「再びヘラクレスを求めて」
聖地ドミニカ編
9/7
ドミニカ・マリゴ空港に到着、7ヶ月ぶりのドミニカは前回来た時とはうって変わって蒸し暑く熱帯雨林の風がそよいでいた。レンタカーを借り、シャイアンへと向かう。相変わらず道路には穴ぼこがあいている、前回よりも少し悪くなったのではないだろうか?
シャイアンの所に着くとシャイアン、マファー、シャイアン兄、クレン、娘たちが歓迎してくれた。
お土産や、前回の写真などを手渡ししばしの休憩だ。やはりドミニカは最高だ、私たちにとってここは聖地とも呼べる場所なのかもしれない。
ドミニカでは6時になると日が暮れてくる、そろそろ出かける用意をしなければならないようだ。まず前回1♂3♀を確認したポイントへと車を走らせる、うねうねと曲がりくねった狭い道を走らせていると7ヶ月前のことが非常に懐かしくさえ感じられる。ひで「あっ、一つ目の外灯が見えてきましたよ!」 Eiji「ヘラクレスがいるといいね!」 車から降りて外灯に足早に駆け寄り電柱を照らすといきなり150ミリはあろうかという雄姿が目に飛び込んできた。
ひで「いた!デカイのがくっついていますよ!」
Eiji「んっ!どこどこ!」
ひで「ほらっ!ここに。」(ライトでその個体を照らす)
Eiji「うお〜!でけえ!角太ぇ〜!160くらいあるんじゃないのか〜?」
つついて落として手にとったヘラクレスは極太の157ミリだった。
ひで・Eiji「うお〜デケェ〜角太いな〜!」
その横にもう一匹小さいのがいる、それもつつき落とすと129ミリあった。すぐ近くのB氏の家にあいさつをしに行くと快く出迎えてくれた。彼によるとドミニカのヘラクレスにもプロテクトがかかっており国外への持ち出しは禁止されているとのこと、旅行者が観察するのは構わないが殺したり国外へ持ち出したりすると刑罰に処されるそうだ。したがってひそかに目論んでいたことだが、ドミニカに採集人をつくり日本にヘラクレスを発送してもらうことなど夢物語でしかないことがわかったのだ。
B氏と別れさっきの外灯をもう一度見るとメスがてっぺんに付いているのを見つけた、Eiji氏と相談してリリースすれば問題ないのであればとりあえず全て採集して写真を撮ることにした。あともう一匹、前回角折れ♂が飛んできた外灯に向かう途中で見つけた。これで2♂2♀確認、更に南へと車を走らせ新たなポイントを見つけた。少しずつ標高を上げて白い外灯を一つ一つ丹念に見て行く、すると一匹の♀が外灯に付いているのを見つけた、車をとめて見に行くと更に3♀を見つけた。
結局この日確認できた個体は、2♂5♀だった、なんと初日で前回の雪辱を果たしてしまった。今日は、ホテルを決めていないのでシャイアンの家の前で車内泊をする。
9/8
シャイアンの弟のクレンが家に泊めてくれることになった、彼は32歳で現在大学に通っている、気さくなドミニカンらしいいいやつだ。落ち着いたので、前回お世話になったジネットとスチーブンの所へお土産を持っていった、ジネットがでてきてすかさず「こんにちは!」と言ってきた、さすが語学の天才ジネットだ、一度覚えた言葉をきれいに発音している。彼女は、フランス語も話せるしスペイン語も少し話せるのだ。ジネットがブレットフルーツとココナッツをご馳走してくれた。ブレットフルーツは通称パンの実である、スモークしただけのものだがとっても美味しくココナッツと合わせて食べるのだがこれがまたたまらなく美味しいのだ。
今夜は、クレンとCという所に行くことになった、クレンによるとCにもヘラクレスがいるとのこと、
そこには、クレンの彼女もいるとのことだ、とりあえずクレンに案内してもらうことにする。Eiji氏がクレンに「彼女は何人いるんだ?」と聞くとクレンは「3人いるんだ!」とうれしそうに答えた。Cは、首都ロゾーより若干北に位置するとても小さな町だ。Cへの道をどんどん登っていく。「これは良さそうだな。」Eiji氏が言う。クレンの彼女の家に着いた、クレンが言うにはこの辺りがベストポイントだそうだ。さらに道を登っていく、かなり道が悪くなってきた、この辺りで限界だろうか?白い外灯があるのでとりあえず降りてみる。「いた!♀がいましたよ!」私が言うとEiji氏が竿でつついて落とした。私が下でキャッチする。結局Cではこの一匹だけだった、クレンを彼女の家に送り、昨夜最後に見つけたポイントのBへ向かうことにした。Bでは、少し雨が降ったようで路面が濡れていた。外灯にも付いていないようだ、何の気なしに下に横たわった木を見ると切り口に良形の♂が上向きについていた。138ミリのグリーン系のすばらしい♂だった。今夜は1♂1♀を確認することが出来た。
9/9
シャイアンの叔父であるアイハイに久しぶりに再会した。前回果樹園に連れて行ってもらったことがあり今日もそこに連れていてもらうことにした。彼のイメージではそこにヘラクレスがいるらしいのだ。
ヘラクレスがつくという木を再び訪れた。果たしてヘラクレスは付いているのだろうか?その木の下には相変わらずヘラクレスが削って落としたと思われる枝が数多く落ちていた。残念ながら今回も樹液を吸っているヘラクレスを確認することは出来なかった。
今夜は、クレンの家に水銀灯を点けて外灯周りに出かけた。最初に157ミリを見つけたLとBへ向かう。Lの外灯を丹念に探したがなぜか今夜は飛来していなかった。続いてBの外灯もチェックするが、ここでも見つけられず今夜はボウズかと思われたその時、思いもかけない葉っぱの裏側にしがみついた♂を見つけた。137ミリのかっこいい♂だった。
シャイアンのところへ戻るとすぐにマファーが飛んできた、なにか見つけたのだろうか?見るとなんと150ミリを軽く超える♂を持っていた、どうやら私たちが点けていった水銀灯に誘発されて飛んできたようだ。娘のシャローンが「私が見つけたんだよ」と得意げな顔をしている。156ミリの気の荒い♂だった。シャイアンの所も捨てたものではない、毎日水銀灯を点けることにした。
9/10
朝から激しい雨が降っている、日本では見たことが無いような雨だ。熱帯雨林気候のすさまじさを垣間見る。どこにも行くことが出来ないのでゆっくり休むことにする。
夜になり今日も水銀灯を点けるが今日は残念ことに飛来してこなかった。ライトを点けっぱなしにして一眠りして外に出ると♀が一匹歩いていた。どうやら寝ている間に飛んできていたようだ。それから外灯周りに出かけたが雨のせいか今夜はどこにもヘラクレスの姿を見ることはできなかった。
9/11
シャイアンが大声で何か言っている。聞くとなんとアメリカでテロがありニューヨークで大惨事が起こったらしい。シャイアンの話だと大きなビルに飛行機がぶつかってビルが崩れたそうだ。飛行機も飛ばないらしい。大変な事態になってしまった、ニューヨークから日本に向かった義姉は無事なのだろうか?私たちはいつ日本に帰れるのだろうか?
考えても仕方ないのでひたすらヘラクレスを探すことにしたがこの日はボウズだった。
9/12
シャイアンの兄にたたき起こされた。Eiji氏がすかさず玄関に行く。Eiji氏はヘラクレスを見つけたことをすぐに感じたそうだ。130ミリ後半の立派な♂だ、お兄さんの家の玄関の明かりに飛んできていたそうだ。
9/15
今日も朝から激しい雨が降っている。日本だったら土石流が起きても不思議ではないような大雨だ。
いつものようにチキンとサンドイッチをほおばり、スプライトを飲む。今日はクレンが久々に帰ってきている、Cに行くチャンスだ。クレンに今夜彼女のいるCに行かないか?と尋ねると、「Yes! Go to C」と元気の良い返事が返ってきた。さすがクレンだ、ノリが良い。
いつものように水銀灯を点けると♀が飛んできた、今日はもしかすると飛ぶ日かもしれない。途中でガソリンを入れてCへと車を走らせる。Cに入り外灯を一つ一つ丹念に見ていくと二人の男が立っている、どうやら私たちを待っていたようだ。なんと、彼らは私たちがヘラクレスを捜しているのを聞いて待っていてくれたようだ。2匹の♂は、角折れと足が無いものだったがどちらも140ミリを上回るような個体だった。さらに、上へと車を走らせるとクレンが1♂を見つけた98ミリのグリーン系の♂だった。クレンを彼女の所へおいてLへ行く、Lの一つ目の外灯で久々の1♀発見。先の外灯でも2♀を発見、今夜は3♂5♀を見ることができた。
9/18
昨日までは、これといった成果も無く3♀を確認しただけに過ぎない。今日はまずロゾーにいってキャッシングをして、日本の情報を得る為に短波ラジオを購入する。Eiji氏の妻からもシャイアンの家に電話がかかってきて少しづつだが情報が集まってきたが依然として飛行機は飛んでいないようだ。
pm19:00ごろシャローンが叫んでいる。ヘラクレスの♀がセットした水銀灯に飛んできたのだ。
Eiji氏がすかさず叩き落した。日本広しといえ野外のヘラクレスヘラクレスを叩き落した日本人はそういないだろう。pm8:30にまた1♀が飛来していた、今日は久々のヘラクレスの日なのだろうか?
深夜0時に出発してBから周る、Bでは死にかけの♀を1匹発見した、見た所新成虫のようで特に傷みも無いようだったがその♀はすぐに死んでしまった。さらに先の外灯の下の草むらでおおきな♀を発見、若干標高は低いがこの辺りも丹念に探した方が良いようだ。AM1:30を回ったところでLへ向かうことにした。
Lの一つ目の外灯で下のほうからEiji氏が呼んでいる、見つかったのか?「ひでさん!いた!オスだ!デジカメデジカメ!」デジカメをもって駆け寄ると大きなオスが草にしがみつき重たそうにぶら下がっていた。ひで「これはかなりおおきいですね。」 Eiji氏「角もかなり太いよ。」久々の♂発見でEiji氏もご満悦だ。サイズを計ると142ミリの均整のとれた♂だった。AM5:00就寝。
9/19
今夜も出陣かと思っていたその夜、シャローンがドアを叩いた。「ヒデ!エイジ!」玄関に行くとなにやら母親のマファーが話があるとのこと。なぜシャローンに来させたのだろうか?一縷の不安がよぎる。
マファーとシャイアンが神妙な面持ちで待っていた。「ドアを閉めて。」マファーが言う。「ヒデ、エイジ、よく聞いてね。今夜はフォレストアーミーが見張っているので外には出ないでね。」
ひで・Eiji「・・・・・?????」「なんで???」
マファー「彼らは動物や昆虫が殺されたりするのを防いでいるの。」と言う。まあ、要は我々が目を付けられてしまったということなのだろう。
マファー「今日は水銀灯にカブトムシが飛んできても知らないふりをしてね、絶対に触っちゃだめよ!」ひで「ということは、ヘラクレスを採集すること自体がダメだったんでしょう。」と言うとマファーは、「そんなことはないわよ、明日になれば採集しても大丈夫よ」と言う。とにかく、誰かのタレコミでフォレストアーミーにまで話が及んだようだ。どうやらヘラクレスを採集すること自体ダメなようだ、恐らくシャイアンやマファーは田舎の人間だからよく知らないが恐らくドミニカでもしっかりとプロテクトがかかっていたのであろう。確かにB氏はプロテクトがどうこう言っていたような気がする。「とにかく今日は早く寝よう!そして明日ドミニカを出よう!」と言う。そんなに大変な事になったのだろうか?その時の私はまだ半信半疑だった。
9/20
Eiji氏が明け方4時頃に私に話し掛けてきた、「外を見たら、蛮刀を持って迷彩服を着たアーミーが大声で歌いながら犬を3匹引き連れて歩いていた。」と充血した目で話す。「その時目が合ったような気がしてぞっとした。」と言う。なんと、アーミーは一晩中寝ずに私たちを見張っていたのだ!さすがの私も帰り支度をすることにした。朝7時ごろドアをノックする音が聞こえる。
「コンコン!」 あ〜!もうダメだ!ついに捕まった、と私たちは思った。ドアを開けるとそこには昨日か一昨日にシャイアンの所であった男性が立っていた、そして片手にはヘラクレスの♂を持っていた。
疑心暗鬼に刈られていた私たちはもしかしてこれはおとりでヘラクレスを渡された瞬間に逮捕されるのではないだろうかとも思った。話をするとどうやらそうではないらしい、彼はどこで採れるのかどうやって採るのかを一生懸命教えてくれた。134ミリのグリーン系の♂だった。このオスは小学校で飼っているのだと私たちに説明してくれた。まあ、そのくらい貴重なものだと言う事なのだろう。
彼とマファーのところで食事をとりながらマファーに伝えた「これから飛行機に乗って帰ろうと思うんだ。」 マファー「大丈夫よ、シャイアンがアーミーに彼らはインセクトの勉強をしに来ている。」っていったから。彼女は引きとめたが我々はなかば強引に飛行場へと向かった。「マファー!また来るよ!シャイアンにありがとうって伝えておいて。」マファーは泣いていた。
飛行場に着きなんとかサンファン行きのチケットをとり、執拗なバッケージチェックを受け、車を返すのに手間取り、フライトまで20分しかなくなってしまった。しかし、ここからが長い長い悪夢の20分になろうとはこのときはまだ知る由も無かった。ゲートをくぐるとEiji氏が「フォレスト・・・インセクト・・・」などと言われている。見るといつのまにか警官が前に立っていた。私はその時、血の気が引いていくのを感じた。警官は「おまえら虫を採っていただろう、持っているんじゃないのか?」と
執拗に聞いてくる、私たちは「知らない、解らない」で通しつづけた。20分ほどすったもんだの挙句飛行機の前でも荷物を引きづり出され、さらに中身を開けられた。文章で書くとずいぶん簡単だが本人たちは命が縮む思いだった。時間が無かったのも幸いしてか何とか飛行機に乗せられて離陸までの長い長い5分間のあと私たちのヘラクレス観察紀行は幕を閉じた。
私たちの他のももう一人ドミニカにヘラクレスを採集しに行った方と話したが、再入国した際にいきなり手錠をかけられ、持ってもいないマリファナを出され「いったい日本人が何しにドミニカに何度も来ているのだ、正直に言え。」とまで言われたそうだ。彼も、二度と行かないそうだ。私たちも、恐らくもう足を運ぶことは無いだろう。ヘラクレスの聖地ドミニカへ・・・
終わり