CRUCIAL AFFAIRS

                                  乙姫静香




 流れるBORN TO BE WILD。マコトは寝ぼけ眼で携帯に手を伸ばすと、誰からの電話かも確認しないままに電話に出た。
「・・・はい・・・マコト」
 どう聞いても寝てましたという声。すると電話の向こうから、これまた寝ぼけたような声が聞こえてきた。
「マコちゃん寝てたのぉ?こっちも寝過ぎで目が溶けそぉ〜」
「タカシ?」
「あったり〜」
 一発ビンゴで嬉しそうなタカシの声。マコトはベッドの上に起き上がり、大きなあくびをひとつした。
「なんだお前、病院からか?」
 まだ入院してたはず、ということを思い出しながらの台詞。タカシの声の後ろからは、確かに病院らしいざわめきが聞こえて来る。
「そう〜。ケイタイ使えないから公衆電話。10円玉で電話かけるの久しぶりナリ」
「おう」
 言われてみればそうだと納得。自分も公衆電話なんて、随分と使っていない。
「あのさーマコちゃん、折り入って頼みがあるんだけど」
「なんだよ」
 あんな事件の後だというのに、相変わらずのほほんとした声。入院直後の面会謝絶時にはもう駄目かと誰もが思っていたのに、そこは若さというかなんというか、危険な山を越えた途端に医者も舌を巻くスピードで回復していった。
「2000円で売ってる500円のメロンが食べたいナリ」
「おめー、人聞きの悪いこと言うなよ。・・・300円だぞ」
 誰に聞かれないようにしてるのか、こっそりとマコトが呟く。するとタカシが電話の向こうで爆笑した。
「ひゃはははは!!ただで食べればどっちも一緒っしょ。ちゃんとシマシマのあるメロンにしてね〜」
「あー、でも今日これから投げに行かなくちゃいけねぇんだよ。明日でもいいか?」
「いーやーだぁーーーー!絶対に今日中に食べる!遅くなってもいいから持ってきて頂戴ねぇ!!持ってきてくれなかったら、例の百万すぐに請求するよ〜ん」
「うげ。お前それはヒドイ。Gボーイズ解散したじゃんよ」
「それとこれとは別ナリ。だってあれはマコちゃんが俺にくれるって言ったお金でしょ。Gボーイズにあげるって言った金じゃないも〜ん。じゃね」
 さわやかに言ってのけた後に突然切れる電話。マコトは切れた電話を持ったまましばし見つめると、再び大きくあくびをした。
「ふわあ〜。めんどくせぇなぁもう」





  「本日も絶好調!!」
 賭けボーリングに見事勝利し、うきうき気分でボールをみがく。マコトが煙草に火をつけるとマサが椅子の脇に置いてあるモノに目を留めた。
「あれ?マコトなにこれ?」
「あ、それメロン」
 マコトの返事にマサが目を丸くする。磨き終わったボールを元の場所に戻すマコトに、マサが投げかけた。
「メロン?配達かなんかかよ」
「んー、まぁそんなもんかな」
 既に夜の9時を回っている。面会時間をとうに過ぎ、どうしたもんだかとマコトが首を傾げた。
「もしかしてキングんとこか?」
「いやさ、あいつがメロン食いてぇっていうからよ」
 何を言い訳っぽいことを言ってるんだろうと思う。別に見舞いに行くといえばそれで済む。なんら不自然なことではないのに。
「まー、暇してるのかもな。そういやジェシー達が立ち入り禁止になったあと、誰か傍についてんのかな?」
「え?なんだよそれ?立ち入り禁止になったのか?」
 初耳。誰もそんなこと教えてくれなかった。タカシ本人さえも。
「ジェシーとキャシーが病院でケンカして、それで立ち入り禁止。一週間位前じゃないか?」
「へぇ〜」
 煙草の煙を返事と同時に吐き出し、そのまま灰皿に短くなった煙草を押し付ける。
「俺も一緒に行こうかな」
 マサの呟きに、マコトの動きが止まる。別に一緒に行ってもいいのだが、でも何故か今日はサシで話したい気分だった。
「でも、面会時間過ぎてるし、俺もメロン置いたらすぐに帰るから。あんま、ゆっくり出来ないんじゃないか?」
「だよな。俺も、もうちょっとバイトの時間あるし。今度行く時誘ってよ」
 マサが返して少しほっとする。なんでほっとしてるのかはよく分からなかったが。
「あぁ、分かった」
 それだけ言うと、マコトは賭けで買った金をポケットにねじ込んで立ち上がった。





 タカシは電気も点けない病室で、一人くりっとした目を開いていた。ベッドの上に座ったまま、ぼーっと外を眺める。視線を巡らせれば、病室の隅にある車椅子が目に入る。しばしそれを見つめると、伸びてきた前髪をツンっと引っ張った。
 静寂の中、遠くから近づいてくる音。病院の床を踏む独特の響きに、タカシの目の色が変わった。個室エリアの外れにあるこの病室の前で止まる足音。音を立てないように歩いている姿が想像できるだけに、タカシは笑いをこらえきれず吹き出しそうになった。
「マコちゃ〜ん」
 そろそろと開いていたドアにガタンと何かがぶつかる。タカシはベッド脇のライトを点けると、入り口にしゃがみこんでいるマコトの姿を見つけ、弾けるように痛む腹を抱えた。
「マコちゃん見っけ。あははは・・・お願いだから、笑わせないで・・・イテテ」
「なんだよお前、起きてるんなら電気ぐらい点けろよ。どうしようかと思っちまっただろ」
 声を潜めて怒鳴る。タカシは笑顔で手招きすると、目の前で椅子をひいて座るマコトに言った。
「あのさ、マコちゃん。頼みがあるナリ」
「メロンなら持ってきたぞ。うちの店で一番いいやつ持ってきたんだからな」
「それもそうなんだけど、もう一個」





 で、息を潜めて大浴場脇。
「あ・・・そこ。気持ち良い。そこ・・もっと・・・」
「こんなとこ見つかったら、マズイんじゃないか?」
「そんな事言っても、我慢できないものは我慢できないっしょ。お年頃の男の子だから」
「何日間我慢したんだよ」
「一週間」
「ジェシーたちが追い出されてからか?」
「あ、聞いたの?」
「なんでいわねーんだよ」
「言ったらマコちゃん毎日してくれた?」
「別に、こんくれーのこと。してもいいぞ」
「じゃ、よろしくね」
「え?マジ?」
 ずばり洗髪。
「頭痒くなるし、もう最悪だったのよーん」
 珍しく洗髪台のある病院。仰向けになって髪を洗ってもらいながら、タカシが自分の上にいるマコトの顔を見上げた。もちろん電気を点けるとばれるので、うす闇の中での洗髪。
「・・・マコちゃん」
「あぁ?」
 マコトは結構熱心にタカシの頭を洗っている。タカシはそんなマコトの顔を見ると、マコトのすっとした顎に手を伸ばした。
「傷痕、残らなかったね」
  自分が血まみれにしたマコトの顔。今ではすっかり元通りになっている。
「あ?・・・あぁ、あのあとしばらく大変だったけどな。腫れるは突っ張るはで熱持ってよ。痛みで目が覚めたりしたなぁ。あんなイテー状態久しぶりだったわ」
「ふうん」
 下から見上げても端正な顔。元通りになるだけの時間が既に経っていることが、少し信じられなかった。
「お客さーん、洗い足りないところはございませんか?」
 ちょっとおどけたマコトの声にタカシがくしゃっと顔をほころばせる。
「大丈夫なんだけど、もう一個」
「なに?」
 マコトの眉が寄せられた。





 これまたばれるといけないので、電気を点けずにカーテンを全開。ベッドの上で前開きの患者用ガウンを脱ぐと、マコトがその白い肌を濡れタオルで拭きだした。
 濡れた髪はオールバックに撫で付けられている。頭がいつもより小さく見える所為か、月明かりに浮かぶタカシの背中は幾分華奢に見えた。
「お前・・・痩せた?」
「さあ、分からないけど。マコちゃんがそういうならそうなんじゃな〜い?」
 含み笑いのタカシに、マコトが何故か顔を赤らめる。もちろん、この暗さではそんな顔色なんて細かく分かりはしなかったが。
「寒くねーか?」
 背中を拭き終わり、前を拭こうとマコトが移動する。・・・と、腹部に張られた大きなガーゼに、マコトの目がとまった。
「マコちゃん?」
 動きのとまったマコトに、タカシが投げかける。
「え・・いや、なんでも・・・」
 本当なら、自分に立てられていたであろう刃。タカシの白い服を真っ赤に染め、流れた血。
 その時のことを思い出すと、今でも胸が痛い。マコトはタカシの胸の上にタオルを当てると、ゆっくりと拭きながら言った。
「良かったな」
「え?」
 かすれるようなマコトの呟き。タカシは顔を横に倒して、自分の肩あたりにあるマコトの顔を見た。
「や・・その・・・・・死ななくて」
「マコちゃん・・・・」
 身体を拭く手が止まり、タカシがその手にゆっくりと自分の手を沿える。
「マジで、心臓止まるかと思った・・・・」
「あははははは。あれはさすがに・・・」
 太腿の上にぽとりと落ちるタオル。どうやら感動が下半身に伝わったらしい。タカシは、マコトの手を握ると突然目をぱっちりと開けて続けた。
「あ、やば・・・・・・」
「なんだ?」
 ベッドに腰を半分乗せたマコトがタカシの顔を覗き込む。タカシはマコトにゆっくりと濡れた視線を動かして返した。
「マコちゃん。もう一個」
「まっ、待て!・・・ちょっと俺、予想がついたぞ」
「ご名答!副賞ナリ!」
 即座にタカシがマコトの襟元を掴んで、柔らかい口唇を重ねる。マコトは驚いて身体を離し、目を見開いて言った。
「ばっ・・おま・・病人だぞ。病院だぞ、入院中だぞ」
「誘ったのはマコちゃんでしょ?おまけに病人じゃなくて、怪我人だし」
「誘ってねーっツーの!!」
「冷たいんじゃないのぉ?ムスコの裏まで舐めあった仲じゃな〜い。絶対に誘ってなかったって言えるのかなぁ?」
 ぐ。マコトが言葉に詰まる。
 確かに、ここに来るのにいちいち言い訳を考えた。マサも体よくあしらった。
 なんで?何故?なにゆえに??
「あ、そうそう、マコちゃん。言い忘れたけど明日が退院なの。マジ元気。ゼッコーチョー!!」
「うっそでぇ〜。だったら明日まで我慢すれば身体だって頭だって洗えたんじゃねーかよ。なんで俺にさせんだよ!」
 ちょっとは頭が回るようになったのね、といわんばかりの視線をタカシがマコトに送る。
「だって、マコちゃんのフィンガーテクでイかせて欲しかったんだも〜ん。頭皮をまさぐるマコちゃんの指。魅惑的じゃな〜い?」
 あはははっと笑い、上半身裸のタカシが両の手のひらを上に向ける。
「お前、声でけぇし」
「マコちゃんのためなら我慢するよ〜」
 あっさりと言って、うふふんと鼻で笑う。うす闇の中で綺麗に光る黒い瞳に、マコトが一瞬黙った。
 目の前で惜しげもなくさらされる白い身体。人一倍なめらかな肌は、暗闇の中でなお白く浮かび上がっていた。
「・・・・・マジで言ってんのか?」
「マジかどうか、確かめてみれば?」
 半開きの口唇が妖しく光る。タカシはベッドの上に置かれたマコトの手を取ると、その指の甲を赤い唇で挟み込んだ。
「きっと、メロンよりも食べ頃ナリ・・・」
 そのまま、マコトのそこを服の上からやんわりと掴む。突然の直接攻撃に、マコトの身体が引いた。
「ちょっ・・・ま・・」
「何?」
「お隣りさんとか、いるんじゃないのか?」
「うん。95歳のおじいちゃん」
「うわっ。きわどい」
「冥土の土産にちゅうしてくれって言われちゃった。女の子と間違われてるみたい」
 間違ってなくて言ってるのかも・・・と、マコトは思う。口には出さなかったが・・・。
「メロン食え。んで、その間に考える」
「ほ〜い」
  何を考えるんだろうと思いつつ、とりあえずタカシは返事をすることにした。どうせマコトが拒絶しきれないことは分かってる。草々にマコトを食べたかったが、メロンを食べたかったのも本当なので、まぁ、食べることにした。
 マコトが、自分の持ってきたメロンをベッドの上にぽんと置く。タカシがベッド脇のテーブルを指すと、マコトがそこから果物ナイフを出した。
「ぜってー美味いって。マジ、ぶっ飛ぶ美味さ。ほっぺた落ちてもしらねーぞ」
「ほいほい。でも、皿がないんだけど」
 ビニール袋の中で、メロンを綺麗に4分割。
「じゃ、そのまま裸で食えよ。裸なら汁ついても拭けばいいし」
「ほ〜い」
 種を取って、マコトがメロンをタカシに渡す。タカシは受け取ると、それをじっと見つめて呟いた。
「スプーンもないのねぇ」
 そして、そのままメロンにかぶりつく。が、さすがに4分の1では食べにくい。顔じゅうを汁だらけにしてタカシがメロンから口を離した。
「マコちゃ〜ん。これ、もう半分にしてよ。食べにくい」
「おう。ほれ」
 メロンの背にナイフを入れ、8分の1にする。タカシは少し細くなったメロンにかぶりつき、一気に平らげた。
「うん。甘い。美味しいんじゃな〜い?」
「だろ?ババァの目をかすめて持ってきたからな。一番美味い筈だぜ。うをっ。超うめーじゃん」
「もっと食べる」
 薄くなった皮をビニール袋に放り込み、タカシがマコトに手を出す。マコトも自分でメロンを食べながら、少し不服そうに言った。
「おめー、もっとありがたそうに食えよ」
「マコちゃんありがとう!」
 両手を胸の前で組み、キラキラとした目でマコトを見る。マコトは小さくため息をつき、無言で8分の1をタカシに渡した。
「ほれ」
「ほ〜い」
 ジュルジュルと二人でメロンを食べる。と、タカシがマコトを見て声を上げる。
「あ、マコちゃん。やばい」
 細い腕を伸ばして、メロンを持つマコトの手の下に自分の手を差し入れる。マコトの手の甲から、メロンの汁が布団の上に零れていた。
「あ、やべ」
 言ったものの、二人の両手は汁にまみれ、片手にメロン、片手は汁受けとなっている。タカシの手の甲にも光るものが垂れてくると、マコトがタカシに言った。
「あー、それ、こっちこっち」
「え?」
 マコトが顎を動かしてタカシの手を呼ぶ。タカシが自分の手をマコトの顔に近づけると、マコトがタカシの手の甲を舐めた。
 タカシの手の甲にあった雫がマコトの舌ですくわれる。が、舐めきれなかったモノがマコトの口端から顎に走った。
「あ、マコちゃん」
 タカシがマコトの服を引っ張って、マコトの顎に舌をはわせる。甘いメロンの味。咄嗟についたマコトの手の下で、食べかけのメロンがつぶれた。
「・・・・・・・・・・・」
 顎から舌を離したタカシの目が、マコトのそれと出会う。二人は暗い中、瞬きもせずにお互いを見つめた。
 黒目がちなタカシの瞳。二重のくっきりとしたマコトの目。ふとタカシが視線を落とし、マコトの半開きの口唇を見つめる。メロンの汁で濡れた口唇が、月明かりで光った。
 それを合図のように、近づく口唇。目を閉じることもせず、薄目を開けたまま、二人の口唇が重なった。タカシの視線が再び至近距離でマコトを捉える。
「・・・・っ・・・」
 軽く舌を絡ませる。メロンの味。ざらついた舌の感触。軽く吸って離すと、マコトが呟いた。
「食ってる間に考えないと・・・」
「いいよ、もう、考えなくても・・・めんどうくさいっしょ」
「それは・・俺の台詞」
「うん。・・・だから、いいって・・・考えなくても・・・」
 考えるよりも先に、口唇が相手を捉える。タカシがマコトの首筋に舌を這わせると、マコトが潰したメロンをベッドの下に落とした。
「高いんでしょ?」
「もう一個ある・・・」
 ふうん・・・と呟き、タカシがマコトのシャツに手をかける。メロンの汁でべたついた手が、タカシの身体を横たえた。
 ベッドの上に横たわるタカシの身体をマコトは見下ろす。タカシがマコトのシャツを脱がすと、マコトが吸い寄せられるようにタカシの胸に舌を這わせた。
 強く吸えばピクリと反応するタカシの身体。マコトの肩を時折強く掴み、タカシは前言通り声を殺していた。
 顔を上げれば、目をきつく閉じて肩を震わせるタカシの姿。マコトはそんなタカシの様子を眺めながら、タカシのそれを寝間着の上から掴んだ。
「っ・・・」
 立ち上がりかけのそれは、いつもよりも敏感に反応する。少しいじっただけで目覚しく成長する様に、マコトの目が光った。
「マジで食べごろなんだな・・・」
 ストイックな入院生活などはなから無理であるといったように、タカシが次の刺激を求めて身体をよじる。
「でも・・今日はあんまり動けないから・・・・マコッちゃん・・・よろしくね・・・っ」
「怪我人相手に、はなから動いてもらおうなんて思ってねーよ」
 手でタカシのそれを握りながらマコトが言い捨てる。マコトが身体をずり上げてタカシに口付けると、今度はタカシの手がマコトのそれに伸びた。
「んっ・・・」
「マコッちゃん・・・声・・・」
 熱い吐息の合間のタカシの声。言いながらも容赦なくマコトのそれに指を這わせる。成長しきったマコトのそれの先端をきつく握り、窪みに指先をあてがう。
「・・・っ・・」
 こういう刺激に弱いのはマコトの方。すぐにものぼりつめそうになりながら、マコトがタカシの手を払った。
「ばっ・・・か、俺イかせてどうするんだよ・・・・っ・・」
「でも・・・気持ち良いっしょ・・・はは・・・」
 自分が動けないことを多少は申し訳なく思っているのか、今日のタカシの指には容赦が無い。マコトは息を整えると身体をずらし、反撃とばかりにタカシのそれを口に含んだ。
「・・・・・っ・・・あ」
 声が出そうになり、タカシが自分の手で口を塞ぐ。それに絡まる熱い舌。確実に上手くなっている手と舌の両方で直接刺激され、タカシが上半身をのけぞらせた。
「・・・っ・・・」
 後ろに差し込まれる指。マコトがタカシの身体を少し持ち上げた。
「だめ・・マコちゃん。・・・左足は、動かせないから・・・」
「あ、ごめん・・・」
 動かせない?と思いつつ、タカシの右足を立てる。そこに肩を挟み込み、裏側から舐め上げるように舌を這わせた。
「ふ・・っ・・・んっ・・・」
 荒くなる呼吸に、辛そうに眉を寄せる。目頭に涙が溜まり、タカシが両腕を顔の上で交差させた。
「うわ、本当に平気なのかよ・・・お前・・」
 差し込んだ指は、動かすことさえ難しい。力の抜き加減が分からないのか、タカシも当惑顔でマコトを見下ろした。
「ん・・・・・。して・・・マコちゃん」
 切なげな瞳でタカシが呟く。なんだかいつもよりもおとなしいタカシの態度に、浮かぶ疑問符。それでもマコトは熱くなるタカシの身体を抱きしめると、後ろに二本目の指を差し入れた。
「あ・・・痛っ・・・マコッちゃん・・・・ちょっとゆっくり・・・」
 ぎこちない収縮を繰り返すそこを、ほぐすようにマコトの指がうごめく。時折その指がポイントに触れるのか、痺れるような快感にタカシの喉がそった。
「・・・・っ・・・はぁ・・・」
 吐く息に、ともすれば響きそうな声を逃がす。
「も・・う、いいから・・・・来て・・・」
「でもよ・・・」
 濡れた音をたててうごめく指を止めぬまま、マコトが心配そうにタカシを見る。タカシは艶めく瞳でマコトを見返すと、マコトの肩に熱い舌を這わせて言った。
「早く・・・マコちゃんを頂戴・・・ね・・・?」
 いたずらな声。誘う吐息。マコトの情欲をかりたてる指先が、マコト自身をとらえた。
「ん・・・」
 マコトがタカシの右足を持ち上げ、ゆっくりとタカシの身体を割る。白いパイプベッドが大きく軋んだ。
「わ・・・マジ・・きちぃ・・・っ・・」
 異物の侵入に、タカシの身体がひきつりながらマコトを締め付ける。
「あっ・・・ん・・・」
 タカシもさすがにキツイのか、ベッドについたマコトの腕に爪を立てる。タカシは薄く目を開けると、自分の上でうっすらと汗を浮かべている相手を見上げた。
「マコちゃん・・大丈・・夫・・・?」
「ちょっと・・・つれぇ・・・」
「じゃ、この脚・・・こっちにして、後ろから来て・・・」
 自分の右足を指差し、移動を指示。マコトは言われるがままにタカシの脚をくぐり、タカシの身体を横向きに寝かせる。身体はつなげたままで・・。
「こっちの方が・・きっと楽・・・」
「あぁ・・・確かに・・・」
 マコトの方は動きやすくなったものの、タカシは見事に傷口を下に敷くような体勢。深い傷が、身体の奥で疼いた。
「んっ・・・」
 進みやすくなったマコトがタカシの中に深く侵入してくる。タカシは枕に顔を押し付けて声を殺した。
「っ・・・はぁ・・・」
 マコトが大きく息をつく。奥まで入り込むとタカシの身体を抱くように左肘をシーツの上に乗せた。右手では、タカシのそれをつかむ。
「マジで・・・動いても・・いいのかよ・・・?」
「うん・・・・・遠慮なく・・どうぞ・・・っ・・リハビリしないと、身体がなまっちゃう・・しね・・」
 汗ばんだ身体で、マコトを振り返り不敵に笑う。
「じゃ・・・」
「・・・っ・・・」
 ゆっくりとマコトが動き出す。タカシが声を殺してる代わりに、ベッドが規則的なリズムを刻み出した。
「・・・っ・・・・・っ・・・・・ん・・」
 熱くなるマコトの胸がタカシの背中にこすれる。マコトの右手で握られているものは、早くも解放を求めて震えた。
「マコちゃ・・・んっ・・・も・・だめ・・・っ・・」
 あまりの早いギブアップ宣言に、マコトが目を丸くする。いつもなら遅いタカシがここまで反応するのも面白いもんだなぁと、つい意地悪ゴコロが芽生えた。
「じゃあ・・・こうしとくか・・・」
 マコトがタカシの根本をぎゅっと握り締める。タカシの身体がピクリとはねて、中のマコトを締め付けた。
「っ・・・・・ご無沙汰なのに・・・おあづけ・・っ・・?」
 不敵な笑いはそのままに、タカシがマコトに視線を投げる。
「へへっ・・たまにはこういうのも・・・いいなぁ・・・」
 マコトの舌が口唇を舐め、再び動き出す。波のように襲う感覚に、タカシの指が白いシーツを力無く掻いた。
「・・・っ・・・はっ・・・・あ・・・」
 口唇が震え、こらえきれない声が漏れ始める。マコトが動きながらタカシの耳元で囁いた。
「声・・・聞こ・・える・・・・・っ」
「んあっ・・・・でも・・・っ・・・・んん・・・っ・・」
 いつもよりいいのか、タカシの目にはうっすらと涙がにじむ。マコトの動きに合わせて収縮するそこも、普段より熱く感じる。
「あ・・・マコちゃん・・・っ・・・いい・・・っ・・」
 闇の中でも分かるほど、上気した肌。オールバックに撫で付けていた髪は、既に乱れて枕の上に散らばっている。幾度も突かれる拍子に、目尻の涙が枕に吸い込まれた。
「・・・っ・・・は・・・」
 動いているマコトの方も、乱れた呼吸を整える余裕も無い。
「・・・・んっ・・・・あ・・ん・・・・っ・・」
 闇の中に響く、荒い息遣いとベッドの軋み。
 無言で続く甘い営みの最中に、ふとマコトがその動きを止めた。
「・・・っ・・マコ・・ちゃ・・・?」
「この体勢だと・・・無理が・・・あるんだよな・・・っ・・」
 そして、最初の体勢に戻る。タカシの背をベッドに横たえ、マコトがタカシを見下ろした。
「なに・・すんの・・・?」
 マコトの真意がつかめずに、タカシがマコトを見上げる。マコトは長い身体をかがませ、タカシの胸に舌を寄せた。
「んっ!・・」
 瞬間、目を閉じてタカシが顔を背ける。タカシの弱い場所を強く弱く吸いながら、マコトがクライマックスとばかりに動き出した。
「あっ・・・はあっ・・・んっ・・・」
 ぶれる視界に揺れるマコト。ズキズキと痛む腹部。
 月明かりに慣れた目は、目の前で汗を流す相手を嬉しそうに見つめた。
「マコ・・・っ・・ちゃん・・・サイコー・・・・ッ・・」





 「聞こえたかなぁ・・・隣り?」
 上半身裸でベッドに横たわったまま、マコトが呟く。
「マコちゃん頑張ったからねぇ・・・」
 その横で、マコトの肩にタカシが顎を乗せる。
「おめーが我慢しきれねぇからだろ!声でけぇんだもん」
「だって、マコちゃん上手くなってるんだもん。男も女もできるようになったら、なんか一皮むけた?」
「関係ねーよ」
 めんどうくさそうにマコトが返す。タカシは別にそれを気にしているようでもなく、あっさりと続けた。
「ふうん。そだ。メロン食べるナリ」
「へ?」
「もう一個あるんでしょ?」
「あ・・・・・あー」
 なんか歯切れの悪いマコトの返事。マコトはベッドを降りると、ビニール袋を取った。
「ほい」
「ほ〜い」
 寝転がったまま袋を受け取り、中を手探る。手に触れたものを取りだし、タカシの目が丸くなった。
「・・・・・・・・・・・キュウリ・・・?」
 出てきたのは一本のキュウリ。どう見てもメロンには見えない。
「マコちゃん。メロンは?」
「いや、だからさ。前に聞いたことがあるんだけどさ、キュウリにマヨネーズかけて食べるとメロンの味がするんだってよ。だから一緒に試してみようと思ってさ」
「ぶっ!」
 途端に吹き出してタカシが身をよじる。
「あ・・・痛たた・・・痛い・・・マコちゃん・・笑わせないでってば・・・」
「何がおかしいんだよ。ほら、ちゃんとマヨネーズも持ってきたしよ」
  笑われることは心外といったようにマコトが口唇をとがらせる。
「違・・マコちゃん、それ違う・・・・あ痛たた・・」
「何がちげーんだよ」
「それ、キュウリに蜂蜜。キュウリに蜂蜜でメロンの味。一緒にうちのテレビで見たじゃん」
 わははと笑ってはイタタと身をよじる。マコトは手にしたマヨネーズをじっと見つめ、言葉を失った。
「だって、キュウリにマヨネーズじゃ、ただのサラダっしょ。わははは・・・、マコちゃん・・痛い・・」
「あー、そうか。言われてみればそうだなぁ。じゃあさ、もしかしたらメロンにマヨネーズをかけたらキュウリの味がするもしれねーじゃん」
 する訳ないっしょと思いつつ、タカシが更に笑う。
「ほら、食ってみろよ」
 残ってたメロンにマヨネーズをかけてマコトがタカシに差し出す。
「やだよ、マコちゃん食えばいいじゃん。そんなもん食って傷開いたらどうするんだよ」
「おめー、明日退院なんだろ。食ったぐれーで傷なんか開かねぇよ」
 タカシの顔にマヨネーズかけメロンをぐいぐいと差し出す。
「やだってば。マコちゃんがマヨネーズかけたもんって、マヨネーズの味しかしないんだもん」
「ぶっ飛ぶんだってばよ」
「傷開くからマジで乗ってこないでよ。重いっしょ」
 身体をよじってメロンから逃げる。マコトがそれを追いかけながら、タカシの上に覆い被さった。
「いいから食えって。お前、誕生日だろ」
「え?」
 覚えていたのかと問い掛けるタカシの瞳。ってことは・・・それってまさか・・・。
「誕生日・・・プレゼントとか・・・言っちゃったりしちゃったり・・・して?」
 恐る恐るという感じのタカシの問いに、マコトが満面の笑みで返す。タカシは目の前にあるマヨネーズてんこ盛りのメロンの切れ端を睨むように見つめた。
「ほれ。食ってみろよ」
「う〜ん」
 眉間に皺を寄せるタカシに、笑顔のマコト。
「ほら」
「う〜ん」
  いやいやタカシが口をメロンに運ぶ。タカシはそれを一口、目を閉じながらかじるように食べ、瞬時にしてべろーっと口から出した。
「ま・・・まじい」
「あああ!!ったく、しょうがねぇなぁ。美味いはずなのに・・」
 ぶつくさいいながら、マコトがかじる。が、マコトはそのまま平然と二口目に進んだ。
「美味いじゃん。もう一回食べてみろよ。さっきのは間違いだと思って」
 タカシの身体にのしかかりながら、マコトがメロンを差し出す。
「やだって。痛いよマコちゃん。痛い・・・ってば・・・・」
 と、ガーゼの上に当てた手が、ぬるりと濡れる。二人の視線が一瞬絡まり、タカシの腹部に移動した。
「あ・・・・」
 痛い痛いと思ったら、案の定、ガーゼからしたたる赤い血。鼻につく鉄分の香り。
「ばっ・・おめー!ボーっとしてねーで人呼ばねーと!」
「この恰好で?」
 メロンの汁と汗とマヨネーズ、あと説明に困るモノにまみれ、半裸状態の自分たちの姿を振り返る。
「だっ・・でも・・・あーーめんどくせぇ!!」
 ナースコールよりも先に、その声が病院に響き渡った。





 こうしてタカシの退院はいましばらく延びた。
 が、誕生日にあれこれ奉仕してもらったせいか、タカシはどこか嬉しそうで、その後もいそいそとメロンの配達を頼んでいる・・・とのこと。

 あぁ、まさに命がけの情事ナリ。



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