大きな目。童顔のようなのに、時に妙に大人びて見えるそれを見下ろしていると、タカシのぽてっとした口唇がゆっくりと動いた。
「・・・・・・・はい」
 毛布の上に置かれていた白い腕が上がり、差し出すように、求めるように、マコトに向けられる。マコトは、一瞬なんのことか分からずに眉を寄せた。
「・・・・え?」
「マコちゃん、ここに来てからまだちゃんと挨拶してないっしょ。だから・・・はい」
 あぁ、挨拶のハグのことかと思い、マコトが言われるままにぎゅっとタカシの細い身体を抱きしめる。マコトの背中にも、タカシの腕が回された。
「そんなことかよ」
「『そんなこと』だけのことじゃないっしょ?」
 確かに、こうして抱き合うのはイコールの証。上下関係もしこりもないから出来ること。ただそれだけなのに、でも大切。
 解かれる腕、ゆっくりと離れる身体。上半身を起こすと、マコトは深呼吸と共に天井を見上げた。どこか、ほっとしながら。
 タカシはタカシで、同じように天井を見上げながら、入院中にマサに聞いたヒカルの話を思い出していた。その時に感じた自分の気持ちは、今もよく分からなかったけど。
「マコちゃん・・・」
「ん?」
「ううん。ただ・・・・呼んだだけ」
 ソファに座ったままのマコト。毛布越しに、じんわりと伝わって行くお互いの体温。
 マコトはなんとも不思議な気持ちになりながら、大きな手で毛布の上からタカシの身体を撫でた。
「・・・タカシぃ・・・」
「なぁにぃ・・・?」
 タカシはマコトの顔を見上げながら、されるがままに撫でられている。マコトはそんなタカシの顔を見ることもなく、ごわついた毛布の感触を確かめていた。
「お前・・・・本当に退院したんだなぁ・・・・」
 感慨深いのか、それともまだ信じられないのか。マコトは撫でるのをやめた後もじっと毛布の上を見つめている。その下にある、タカシの身体を見るように・・・・。
「退院・・・しちゃったのよねぇ〜」
 ちょっともったいないことをしたかなというような、タカシの口調。もうちょっとイロイロしてみたかったんだけど・・・と思ったけれど、それは口にしなかった。
「でもよ・・・」
「ん?」
 タカシの不埒な妄想とは裏腹に、まだちょっとマジなマコト。見つめていた毛布から視線を外すと、誰へ言うでもなくマコトが呟いた。
「マジでよかった・・・・。生きててくれて・・・・・・」
 ズシ・・・・っと、重く胸にのしかかる、少しかすれたマコトの呟き。亡くしたものへの後悔は、今も消えることなくそこにあった。
 タカシは、そんなマコトの横顔を大きな目で見上げながら、白く冷たい手でマコトの腕を掴む。
 それは生きている証。でも、誰のための・・・・?この世にあるからって、大事にしないものなんて星の数ほどある。だけど、もしも自分が死んでたら、話かけてくるマコちゃんに返事のひとつも出来ないんだよねと、タカシは思う。マコちゃんは、俺が生きてることを喜んでくれてるけど、多分安藤タカシの生存を一番喜んでるのって、俺自身だろうなぁ・・・と感じた。
 腕を掴まれたまま、ゆっくりとタカシを見つめるマコト。そして、そのまま静かに引っ張ると、マコトは結構あっさりとタカシの胸の上に胸を重ねた。
 至近距離で絡む、二人のぬるい吐息。どちらからともなく顔を寄せ、口唇が・・・触れた。
「・・・ん・・・・・」
 大きなマコトの口唇を、噛むようについばむタカシの口唇。マコトの首に腕を回し、タカシがマコトの口唇を赤い舌で割った。
 マコトの腕が、毛布ごとタカシの身体を抱きしめる。さっきの台詞を、確かめるように。
 マコトがタカシの足を気にしていることが、タカシにも分かっていた。だから、どこかマコトに元気がないことも。
 言ってみれば大した事ではないと、タカシは思っている。マコトも、そう思ってくれればいいな・・・とも思った。
「・・・っ・・」
 ぬるい吐息が熱く変わり、離れる口唇。濡れたタカシの目がマコトのそれを捕らえ、目尻が下がった。
「苺はぁ・・・デザートね」





 舌先で与えられる甘い刺激。
 胸の敏感な部分を執拗に攻めてくるマコト。もちろん、そこがタカシの弱いところだということは百も承知で。
 ソファの背にもたれたタカシは、マコトの太腿の上に座るように脚を開いて、されるがままに身を任せている。白い腕が、マコトの頭を抱くように絡んでいた。
「っ・・・・マコ・・・・ちゃ・・・っ・・・」
 跳ねるように、時折震えるタカシの身体。きめ細かいタカシの肌の上を、マコトの手が這う。細い腰を撫で、更にその下へ。マコトはタカシにくちづけながら、小さく引き締まったタカシの双丘の奥へと指を差し入れた。
「んっ・・・・っ・・・へへっ・・・」
「なに笑ってんだよ」
 余裕なのかなんなのか、突然笑い出すタカシに、マコトが口唇をとがらせる。タカシは後ろに加えられる刺激に言葉を切りながら、それでも嬉しそうに返した。
「だって・・・・マコちゃん・・・・・慣れ・・て・・・きてるん・・・だもん・・・」
 こういう行為に対して抵抗がなくなってきているというだけではない。手順というか、手際というか・・・。
「なんじゃそりゃ?」
 マコトはタカシの言うことが分かるような、それでも素直に受け入れたくないような表情で言うと、無意識のうちに続けていた。
「だってお前が・・・・」
 元気ねぇしよ・・・と、言いかけた口をマコトが閉ざす。
 確かに最初のコトを振り返っても、いつの間にやら乗られていたようなトコロがある。手順もなにも、すべてはタカシの気分次第だったのだ。が、あの事件からというもの、タカシはめっきり大人しくなったような気がする。まぁ、いままでしてたのが入院中で、実際動けないのだから、大人しいという表現に誤りはないのだろうけど・・・。
 ゴンッ
「ッて!」
 俯いた頭に一発ゲンコツが降る。マコトは突然の痛みに顔を上げ、そこにあるタカシの顔を見た。
「なにすんだよっ!」
「えぇっ?」
 マコトを殴った自分の拳を、何故?という目で見つめるタカシ。
「今なにか、目に見えない力が・・・・」
「嘘つけっ!」
 不思議だねぇ、と同意を求めるタカシの目をマコトがやぶ睨み。すると、急に深刻な顔でタカシが話し出した。
「実は俺・・・・入院中に隣りの病室のおじいちゃんに、奪われてしまったナリ・・・」
「ええええええっ!?」
 目も飛び出んばかりに驚くマコト。だって隣りのおじいちゃんってば九十五歳の長老だった筈。いや・・・でも、タカシにちゅうをせがんだっていうし・・・・。
 マコトの頭の中はグルグルと回り出す。タカシは薄い両手で顔を覆うと、すすり泣くような声で呟いた。
「それも・・・・一度だけじゃなく・・・」
 マコトは、ただ呆然とタカシを見ている。タカシは、顔を覆っていた手を離すと、その腕をマコトの首に絡め、抱きついて叫んだ。
「マコちゃん!あの悪夢を忘れさせて!マコちゃんの抜かずの三発でっ!」
「おいちょっと待った」
 少し冷静になったマコトが、抱きつかれたままで眉を寄せる。タカシは、マコトの背中で舌を出していた。
「お前・・・それ、嘘だろう・・・・」
「分かりやすいっしょ?」
 タカシは身体を離してシラッと答える。マコトはどっと疲れた顔でため息交じりに言った。
「なんでそんな嘘なんか・・・・」
「だって、マコちゃんが嘘つけって言ったじゃな〜い」
「そういう意味じゃないだろう!」
「ふわ〜い」
 口では素直に答えながらも、表情はどこか企んでいるような・・・。マコトはまだどこか疑いながら、タカシの身体を抱き直す。すると、タカシが顔を横に倒してポツリと漏らした。
「・・・抜かずの三発ぅ」
 そして、ちらりとマコトの顔を見やる。マコトは駄々っ子のようなタカシの態度に、小さく息を吐いた。
「・・・んななぁ!・・・お前の身体が持つ訳ないだろうって!」
「じゃあ!マコちゃんは出来るのぉ?」
 何故か嬉しそうに目を輝かせるタカシ。マコトはそうは言ってみたものの、当然『抜かずの三発』などやってみたこともない。かといって、出来ないとも言いたくない。抜かずって・・・・やっぱり抜かないんだよなぁ・・・と、考えてみる。
「そ・・・そりゃあお前、この若さでそんくらい・・・出来ねぇ訳ないだろ。でも、退院したてのお前が・・・」
「だぁ〜い丈夫!ずぅえんずえん(←全然)気にしないで平気!」
 今日で一番イキイキしているタカシ。マコトは冷や汗でも出てきそうになりながら、泳ぎだした目を天井に投げた。
「マコちゃんに抜かずの三発してもらえるなら死んでもイイから♪」
「死んだら駄目じゃねぇかよ」
「死んでも生き返るに決まってるっしょ」
 それもまた、どうかなぁとマコトは思う。おまけに本当に生き返ってきそうなところが・・・それはそれで怖い。
「ね。・・・・しよ」
 甘い笑顔で囁きながら、タカシがマコトのそれに手をかける。細い指で撫で上げながら、マコトの耳に舌を差し入れた。
「マコちゃんと・・・一緒に・・・・気持ちよぉ〜く・・・な・り・た・い・の」
 感じすぎるほどに耳で感じるマコト。耳たぶを口唇で噛まれ、息を吹きかけられる。
「中で・・・・きゅって・・・・締めてあげるから・・・・・ね?」
 タカシはタカシで、そう語る自分の言葉にゾクゾク来ているのか、マコトに触られる前から徐々にその身体を熱くする。言葉を切ってマコトの口唇に指先で触れると、その指を追うように口唇を重ねた。
 顔を倒して、深く重なり合う口唇。タカシがマコトの髪を掴んで、その首筋に舌を這わせる。マコトもそれに応えるように、タカシの後ろに手を回した。
「んっ・・・・・あ・・」
 指を入れられ、同時に前にも手がかかる。タカシの手もマコトのそれに伸び、互いのものに触れ合った。
「すご・・・・熱くなってる・・・」
「お前だ・・・って・・・・・」
 既に滴りはじめているタカシのモノをマコトが握り締める。
「途中で・・・ギブアップなんかさせねぇからな・・・・」
 言いながら、マコトがタカシの身体を少し持ち上げる。タカシは眉を上げて不敵な笑みを浮かべると、マコトのその上にゆっくりと腰を下ろし始めた。
「はっ・・・・ん・・・・っ・・」
 少しづつマコトのそれを飲み込みながら、タカシが背筋を引きつらせて喘ぐ。マコトの肩を掴む手に、力がこもった。
 深いところまで繋がり合い、タカシの喉が反り返る。一度深く息をした後で、タカシがマコトを半開きの目で見下ろした。
「生きてて・・・・良かったぁ〜・・・」
 嬉しそうな笑顔と共に吐き出された緊張感のない台詞に、思わずマコトが吹き出してしまう。マコトはタカシの腰を抱き直すと、ソファのシートに膝をつきながら返した。
「いくぞ」
「え?もうイッちゃうの?」
「だから、そういう意味じゃねぇっつってんだろ!」
 ボケた台詞で返すタカシに、マコトが黙れとばかりに動き出す。深く抜き差しを始めると、タカシがマコトの首に腕を絡めた。
「あぁ・・・んっ・・・ん・・・・あっ」
 天井が高い所為かそれとも周りが静かな所為か、タカシの声が良く響く。軋むソファの音とあいまって、それは徐々にボルテージを上げていった。
「あっ・・・そこっ・・・・ん・・・」
 いいポイントを突かれたのか、ジンッと震える身体を支えて、タカシが眉を寄せる。濡れた口唇から漏れる、熱い息。
 マコトは、ソファの背にタカシの体重を預け、その細い腰を抱きしめる。タカシのそこが、それまで以上にきつくマコトを締め付け、闇に映える白い肌がうっすらと汗ばんで光った。
「あ・・・・熱っ・・・・」
 しがみついたマコトの身体が熱い。マコトのごつい指で擦り上げられ、タカシのそれもそろそろ限界を訴え始める。手の中でピクピクと震えるそれを、マコトがさらに刺激した。
「タカシ・・・っ・・・・」
「あっ・・・・はっ・・・・・マコ・・・ちゃ・・・っ・・」
 額をマコトの肩に押し当てて、タカシが切なく目をつぶる。その瞬間、中のマコトを更に締め付け、タカシがマコトの手の中で果てた。
「なんだか・・・・お前っ・・・・早くないかぁ・・・?」
 目を丸くして、ぐったりとしたタカシを見つめるマコト。タカシはタカシで、おっかしいなぁと首を捻りながらけだるくマコトを見返した。
「あ・・・・・・分かった・・・」
「・・・なんだよ」
 渇く喉に、唾を飲み込んでマコトが答える。抜かずの三発だから、ついでに手も動かしつつ・・・。
「腹・・・・っ・・減ってるから・・・・だっ・・・」
 刺激に敏感になっている身体は、すぐに次の高まりを求めて熱くなりはじめる。
「腹減ってると、早いのか?」
 マコトは、素直に不思議そうな顔をしている。が、それをオイシイとも思ったらしく、ここぞとばかりにタカシの乳首を吸ってみたりもした。
「んっ・・・・・そう・・・みたい・・」
 おまけに、ずっと挿れたままだし・・・と思ったが、それ以上は語らない。なぜなら、今の情報だけでも十分にマコトは嬉しそうな顔をしているから。
「ほぉ〜。なるほどねぇ・・・」
 微かに中のマコトが怒張したような気がする。こりゃあ面白いことになりそうだと、その時双方が共に思っていた。
 『これなら回数が稼げるかもしれないぞ!』と思ったマコトと、『ちょっとマコちゃんったらやる気出してんじゃないのぉ?』と思ったタカシ。
「マコちゃん・・・この後用事は・・・?」
「なぁ〜んにもねぇ」
 瞬間、にんまりとほくそ笑み合う二人。
 ただ、この微笑みこそが罠であることなど、その時のマコトは全くもって気付きもしなかった。





 ソファの上に互い違いで横になりながら、二人は天井を見上げていた。
 一枚の毛布をかぶり、タカシはマコトの足の上に頭を乗せている。マコトはタカシの足の横で煙草を吹かしていた。
「しょわわわわ〜!」
 タカシは言いながら、マコトの持ってきた生クリームスプレーで、手にした苺に白く甘いクリームをデコレートしている。たんまりと乗せると、そこでパクッと口に運んだ。
「美味すぃ〜」
 納得がいかないと言いたげに、眉を寄せるマコト。いや、苺のことではなく、さっきの抜かずの・・・。
 引き分けじゃねぇかよ・・・。
 心の中でため息交じりに呟く。確かに最初の一回は早かった。が、その次からが本領発揮というか場数の違いというか、マコトの方もきっちりイカされてしまったのだ。
 やっぱり口でされると、マズイよなぁ・・・。
 今回の敗因を改めて検証しながら、マコトは足元で楽しそうに苺を食べているタカシを見下ろした。
「パッフェパッフェ食え食え♪母ちゃんが〜♪ボンテージでおっむかえ嬉しいな〜♪ピッシピッシ♪むっち(←鞭?)鞭♪淫乱♪ラン♪」
 どういう歌だ・・・と、歌っているタカシを思わず凝視。一瞬、自分の母親がボンテージ姿でパフェを片手に鞭打ちながら『食え!』と言っている姿を想像し、げんなりする。それでも、嬉しそうにスプレー缶を振っているタカシにマコトが言った。
「・・・・ウソツキ」
 ぼそっとした敗者の呟きに、タカシが顎を上げてマコトを見る。
「ほえ?なぁにぃ、マコちゃん?」
 口の周りにクリームをつけたままのタカシを、マコトは恨めしそうに見つめ返す。タカシはマコトの言いたいことが分かっていながらも、シラッと返した。
「マコちゃんも食べる〜?」
「あとで食う」
 そっけなく返し、マコトは次の煙草に火を点ける。と、その時に煙草のケースに入っていた紙に、何かを思い出した。
「そうだ。そういやお前・・・」
「ん?」
 半身を起こすマコト。ソファの上に座って、マコトが煙混じりの息を吐いた。
「会社ってなんなんだよ。本社がどうとかって・・・」
「ん。ここが本社」
 苺を摘まみながら、タカシがシレッと返す。
「作ったばっかで支社があるのかよ?」
「うん。隣りの部屋」
 それって・・・・と、再びマコトは首を傾げる。そんなんでも支社っていうのか?
「あ、そうそう。それから面接ってなんのことだよ」
「マコちゃんも〜、うちの社員になろうじゃあ、あ〜りませんかぁ〜!」
 両手を広げて微笑むタカシ。なんといっても、これが社長。
「ぶぁかっ!会社っつったって、結局メンツはGボーイズと変わらねぇんだろ?面接なんか受けるかッツーの!」
「うん。君いいねぇ。合格」
 突然、社長口調のタカシ。
「勝手に受からせるんじゃねぇよ!」
 きっと手の届くところだったらゲンコツのひとつでも食らわされていたことであろう。が、マコトの手が届かないのをいいことに、タカシが更に続けた。
「う〜ん。これからはうちの社も若い力っていうのかな、そういうものがだねぇ・・・」
「お前の方が若いじゃねぇかよ!」
 叫び続けて、喉が枯れてくる。そう言えば、ずっと喉が渇いてたのだ。
「おい、なんか飲むモンねぇのかよ」
「ふぉ〜い」
 と、目の前に出されるミニペットボトル。
「なんだよ。あるんじゃん」
「だってさっきは熱いのが飲みたかったんだも〜ん。まぁ、代りにマコちゃんの熱いの飲んだから良いけど」
 瞬間、マコトが飲み始めていたお茶をゴフーっと吐き出す。
「ぶ・・・ぶぁ〜っか!!変なこと言うんじゃねぇよ!!」
 顔を真っ赤にして怒るマコトに、嬉しそうに微笑むタカシ。咳込みながらも気を取り直してお茶をラッパ飲みするマコトに、タカシが言った。
「早く食べないと、苺無くなっちゃうナリよ〜ん」
 そしてシュワシュワっとスプレーを押す。と、苺に乗り切らなかったクリームがマコトの足の甲に落ちた。
「あ、もったいな」
 言うと同時に、ペロっと、タカシがマコトの足を舐める。マコトはその感触に驚いて足を引っ込めた。
「うわっ!ビックリした〜」
 その反応に、またもや目を輝かせるタカシ。
「ふぅ〜ん」
「な・・・なんだよ、その『ふぅ〜ん』って・・・」
「ぶぇつぅにぃ〜」
 別にといいながら、タカシが何かを企んでることはよく分かる。が、そこを突っ込むときっとやぶ蛇になるので、敢えてマコトは無視をした。
「あ!そうそう。それからさ」
 と、話を反らしてみたりして。
「なぁに?」
「さっきの茶の元。キムが持って来たって言ったよな」
 マコトの言葉に、こっくりと頷くタカシ。
「あれ、マジやべぇって。うちのババアが変なもんに手ぇ出した時に売ってたやつでよ、飲むとピーピーのゲーゲーで動けなくなるし、飲み続ければ果ては死んじまうってシロモンなんだぞ。回収された筈なのに、まだ持ってる奴がいたのかよ・・・」
 真剣に話すマコト。そういえばそんなこともあったような・・・とタカシはぼんやりと思い出す。
「それ、マジでっかー?」
「マジもマジ。大マジ!」
 あちゃー。そりゃまずいねぇとタカシ。しかし、だからみんな急に帰っちゃったのね〜と、ちょっと納得。飲まなくて良かった。
 で、とりあえずは手に持っていた苺を口に放り込むと、マコトがもって来た苺の入ったビニールを覗いた。
「あと三パックなのね〜」
 突然のタカシの行動に、マコトは心の中に疑問符を浮かべる。タカシは苺三パックで何日持つかなぁと計算。とりあえず、水はあるし・・・。
「マコちゃん」
「おう」
「ここにはトイレもシャワーもあるから安心するナリよ」
 どういうことだ?とマコト。すると、聞くよりも先に、タカシが真顔で呟いた。
「マコちゃんが今、一気したの・・・・」
 背筋も凍る、嫌な予感。まさか・・・・・。
「おい。待てよ・・・・まさか・・・・?」
 マコトはやや青ざめながら呟く。
「だぁいじょうブイ!」
 が、タカシから帰ってきたのはそんな言葉。思わずマコトがほっと力を抜くと、続けてタカシが天使の微笑みで言った。
「マコちゃんの具合が良くなるまで、一緒に居てあげるから」



 数秒後、マコトがスペースシャトルになったのは言うまでもない。
 これもある意味、イノチガケ?




きちゃないオチでゴメス(^^;)えっちも短くてゴメス(^^;)
なんというかただひたすらゴメス(^^;)
裏キリ番ゲッターあずみさんに一番ゴメスですね(−−;)
全然甘くないっすよね(><)!!ごめんなさい〜!!
でもこれでイキオイが付いたので、一気に本作ろうっと♪
高校生編と「せつなさ〜」の番外載せるので
興味のある方はぜひよろしくッス!(←ワッキー調)


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