「被団協」新聞 2005.4月

主な内容
1面 東さん原爆症認定訴訟高裁判決 「国民保護指針」案について
2面 被団協、原爆症認定の新基準を提案 集団訴訟のうごき
3面 ノーモアヒロシマ・ナガサキ国際市民会議準備すすむ 各地で相談所研修会
4面 「相談のまど-被爆二世が受けられる援護施策」 被爆者中央相談所より


国は判決受入れ、上告するな 東さん原爆症認定訴訟

 東京の被爆者、東数男さん(故人)の原爆症認定訴訟で東京高裁は3月29日、東さんのC型肝炎は原爆放射線被爆に起因するとして国側の控訴を棄却しました。東京地裁につづく完全勝訴で、全国の集団訴訟にも大きな影響を与えるものです。
 東さんは16歳のとき長崎の三菱兵器大橋工場(爆心から1.3km)で被爆。肝機能障害を発症し94年に原爆症認定を申請し却下され、99年に提訴。昨年3月東京地裁で全面勝利の判決をかちとりました。しかし国側は控訴、すでに肝臓がんが進行していた東さんはことし1月29日、76歳で亡くなりました。
 国側は、「C型肝炎はウィルスが原因」「被爆による肝機能障害は人が死ぬほど大量の放射線を浴びなければ発症しない」などと主張。しかし、東京高裁の岩井俊裁判長は、「個別的因果関係を判断することには一定の限界があり、厳密な立証を原告側に求めることは不可能を強いるもの」とのべ、被爆状況やその後の生活状況を総合的に判断する必要があると指摘。東さんの場合、急性症状が重かったこと、長年にわたり原爆による影響をこうむっていたことを考慮すれば、「至近地点で原爆放射線を大量に被爆したことがウィルス感染とともに慢性肝炎を発症または進行させるに至った」と認定。国側の主張をすべて退けました。
 判決主文が告げられると法廷には大きな拍手がおき、弁護士らが裁判を承継した妻の朝子さんの肩をたたきました。裁判所前では弁護士が「完全勝利」の幕を見た支援者らから大きな歓声があがり、中には涙ぐむ人も。
朝子さんは記者会見で「本当にうれしい。夫に聞かせられなかったのが残念です。夫は入院中『俺は勝ったんだ』と口ぐせのようにいいました。無念の死をとげた夫にかわって心から訴えます。絶対に上告しないでください」と語りました。
弁護団と日本被団協などはただちに厚生労働省に面会し「上告しないこと」「被爆者切捨ての認定行政を抜本的に改めること」を申し入れました。
判決翌日の30日、国会の厚生労働委員会で民主党の横路孝弘議員が判決を受け入れ上告しないよう求めたのにたいし、尾辻秀久厚労相は「判決をよく検討し各方面と相談して決めたい」とのべるにとどまりました。

核攻撃されたら雨ガッパで逃げろ  被爆の実態無視した「国民保護指針」案 

 政府は3月4日、武力攻撃された場合の「国民保護基本指針」案を公表しました。この中には日本が核攻撃されることを想定して「核攻撃されたら雨ガッパで逃げろ」といった驚くべき“対策”が盛り込まれています。
 指針案は、核攻撃では「放射性降下物による被害は熱線や爆風の被害より広範囲の地域に拡大することが想定される」としてこう述べています。
 「避難に当たっては風下を避け、手袋、帽子、雨ガッパ等によって外部被ばくを抑制するほか、口及び鼻を汚染されていないタオル等で保護することや汚染された疑いのある水や食物の摂取を避ける……」
 昨年4月、石破茂防衛庁長官(当時)が国会で「広島・長崎でも爆心地の近くでも生き残った方がたくさんいる。どういう状況なら核攻撃を受けても被害が局限できるかを考える」と答弁しました。指針案は石破答弁の“具体化”です。
 広島原爆での距離別死亡率は0.5q以内では98.4%、1q以内で90.0%。全滅状態です。
 60年前、広島原爆の直後、政府は「新型爆弾への心得」を発表しています。「新型爆弾」は原爆。「毛布や布団をかぶって屋外の防空壕に待避せよ」「白い衣類は火傷を防ぐのに有効」「火傷の手当ては油か塩水で」といった内容です。
 ここには、原爆被害を隠そうとする政府の姿勢がありありと見えます。
 今回の指針案も、政府が原爆被害の実態にまったく目を向けていないことを実証するものです。
 「ふたたび被爆者をつくらない」ためには、核戦争を防ぐこと、核兵器を廃絶することしか道はありません。

放射線の影響否定できねば認定を
 
 日本被団協は3月23日に記者会見をおこない、原爆症の現行認定制度の運用を抜本的に改善し、「被爆者が癌など原爆放射線の影響が否定できない疾病・障害にかかった時は原爆症と認定する」よう厚生労働省に求めていくことを明らかにしました。
 そして、新しい「認定基準」として、「原爆放射線による身体への影響が推定できる事実が認められること」、「原爆放射線の影響が否定できない疾病・傷害に罹患し、医療を要する状態にあること」の2点をあげ、具体的な病名をあげながら、これらの事実が認められれば、申請疾病を原爆症と認定するよう求めています。
 日本被団協では、3月29日の東原爆裁判控訴審判決を前に、各政党との懇談会を申し入れ、新しい「認定基準」について説明、認定制度の運用改善を要請しました。さらに判決後厚生労働省に対して、この基準を採用することを要請し、上告をしないよう申し入れました。

7月に向け準備すすむ ノーモア ヒロシマ・ナガサキ国際市民会議 

 7月29〜31日に東京で開かれる「ノーモア ヒロシマ・ナガサキ国際市民会議」に向け、日本被団協では全国から「私の訴え」を集約、会議に被爆者の声を反映させていきたいと考えています。
 「私の訴え」は現在、日本被団協に続々と届けられています。アンケート形式への答えだけでなく、記述式の項目にも記入がぎっしり。
 被爆による家族の死やその後の苦しい生活など被爆の苦しみが切々と訴えられています。また、「国の命により国のために被爆したのに国からの補償がないのは許せない」「原爆の恐ろしさとその実相を何としても伝えたい」などといった痛切な思いも多数寄せられています。
 日本被団協では、3万通を目標に集約を訴えています。被爆者の思いを「私の訴え」を通して多くの人たちに届けていきましょう。

 体験継承交流会開く
 現在、「ノーモア ヒロシマ・ナガサキ国際市民会議」の準備が急ピッチですすめられています。
 市民会議では、@原爆被害の実相解明A核兵器の犯罪性B被爆者の要求と権利Cヒロシマ・ナガサキの継承の四つのテーマでプログラムを構成、全体会や分科会などで討議が深められます。
 とりわけ、被爆体験をしっかりと引き継いでいきたいと、若者たちが熱心な討議をすすめています。
 こうした議論を受け、国際市民会議議実行委員会では、4月16日に東京・日本青年館で「ヒロシマ・ナガサキを受け継ぐために」全国交流会を開催することになりました。これは、被爆者から体験を継承する運動をしているメンバーや被爆者が、会議に向けて事前に交流しようというもの。多くの被爆者の参加が期待されています。 全国交流会は資料代300円、お問い合せは、日本被団協まで。

各地で集会・相談所研修会

【沖縄】3月1日、沖縄県被団協と沖縄平和運動センターが共催して、「3・1ビキニデー沖縄県集会」が開かれ、肥田舜太郎中央相談所理事長が講演しました。
【岡山】3月11日県被爆者相談員研修会が開かれ、伊藤直子中央相談所相談員から「高齢化と保健・福祉の諸制度と相談活動」について話を聞きました。県内の相談員証を持っている被爆者100人が参加しました。
【熊本】3月13日熊本県被爆者被爆者60人が参加して研修会が開かれました。研修会では、熊本の集団訴訟弁護団寺内大介事務局長が、「集団訴訟の現状と展望」について、伊藤中央相談所相談員が「保健福祉の諸制度と相談活動」について講演。夜は懇親会で交流がはかられました。
【奈良】3月18日、近畿の相談事業講習会が開かれ、近畿各県から50人が参加しました。
 講習会では肥田相談所理事長、伊藤相談員が講演。参加者は「平成元年に手帳を交付された。戦後自分が被爆していることなど全く認識していなかった。認識を新たにした」、「被爆したのが幼く、記憶がほとんどない。被爆者は人間国宝との話に心打たれ考えさせられました」などと感想を述べていました。

講習会参加1000人超える (社)被爆者中央相談所
 
 被爆者の平均年齢が72歳を超えた中、高齢化によるさまざまな問題に対応するため、被爆者相談110番事業、地方相談指導事業、相談事業講習会、全国相談員研修会の4つの事業を実施しました。これらの事業は日本自転車振興会の競輪補助金によって行なわれました。
1.被爆者相談110番事業
全国の被爆者やその家族、医療関係者などからの相談に、医師、弁護士、ソーシャルワーカーが対応。原爆症の認定申請、健康管理手当の更新や新規申請、介護手当、介護保険など相談は多岐にわたりました。
2.地方相談指導
「被爆者のしおり」の発行、専門家による指導、札幌、高知、長崎、奈良、熊本の5地区での指導研修会が行なわれました。
3.相談事業講習会
医師、大学教授、ソーシャルワーカーを講師として、宮城、鳥取、石川、長野、熊本の5地区で開催しました。参加者は千人にのぼりました。
4.全国相談員研修会
広島・長崎での低線量被爆が、被爆後60年経った今も人体に影響を与えていることが報告され、交流がはかられました。

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