「被団協」275号 2001年12月

主な内容
1面 「集団提訴」運動  「認定審査会」   被爆者問題研究会
2面  原爆症認定裁判   在外被爆者検討会   「核かくしかじか」
3面 都道府県の活動より
4面 「相談のまど」


実情に合った認定制度へ 「集団提訴」運動を提起

 日本被団協は、被爆者が10年以上も裁判で争い、裁判所が判断しなければ「認定」されない現在の認定制度を改めさせるため、認定却下処分の取消を求める「集団提訴」運動に取り組むことにしました。

判決が出てもかたくなな国の姿勢

 昨年7月の長崎・松谷英子さんの最高裁判決、11月の京都・高安九郎さん(ペンネーム)の大阪高裁判決で勝利が確定したことで、全国の被爆者は「これで原爆症認定の枠は広がる」と期待しました。
 しかし判決後、厚生労働省は2人をそれぞれ「原爆症」と認定したものの、今年5月「原爆症認定に関する審査の方針」を決め、公表しました。従来「基準を公表して欲しい」という要求に、厚労省は「基準はない」と言いつづけてきたことからみると一歩前進かも知れませんが、この「審査の方針」では、松谷さんも高安さんも原爆症とは「認定」されません。

個人では難しいなら集団の力で

 これまで、「二つのガンになったが入市被爆だから」「遠距離被爆だから」「1.2Km被爆だが病気が該当していない」と、認定申請したくても多くの被爆者があきらめていました。
 「集団提訴」運動は、原爆症の認定申請をして「却下処分」された場合、異議申立をし、それも棄却されたとき裁判所に提訴します。裁判は一人でもできますが、できるだけたくさんの被爆者が同じ裁判所に提訴しようというものです。
 この運動が提起されてから、申請をあきらめていた被爆者から問い合わせがつづいています。

積極的に申請を

 まず、積極的に原爆症の認定申請をしましょう。その際、2Km以内でなければ無理と被爆距離であきらめないこと。とくに軍隊で救援活動を行なったなど入市被爆した人は、積極的に申請しましょう。
 申請する病気も、がん、甲状腺機能低下症、肝機能障害など今までに認定されている疾病のほか、脱毛などの急性症状があり、被爆後健康がすぐれず、戦後まともに働けず、今も健康でない状態が続く人―ブラブラ病の状態―も、遠慮せず申請することです。
 「裁判になれば時間と弁護士費用がかかるのでは」との不安や疑問もありますが、こうしたことを軽減するのも集団提訴の利点のひとつなので、日本被団協や各県の被団協にご相談ください。



認定審査会 引き続き「原因確率」使う

 11月19日、厚生労働省の疾病・障害認定審査会原子爆弾医療分科会が公開で開催されました。議題は、「原爆症認定に関する審査の方針について」。
 「5月に審査の方針をまとめ、それに基づいて審査を行ない、ちょうど半年経ったので、審査の方針について委員のみなさんの意見を聞きたい」(佐々木分科会長)と挨拶がありました。
 検討事項として、@原爆放射線起因性の判断にあたって原因確率を用いることについてどう考えるか(草間委員)、A健康影響の評価に用いることができる線量は何が考えられるか(児玉委員)、B用いる線量の違いによる原因確率の算出値の差について(藤原委員)――の提起が行なわれ、それぞれ提起についての質疑のあと、委員会としては引きつづき原因確率を用いて放射線起因性を判断することに「異議なし」という結論になりました。
 日本被団協としては、すでに提出している作業文書1、2の検討を含め、「審査方針」のあり方の改善を求めていくことにしています。



<原爆症認定裁判>

あずま裁判

 東(あずま)原爆裁判の第12回口頭弁論が10月30日、東京地裁で一番広い103号法廷(傍聴席96席)で開かれました。原告の東数男さんは、妻の朝子さんと孫に付き添われ、病躯を押して出廷。北海道の安井訴訟の弁護団を含め、210人が三交代の入れ替えで傍聴しました。
 この日は、肥田舜太郎医師が証人として立ち、弁護側と国側のそれぞれが尋問しました。
 このなかで肥田医師は、被爆直後から今日までの五十六年間におよぶ被爆者診察の体験を通じて、原爆被害の実態がけっして機械的な線引きでは判断できないことを明言。肥田医師の学歴や学会所属の有無を問うてくる国側にたいし、「私が看取った被爆者はたくさんいる。長年にわたり被爆者を放置して救済に気のなかった政府が、今になって権力で認定基準を押しつけてくることは人間として許せない。私はいま85歳。間もなく死ぬだろうが、このことは私の遺言としてしっかりと残しておきたい」と結び、法廷に深い感銘を与えました。
 次回は12月20日午後2時から。広島の斎藤紀医師が証人。

安井裁判

 安井原爆訴訟の第11回口頭弁論が11月12日、札幌地裁で開かれ、被爆者16人を含む60人が傍聴しました。
 弁護団からは、安井さんの前立腺ガンにかんする個別的症状の証人を含む3人の証人の準備状況が述べられました。
 国側からは、まだ反論していない部分の書面提出、証人の準備状況が述べられました。
 裁判長は、「あと2回ほど弁論をし、証人申請、採否、順序などを判断したい」としました。
 なお、弁論に先立ち1万425筆の署名を提出し、累計で7万7148に。次回は来年2月18日。



第4回在外被爆者検討会

 厚生労働省は11月8日、第四回在外被爆者検討会を開きました。
 この日は、これまでの広島・長崎両市長、韓国、アメリカ、ブラジルの被爆者たちの意見をふまえ、委員が自由に意見を述べました。
 兼子仁・都立大名誉教授は「原爆医療法には国家補償的配慮があるとした昭和53年の孫振斗裁判の最高裁判決より後退する考えをとるべきではない。被爆者への補償は人身損失補償として平等になされるべき」と発言。小寺彰・東大教授は「原爆被害に補償すべきという国際法はない。国家補償的性格を強調するより、人道主義的見地から対処するのが筋」、堀勝洋・上智大教授は「一般財源で行なわれる社会保障は、日本国内に住むものに限られる。在外への給付には合理的理由が必要」と述べました。
 土山秀夫・長崎大名誉教授は、「この検討会の設置趣旨をふまえるべき。ドイツの戦後補償はでは個人補償を重点にしているが、日本でも在外に平等に個人給付ができないか」と発言。岸洋人・読売新聞解説部長も「被爆者はどこにいても被爆者という当たり前の考え方を貫くべき」と述べました。
 次回は12月10日午後1時半からで、最後の検討会になります。



第8回被爆者問題研究会

 第8回被爆者問題研究会が10月27日、日本被団協と日本科学者会議の共催で開かれました。会場の明治大学には様々な分野の研究者や被爆者43人が参加し、7つの報告とそれについての討論が行なわれました。
 「核兵器をめぐる国際・国内情勢」について明治学院大学の浅井基文氏が報告。米国の同時多発テロという「犯罪」に対し、「戦争」で報復することの誤り、核兵器使用の危険性、この状況を利用しての小泉内閣の改憲への布石等を指摘し、われわれは主権者として声をあげるべきと結びました。被爆教師の横川嘉範氏は、昨今の教育現場で原爆問題が教科書でどう取り上げられているか、「つくる会」の教科書が投げかけた波紋等について詳細に報告しました。

原爆症認定のあり方をめぐって

 今回の研究会は、核兵器による被害と補償の問題が焦点。内藤雅義弁護士は、「原爆症認定訴訟の教訓と課題」について報告し、松谷訴訟・京都訴訟でDS86と2Kmの壁を突破したことは、大きな意義があったが、厚労省の新認定基準についてどこを批判すべきか、これからの問題点について提起しました。
 科学者会議の安斎育郎・沢田昭二の両氏が連名で「新認定基準の問題点」について詳細な批判を展開。新基準は破たんしたDS86(中性子線線量の評価が実測値と合わない)と「しきい値」理論に固執し、さらに中性子線の生物学的効果比を無視していること。「寄与リスク」概念の誤解に基づいて、リスク評価にこれが最適であるとしていること。その結果「認定されるべき被爆者が、これまで以上に却下される可能性がある」と述べました。
 日本被団協中央相談所の伊藤直子氏は、1957年度以来の認定申請件数と認定状況を分析し、新基準による認定審査状況が従来と変わらないことを示し、「疑わしきは認定する」という立場での認定制度の抜本的改善を提起しました。

世界の核兵器被害実情と補償問題

 日本大学の野口邦和氏は、「マーシャル・ロンゲラップの核実験被害調査」を報告。この問題について、実際の調査データが提示され興味深いものでした。また、科学者会議の河井智康氏は「世界各国(日本、アメリカ、マーシャル、ロシア)の核兵器被害補償制度」について、その特徴と比較を報告しました。
 最後に日本被団協の小西悟氏が、「21世紀被爆者宣言」は核兵器廃絶の被爆者の願いを実現する道を明らかにするものと報告。「核兵器による犯罪を裁く国際市民法廷(案)」が提起されました。この国際法廷は、核兵器廃絶の課題の緊急性を、事実にもとづいて明らかにすることを目的とするもので、そのための大規模な調査活動、国際的なキャンペーンと開催に向けての共同作業の開始が訴えられました。  

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