『熱帯夜』
乙姫静香
ジリジリと毛穴を開くような暑さ。
横たわる素肌の上を玉の汗が滑り落ちていく感触に、宮坂はけだるく目を開けた。
留まったままの濃い空気。身体が空中に飽和していくような体温間近の気温。
ここは一ノ蔵の部屋。暑いと感じるのは、情事の後だからというだけではない。夏の最中だというのに壊れたクーラーの所為で、突然こんな風に寝苦しい夜を過ごすことになった。
一ノ蔵は眉間に皺を寄せながらもなんとか眠りに就いているようで、宮坂が起き上がっても起きてくる気配はない。宮坂は裸のままで立ち上がり、力無く窓を開けてみる。風の入ってくる様子は・・・・なかった。
冬生まれの宮坂は、なんといっても暑さに弱い。暑いというだけで頭が朦朧としてくるし、動けなくなる。今も窓枠に肘をついて、餌をねだる金魚のように口を開けて呼吸をしていた。
あ・・っつい・・・なぁ。
開け放った窓の向こうからは、風に揺れる葉の音さえもしない。この街中すべてが、息を止めたように静まり返っていた。
一ノ蔵は不思議な物音で目を覚ました。
まだ眠いものの、寝苦しさに重い身体を反転させる。うつ伏せになって顔を上げると、ベッドに宮坂が居ないことに気付いた。
起きてるのかな?と思いながら重力に逆らって瞼を上げる。と、そこには、なんとも奇妙な格好をした宮坂が座っていた。
「忍さん?・・・・なに・・・・してんすか?」
かすれた一ノ蔵の声に、宮坂が振り返る。
「あ・・・起こしちゃった?・・・・ごめんなさい」
言いながら、眠さとだるさで目の座った宮坂が缶ビールを頬に当てる。その冷たい感触が気持ち良いのか、自分の頬に缶を当てながら、宮坂は微笑まじりに目を閉じた。
「眠れない・・・?暑いですもんね」
「一ノ蔵さんは大丈夫なの?」
「いや、かなり寝苦しいですよ。暑いの苦手なんで」
あ、一緒だ。と宮坂はつい嬉しくなる。
「でもなんで忍さん、そんな格好・・・?」
一ノ蔵がそんな風に言うのもその筈。宮坂はフローリングの床の上に、バスタオルを身体に巻いて座っていたから。
ベッドの上でうつ伏せになったまま、一ノ蔵が宮坂のビールに手を伸ばす。宮坂は一ノ蔵に缶を渡しながら、目を細めて言った。
「はい。触ってみて」
バスタオルに包んだ背中をベッドに近づける。一ノ蔵は冷たいビールを一口飲んだあと、大きな手でその背中に触れた。
「・・・?・・・・おっ・・・・どうしたんですか?これ」
手に伝わった氷のように冷たい感触。宮坂は一ノ蔵のストレートな反応が嬉しくて、つい声を上げて笑った。
「ビニール袋に入れて、冷凍庫に入れたの。濡らすと部屋が濡れるから、乾いたままで。・・・で、出したばかり」
へぇ・・・っと感心したように一ノ蔵は話を聞いている。聞きながらも、感触が気持ち良いのか、ペタペタと宮坂の背中を触っている。
「うん。気持ち良さそう・・・」
タオルを触りたいのか、宮坂を触りたいのかが分からなくなってくる。
その間にも、冷えたビールの缶が汗をかき、一ノ蔵の骨太な手首を伝って落ちてきた。
「でも、もうぬるくなってきちゃった」
一ノ蔵の手が引いたところで、スルリと宮坂が肩からバスタオルを落とす。突然剥き出しになった白い背中と首筋に、一ノ蔵の目が止まった。
「氷もあるけど・・・食べる?」
と、溶けかけた小さな氷を口に含んで宮坂が振り返る。手には、氷の入った皿。一ノ蔵は額から落ちた汗を手の甲で拭うと、ふっと微笑んで宮坂を手招きした。
「ん?」
ほどけた表情で身体を寄せてくる宮坂の腕を、一ノ蔵の手が掴む。そのまま一ノ蔵はベッドから身を乗り出し、皿を差し出した宮坂にくちづけた。
「ん・・・・・っ・・・」
ねっとりと絡む舌。宮坂の手が皿を手放しそうになり、慌てて指先に力を込める。
宮坂の冷えた口中をかき乱し一ノ蔵の口唇が離れると、一ノ蔵が舌先に氷の欠けらを乗せて微笑んだ。
「いただきます」
そして、カリッとその氷をかみ砕く。宮坂は自分にされたことの恥ずかしさに顔を赤くしながら、新しい氷を細い指で摘まんだ。
一ノ蔵は妙に嬉しそうに氷を噛んでいる。そんな音だけが響く、熱帯夜。
「・・・シャワー・・・浴びればよかったのに」
天井を仰ぎながら、ふと気付いたように一ノ蔵が呟く。すると宮坂は、ごく自然に微笑んで返した。
「でも、起こしたくなかったから」
そして腰にタオルを絡ませたまま、フローリングの床にコロンと横たわる。ベッドよりも、そっちの方が冷たくて気持ち良いのだろう。背中にはすでに、じんわりと汗が浮かび始めている。
一ノ蔵はベッドを這い出すと、床に肘をついて氷を食べる宮坂の横に並んだ。皿の中の氷を摘まんで、舌先でペロリと舐める。
「そんなに・・・気を使わなくてもいいんですよ」
言いながら、一ノ蔵が氷を口に含む。この時、一ノ蔵の中で芽生えた何かに、まだ宮坂は気付いてなかった。
「だって、ご近所にも迷惑・・・・・やっ!・・・え・・・?」
脇腹に感じた冷たい・・・けれどそれだけではない感触。宮坂は身体を引きながら、驚いて一ノ蔵を見上げた。
「な・・・なに?」
戸惑いの宮坂。一ノ蔵はいたずらっ子の表情で宮坂に微笑んだ。
「ちょっと涼しくなりましたか?」
口に氷を含んだまま甘噛みされたのだということに、やっと宮坂が気付く。宮坂は目を丸くしたまま素直に答えた。
「涼しいっていうか・・・心臓が縮んだような・・・」
「じゃあ、これは?」
一ノ蔵が宮坂の身体にのしかかり、白い肌に映えるピンク色の乳首を口に含む。お互いの汗ばんだ肌が、擦れ合うように重なった。
「やっ・・・冷た・・っ・・・」
宮坂が身体をよじって逃げる間もなく、一ノ蔵の身体は下へとおりていく。氷を含んだままの冷たい舌と熱い指先で宮坂のそこかしこを刺激しながら、一番熱を持つ部分にまで辿り着く。
「だっ・・・や・・・」
触られるたびに細かなひくつきを繰り返す宮坂の身体が、冷たい刺激に熱くなる。一ノ蔵の身体もさらに熱を帯び、宮坂の身体の上に汗の雫が落ちた。
「残念ながら、氷がなくなっちゃいました」
いつになく意地悪く輝く一ノ蔵の瞳。暑さの所為でタガが外れたのか、一ノ蔵は貪るように宮坂の身体をまさぐっていく。
「でも、口の中まだ冷たいからいいですよね?」
口調は優しいものの、その舌使いは確信犯。宮坂のそれの先端を軽く含むと、焦らすように割れ目の部分を刺激する。チロチロとしたその動きに、宮坂が喉を反らせて喘いだ。
「やっ・・・ん・・・あ」
宮坂の内股がひきつるのを見ながら、一ノ蔵の舌が宮坂のそれの裏を辿っていく。時折薄く目を開けて、宮坂の表情を確かめながら・・・。
冷たさに背中が引きつり、与えられる刺激に腰の奥から疼いてくるような感じ。徐々に熱を取り戻していく一ノ蔵の舌に弄ばれるように、宮坂が短い声を上げた。
「ん・・・っ・・・・」
暑さでだるいのも手伝って、投げ出した手足が受ける刺激を正確に表す。汗ばんだ肌が薄闇の中で白く光った。
一ノ蔵の肩甲骨が動き、宮坂の身体の下に腕を入れる。宮坂も次に来る刺激がなんであるか分かりながら、けだるく首を振った。
「あ・・んっ・・・・ふ・・・っ・・」
後ろに触れられると、まだ冷たく感じる一ノ蔵の舌先。前のそれには大きな手がかかり、規則的な動きで宮坂を感じさせている。
「こっちも呼吸が激しいみたいですよ。・・・暑いのかな?」
サラッと言ってみせ、一ノ蔵が涼しげに微笑む。宮坂は一ノ蔵の舌がそこから離れると、口で呼吸をしながら身体を起こした。
「なん・・・で・・・っ・・・」
汗の筋が伝う一ノ蔵の首に両腕を回し、気温よりもはるかに熱いその身体に宮坂が抱きつく。
「そんな・・・意地悪・・・・?」
バスタオルもなんの意味も無いほどに熱くなる宮坂の身体。一ノ蔵はその細い身体を抱きかえしながら、耳元に囁いた。
「だって、忍さんが涼しくなるには、気温よりも熱くなった方がいいかな・・・って」
その間にも耳たぶを口唇で挟み、背後に指を忍ばせる。しがみつくように抱きついてくる宮坂を一ノ蔵はいとおしそうに見つめた。
「んっ・・・・・あっ・・・」
二人の胸の隙間を伝い落ちていく汗。
「ほら、ここだって・・・・こんなにすんなり指が・・・・」
「一っ・・・ノ蔵・・・・さんっ・・・・」
恥ずかしさに、宮坂が怒ったように喘ぎ、背中に爪を立てる。それでも身体は正直に反応し、一ノ蔵の指をくわえ込んで疼いていた。
「そ・・な・・・言い方・・・・・っ・・・や・・」
すすり泣くような宮坂の声に、一ノ蔵の意地悪心はまた刺激されながらも、一方で生まれる罪悪感。特に宮坂は変なプレイめいたカケヒキは嫌いだから、深追いすると傷つける。
「嘘ですよ・・・。本当は、嬉しいんです。こんなに・・・忍さんが感じてくれてるの」
宮坂の脚を広げて、自分の脚の上に抱きかかえる。既に先走り始めている宮坂のそれを、一ノ蔵の手が包んだ。
「は・・っあ・・・・・ん」
「忍さん・・・・・もっと・・・欲しい?」
宮坂の目尻に浮かんだ涙が、零れる間際に汗と交じり合う。宮坂は顔を上げると、一ノ蔵の乾いた口唇に、自分の赤い口唇を重ねる。そして、今度は宮坂の方から、貪るように長いくちづけを交わした。
「んっ・・・・・んん・・・・」
宮坂の方から、こんなに激しいくちづけをしてくるのは初めてのこと。一ノ蔵は驚きながらも、その舌の動きに合わせて首を傾ける。
「ふっ・・・・ん」
一ノ蔵の口端から、したたる唾液。それを拭うように、宮坂の口唇が一ノ蔵の顎をなぞり、半開きの宮坂の目が切なく一ノ蔵を見据えた。
「忍・・・さん・・・」
見つめ合ったまま、吐息が絡まり、軽く口唇が触れ合う。今度はすぐに離れると、宮坂が大きな目を見開いて呟いた。
「・・・・・・好き・・・・」
ズキンと、胸を打つ言葉。一ノ蔵が一瞬動けなくなるほど、その声は切なく甘い響きをしていた。
「一ノ蔵さんだけ・・・・・好き」
一ノ蔵の顎を両手で包み、その瞼に口唇を寄せる。目で感じる、熱く柔らかい口唇。そのままそれは頬に下り、顎に触れ、一ノ蔵の胸の上を下りていく。
「忍・・・さん・・・・っ・・」
一ノ蔵の胸を吸って歯で軽く噛む。一ノ蔵の身体がピクリと反応した。
「・・・え・・・っ・・・?」
とまどう一ノ蔵に視線を一度投げ、宮坂が身体を離す。一ノ蔵には、宮坂が一度微笑んだように見えた。
宮坂は一ノ蔵の脚の間に座ると、そのまま這うように肘をつき、顔を埋めていく。宮坂の薄くやわらかな舌が、容赦なく一ノ蔵のそれに絡み付いた。
「っ・・・・ん・・」
魅入られたように動けなくなった一ノ蔵は、自分のモノを宮坂の赤い口唇が丹念に舐め上げる様を見続けている。唾液を絡めながらの絶妙な舌技に、時折息を飲んだ。
「・・・っ・・・」
スウェードのような宮坂の舌の感触。話には聞いていたけれど、ここまで上手いとは思わなかった。歯と口唇と舌を使い分けた愛撫に、一ノ蔵の息が上がる。
「忍・・さっ・・・・ん・・・」
このまま続けられたらたまらない。一ノ蔵は宮坂の髪を撫でると、その細い肩を掴んで宮坂の身体を床に押し倒した。
「ありがとうございます・・・。忍さんからしてくれるなんて・・・」
本当に、どうしてしまったのだろう?と思いながらも、やはり嬉しい。すると、宮坂が恥ずかしそうに口を開いた。
「だって、僕も・・・・あの・・・・」
たまらずに、その言葉を、分かってるからというように遮りくちづける一ノ蔵。そのまま、宮坂の身体を開いて、自分の身体を重ねた。
「う・・・んっ・・・」
宮坂が目を閉じて低く喘ぐ。何度も身体を重ねたというのに、今日の宮坂はどこか違うような気がする。そう、まるで・・・肉食獣のような妖しさとしなやかさ・・・。
身体を押し進めながら、一ノ蔵が宮坂の身体を持ち上げる。宮坂は体重の預けどころがなくなり、慌てて一ノ蔵の首にしがみついた。
「こっちの方が・・・深く・・・っ・・・・入るでしょ?」
宮坂の膝の下に入れられた腕が、細い身体を持ち上げて揺さぶる。深く繋がりあった場所が、普段以上にきつく一ノ蔵を締め付けた。
「ああっ・・・・あ・・んっ・・・んあっ・・・」
二人の繋がる粘液質な音が、部屋いっぱいに広がる。細いとはいえ宮坂の身体を持ち上げているのだから、一ノ蔵も楽ではない。いつも以上の汗が滲んでいた。
「んっ・・・あっ・・・・一ノ・・・蔵・・・さっ・・・はっ・・」
熱と快感に浮かされた声の宮坂。前でせつなく揺れるそれも、一ノ蔵の腹にこすれてはちきれんばかりに育っている。
それでもやめない一ノ蔵の動きに、泣くように喘ぐ宮坂。白い背中を汗が伝った。
「ああっ・・・あ・・ん・・はあっ・・・い・・・あっ・・・」
首にしがみついた宮坂が、一ノ蔵の耳元で繰り返す声。一ノ蔵はそこで、宮坂の身体を再び横たえると、片手で宮坂の前をいじりながら、さらに突き上げる。
クチュクチュと滴り交じりに加えられる愛撫。宮坂の白い喉が、せつなく震える。
「は・・・んっ・・・・あっ・・・」
目尻から断続的に溢れる涙が、首を振った拍子に散らばっていく。内側の一ノ蔵を、規則的に締めつける宮坂を、一ノ蔵が見つめた。
「一・・・ノ蔵さ・・・っ・・・も・・・うっ・・・・ん」
手の中で脈打つ感じで、宮坂の言わんとすることが分かる。一ノ蔵は動きを限りなくゆっくりしたものに変えると、少し焦らすように宮坂の耳元で囁いた。
「なんか・・・・今夜は・・・すごいですよ・・っ・・・・忍さん・・・」
「・・・え・・・・どうし・・・・てっ・・・・?」
突然鈍くなる刺激に宮坂が密度濃く睫毛の生えた瞼を持ち上げる。額に光る汗が、宮坂の身体の熱さを代弁している。
「俺・・・・こんなの・・・初めて・・・・っ・・・すごく、素敵ですよ・・・・」
交じり合う汗と吐息。夜とは思えない熱い空気の中で、更に熱い身体を重ねる二人。
一ノ蔵が唾液を飲み下して乾いた喉を潤す。宮坂は新たな刺激を求めて、潤んだ瞳で一ノ蔵を見上げた。
「・・・ね・・・・一ノ・・・蔵さん・・・っ・・・・」
ねだるように向けられる宮坂の視線。一ノ蔵はそんな表情にも胸をくすぐられるのか、どう伝えたらいいか分からないほどに甘い気持ちを持て余す。
眩暈がする程、愛しくてたまらない。致命的ともいえる、この想い。
「忍さん・・・・もう一度・・・・言ってくれます・・・・?」
「・・・え・・・っ・・・?」
宮坂の揺れる瞳が、一ノ蔵のそれを虚ろに覗き込み・・・・・見開かれる。
が、次の瞬間、一ノ蔵の言葉を理解した宮坂が、微笑とともに擦れる声で呟いた。
「・・・・好・・・き・・・・」
何故だかその言葉を口にする時、宮坂は妙に幼い表情に変わる。一ノ蔵は、それに微笑みで返すと、独白のように呟いた。
「時を・・・止めたいくらいですよ・・・・」
そして再び、動き出す一ノ蔵。宮坂が満たされたように柔らかい表情を見せると、一ノ蔵もつられて微笑んだ。
朝。頭を洗っている一ノ蔵の傍らで、宮坂が殆ど水に近い風呂に浸かっている。
「朝からそんなに水に浸かってたら、だるくなりませんか?」
「うん。・・・・でも、なんだか・・・熱が引かなくって・・・・」
その言葉に、一ノ蔵が首を傾げる。熱が引かないって・・・・今日はそんなに熱くならないっていう予報だったし。
「ちょっと、いいですか?」
一ノ蔵はそういうと、宮坂の額に手を当てる。・・・・・げ。
「熱いじゃないですか!」
「え?」
暑い夜のせいではなくて、風邪である。一ノ蔵は即座に身体を洗い流すと、ぼーっとした表情の宮坂を抱きかかえてバスルームをでた。
「忍さん。それ、風邪です!だめですよ、寝てなくちゃ!」
「え〜?」
身体を拭かれても、よく状況が掴めないようで、宮坂はぼーっとしている。
一ノ蔵は着せたパジャマの袖を折りながら、顔の赤い宮坂を見つめた。
「今日は、カナメさんは?」
「え〜?」
もう何も考えられないのか、本当にぼけている宮坂。こりゃ無駄だと一ノ蔵は携帯を手にしながら、片手で薬箱をあさった。
「あ、おはようございます。カナメさんですか?一ノ蔵です。は?・・・あぁ、はいはい珠ちゃんです。え?あ、おざなりになんか話してないですよ。・・・・え?・・・あの!お願いですから話をさせて下さいってば。・・・えぇ、はい・・・はい。確かに忍さんはここにいますけど・・・・あぁ!」
焦れながらも薬を探し出し、カナメへの説明も済ませて携帯を切る。自分の身体も拭きながら、一ノ蔵はベッドに腰掛けたままボーっと虚空を見つめる宮坂の前に座った。
「いいですか?今からカナメさんが来てくれますから、安静にしてるんですよ。あー、こんな時に会社っていうのが・・・」
一人慌てながら、一ノ蔵はそれでも着々と身支度と看病の準備を進める。宮坂はすでに半分頭が寝ているのか、半開きの目でそれを見ている・・・ようだった。
「一ノ蔵・・・さん?」
「はい?」
呼ばれて、一ノ蔵がシュタッと宮坂の前に座る。宮坂は袖の折られたパジャマの腕をゆっくりとあげ、一ノ蔵の肩に手を置いた。
「何処行くの?」
「何処って・・・会社ですよ」
不思議な質問だな・・・と、答えながらも一ノ蔵が首を傾げる。すると、眠そうな目をした宮坂の目に、みるみる涙が溢れてきた。
「え!?・・・えぇ!?」
どういうことだかさっぱり分からない一ノ蔵。宮坂は途端にポロポロと涙を流し、肩に置いた手に力を込めた。
「や・・・だよう・・・・・。行っちゃ・・・やだもん・・・・」
「だっ・・・でっ・・・・え・・・ええっ!?」
一体どうしてしまったのか、一ノ蔵にはさっぱり分からない。もしや、宮坂ってば熱が出ると・・・なんか変る?
「一緒に・・・・居たいもん・・・・・」
えっえっ・・・と、しゃくりをあげながら、片方の袖で流れる涙を拭う宮坂。
そりゃ一ノ蔵だって一緒に居たい。病気なら尚更だ。だがしかし、今日は会社でミーティングもあるし・・・。
「僕のこと・・・・嫌いになった?」
そんな訳ないでしょう?と力強く首を横に振る一ノ蔵。宮坂はそれを見ると、赤くなった目でじっと一ノ蔵を見つめた。
「・・・・・・好き」
殺し文句である。が、一方で一ノ蔵は昨晩の宮坂の様子の違いになんとなく納得が行った。
あの頃から、きっと具合は悪かったのであろう。自覚してなかったというだけで・・・。
ちゅ
考え事をしていた一ノ蔵の額に、触れる宮坂の口唇。
だから、やばいんだってば・・・・。あれがきてこれが来てってことは・・・・次は・・・。
身体ではウェルカム。理性ではストップ。
会社の時間はせまる。
そして、一ノ蔵は・・・・・。
−終−
しっとりと終わらせようと思ったら、やはり笑いに行ってしまった(^^;)
深く反省。おまけにやってるだけだし・・・これまた深く反省。
表でこれだけやっちゃったので、今後は裏のえっちも精進いたします。
BGMはゴスペラースの『熱帯夜』。そのまんまですな(^^;)
しかし珠ちゃん・・・どうしたんでしょうねぇ?