「被団協」286号 2002年11月


主な内容
1面 全国代表者会議報告 
2面  全国相談員研修会  米国の19回目の臨界前核実験に抗議  原爆症認定裁判  相談所講習会各地で  「核かくしかじか」
3面  中央行動で政府省庁、政党へ   被爆者・青年トークトーク  
4面 「相談のまど」


日本被団協 全国代表者会議ひらく

 日本被団協は10月29日と30日、2002年度全国都道府県代表者会議を開きました。37都道府県の120人が参加して原爆症認定集団訴訟運動を中心に確信を深めあい、被爆者の新しい運動に理解と支援をもとめる国民への「よびかけ」を発信。31日は元気に中央行動(3面参照)を展開しました。

 会議の冒頭、山口仙二代表委員は「原爆被害をぜひとも償わせよう。これでもかこれでもかとがんばろう」と挨拶しました。昨年この会議で集団申請が提起されて1年。二次にわたる申請の広がりを受け、今回はこれが中心テーマでした。
 田中煕巳事務局長の基調報告は「経験を学びあい意義をつかもう。提訴に向け組織体制を強め支援の輪を広げよう」と提起。岩佐幹三集団訴訟運動推進委員長が、1.調査票の活用、2.申請書や医師の意見書づくりに役員、相談員の助力、支援者の協力を、?国民的な世論と運動、3.個人でなく集団の利点を生かす、などを提案しました。
 これを受け7県が経験報告(別項)。二日目の討議では、東京の支援体制づくり、三重の自治体賛同をとる取り組みなどの経験が話される一方、「被爆者のなかでも徹底しないうちに動きが進むことが心配」(愛知)、「集団申請を安易に考えてはいけない、提訴の覚悟がないと申請すべきでない」(山口)などの指摘も。「一人でも多く取り上げ、申請した以上認定をとる。却下されれば怒りもわく。入り口でせばめない方がよいのでは」(長崎)といった率直な意見交換がなされ、事務局からは法律家の準備状況報告が行なわれ疑問を解明。意思統一が前進しました。
 この他、在外被爆者問題、「ノーモア・ヒバクシャ国際市民会議」(仮称)、実相普及活動についても報告と論議。元学術会議会員の中島篤之助さんが「9・11後のアメリカの核政策と被爆者の役割」について講演しました。
 終わり近く、「集団申請と聞いて『生きててよかった。私もまだやれることがある』とうれしかった。最後の力をふりしぼってがんばりたい」(愛知の殿原好枝さん)という発言もあり、感動的な幕切れとなりました。

 会議一日目、7県の代表が集団申請の経験を次のように報告しました。

 【神奈川】なかなか体制ができず、調査票の活用を決め、3500枚送ったのが6月。一次は間に合わず不参加。362通回収し該当すると思える56人に電話で申請の意志を確認、申請書や説明資料を届けた。
 その結果、二次では13人が参加、県は課長が出てきて申請を受けてくれた。その後学習会を開き50人出席。次回の申請は8人の予定。
 【愛知】一次申請の時はマスコミの反応がすごく、カメラの放列にびっくり、確信になった。
 六人の担当役員を決めた。外部の力が必要で、自由法曹団、民医連、反核医師会、学者、生協などに声をかけ、県原水協は大きな支えだ。援護法の時つくったネットワークを土台に「広げよう広島・長崎イン愛知」という形にしたいと準備中。
 【石川】被爆者が少なく保守的な土地柄。運動が提起されて「絶対できません」といってきた。アンケートから入るのがいいと全員に発送。翌々日から始まり半数から返った。30人が申請を希望。一人一人電話して話しこみ、一次に6人が参加した。聞き取りすると当時の状況は抜けており本人任せはだめだ。大変だったが原爆被害のひどさを改めて痛感した。
 【兵庫】手帳をもつ人5700人で申請者も多かろうと期待し、三役、理事会、総会にはかってがんばったが、いま6人(却下2人)。調査票もまだなので、相談事業とからめて推進したい。
 【福岡】新聞折り込みで2700人に調査票送り269人回収。相談員、役員が手分けして調べ現在54人に書類一式を送り申請を待っている。動ける人が少なく支援は不可欠。11月に支援する会を立ち上げる懇談会を予定。県医師会も協力を表明している。
 【熊本】調査票に340人から返事があり140人が希望。支援の集いに15組織79人が参加。原水協、原水禁、水俣病団体もきて旗あげできた。支援を広げるには、被爆者の抗議のたたかいということを訴えなければ。深刻な事実の中にエネルギーがある。支援の輪は必ず広がる。
 【大分】まだ集団申請はしていないが、被爆当時ゼロ歳だった方が却下され異議申立て、弁護士14人が結集した。ゼロ歳で記憶がないので広島から母親にきてもらい聞き取った。提訴の準備もしている。集団申請は安易なものが出てはと思い調査票の前に手引きを配った。考えすぎで遅れたが、がんばる。



中央相談所 全国相談員研修会ひらく

 被爆者中央相談所の「全国相談員研修会」が10月29日、東京で開かれ、全国から90人以上が参加。相談所の肥田舜太郎理事長、池田眞規理事(弁護士)、伊藤直子相談員が、それぞれのテーマで講演しました。

低線量被爆を重視
 肥田理事長は、数多くの被爆者を診察してきた医師の立場から、現在すすめられている原爆症認定集団申請・訴訟運動で、低線量被爆の問題の大切さを強調しました。
 これまでの原爆症認定では、入市や遠距離の被爆者はほとんど切り捨てられてきましたが、入市でも放射線被害で亡くなっている例が多いこと、いわゆる原爆ブラブラ病など専門家でも説明できない症状が実際にあることを含めて原爆被害であると指摘。「黒い雨」のもとになった放射性の「黒いスス」の影響をもっと考慮するなど、低線量被爆の被害実態を国に直視させることの重要性を訴えました。
 そして、アメリカのハンフォード核兵器工場周辺で放射線被害を受けながらも国のためと沈黙を守る米農民の例を引きながら、同じような放射線被害で苦しむ世界のヒバクシャとの団結こそ核兵器をなくす道であり、日本の被爆者の役割がカギだと激励しました。

世論を変える運動
 池田弁護士は、集団訴訟運動の意義として、国民世論を動かすことを強調しました。
 狭い意味での法廷闘争の勝ち負けにとらわれるのではなく、核兵器を使うという米政府とそれに全面協力する日本政府の姿、その政府の冷酷な被爆者行政を、国民の前に明らかにし、社会問題化してゆく大きな心構えを持って運動にのぞむことが大切だと訴えました。

懇切な相談活動
 具体的な認定申請の方法については伊藤相談員が説明しました。申請書の作成にあたっては、「黒いスス」など近年わかってきたことを踏まえるなど、聞き取り等の相談活動の大切さを強調。和歌山、福岡、山口、北海道、岩手、愛知、千葉、佐賀、静岡などから積極的な質疑がありました。



原爆症認定裁判 
 
 安井原爆裁判第15回口頭弁論

 安井原爆訴訟の第15回口頭弁論が10月7日、札幌地裁で開かれ、原告側証人として野口邦和氏が証言しました。
 野口氏は専門とする放射線防護学の見地から、放射線は、1.わずかな量であっても重大な影響をもたらす、2.どのような場合でも人体に有害な影響しかもたらさない、などの特徴を説明。その上で「原爆は熱線、爆風、放射線の合併と増幅の被害であり、放射能起因性の健康管理のみを特殊扱いするのは間違い」と指摘し、国の認定基準を批判しました。
 そして原告・安井晃一さんの場合も、高齢になってから発症する前立腺がんと被爆の因果関係を、簡単に「ない」とは結論づけられないと証言しました。
 この日、被爆者16人を含む61人が傍聴。支援署名3469筆(累計103576)を提出し、支援者集会では勝利を誓い合いました。
 次回は11月11日、国側証人として児玉和紀氏が出廷します。

 東原爆裁判第16回口頭弁論

 東(あずま)原爆裁判の第16回口頭弁論が10月11日、東京地裁で開かれ、「原爆裁判の勝利をめざす東京の会」会員、被爆者、支援者など97人が傍聴しました。
 この日の証人は原告・東数男さん。長崎の爆心地から1.3kmにあった三菱兵器製作所大橋工場で被爆した状況から、大村海軍病院に移送されるときの様子、被爆直後の治療や健康状態などを、ことばをかみしめるように証言しました。
 東さんは証言の最後を「国は一番大切なことを忘れていると思う。原子爆弾を投下された責任は被爆者にあるのではなく国にあるということを。この原点に立ち返って被爆者行政に取り組んでほしい」と結びました。
 国(被告)代理人は、被爆直後にアメリカ原爆傷害調査委員会(ABCC)から東さんが受けた調査内容と東さんの証言が違う些細な点をしつこく追及していました。
 報告会では、原爆症認定集団申請に参加した東京の被爆者の発言や、調査をつづけて集団申請にとりくんでいる神奈川と千葉の被爆者団体からの報告がありました。
 署名は1万422人分を提出。累計で6万5614人分となりました。
 次回弁論は12月18日です。



中央行動 政府省庁、政党へ終日要請

 10月31日の中央行動は、全国の代表と首都圏の被爆者あわせて約120人が参加。厚生労働省、外務省との交渉に、各政党や議員への要請に終日奮闘しました。

(厚生労働省)
 厚生労働省には田中煕巳事務局長と各県代表12人が要請、ブラジルの被爆者森田隆さん夫妻、宮原哲朗弁護士が同席。健康局総務課の岡山幸平課長補佐らが応対。「今日は課長の出席を求めたのに、なぜ出てこない」とただし、冒頭から緊迫した空気でした。
 「日本被団協が原因確率を批判して提出した文書にナシのつぶて。見解を聞きたい」の要請には「医療分科会に伝えそのうえで専門家が原因確率でよいと結論した」。
 「最近の認定審査は法の精神にも最高裁判決にも反する。審査のあり方を改めよ」の要請に、「財政的問題もある」と述べたため、「重大発言だ」と紛糾する場面も。
 申請から5年放置されている例(東京)、「申請する人はよほどのこと。涙なしには語れない。書類より人間を見てください」(石川)などの訴えに厚労省側は反論できませんでした。
 在外被爆者の援護施策について森田さんは「渡日すればみるというがブラジルから24時間飛行機でくるのは命がけ。18年間毎年来たがもう限界」と訴えました。

(外務省)
 外務省では、小西悟事務局次長と各県代表6人が要請し、総合外交政策局の古谷徳郎主席事務官らが応対しました。
 要請内容は1.非核三原則の法制化を 2.核兵器廃絶へイニシアチブを/アメリカなどに核兵器を使わないよう働きかけを 3.被爆の実相を世界に知らせる映像、書物、証言の活用を、の三点。
 外務省は▽非核三原則を守る政府の立場は明らかで法制化の必要はない▽アメリカはイラク攻撃を決めたわけではないので「やめよ」とはいえないなどと回答。被爆者代表は「アメリカが決定したらもう遅い。カナダ、ヨーロッパ諸国にできるのに、なぜ被爆国日本の政府がアメリカにきっぱりやめろといえないのか」とこもごもに政府の態度を批判しました。

(政党)
 政党要請で訪ねた政党と対応者(訪問順)。▽日本共産党(衆院議員=小沢和秋、山口富夫、中林よし子。参院議員=小池晃、林紀子)藤平典代表委員と被爆者16人が要請。▽民主党(五島正規、高木義明各衆院議員)山田拓民・長崎被災協事務局長と被爆者30人が要請。▽社民党(金子哲夫衆院議員)岩佐幹三事務局次長と被爆者11人が要請。▽保守党(本部職員)田中煕巳事務局長と被爆者6人が要請。▽公明党(斉藤鉄夫衆院議員)山本英典事務局次長と被爆者5人が要請。各党とも、原爆症認定の抜本改善についての対応を強く要請しました。 

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