「原爆症」認定基準表明るみに
厚生省が原爆症認定の基準にしている内規が京都地裁で明らかになり、大問題になっています。
これは厚生省が原爆医療審議会での審査に使っていたもので、「認定基準(内規)」の表題で、3つのパートに分かれています。[線量評価][影響評価]のパートでは、被曝距離と遮蔽物のあるなしに分けて被曝線量を示し、「原爆放射線に起因性があると考えられる」病名が記載されています。遠距離被爆者は何の影響も受けていないことになっています。
[要医療性評価]では、保険医療をうけている状態、または医学管理下にあること、術後観察で評価するとしています。
沢田昭二・名古屋大学名誉教授によると、この表は「原爆線量再評価 広島および長崎における原子爆弾放射線の日米共同再評価」、略称「DS86」という報告書に載っている中性子とガンマの線量をそのまま足し算したものだそうです。
沢田名誉教授は、「この2つの線量は足し算できるものではない」し、「人体に大きな影響を与える中性子線量の推定値は、広島、長崎の実測値と、遠距離になるほど大きな違いが出ていることを無視している」といい、原章夫弁護士も「実態からではなく、線引きで被爆者をみようとする国の姿勢のあらわれ」ときびしく批判しています。
最近の原爆症認定例では、認定基準内にある発症者でも却下されており「内規」がかなりきびしく適用されてきていることもわかりました。
松谷訴訟勝利のためにも、この基準表の撤廃が課題となっています。
認定基準(内規)−抜粋−
[線量評価]
・爆心地からの距離に応じて申請者の被爆地点における被曝線量を評価し、更に遮蔽条件により以下の係数を乗ずる。
遮蔽がない(熱線による熱傷を合併している)場合: 1.0
遮蔽がある場合 : 0.7
・残留放射線による被曝を考慮する。
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1200 | 170 | 120 | 320 | 230 |
1250 | 140 | 97 | 260 | 180 |
1300 | 110 | 79 | 210 | 150 |
1350 | 92 | 64 | 170 | 120 |
1400 | 74 | 52 | 140 | 95 |
1450 | 61 | 43 | 110 | 78 |
1500 | 50 | 35 | 90 | 63 |
1550 | 40 | 28 | 73 | 51 |
1600 | 33 | 23 | 60 | 42 |
1650 | 27 | 19 | 49 | 34 |
1700 | 22 | 16 | 40 | 28 |
1750 | 18 | 13 | 33 | 23 |
1800 | 15 | 11 | 27 | 19 |
1850 | 12 | 9 | 22 | 10 |
1900 | 10 | 7 | 19 | 13 |
1950 | 9 | 6 | 15 | 11 |
2000 | 7 | 5 | 13 | 9 |
2100 | 5 | 3 | 9 | 6 |
2200 | 3 | 2 | 6 | 4 |
2300 | 2 | 2 | 4 | 3 |
2400 | 2 | 1 | 3 | 2 |
2500 | 1 | 1 | 2 | 1 |
[影響評価]
※ 確率的影響によるもの(悪性新生物)
・ 原爆放射線に起因性があると考えられるもの :5rad
(白血病<慢性リンパ性白血病およびATLを除く> 前白血病状態、甲状腺癌、乳癌、肺癌)
・ 原爆放射線に起因性があるとみなせるもの :10rad
(胃癌、結腸癌、卵巣癌、多発性骨髄腫)
・ 原爆放射線起因性は明確ではないが確率的形響の特徴を考慮すべきもの :25rad
(食道癌、膀胱癌、皮膚癌、肝臓癌、神経系腫瘍、悪性リンパ腫<ホジキン病を除く>等)
・ 原爆放射線起因性は疫学的に否定されているが確率的影響の特徴を考慮すべきもの :50rad
(脾臓癌、胆嚢癌、直腸癌、子宮癌、骨肉腫、ホジキン病、慢性リンパ性白血病、ウィルスマーカー陽性の肝臓癌)
・原爆放射線起因性が否定できるもの(ATL) :起因性否定
[要医療性評価]
原則として、ほぼ毎月、保健医療を受療している状態であること。
受療頻度が少なくても要医療と解釈される場合は以下に限る。
がんの再発管埋のための経過観察(術後5年) ただし、1年に2回以上、経過観察の為の医学管埋下にあること。
がん以外の障害・疾患の術後観察(術後半年)
京都でも認定裁判−1.9キロ被爆者が独力で提訴
厚生省が「認定基準」を使っていることを明らかにした京都地裁での裁判とは、広島市皆実町にあった暁16710船舶通信補充隊の通信講堂、被爆距離1.9キロで被爆したKさん(71歳)が起こしている裁判です。
Kさんは、肝機能障害と白血球減少症による原爆症認定を求めて、1986年に独力で提訴。法律扶助協会を通じて弁護士を依頼するなどの経過があって裁判を続け、今年1月30日に結審の予定でした。しかし、厚生省の認定基準が明らかになったため延期となり、今後何回か公判を重ねることになっています。 もどる
原爆資料館を外部委託−広島県被団協、日本被団協「平和行政の後退」と反対
広島市が、原爆資料館(平和記念資料館)を外部団体に委託しようとしているところから、広島県被団協は「平和行政を後退させるもの」と、反対運動を広げています。
日本被団協も、2月10日の代表理事会で、全員一致で反対を決議し、市の直轄事業として平和行政の推進にあたることを求める要請書を平岡市長あてに送りました。
原爆資料館は、広島市が平和行政の基幹事業として直轄で維持、運営、管理、充実にあたってきたものです。市はこれを「効率化を図る」ということで財団法人平和文化センターと財団法人広島市国際交流協会を合併させた財団に委託しようとしているものです。
これについて地元新聞も「平和行政は効率化とそぐわない」「時間をかけて被爆者団体と話し合え」などの声が高まっていると伝えています。
平和大通りに路面電車
広島平和公園の南側の緑地を削って、路面電車を走らせる計画を広島電鉄がすすめ、広島市と中国運輸局が認可しようとしているところから、広島県被団協は全国被団協に反対の要請をしてほしいと訴えています。
計画では、低公害、省エネのために、己斐駅から白神神社まで路面電車の軌道を敷設するというものです。県被団協は、この計画でいくと、平和大通りに建っている慰霊碑は移動させられ、広島市の再建を願って全県民が供木運動で持ち寄った12万本の木々も伐採、移転させられる、全国の被爆者の願いを込めてつくった被爆者の森もどうなるかわからなくなると指摘しています。
日本被団協は代表理事会でこの問題を討議、反対することを決め、2月19日付で、三者に反対を申し入れました。
石川県が非核宣言−被爆者の会などの運動実る
石川県議会は2月定例会最終日の2月20日、「非核石川県宣言」を全会一致で採択しました。都道府県段階の非核宣言としては全国で29番目です。
このたびの成果は、石川県原爆被災者友の会をはじめ生協連や青年団など、県内各界の幅広い団体・個人の請願によって実現したもので、請願人一同は、「石川県民とともに核兵器の廃絶と世界の恒久平和を願」うと述べたこの非核宣言を歓迎するとともに、県が宣言の主旨にふさわしい非核・平和行政にとりくむよう期待しています。
これで石川県では、42自治体中41自治体が「非核宣言」を行なったことになり、残るは基地の町・小松市だけとなっています。同市では96年の12月議会で請願採択はしていますが、宣言文の決議を残しています。
地元の平和団体や市民は、3月議会にさきがけて同市役所ロビーで「原爆と人間展」を開催し、県内最後の非核宣言採択にはずみをつけようと、はりきって準備しています。 もどる
松谷訴訟−国の上告理由をきる 弁護士 内藤雅義
長崎の被爆者・松谷英子さんの障害を原爆症と認定した福岡高裁判決にたいし、厚生省は最高裁へ上告、1月20日に上告理由書を出しました。
厚生省が、判決に承服できないとしているのは
@「原爆症の起因性」について、「高度」の立証がなくても「相当程度の蓋然性」(蓋然性というのは、確率の意味)の立証があれば足りるとした点と、
A広島、長崎の放射線線量量評価基準であるDS86を絶対的尺度とすることの問題点を指摘した「専門的知見の採否」の点の二点です。
「受忍」を前提に
上告理由書は、戦争被害は国民が等しく受忍しなければならない性質のものであることを大前提としています。このことから旧原爆医療法や旧原爆特別措置法は、一般の空襲による被害と同様なものを救済の対象としておらず、原爆放射線による被害だけを救済の対象とするとしています。
放射線の影響が考えられる一定範囲の病気については健康管理手当等があるのだから、これ以上の救済を行う原爆症の認定には、高度の立証を要するというのです。
原爆被害を分断
しかし第一に、旧原爆医療法等の戦争被害の補償に関する法律は、憲法の精神にそって、戦争にたいする国の反省に基づき国家補償をできるだけ行うように理解されるべきです。最高裁判所も旧原爆医療法について「国家補償的配慮が根底にある」としています。
第二に、原爆被害は、放射線と熱線・爆風が一体のものとして人体、社会に甚大な被害をもたらしたのですから放射線の影響のみを切り離すことは実態にあいません。
第三に、これまで原爆症と認定されている各種の癌にしろ、それが原爆放射線によるものだと高度の蓋然性で立証することなど本来できません。
福岡高裁が、被爆者の救済をする方向で、原爆症の認定を相当程度の蓋然性の立証でたりるとしたのは当然です。
実態に合わないDS86
厚生省が第二の柱とするのはDS86と閾値理論です。DS86に多少の問題があるとしても、松谷さんが被爆した2.45km地点では放射線の影響は考えられないとするのです。
しかし、DS86の最大の問題は、被爆の実態にあわないということです。DS86と閾値理論によれば2`以遠で起こり得ないはずの脱毛、下痢等の急性症状が2キロどころか3キロ地点でも認められているのです。厚生省は、栄養失調のせいだろうというのですが、なぜこれらの症状が距離と比例するのでしょうか。
松谷さんの障害が原爆によることは争いのない事実ですし、被爆直後に脱毛、下痢もありました。怪我の治りが悪く、その結果「脳孔症」になったことも、福岡高裁判決が認める事実です。
松谷さんを原爆症と認定させることは、核兵器の国際法違反性を認めさせ、戦争被害に対する国家補償責任を認めさせることにつながることに確信を持ちましょう。そのためには、これまで以上の運動が必要です。 トップにもどる 松谷訴訟へ
第五福竜丸エンジン東京へ−2月20日和歌山を出発
東京・夢の島にある第五福竜丸の船体とエンジンを再会させ、核兵器のない21世紀へ大航海をという移送運動が、2月19日始まりました。
同日夜、和歌山市で行なわれた出発集会には80人が参加。県被団協の楠本熊一会長、東友会の横川嘉範事務局長が来賓に招かれました。
エンジンを積んだ15トントラックは20日に和歌山を出発。大阪、京都、奈良、3・1ビキニデーで焼津で展示したあと、神奈川県三浦市をへて東京に入り、3月19日に都庁前で青島知事への贈呈式が行なわれます。ただ、第五福竜丸展示館が修理中なので、正式展示は10月以降になる予定。
「子らに悲惨な思いさせないために」 奈良県「ならコープ」14年つづく被爆者募金
1984年から毎年、日本被団協と奈良県原爆被害者の会(わかくさの会)に、被爆者救援の募金を贈り続けている奈良県「ならコープ」から、今年度も合計130万円が贈られました。
1月29日、同コープ会議室で行なわれた贈呈式には、日本被団協から山本英典事務局次長、わかくさの会から市原大資会長ら3氏が参加。組合員の拍手のなかで逸見啓理事長から募金の贈呈をうけ、2団体連名で感謝状を贈りました。
「ならコープ」は、奈良市を中心に2万班、3軒に1軒の加入者をもっている生協です。
「子どもたちに悲惨な思いをさせないために」をあいことばに、被爆者を招いて話を聞いたり、平和行進に代表を送ってきました。97年度も9〜10月の班長会で「心の傷と原爆症・高齢化する被爆者に「たすけあいと励ましを」と訴え募金袋を回してきたものです。
贈られたのは、ほかに日本ユニセフ協会、広島・長崎両原爆病院、広島原爆養護ホーム、原爆被害者相談員の会でした。 もどる
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