2007年9月20日
厚生労働大臣
舛添 要一 殿
日本原水爆被害者団体協議会
 代表委員 坪 井   直
 同    山 口 仙 二
 同    藤 平   典
 事務局長 田 中 煕 巳


原爆症認定制度の見直しにあたっての要求

 広島・長崎の原爆被害から62年。原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律が制定されてから12年になります。しかし、原爆被害は、現代医学をもってしても未だに解明できない被害であることが、今日一層明らかになり、原爆被害の過小評価を続ける被爆行政のゆがみはますます大きくなっています。
 被爆者は、62年経ってもなお人間を苦しめ続ける核兵器の廃絶のために、被爆国日本の政府がその先頭に立つことを要求し続けてきました。さらに、ふたたび被爆者をつくらぬ証として、原爆被害への国家補償を趣旨とする被爆者援護を求めています。被爆者は、被爆者対策の中で唯一、国が原爆被害として認める原爆症認定制度にその証を求めてきました。しかし、厚生労働省は、原爆症認定者数を一貫して被爆者の1%にも満たない2000人台に抑えてきました。
 日本被団協は、こうした厚生労働省の姿勢を改めさせ、原爆被害の実態に即した認定行政の実現を求めて、全国の被爆者に呼びかけて原爆症認定申請を行ない、却下された被爆者が原爆症認定集団訴訟に立ち上がりました。
 その結果、国が現在原爆症認定の基準としている「審査の方針」について、昨年5月の大阪地裁の判決以来、広島地裁、名古屋地裁、仙台地裁、東京地裁、熊本地裁の6つの判決において、相次いでその欠陥が指摘され、厚生労働大臣の却下処分が94件も取り消されました。
 すべての判決に共通する考え方は、原告らが実際に体験し、現に身体に起こっている疾病・障害の事実を重視して放射線起因性を判断すべきであり、放射性降下物などによる残留放射線をほとんど無視し、DS86で推定される初期放射線被曝線量と不完全な疫学調査にもとづく「原因確率表」に依存しては放射線起因性を判断できないとするもので、「審査の方針」の破綻は明確となっています。
 それにもかかわらず、厚生労働大臣は司法の判断を無視して、全ての判決に対して控訴しています。この間に、36人もの原告が亡くなっており、重篤な疾病に苦しむ原告に、残された時間はありません。厚生労働省は、原告が死ぬのを待つかのような非情な行政をとり続けています。
 こうした中、安倍総理は、本年8月5日、広島で被爆者代表らと面談し、原爆症認定制度のあり方を見直すことを言明し、その旨厚生労働大臣に指示しました。これは、世論の背景もあり、総理大臣がその問題性を認めて、直接見直しを指示せざるを得なかったものです。
 厚生労働省は、これまでの姿勢を改め、6つの判決を真摯に受け止め、国家補償的配慮のもとに、判決の趣旨に沿った新たな認定制度を作らなければなりません。
 日本被団協は、厚生労働大臣に対して、2006年10月19日に「原子爆弾被害者対策の抜本的改善を求める当面の要求」を提出し、この中で、原爆症認定制度の抜本的改善の要求を明らかにしました。今、総理の指示を受けて、原爆症認定制度の見直しが進められるに当たり、改めて具体的に改善要求を示し、裁判に訴えざるをえなかった被爆者原告を初め、原爆症の認定を求める被爆者の要求の早期解決を求めるものです。



見直しにあたっての要求


 1 控訴を取り下げ、全ての訴訟を解決すること
  原爆症認定制度の見直しにあたり、まず行政が、「原因確率表」を基礎とする「審査の方針」は原爆被害を過小評価するものである、との司法の判断を真摯に受け止め、6つの判決に対する控訴を直ちに取り下げ、係属している全ての訴訟をすみやかに解決することを要求する。

 2 「審査の方針」を廃止すること
 現在の、原爆症認定基準は、2001(平成13)年5月25日付で疾病・障害認定審査会原子爆弾被爆者医療分科会が作成した「審査の方針」によっているが、すべての判決によって破綻が明らかな「審査の方針」を直ちに廃止することを要求する。

 3 新しい「認定基準」による認定制度をつくること
 原爆症認定制度を、次のような新しい「認定基準」に基づく制度に改めることを要求する。
 (1) 一般に放射線起因性が肯定される負傷又は疾病を「原爆症認定疾病」とし、現に医療を要する状態にある場合には、疾病・障害認定審査会原子爆弾被爆者医療分科会の審査を経ることなく、厚生労働大臣はこれを原爆症と認定する。
 (2) 「原爆症認定疾病」を政令で定める。
 (3) 政令で定められるべき「原爆症認定疾病」は以下のとおり。
   1. 中枢神経系腫瘍を含む全ての部位の固形癌、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等の造血臓器悪性腫瘍
   2. 原因不明の白血球減少症、難治性の貧血、骨髄異形成症候群などの血液疾患
   3. B型、C型のウイルス性肝疾患を含む慢性肝障害(慢性肝炎、肝硬変)
   4. 後嚢下混濁を伴う白内障
   5. 心筋梗塞、冠動脈硬化が認められる狭心症
   6. 肺線維症
   7. 甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症(高カルシウム血症)
   8. 熱傷や外傷の重度の後遺
   9. 胎内被爆者の小頭症
 (4) 「原爆症認定疾病」は医学的知見の進展に伴い随時付加するものとする。
 (5)  被爆者が、政令に定めはないが、放射線に起因することを否定できない疾病に罹患し、現に医療を要する状態にある場合には,疾病・障害認定審査会原子爆弾被爆者医療分科会の審査を経て、厚生労働大臣はこれを原爆症と認定する。なお、認定にあたっては、被爆者救済を旨とする「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」の趣旨に則り、原爆症認定訴訟判決が示した判断基準を十分踏まえて行うものとする。

 4 医療分科会を改革すること
 疾病・障害認定審査会原子爆弾被爆者医療分科会は,放射線の人体への影響についての知識と被爆者医療に経験のある委員で構成することとし、半数は被爆者団体が推薦する人をもってあてる。


                              以  上



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