10月30、31日の日本被団協全国代表者会議で「21世紀 被爆者宣言」案が発表されました。内容は以下のとおりです。

21世紀「被爆者宣言」(第二次案)
2000.10.20 日本被団協「被爆者宣言」委員会

 T 核兵器も戦争もない21世紀をめざして
 あの日――1945年8月6日、9日。アメリカが広島と長崎に投下した原子爆弾は二つの街を一瞬にして死の街に変えました。それから半世紀あまり、原爆はいまなお被害をおよぼし続けています。この間、被爆者は被爆の実相を国民と世界の人々に伝え、「ふたたび被爆者をつくらないために」核兵器廃絶を訴えてきました。いま、「核兵器も戦争もない21世紀」は世界の声となっています。

1.核兵器廃絶をめぐるあたらしい流れ
 ソ連の崩壊によって、核をめぐる世界の状況はかつての「米ソ核軍拡競争」から大きく変わりました。核保有国、特にアメリカは「核不拡散条約(NPT)」と「包括的核実験禁止条約(CTBT)」で、世界の核状況の安定を保つという口実のもとに、自分たちの核兵器独占をはかっています。
 しかし、この「NPT体制」は現在の核保有国だけが核兵器を持ち続けてよいという道理に合わないものであり、インド・パキスタンの核実験、アメリカのCTBT批准否決等で核兵器廃絶を実現する上では効果のないものであることが明らかになっていす。
 核兵器廃絶とは、核保有国、とりわけアメリカに核兵器を捨てさせることです。2000年5月に開催された「NPT再検討会議」は、「核兵器の廃絶を達成するという核兵器保有国の明確な約束」を盛り込んだ最終文書に合意しました。
 新しい流れが生まれようとしています。

2.世界諸国の国民の核兵器廃絶の声で核保有国を包囲しよう
 核兵器保有国に、「核兵器廃絶の明確な約束」を実行させなければなりません。まず、核兵器廃絶のための国際的な交渉を直ちに開かせることです。同時に、核兵器先制使用政策を改めること、臨界前核実験を止めること、等々世界のどこにもヒバクシャをつくらないためのさまざまな措置をとることを要求しなければなりません。
 そのために、国連などでの政府間の交渉は重要です。政府を動かすのは国民の力です。核保有国の国民は政府に核兵器を捨てさせ、非核保有国の国民は政府に働きかけて、核兵器廃絶への努力を要求しなければなりません。核保有国、とりわけアメリカの政府を包囲し核兵器を捨てさせたとき、核兵器廃絶は達成されるのです。

3.核兵器廃絶のための日本政府への要求、被爆者の責務
 最初の被爆国日本は、誇るべき「平和憲法」を持っています。しかし、日本政府は核兵器の「究極的廃絶」をとなえて、国連での廃絶決議には棄権をつづけてきました。日本は、アメリカに追随し、準保有国と見られています。
 日本が「核兵器廃絶」の側につけば大きな力になるでしょう。私たち被爆者は日本政府に要求します。非核三原則を法制化し、核の傘から抜け出すことを、アジアに非核地帯を広げ、はっきりと核廃絶の側に立つことを。日本政府にこれの実現を迫る ことは、亡くなった被爆者と人類の未来に対する、生き残った被爆者の責務なのです。

U 原爆被害への国家補償を、すべての戦争被害への国家補償を、アメリカ政府への賠償要求を
 二発の原爆によってその年のうちに20数万人が殺されました。その後に亡くなった人々を含めれば40万人以上にのぼります。原爆地獄≠ヘ人類史上はじめて引き起こされた核戦争の惨害でした。

1.政府は戦争責任を認め原爆被害への国家補償を
 1994年に制定された「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」は、「原爆被害への国家補償」を拒否しました。原爆被害が「戦争という国の行為によってもたらされたもの」である以上、「戦争遂行の主体であった国が自らの責任によって救済をはかる」(孫振斗訴訟最高裁判決、1978年3月30日)のは当然のことです。しかし、1980年、厚生大臣の私的諮問機関・原爆被爆者対策基本問題懇談会は、戦争被害は「すべての国民がひとしく受忍しなければならない」とのべ、これが国の被爆者対策の基本にすえられたのでした。
 原爆被害は人間として許すことのできない被害です。原爆被害に対しても「受忍」を強いる政府はふたたび国民を戦争にかりたてるでしょう。私たちは、国が広島、長崎の被害を直視し、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意して」、戦争放棄を誓った憲法の立場に立ち返り、原爆被害に対する国の責任を認め、直ちに「国家補償」を行うよう要求します。
 原爆被害への国家補償を実現することは、「ふたたび被爆者をつくらない」国の決意の証であり、同時にわが国が世界に向かって、「核戦争を拒否する権利」を宣言することです。
 原爆被害への国家補償の対象は最大の犠牲者であるすべての原爆死没者でなければなりません。さらに、いまなお身体的・精神的な苦痛や不安、社会生活上の困難などに苦しむ生存被爆者に対するものでなければなりません。原爆被害への国家補償は、在外被爆者、外国人被爆者にも差別なく適用されることはいうまでもありません(註1)。

2.すべての戦争被害への国家補償を
 被爆者以外にも多くの戦争被害者が苦しんでいます。東京をはじめとする空襲の被害者、沖縄戦の犠牲者、旧植民地であった台湾や朝鮮の軍人・軍属や従軍慰安婦、南京大虐殺の犠牲者をはじめ中国やアジア諸国の被害者たち。これらの被害者は戦争責任を明確にした謝罪と補償を受けていません。
 およそ主権が国民にある民主国家では国が戦争責任をみとめて、補償することは当前です(註2)。まして、日本国憲法は「基本的人権の尊重」と「平和に生きる権利」をうたっています。私たちは、国が戦争被害を直視し、国内国外のすべての戦争被害に補償することを要求します。

3.アメリカ政府に原爆被害への賠償を要求する
 1996年、ハーグ国際司法裁判所は「一般的に核兵器の使用または威嚇は国際法違反」との勧告的意見を提出しました。したがって、広島・長崎への原爆投下は国際法違反、戦争犯罪であり、アメリカ政府は被害者に対して賠償の義務を負うことになります。
 私たち被爆者は、アメリカ政府に賠償を要求します(註3)。この要求は核兵器が国際法に違反する非人道的な兵器であり、そのような兵器によって遂行される核政策も非人道的であることを明らかにし、核のない21世紀への道を開くのに貢献するものとなるでしょう。

私たちは宣言します。
 被爆者は、ふたたび被爆者をつくらないために、ヒロシマ・ナガサキを世界の人々に伝え、核兵器も戦争もない21世紀の実現をよびかける。
 被爆者は、アメリカを始めとする核保有諸国が核兵器廃絶の明確な約束を実現するために、核兵器廃絶に向けての国際交渉を直ちに開始することを要求する。また、核兵器廃絶の実現にための非核保有国の努力をよびかける。
 核保有国の国民に、自国の政府に核兵器の廃棄を要求することをよびかける。非核保有国の国民に、自国の政府に核兵器廃絶の努力を求める行動をよびかける。
 日本政府が明確に核兵器廃絶の側に立つことを要求する。日本政府にこれを要求することは被爆者の責務である。
 日本政府に、戦争責任を認め、原爆被害者をはじめとしてすべての戦争被害者に、国として補償することを要求する。
 アメリカ政府に、国際法違反の広島・長崎への原爆投下に対して賠償を要求する。
 被爆者は核兵器も戦争もない21世紀のために、最後までその責務を果たすことを誓う。



【註1】戦後補償をめぐって、国内・国外で出されている要求や訴訟で、被害者が言っていることは「被害についての謝罪と賠償」です。被害に対して賠償せよ、しかし、ただお金の問題として処理されるのは我慢できない。加害者からの謝罪がなければならない≠ニ考えるのは自然な要求です。この点では薬害や交通事故の場合も同様です。
 被爆者も「原爆被害に対し国は責任を認め謝罪すること」、そして「被害に対して補償すること」を要求します。補償の対象は、最大の犠牲者である原爆死没者、残された遺族、そして身体的・精神的な苦痛や不安、社会生活上の困難などに苦しむ生存被爆者です。ちなみに、「原爆被害者の基本要求」では、これらを「弔慰金と遺族年金」、「被爆者年金」と表現しています。

【註2】戦後補償の問題というと、日本とよく比較されるのですが、戦後間もなく西ドイツは「戦争犠牲者援護法」を制定し、被害者と遺族に補償しました。また、「連邦補償法」、「一般戦後処理法」その他の法律を制定して、ユダヤ人犠牲者、ソ連その他侵略した国の被害者に補償してきました。
 アメリカは戦時中に日系人を抑留しましたが、最近になって、アメリカ政府はこれに謝罪し賠償金を支払いました。イギリスやカナダは戦争中日本軍の捕虜になった旧軍人について、日本に補償を要求していましたが、らちがあかないので最近になって自国で支払うことにしました。

【註3】アメリカ政府に賠償を要求することは、日本政府への国家補償要求を止めるということではありません。「戦争遂行の主体」としての日本政府にはあくまで、その戦争の結果生じた被害に対して補償することを要求します。一方、国際法違反の原爆投下はアメリカ政府の責任であり、それに対しては賠償を要求します。
 具体的な方法は、今後研究・検討していかなければなりませんが、日本政府にアメリカに賠償を求める@v求をすること、アメリカ政府への賠償要求、国内の裁判所への提訴、アメリカでの提訴、国際司法裁判所への提訴、その他然るべき国連機関への働きかけ、等々が考えられます。


 「被団協」新聞12月号   トップページ