大井川鉄道、久々の重連運転

■ネット情報の恩恵に与って

4月14日(金)であったか、ある掲示板で16日(日)に大井川鉄道で重連運転が行われることを知った。なんでもNHKのBS2で「お〜いにっぽん、とことん静岡県」という長時間番組の中で生中継されるとか。毎年ゴールデンウイークには重連が恒例になっていたが、昨年は行われなかったため久しぶりの運転となる。雑誌などには記事の掲載がなかったもので、インターネットに加入して間もない私にとって電子メディアによる新鮮情報のありがたさを知ることとなった。

前回、「いぶき」の撮影からまだ1月が経過しておらず、早くもの再訪となるが、それほど迷うことなくきっぷの手配をした。

■そして運転当日

当日は初電に乗る必要はなく、新今宮6:02の新大阪行き快速に間に合うように出発。300系の「ひかり206号」で名古屋まではひとっ飛びし、すぐ接続する新快速〜普通電車を乗り継いで金谷には10時前に到着した。

大鉄の電車まで多少余裕があるため新金谷まで歩いた。浜松を過ぎる頃までは快晴であったのに金谷は曇りがちで肌寒い。車庫に着くとC11227がC11312をクラへ押し込んだ後からC12164が続いてバックして来るところであった。どうやら初めてC12164先頭の重連が撮れそうだ。客車の最後尾では中継に使うのかマイクのセッティングが行われていた。

10:30発の電車で抜里へ向かう。下り101列車の撮影ポイントに選んだ2つのトンネルの間はまだ誰も来ていない。抜里駅から引き返し、飲み物は売っていないかと探しながら歩いたが、店も自販機も見つからず、断念した。急な斜面を下って撮影ポイントに着いたが、家山方トンネル出口の木がだいぶ伸びていたり、カメラの真上にある枝も垂れ下がっていたりで、両方をかわそうとするとアングルが中途半端になってしまう。どうしようかと思ったところ、茶畑の脇に古い竹竿があり、これを拝借して枝の下に立て、なんとかかわすことができた。

■下り101列車を待つ

朝、セブンイレブンで買った弁当を賞味しながらSL101列車を待った。風は弱いが、たまに強い風に木々がざわざわっとなびき、桜の花びらがひらりひらりと舞ってくる。やがて、汽笛が2つ聞こえて遠くに列車が見えてきた。数分遅れているようである。カメラ2台、ビデオの最終点検を終えて、家山の発車を待った。

 期待のC12先頭ならず。しかし力強いドラフトを響かせて突き進むC11227+C12164重連牽引の101列車

トンネルに入る前に汽笛が鳴って、ドラフト音が聞こえてきた。電気機関車の後押しがある時とは比べものにならないほど力強い。さらに音が大きくなって一気に緊張が高まる。そしてトンネルを抜けると真っ白な蒸気が上がった。おやっ、先頭はC12ではない!いつの間にかC11に差し替えられてしまっている。真っ白な蒸気で煙分はゼロでは満足とは言えない。それでもこの時期としては低い気温に救われた成果だ。ゆっくりと通過した列車が次のトンネルに吸い込まれるとすっと静かになった。SLの撮影は条件による当たりはずれが大きく、満足のいく作品をものにするためには数打つしかない。

ビデオがうまく撮れているかを確認して片づけに入った。(もちろん竹竿も元どおりに。)今日は帰りの102列車も家山で撮影するので、家山駅まで歩くことにした。トンネルの上の斜面は見た目以上にきつく、機材をかついで登るのは息が切れる。帰りは少々方向を誤ってしまい、出たところは道路ではなく小さな建設会社の庭先で、これはいけないと、そそくさと道路まで急いだ。一気に登って出た道路から駅までの標高差はかなりあって、駅まで15分ほどを要した。


■家山駅のトラ

「トラ」の文字を見て無蓋貨車を連想した方は相当鉄分が高いかも知れない。残念でした。トラはトラでも酔っぱらいと「とんだエキストラ」の話である。

帰りのSLまで2時間半あるが、ぼーっと物思いに耽ることにした。家山駅はひなびたローカル線の駅で、2月訪れた津軽鉄道を思い起こさせるものがあった。そんなのどかな雰囲気にひたっていたところ、10数人くらいの人がバスから降りてきた。60前後に見えるこの人達はどうやら同窓会の宴会だったようだ。1人大トラ状態でかつがれてきたオジサンがいて、ベンチに寝かされた。日頃の生活でたまりきった不満が吹き出したようで、じっとしていればよいものを、なだめる同級生?に大よろけになりながら殴りかかっている。それも一応真剣に。へろへろっと転んでゴミ箱に頭をぶつけて眼鏡が吹っ飛び、見ている方がハラハラする。なんともはた迷惑なオジサンである。10数人にもなればいろいろなタイプの人がいるもので、初老に達したこの人達もそれぞれの性格が出ているのはおもしろい。爆発して「どいだけ迷惑掛けとるだかわかっとるのか!!」と、殴り返そうとする人。「まあまあ」と後ろから抱え込んで止める人。そして、やっぱりいるのが見てるだけの人。自分の同級生ならば誰に当たるだろうと考えるとおかしくなった。

一行は次の電車で笹間渡駅の近くにできた温泉に行きたいようだが、大トラオジサンはとうてい無理な状態。殴られて怒ったジャガイモのようなおじさんはまだ収まらない様子で、駅員さんに戻って来るまで預かってほしいと頼んでいたが、面倒が見切れないほどに泥酔していた。いよいよ電車がホーム入ってきて、別の2人のおじさんが「放って行く訳にゃいかん。みんなで行っといで。」と他の人たちを送り出して大トラの保護者を務めることになった。愚痴の聞き役に徹し、なんと面倒見がよく、責任感の強い人たちであろうか。こんないい人が温泉に行けなくなってしまってかわいそう・・・。

■とんだエキストラ

そろそろ撮影ポイントに移動しようかと思ったとき、駅員さんが話しかけてこられた。今日の中継は帰りの列車で、いつもはSLがバックで来るところを前向きで来るかも知れないと言う。テレビ写りを考えればその可能性は大であると思った。

金谷寄りにある鉄橋の脇の桜公園にカメラをセットした。もう花は8割方散ってしまっていて、無理に入れても絵にならない。それどころか花見客が散らかしたゴミを目当てにたくさんのカラスが集まっている。カラスたちにとっては花が散って人がいなくなったこれからがショーバイ。サラミ?が残っているビニール袋をくわえて木に止まり、つついて中身を頂戴しようとしている。聞きしに勝る賢さであるが、感心してはいられない。

架線の上にも数十羽が止まってエキストラ出演をたくらんでいる。いよいよSLが近づいて汽笛を鳴らすと8割くらいは驚いて飛び立ったが、まだ数羽がしぶとく残っている。それでもドレンの蒸気ををシュッ、シュッと吹き出すとさすがに全部逃げて、写真の画面からは消えてくれた。しかし、ビデオの方は一部始終がしっかり写ってしまった。客車が通り過ぎる頃にはもう戻ってきて、重連の時にしか聞かれない絶気の汽笛合図にカラスの鳴き声が混じるというなんともユニーク?な作品と相成った。

SLが来た!悠々と架線にたたずむカラス。 汽笛の音に驚き、「飛んだエキストラ」。
おーイ、カラス!! 汽笛の音に驚いて飛びたつも、まだ数羽がしぶとく残る。
勢いよいドレンにはさすがに残ったカラスも・・・ なんとかキマった。
残りもドレンの音でさすがに「飛んだ」エキストラ。 なんとか画面から消えてキマリ!

駅に戻る途中、側線に止めてあるトラストトレインの客車を撮影して帰りのきっぷを買った。大トラオジサンはだいぶ酔いが醒めたらしく、親切なおじさん二人と肩を組んで上機嫌である。保護者のお二人にはとんだ災難であったが、まずは一安心といったところだ。

■帰途へ

元南海21001で家山を後にする。金谷からは身延線から栄転した115系で豊橋へ。新快速の接続がすぐあったが、たまには名鉄の指定席にしよう。神宮前に着く頃にはとっぷりと暮れて、停車中に豊橋を先に出たJRの新快速が猛然と抜き返していった。名古屋では19:00発近鉄アーバンライナーまで7分しかない。乗り継ぎの改札で断ってJRとの乗り継ぎの改札へ走った。案の定改札の外の特急券売り場は列ができていたが、こちらはすぐに買えた。

あいにく禁煙車は満席で喫煙車になってしまったが、なんとか席に落ち着いた。今日は往復とも真っ白な蒸気で煙分ゼロだったのは少し残念であったが、喫煙車の方がよほど煙が濃い?とは何とも皮肉である。

21:07定刻に難波に到着。トラおじさんは無事に帰ることができただろうかと考えながら南海線への地下道を進んだ。

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