Above & Beyond
乙姫静香
これはまだ、みんなが高校生だった頃の話。
「ひょーほほーいっ!」
タカシは叫びながら、デッキブラシを片手に、磨いたプールの床を転げまわる。
6月の、ある晴れた日のことだった。
「ひゃっほぉいっ!」
プール開きを前に、他校生徒とのケンカがばれた山井とタカシが、罰としてプール掃除をやらされる羽目になったのである。本当はここにマコトもいなければならないのだが、マコトは本気の腹下しで学校を休んでいた。
「ったく、やってられっかよ」
「何か言ったか?」
山井がぼやいた瞬間に、横の体育教師が冷たい一瞥をくれる。
掃除もそろそろ終盤に差し掛かってるので、これ以上下手に教師の気をさかなでるのも馬鹿馬鹿しい。山井は小さく舌打ちをすると、デッキブラシで適当に床をこすった。
「うーほほーーーいっ!」
タカシは相変わらず濡れて滑りやすくなった床を楽しんでいる。着ているTシャツも膝までめくりあげたジャージもずぶ濡れ。まさに全身をブラシ代りにしていた。
「おめーもいい加減うるせーんだよ」
タカシに聞こえるか聞こえないかの声。タカシは聞こえているのかいないのか、楽しそうに走ってきてはザザザーッと床の上を滑っている。と、そこへ体育教師が言った。
「おい、安藤。そろそろ水張るからな。あがれや」
「ふお〜いっ」
なんとも適当な返事でタカシがデッキブラシを振り上げる。山井は、教師がタカシにだけ注意を促したことも気に食わず、再び小さく舌打ちをしてプールサイドにあがった。
「じゃあ、俺はもう行くから。水を張り終わったら止めて、それで帰れ。いいな」
横柄な教師の物言いに山井が上目遣いで返す。タカシは横で大きなあくびをひとつした。
「お前たちも、ケンカはほどほどにしとけよ。おい、聞いてんのか?安藤?」
「ふお〜いっ」
涙目でタカシが言い、教師がため息をつく。それでもその教師がプールサイドから姿を消すと、二人してだらしなくその場に座り込んだ。
プールにはザバザバと水が注がれていく。
「マコトの奴さぼりなんだろ?ったく、かったりぃったらありゃしねぇよ。俺らに押し付けやがってよ」
苛立ちまぎれにデッキブラシをプールサイドの反対側に投げつける。『どうせ自分で片づける羽目になるのにねぇ』と、飛んでいくブラシをけだるく目で追いながら、タカシが隣りで呟いた。
「マコちゃんの腹下しはマジっしょ。昨日見に行ったらトイレにこもってたもん。出るもん出し切って、今日あたりはシブリ腹モードじゃない」
タカシの言葉に「馬鹿馬鹿しい」と言いたげな山井の顔。いつだってとりあえずこいつはマコトをかばう。それがとにかく気に食わなかった。何故だか分からないけど、本当に気に食わなかったのだ。
「とりあえず、あとはお前やっとけよ。俺はこんなくだらねぇことに付き合っちゃいらんねぇんだよ」
山井が言って立ち上がろうとする。と、その肩をぐっとつかんでタカシが返した。
「付き合っちゃいらんねぇのはこっちも同じなんだよ」
普段ののほほんとしたナリからは程遠い、凄みのある声。忘れそうにはなるものの、タカシも確かに巷で一目置かれる存在なのだ。一度切れると寸止めのきかないタカシ。時折切れたタカシを見るたびに、山井はそのことを思い出させられた。
「ちっ!」
舌打ちで、押さえられた肩の手を払う。まともにぶつかってはいけない相手であることはよく分かっていた。それになんというか、変に気になるのだ。例えば最近富に、タカシがマコトと一緒に居る姿を見るとムカツク。なんでかは分からないけど。
腕っぷしは良いくせに、妙に白かったり、妙に細かったり。集団の中に居ても、すぐに目がタカシを見つける。なんでだかは分からないけど。
おまけにこの前、強姦モノのAVを見てたらなんだかそのヤラレてる女優がタカシに似ているような気がしてならなかった。冷静に考えるとそんなに似てないのに、なぜだかそう見えた。なんでだかは分からないけど。
なんでだか分からないけど、全く理解不可能だけど。
「うぜーくれぇに気になるんだよっ!!」
いらいらしてつい怒鳴る。黙ったと思いきや、突然怒鳴り出した山井に、隣りのタカシが目を丸くした。
「なにがぁ?」
普段ののほほんフェイスに戻ったタカシが山井を見る。濡れたTシャツがタカシの身体に張り付いてる様が、また山井の目に付いた。
「な・・・なんでもねぇよ」
夕方の風がそよぐ中、タカシがくしゃみをひとつつく。寒くなってきたかなという気温なのに、山井の身体はどんどん熱くなっていった。
「ねー、山井さぁ、マコちゃんと小学生の時から知り合いなんっしょ?マコちゃんって昔っからあんなに強かったん?」
またタカシの口をついて出てくるマコトの名前。山井はよっぽど「俺の方が強ぇんだよ!」と言いたかったが、さすがに今この場でそれを言うことがどのくらい恥ずかしいかは分かったので、あえて腹の中でそんな言葉をくすぶらせた。
「何黙ってんのよ〜ん。寝てんの?」
「うひゃ!」
つんっと脇腹を突付かれて、身体が跳ねる。口唇を噛みながら山井が視線を横に振る・・と、そこには人差し指をたてて、にやにやと楽しそうに笑うタカシの姿があった。
「敏感な〜のね〜ん♪」
腹が立って腹が立って、今すぐどうにかしてやりたい・・・という欲望が山井の胸の中に湧き起こってくる。タカシが泣いて叫んで許しを請うような、そんな何かをしてやりたいと思った。そうしたら、マコトよりも自分の方が強いことが分かるかもしれないし、これ以上自分を相手にちゃらけたこともしなくなるかもしれない。何よりも、タカシがマコトじゃなく自分の方を見るようになるかもしれないと思った。なんで見られたいのかは、実はよくわからなかったけど。
「おめぇなぁ・・・」
「なぁに〜?」
凄んで言いかけると、タカシが薄笑いで返す。
そう言えば、いつだったか、ケンカの時に角材でタカシの横っ面をはたいた奴が、耳を噛み千切られたのを見た。相手は顔面を血まみれにしてのたうち回り、タカシも自分の血だか相手の血だか分からないもので顔面を真っ赤に濡らし、ヘラヘラ笑っていた。
そんな映像が、瞬時に山井の頭をよぎる。
「へっくちょん」
締まりのないくしゃみをして、タカシが細い身体を自分で抱きしめる。
「しゃぶ〜いっ。シャワー浴びてこ〜よおっと」
そう言ってタカシは立ち上がると、その場で濡れて張り付いたTシャツを脱ぐ。白い身体が、夕暮れの中で眩しく映えた。
無精髭を生やした山井の顔が口を半開きのままに硬直する。タカシは自分を見上げる視線に、意味深な笑みで返した。
「今晩のオカズにする気なら、金払ってね〜」
その台詞に、固まっていた山井がはっと動く。
「ばっ・・・馬鹿野郎っ!誰がお前なんかっ!」
「そお?じゃあ水溜まったらぁ、ガッ!と止めといてね」
言うだけ言って、タカシはふらふらと更衣室へ消える。山井は、むかつき半分、変な気持ち半分でその白い背中を見送った。
更衣室への扉が閉まった瞬間に、頭の中で再現されるAV。タカシの白い身体とそれは交互に脳裏をかすめ、徐々に自分がタカシを組み敷く場面へと変わっていく。
泣いて嫌がるタカシ。組み敷かれる細い身体。まだ誰にも許したことのない部分がさらけ出され、自分に陵辱される様が次々に思い浮かぶ。そしてそれは思い浮かぶほどに、さっきまで胸でくすぶっていた変な気持ちを溶かしていった。
ザバザバザバザバ
目の前でとめどなく注がれていく水の音。
山井はきつく拳を握り締めると、その締まった足を伸ばして立ち上がった。
タカシは更衣室へ入ると、張り付いて脱ぎにくい服と格闘しながらシャワー室へと移動した。
服を脱ぎきるよりも先に、捻るシャワーのコック。最初は冷たい水が、徐々に熱く変わっていく。体育用の短パンと下着を残した状態の時に適温を確認すると、タカシはそのまま熱いシャワーを身体に浴びた。
冷え切った身体がゆっくりと体温を取り戻しはじめる。顔を上げて熱い湯を顔面いっぱいで感じながら、タカシの指が短パンへ伸びた。と、その時。
更衣室のドアが開く音が聞こえたような気がする。もう水が溜まったのかなと、タカシが首を傾げた。
学校がひけたら、一応マコトの所に顔を出そうと思う。腹の具合はもう良くなったのだろうか。この間の奴等がリベンジ狙ってるみたいだから、途中で会わないと良いなぁとか、そんなことがタカシの頭をよぎった。
脱いだ短パンをパーテーションの上に引っかける。その時、タカシが静かに振り返り、そこにいる山井に言った。
「な〜に?もう水止めたの?」
「んなもん、どうでもいい」
パーテーションに手をかけて、山井がタカシの背後に立つ。シャワーを浴びながら、タカシが両手で自分の髪を後ろに撫で付けた。
「じゃあ何?」
「お前よ、マコトマコトってうるせぇんだよ」
タカシは再び壁に向かったまま、黙ってシャワーを浴びていた。山井の声がシャワー室の中に反響する。
「おいっ!なんとか言えよっ!」
山井は無視されてることに苛立ち、タカシの肩にごつい手をかけ振り向かせる。弾ける水飛沫。振り向かされたタカシは山井と目が合うと、瞬間へらりと笑い、言った。
「なんとかぁ〜」
プチン・・・・と音がしたかと思う程、山井の顔つきが変わったのが分かる。山井はタカシの両肩を掴むと、その白く細い身体を勢いよくパーテーションに押し付けた。
「なめてんじゃねぇぞ・・・おめぇ・・」
凄みをきかせて顔を寄せる。すると、タカシが変わらぬ薄笑いのままで、無精髭の生えた山井のその頬を赤い舌でペロリと舐めた。
「舐めてみたりしてぇ〜。あはははは」
タカシの肩を掴む手がわなわなと震える。その震えに気付いたタカシは、正気を失っているように見える山井に、人を小ばかにしたような半開きの目で言った。
「マコちゃんに嫉妬しちゃってるの〜?青いのねぇ。あははは」
「ばっ・・・な・・なんで俺がマコトに嫉妬しなくちゃなんねぇんだよっ!!」
うろたえた山井がタカシの肩から手を離す。タカシは離された肩をすっとすくめ、立ちすくむ山井をよそに、再びシャワーの真下に立った。山井に捕まれた部分が、微かに赤い。
「やっぱ、マコちゃんの方が強いからじゃないの?」
今度はブチンと確実に音がする。白い身体の上を無数の水の筋が這い、タカシは冷えた身体を温めるべくお湯の温度を上げた。
「マコトなんか目じゃねえってことを教えてやるよ」
低く地を這うような山井の声。タカシは聞く耳半分。一枚残った下着に手をかけながら適当に答えた。
「ふぅ〜ん。どういうこと?」
「こういうことだよ」
瞬時に山井の手がタカシの腕を取り、麻紐で後ろ手に縛り上げる。
「なっ!?」
隙を突かれたというか、正直タカシは山井を侮っていた。あっという間に下着一枚の姿で水道管に繋がれ、タカシは床に座り込まされる。
シャワーが止められると、ぽかんとした顔でタカシは山井を見上げた。息の荒い山井が、濡れたタカシを仁王立ちで見下ろす。そんな山井も、実は内心で驚いていた。
本当なら、この時点でタカシがもっと暴れて動揺すると思った。しかし、目の前のタカシは嫌がるどころか暴れもしない。ただ子供のような瞳で、じっと自分を見返してきているだけだ。予定と違う反応に満たされないものを感じながら、山井は座るタカシの前にしゃがんだ。
「これは〜、どういうプレイなわけぇ?」
「プレイじゃねぇ!俺は・・・本気なんだぞ!」
「本気ってなにが〜?」
ぐっ!聞かれて返事に困る。自分が何に対して本気なのか、山井は一瞬見失いそうになった。
「だ・・だから、それは・・・やるってことだよ」
「やるってなにを?」
目の前のタカシは言葉の合間に大きなあくびをしたりしている。それがまたかんに障り、山井は意地悪くタカシの胸に手を伸ばして言った。
「やるって言ったら・・・ひとつしかねぇだろ」
そして白い肌に赤く目立つ胸の突起をきゅっと捻る。ピクリと反応する身体。タカシはその時になって初めて、嫌悪の色を少し顔に出して身をよじった。
「へ・・へへ」
やっと思惑通りの反応が得られ、面白そうに山井がタカシの身体に触れる。タカシはなんとなく状況を理解して言った。
「やるって・・・・セックス〜?」
「セッ・・・・!?・・・そ・・そうに決まってんだろ・・。おめぇが泣いて嫌がったって、するからな」
単刀直入な物言いのタカシに、山井は浅黒い肌を赤くして答える。
あぁ、泣いて嫌がって欲しいのかぁ・・・とタカシは心の中で思った。
「できんの〜?」
またしても単刀直入且つ失礼な物言いに、山井の目が剥かれる。
「ったりめぇだろ!!・・男は・・・はじめてだけどよ・・・・」
言わなくてもいいことをつい口走ってしまう。タカシは身体の上を這い回る手の感触に時折身をよじりながら言った。
「ふぅ〜ん。はじめてなんだぁ。・・・・・下手だったり早かったりするならやめてねぇ〜」
ずきっと痛いところを突かれたのか、山井の手がぴくりと動く。
「ただいじくって入れればいいだけのセックスなんてつまんないしぃ〜。中途半端に火ぃ点けられるのも後が面倒くさいしぃ〜。前戯下手だと痛いしぃ〜」
「お前なぁ!少しは嫌がれ!」
「でも、泣いても嫌がってもするんっしょ?」
それはそうだけど・・・と山井も言葉に詰まる。ピチャーンっとシャワーの口に溜まった水が床で弾けた。
「それと、ちゃんとつけてねぇ」
再び動かそうとした手が、また止まる。
「つける?」
「コンドーちゃん」
くだらねぇ・・・と、山井がまた手を動かそうとする。
「んなもん持ってる訳ねぇだろ!大体男同志で・・・」
「しょうがないなぁ。俺の制服のポケットに昨日の残りがあるからそれ持ってきてよ〜」
と、また手が止まった。昨日の・・・残り?
「ほれ、固まってないで持ってくるナリ」
釈然としないものを感じながら山井が立ち上がる。更衣室に脱ぎ捨ててあるタカシの制服を見ると確かに、空き袋に連なった封の切られていないブツがあった。
「それ使えばいいっしょ。まさか使ったことないなんて言わないよねぇ?」
山井は手にしたものを見つめながら、無言でタカシの前に戻ってくる。タカシがそんな山井を見上げると、山井は手にしたモノを濡れた床に投げ捨て、唸るように言った。
「おめぇ、正直に答えろよ」
タカシは目を逸らさずに山井を見返す。瞳が、状況を楽しんでいるのが見て取れた。
「これ、女相手に使ったんじゃねぇだろ」
山井の中で何かが崩れていく。理由の分からなかったむかつきが、憎悪に変わっていくような気がした。
「・・・・・なぁに、くだんねぇこと聞いてんの?」
傾げたタカシの首に、したたる水の筋。
「いいから答えろよっ!!」
血走った目でタカシを見下ろす。待っている言葉はどっちなのか、もはや山井にもよく分からなかった。
「・・・・・人気者はツライのよ〜ん」
へらっとタカシが微笑む。その瞬間、山井の腕が動いてタカシの頬を思いっきりはたいた。タカシの顔が横に歪んで、ぽてっとした口唇の端が切れる。なめらかな肌に、走る紅の糸。
縛られたまま、首を前に倒しうなだれるタカシ。山井は息も荒くそれを見下ろす。けれど、あまりにもタカシがうなだれたまま顔を上げないので、その顔を覗き込もうと身をかがめた。その時。
ガッ!
近づいた山井の頭に、タカシが頭突きを食らわす。反射的に手が出る山井。もう一度タカシの頬を張り飛ばし、前髪を掴む。
身体ごと押さえ込むようにタカシを壁に押し付けると、タカシが血の交じったつばを山井の顔に吐き捨てた。山井の日に焼けた頬を、赤いものの交じった唾液がゆっくりと落ちていく。
山井は黙って燃える瞳でタカシを見返す。タカシも山井の目から視線を逸らすことなく、顎を上げたまま半目で山井を見つめ返した。
タカシの柔らかい髪は、山井の無骨な手の中でつぶれるほどに握られている。その力を強め、山井が更に顔を寄せた。
目を閉じないタカシ。それでも、髪を掴まれた痛みに片方の目をピクリと歪ませると、山井が面白そうに薄く笑って、そのまま、かさついた口唇をタカシの血に濡れた口唇に重ねた。
「・・・・・・・っ・・・」
荒々しく口唇を吸い、強引に舌を絡める。息苦しさにタカシの眉が寄り、縛られた腕が痛々しく軋んだ。
「・・ん・・・・っ・・・・」
口唇を合わせたまま、山井の左手は唐突にタカシの濡れた下着をはがしにかかる。身体に密着したそれを半ば引き千切るように脱がすと、他の前戯もなにもなく、いきなりそれに触れた。あまりにも突然の感触に、タカシの身体が跳ねる。
「んっ!・・・・っ・・」
痛いほどの荒々しい愛撫。掴んで擦って握り締める。山井の荒い息がタカシの首筋をなぶった。
「痛っ・・・バカ山井・・っ・・・やめ・・・・」
苦痛に顔を歪めたタカシが、山井から逃れようと身体をよじる。しかし、逆にその様が山井の激情に火をつけたのか、山井はさらに息を荒くしてタカシの肌に触れた。
「い・・やだ・・っ・・・やめろっつってんだろ・・・んっ・・・・」
もがけばもがくほど、縛られた縄が腕に食い込む。タカシは最高潮の苛つきに、自由な脚を曲げ、迫る山井の腹に膝を入れた。
「ぐっ・・・・う・・」
山井が腹を押さえて身体をくの字に曲げる。タカシはそれを冷ややかに見つめると、再び口から血の交じった唾液を吐いて言った。
「触んじゃねーよ、へたくそ。てめぇのもん扱うように扱われちゃたまんねーんだよ」
その言葉に、山井が殺すような勢いの視線をタカシに投げる。タカシはそれを真っ向から受け止め、続けた。
「脱げよ」
「あぁん?」
耳にした言葉を疑うように、眉間に皺を寄せる山井。タカシの瞳が、濡れて光ったような気がした。
「どうやるか・・・・レ・ク・チャー・・・」
ふふんとタカシが笑って舌を出す。赤い舌がチロチロと誘うように動いた。
「・・・・・・っ・・・」
シャワーの口から落ちる雫。その割れる音が定期的に響く中、押し殺した山井の声が低く聞こえる。水道管から離されたものの、後ろ手に縛られたままのタカシは身体をくの字に曲げて、床に座った山井の脚の間に顔を埋めていた。
熱い舌がねっとりと絡み付く。時折軽く歯を立てて刺激するタカシに、山井の手がタイルを掻いた。
どこで覚えてきたのかと思うような舌使い。下手なクロウトさんよりもよっぽど手慣れている。なめて咥えて甘く噛んでみせる。その度に山井の内股が引きつり、背筋が緊張した。絶え間無く与えられる、逃れがたい誘惑。
「・・ん・・・・・っ・・・」
強く吸われて、山井の鼻から声が漏れる。タカシはそこで一度口を離し、息も荒く座り込む山井を見た。
「そろそろやばいっしょ。どうする・・・・イきたい?」
含み笑いが馬鹿にされたようで腹が立つ。山井はどう言うべきか分からずに、ただ口をパクパクと動かした。
「終わっとくんなら続けるけど、飲むのは勘弁ね」
片眉を歪めて、いや〜んという顔をして見せる。いかにもそれを「してくれ」と頼まれたことがある素振りであった。
手を後ろで縛られたまま、タカシは膝をタイルの床につけてこっちを見ている。白く、細い身体。山井は腰を上げると、そんなタカシの身体に手をかけた。
「なに?」
きょとんとタカシはあどけなく見返す。山井は何も言わずにタカシの身体を冷たい床に横たえると、のしかかるようにタカシの膝を割った。
タカシは黙って山井を見上げている。冷え切ったタカシの胸に手を乗せると、山井が目標を定めたかのように顔を近づけてきた。
「・・・・んっ・・・・・・」
さっきよりは、数段柔らかいくちづけ。タカシは一瞬「あれ?」っという顔をして、静かに目を閉じた。熱を帯びた山井の胸が、冷えたタカシの身体に重なる。
「・・・っ・・・」
ぎこちないながらもなんとか努力はしているような愛撫。胸を吸って、降りていく口唇。まぁ、心がけは評価しましょう・・・とタカシは胸の中で呟いた。
それよりも身体の下に敷かれた手の方が気になり、タカシが身体をよじる。それを感じているからと勘違いしたのか、山井が執拗に同じ所を触った。
「・・っ・・・いいから・・・先に行ってちょ」
その言葉に、山井は素直に口唇を降ろしていく。そして、とうとうそこに至ると、山井が覚悟を決めたようにタカシのそれを口に含んだ。
おずおずと触れる口唇。冷えたそれに、熱い舌はさらに熱く感じる。タカシの身体がピクリと跳ね、片膝が立てられた。
山井はタカシの反応を伺うように、少しづつ口唇で触れる場所を広げていく。舌の腹を回すように裏筋にこすりつけると、タカシの顎が少し上がった。
「・・・んっ・・・・あ・・」
スピードの遅さが余計にじれったい。そのもどかしさが、いたずらに根深い火をつける。
口全体ですっぽりと包まれて、安堵にも似た感覚で息をつくタカシ。唾液が伝うほどの濃厚な愛撫をひとしきり加えた後、山井がふと動きを止めた。
「っ・・・なに・・?」
タカシが呟きながら目を開ける。
「・・・や・・・・・」
そのまま何かを聞きたそうに山井は膝立ちのまま動きを止める。タカシはそんな山井を見上げて返した。
「なにするつもり・・・?」
山井はというと、大きな瞳で見上げてくるタカシを見つめたまま、無い知恵を振り絞っている。実は、この後何をしたらいいのか聞きたいだけだったのだが、そんなことを聞いたらまた馬鹿にされることは必至だ。とりあえずは口で咥えていたそれに手を伸ばすと、さっきよりは気を使って優しく擦り上げた。
タカシはされるがままに足を開いている。他の野郎にもこんな格好をしてみせてるのかということを想像しても腹が立つ。いまだに、なんで腹が立つのかはわからなかったけど。
タカシの背中を壁にもたれさせ、再び股間に顔を埋める。執拗に舌を絡ませ、固くなったそれが解放を求めて震えては、また口唇を離す。
「っ・・・・あ・・・頭・・・使ってんじゃんよ・・・・・・」
息を乱しながら、タカシが山井を見下ろしてにやりと笑う。それがちょっと嬉しかったけど、仏頂面は崩さない。というか、笑うことなんて、はなから出来ないし。
「っん・・・・・・は・・」
焦れる舌の愛撫に、タカシが力無く首を振る。山井はタカシの小振りの尻の奥で微かに息づくそこに、舌を差し入れた。
「あっ・・・・っ・・」
足を持ち上げられたタカシの身体がひくりと突っ張り、山井は自分が正解を得たことを直感する。そのまま調子に乗って指を入れると、今度はタカシが嫌そうな顔で山井を見た。
「ば・・かっ・・・・もちょっと・・・・ゆっくり・・・・」
「あ・・・」
ちょっと嬉しいことがあると即座に突き落とされる。山井は言われるがままにゆっくり指を進め、奥まで届くと今度はゆっくりと抜き差しを繰り返した。
「あ・・・そこ・・っ・・・・あっ」
内側から触れた部分にタカシが反応する。山井はそんなタカシの表情がもっと見たくて、細かく擦るようにその部分を刺激する。
「あっ・・あんっ・・・・ば・・・っ・・・」
押さえつけた腕の中でタカシの身体が細かく打ち震える。山井の肩に額を乗せて喘ぐタカシの声が、山井の胸を締め付けた。
「お・・おい、タカシッ・・・・」
「ん?・・あんっ・・・・なに?」
敏感な場所を断続的にいじられて、タカシの目尻に涙が溜まる。足はひくつき、山井の指を咥えたそこは熱く息づいていた。
「これって・・・入れてもいいんだよなっ!?・・・っていうか、入れるぞ」
「は・・・あっ?」
素股で陵辱するつもりだったのだろうかと、タカシは心の中で首を傾げる。まぁとりあえずは、どうするのか黙って見てみるのも面白いかもしれないと思った。
「んっ・・・」
ごつい指が抜かれ、後ろに熱い先端が押し付けられる。ゆっくりと、山井の大きな身体が割り行ってくる感触。
「っ・・・・ん・・・・」
少し入ったところで、タカシは山井が律義にもちゃんとつけてくれてる事を察した。泣いて嫌がってもとか言っていた割にはヤサシーのねと、つい笑ってしまう。
「ちょっと・・・お前・・・・力抜けよ・・・っ」
きついタカシの口に、山井の息が上がる。
「山井のが・・・・立派・・なんじゃんっ・・・あはは・・」
タカシが笑うと、山井が一気に腰を押し進めてきた。なんとか奥までぴったりと入り込む。
「っふぅ・・・」
「ね・・・つけてよかったっしょ?・・・・ゼリー付き・・・っ」
あどけない顔でタカシがへらりと笑う。それがとても気恥ずかしくて、山井は思わず顔を背ける。そしてそのまま荒っぽいほどに腰を動かし始めた。
「んっ・・・!」
タカシの細い喉が、山井の動きに合わせて鈴のように鳴る。そんな声が響くたびに、山井の胸のどこかが、ぎゅっと握られたように縮こまった。
「あっ・・・は・・・んっ・・・・っ・・・」
タカシのそれからは先走りが漏れ、山井の腹に擦り付けられる。それがまたぬるぬるとした刺激を与えるのか、タカシのそれは今にもはちきれんばかりに張り詰めている。
「あ・・・・っ・・・も・・・」
苦しげに喘ぐタカシに、山井が乾いた口唇をざらりとした舌で舐める。タカシの身体を裏返し、濡れた床に白い胸を押し付けると、更に激しく腰を打ちつけた。
胸をゆっくりと満たす充実感。それと同時にこみ上げる胸を焦がすような苦い痛み。
そしてやっぱり、それが何なのかはさっぱりわからなかったけれど。
山井は縛っていたタカシの腕をほどくと、力無く床に横たわるタカシの細い身体を見下ろした。冷たい壁に背中を預け、床に足を投げ出す。日が落ちて暗くなったシャワー室に、いまなお落ち続ける雫の音が響いた。
「・・・っ・・・い・・って」
タカシは仰向けに身体を返しながら、腕の付け根を自分で揉んでいる。縛られていた場所が、鬱血して青黒い跡を残していた。
「うっわー。なんか・・・やばいプレイしたって感じじゃな〜い?」
山井はそんなタカシから目を逸らし、明かり取りの窓から空を眺める。とはいえ、もう星空に近くなってはいたが・・・。
「さて・・・・・」
裸のままタカシがふらりと立ち上がる。山井はどこかへ歩き出すタカシを見て、声をかけた。
「タカシ、どこ行くんだよ」
「水出しっぱなしなんじゃないの〜?」
「あ」
ヤバイという表情で山井が自分の無精髭の生えた顎を撫でる。
「ついでに、一番乗りでひと泳ぎ〜!!」
素っ裸でか?と山井が目を丸くする。タカシはそんなことには全く構わないらしく、情事の後のムードもへったくれもない足取りで、プールへと向かった。
「お・・・おいっ!」
山井も慌てて後を追う。かろうじて体操着の短パンに足を入れた山井は、それを引っ張り上げながらプールサイドに出た。同時に聞こえる、水飛沫の音。
「タカシッ!」
山井は給水バルブを一気に閉め、水を止める。暗い水の中に、そこだけ白くタカシの身体が浮かび上がった。激しい水の音が消え、静寂が二人を包む。
「気持ちいいよ〜。山井も泳いだら〜?」
誘うタカシを、山井がプールサイドから見下ろす。タカシは一度その白い身体を水に沈めると、プハッと浮きあがって柔らかい髪を後ろに撫で付けた。線の細い顔に水の筋ができる。
「冷たくねーのか?」
「熱かったから、ちょうどいいの」
あっさり言ってタカシは一糸纏わぬ身体を惜しげもなくさらしている。ラッコのように仰向けに浮かんでいると、山井がプールに飛び込んだ。
息を吸って、水の綺麗なプールに潜る。タカシの傍まで息継ぎをせずに泳ぎ、水面から顔を上げた。大きな手が、額にかかる髪をかきあげる。
「ね、気持ちいいっしょ?」
山井はそれには答えない。けれど、否定もしなかった。それが答えであるかのように。
「タカシ・・・・」
「ん?」
力のない呟きに泳いで行きかけたタカシが振り返る。山井は水に身体を任せたまま、切ない瞳でタカシを見つめた。
「お前・・・・マコトともやってんのかよ?」
今度はタカシが答えない。山井がタカシの腕をつかもうと手を伸ばした。
「知ってる?」
その手をするりとかわし、タカシが微笑む。同時に投げかけられた疑問符に、山井の動きが止まった。
「この間、俺とマコちゃんで勝った13人に、一人で勝てるってフキまくってる命知らずな奴がいるんだってぇ。さあ誰でしょう。答えは30秒後」
へらりといつもの笑みを残し、タカシが水の中に消える。息継ぎ無しの潜水。山井は問題の答えを考えながら、水の中をゆったりと移動する白い影を追った。
チャプッ
そして水の中から現れた白い手がプールサイドに伸びる。その距離、山井からおよそ15メートル。
「誰だよ、そいつ」
プールをあがる細い身体に山井が投げかける。小ぶりの尻がきゅっとしまり、長い腕がけだるく垂れた。
タカシは背中を向けたまま顔だけを山井に向ける。虫の声が、静かに響いた。
「あはは・・・・・お・ま・え」
「ああん!?」
タカシの思いもよらぬ返事に山井が水の中で立ち上がる。タカシは更衣室のドアに手をかけながら、あどけない笑顔で笑って見せた。
「俺とマコちゃんのけんかチクったのお前でしょ?だから、代わりにフキまくっといてあげたの。お前がやりたがってるって」
「おめー、なめんじゃねえぞ!!」
「もう舐めてあげたっしょ〜」
へらっとタカシの目尻が下がる。山井が返事につまっていると、最後にタカシが白い手を振った。
「じゃあ、デッキブラシはしまっといてね〜」
パタリと音がして、山井はプールに取り残される。
きっとタカシは、これからマコトの所に行くのだろう。聞くのも馬鹿馬鹿しい質問。だから山井は、再び胸いっぱいに息を吸い込んで、冷たい水の中に潜った。血が上りっぱなしの頭が、少しでも冷えてくれるようにと。
この、訳のわからない胸の痛みが、このまま凍ってしまえばいいのにと。
そしてタカシは予想通りマコトの家に行き、たんまりスイカを食べた。腹を下したマコトの分までスイカを食べ、そして今度は自分が腹を下した。
今となってはよくわからない。
ただ、それだけの夏。
−終−
ヤマ×キン一度は書きたかったのです。
ドラマの最初から「何故山井はあそこまでしつこくタカシに執着するのか?」
という点がとても気になっていたから。
「あれは負ける前にも何かあったな・・・」と勝手に決めておりました。
なもんで「何かあった」話を書きたかったんです(><)!!
犬と王様の関係を決定付けるエピソード。ふふふ。
ヤマ×キン許可を下さった裏キリ番ゲッターのゆべし様!
どうもありがとうございました!!