アドフリミエロ
※本書の著作権利は作者である林仁にあり、許可無く引用や複製することを固くお断りします。




第5章

---- コード分析 ----
テンション・コードと分数コード
1 テンション・コード

        「いいな〜! このリディアン7thとHMP5ビローってヤツ! いかしてる〜!」
         自分でも驚くほどフレーズが増えていく数日間に、ぺん太はゴキゲンだった。

        ぺん太「マエさん、結構フレーズ覚えましたよ!」
        マエ 「そうか、しっかりと自分のものにしないとな!」
        ぺん太「はい、頑張ります。 コードの方も宜しくお願いします!」
        マエ 「OK! 今日終わったらやろうか?」
        ぺん太「いいんですか? 嬉しいです〜!」

        近くのコンビニまで昼食を買いに外へ出たぺん太は、ふと思った。
        「今迄コードって何も考えずにカタチで弾いてたけど、良かったのかな〜?・・・」

        マエ 「ぺん太、お待たせ!」
        ぺん太「マエさん、俺、今迄コードって、カタチで弾いてたんですけど、それってどうなんですか?」
        マエ 「いいんじゃない! でもね、そのコードの各弦の音が何度の音なのかを
            理解してないとマズイね!」
        ぺん太「それって、テンションってことですよね?」
        マエ 「イエス! 同じフレットのバレー・コードでも5弦ルートと6弦ルートでは
            各弦のテンションも変わってくるからね。」
        ぺん太「マエさん、一体何度ぐらいの音からテンションって呼ばれるようになるの?」
        マエ 「じゃあ、まずテンションについて説明していこう。」

        ♪テンションとは
        ちなみに、弦の張り具合もテンションが強いとか、弱いという表現をするが、この場合はそれと違い、
        コードの上の方に重ねていくノート(音)のことを意味する。
        4声の(7th)コードに付け足すことにより、次の展開に導いたり、緊張感を持たせたりして、
        曲の空気感やイメージまでも変化させる影響力を持っている。

        ♪テンション・コードとは
        何度の音からがテンションというような決まりは無いが、一般的には9th以上のコードに対して
        テンション・コードと考えていいだろう。 
        9th以上のテンションとしては、-9th、9th、+9th、11th、+11th、-13th、13th、などがある。
        (この+、-、は各々のテンション・ノートを半音上げたり、下げたりすることを意味している。
         +は♯、-は♭。)

        ♪テンションを分かりやすくするには
        例えば13thというテンションをルート(1度)から1・2・3・〜13まで数えていくのは大変である。
        そこで9th以上のテンションに関しては、その数から7を引こう。 例えば13thは、13-7=6 
        この6度の音が13thと同じテンションとなる訳だ。 同様に9th=2度、 11th=4度、となる。
        おっと、ここで大事な約束があるんだ、9th以上のコードには必ず7th(メジャースケール上の♭7度)
        を入れなければならない、又11thや13thには7thと同時に9thも組み込むのが本来の響きを出すためには
        必要だが、ギターの構造上難しいケースもある。


        ぺん太「そうか、7を引くのか! それで出た数字を・・マエさん、どうやってコードにするの?」
        マエ 「そのコードのルートからメジャースケールの音程で弾いていって、その音を探し出す、
            探し出したらその音を7thと一緒にコードの中へ入れてあげればOK!」
        ぺん太「それってコードのメジャー、マイナーに関係無く?」
        マエ 「そう! メジャー・コード、マイナー・コードどちらの場合も、
            メジャースケールの音程でテンション・ノートを見つければいいんだ。」
        ぺん太「でも音の積み方は? 順番とか?」
        マエ 「いい質問だね、ぺん太! コードの構成は基本的に下の音から高い方に重ねていくのが
            セオリーになってる。 トライアドや4声コードでもやったように、1、3、5、7度の音が
            積み重なり、その上にテンションが加わってくる。」
        ぺん太「じゃあ、さっきの13thは7を引いて6度の音でしょ、・・6thと7thは半音隣りで音が
            ぶつかってる、ってこと?」
        マエ 「まあね・・正しくは1オクターブの開きがあって音がぶつかってることになる。
            さっきのテンションを探す時のメジャースケールを、ルートの1オクターブ上から
            スタートさせて、引き算をして出た答えの数だけ1、2、3〜(8、9、10〜)という形で
            探せば分かりやすいかな。」
        ぺん太「な〜るほど! でもマエさん、ギターだとピアノみたいに沢山の音を
            積み重ねるのは無理でしょ?」
        マエ 「そうだね、ギターの構造上からもテンション・コードの全ての音を順序良く重ねるのは大変だ。
            そこで音を間引くことになる。」
        ぺん太「音を間引って?」
        マエ 「そのコードから抜いても、コードの響きに余り影響の無い音を省くってこと。」
        ぺん太「それって、音の省く順番とかあるんですか?」
        マエ 「そうだな〜、まず5度の音だな、その次がベースがいる場合はルート(1度)
            は弾かなくてもいいでしょ、後はギターの場合だとコードのテンションや押さえるポジション、
            それと何声(何和音)で弾くかでも変わってくるね。」
        ぺん太「例えば?・・」
        マエ 「D13thというコードだと5弦から1弦まで、5、4、5、5、7フレットって押さえて、
            1度、M3度、7th、9th、13thの並びのコード・フォームがオーソドックスだけど、
            同じ5フレットで6弦ルートのA13thでは、6弦5フレ、1つ飛ばして4弦5フレ、
            3弦6フレ、2弦7フレを押さえて、1度、7th、M3度、13thとなり
            9thが抜けてたりするフォームが一般的だ。」

        参考図11
          参考図11

        ぺん太「でも、ちゃんと両方共13thの響きはOKなんですね?」
        マエ 「OKだよ! それと5弦ルートのD9thや13thというコード・フォームでは、
            1度と3度の音を省く場合もあったりするから、色々弾いて自分の耳で確かめることだな!」
        ぺん太「他に何か注意するポイントってあります?」
        マエ 「そうだな・・同じテンション・ノートでも人によって書き方や呼び方が違うことがあるから、
            気を付けた方がいいかも。」
        ぺん太「何で、そんなことが起きるの?」
        マエ 「捉え方の違いかな〜。例えばA7(+5)とA7(-13)。この+5と-13というテンションは
            どっちも同じFの音で、厳密にはコードの中に9thが入っているかどうかってことになるけど、
            深く考えずにパッと書いてしまうって感じだろうね。」
        ぺん太「他にも同じ音だけど、違う書き方ってある?」
        マエ 「そうだな〜、-5と+11。 それと人によっては+9を-10って呼ぶこともあるな。」
        ぺん太「ひとつのコードの中で、テンションが複数入ったりすることは?」
        マエ 「ある、ある! (-9、13)とか(-9、-13)とか(+9、-13)とか・・」
        ぺん太「ヒエー! 頭痛くなってきた。」
        マエ 「まあ、徐々に覚えるんだな!」
        パンチ「ハイ! お疲れさま〜。 軽食買って来ましたよ〜」
        マエ 「Oh! ナ〜イス! ちょっと休憩しようか。」

        コーヒーとサンドウィッチで、小腹を充たしながらも何か考えている様子のぺん太に

        マエ 「どうした、ぺん太? 深刻な顔して!」
        ぺん太「いや、今度バラードをアコギでやるんですけど、まだアレンジがイマイチで。」
        マエ 「丁度いいじゃない! バラードとかには、うってつけだね!」
        ぺん太「???・・」
        マエ 「これからやる分数コードだよ・・」
        ぺん太「分数コードって、何か難しそうなイメージが・・」
        マエ 「大丈夫だって! テンションが分かれば、すぐだよ!」
        パンチ「そうだよ、ぺん太。 テンション! テンション!」
        ぺん太「そのテンションじゃ無いの!」


2 分数コード


        しばらく続いた馬鹿話しで、リラックスした空気がスタジオの中に戻っていた。
        マエ 「さぁ〜て、残ってる分数コードをやっちゃうか。」
        ぺん太「よし、さあ来い!」
        マエ 「格闘技じゃないんだから・・じゃあ、まずKEY=Cで説明していくよ。」
        ぺん太「どすこい!」
        マエ 「?? まあいいや。 例えばダイアトニック・コードの循環進行があったとして、、、
            こんな感じの、ちょっとスローなロック系バラードっぽいやつ。」

        譜面29
        譜面29

        ぺん太「ちょっと待って下さい、今弾いてみますから。」
        マエ 「ロー・コードだと楽に弾けると思うよ・・どんな感じ?」
        ぺん太「そうっすね〜、まあ、弾いた感じ普通っていえば普通だし・・」
        マエ 「じゃあ、ここでベースのラインを少し変えてみよう。いい? コード進行はほとんど同じだ、
            まずCの次のコードGをベースだけBにしてみようか?」
        ぺん太「と言うことは、Cの次にBベースで5弦の2フレ、コードがGだから・・
            2、3、4弦の開放を使って・・と、 ホー! ちょっとイメージ違いますね。」
        マエ 「こんなふうに、本来のコード・ルートでは無く、他のノートをベースが弾く場合に
            分数という形でコードが表示されることになる。」
        ぺん太「ってことは、G/Bにコード・ネームが変わる訳ですね?」
        マエ 「そう! 呼び方はB分のGだ。今度は残ってる部分のコードの方をいじってみようか。」
        ぺん太「どんなふうに?」
        マエ 「最初から言うと、こんな感じ!」

        譜面30
        譜面30
        参考図12  ●はベース・ノート。 灰色はコードに含まれているベースと同じ音 参考図12


        ぺん太「え〜と、、あ〜いい感じ! 何か今っぽい。」
        マエ 「そうだね! 前の進行よりこの方が洗練されてるでしょ。」
        ぺん太「随分イメージ変わりますね・・」
        マエ 「この場合、分数コードを使うことでベースに滑らかなラインと、
            コードにスピード感を持たせてるんだね。」
        ぺん太「マエさん、どんな時に分数コードって使うの?」
        マエ 「そうだな〜、基本的にはベース・ラインを重視して、気持ちいい流れを作りたい時とか、
            逆にベース・ラインはOKだけどコードがイカサない時や、曲の中で変化を持たせたい箇所に
            インパクトをつけたり、ベースは変わらずにコードだけを変えてスピード感を出したい時とかね。」
        ぺん太「あと、分数コードって好きに作っていいの?」
        マエ 「まあ、その人のセンスにもよるけど、一般的なダイアトニックの場合はコードの構成音、
            例えば3度の音や5度の音にベースが変化して分数コードになる場合が多いかな。」
        ぺん太「さっきの進行も、そんな感じですよね?」
        マエ 「そう、さっきのコード進行は分数コードが幾つか含まれているけど、
            全部ダイアトニックのコードだよ。」
        ぺん太「あっ、そうか! 分数コードのベースも含めて全部ダイアトニックの音だ。
            ということはアドリブをとる時はCメジャー・スケールで、いけちゃうってことで、、
            又それとは別に、考え方を変えてAのナチュラル・マイナーのスケールでもOKってことか。」
        マエ 「素晴らしい! その通り!」
        ぺん太「マエさん、分数コードって、みんなさっきみたいな使い方なの?」
        マエ 「ところが、どっこい! そうでも無いんだな〜。 その為にテンションを覚えて、
            分析するってことだ。」
        ぺん太「そうなんだ? 違うタイプの分数コードってどんなヤツ?」
        マエ 「う〜ん、例えばさっきの、Dm7/Gってコード。 このコードの分子にあたる部分のコードは
            Dmで、分母にあたるベースはG。この時ベースが弾くGの音はDmのコードには無い音だよね。」
        ぺん太「ちょっと待って下さいよ、Dmは・・レとファとラで、7thがドで・・無い!」
        マエ 「そう、無いんだ。 このコードは5度分の2度マイナー7thだよね。 
            そこで話しはコードの構成音に戻るんだけど、ベースがGの音を弾いてるから、
            上に乗るコードDm7のルートは要らないと考えて、レの音を抜くと、ファとラとドが残る。」
        ぺん太「なるほど、なるほど〜。」
        マエ 「そこで、このファとラとドで出来てるコードが、他にないかと考えると、、あるんだな〜。」
        ぺん太「チョット待ってね〜と、、ファとラとド・・分かった! Fだ。??待てよ・・
            そうかDマイナーと平行調のコードだ!」
        マエ 「正解! ということで、このDm7/Gというコードは、F/Gと同じってことだ」
        ぺん太「じゃあ、言い方を変えれば、、5度分の4度になるんだ。」
        マエ 「又しても、その通り! IIm7/V、イコール IV/V。そこで、このF/Gを分数にしないで、
            Gというコード・ネームだけで書こうとすると、一体どんな名前のコードになると思う?」
        ぺん太「ここでテンションですね!、、それは、まずベースのGが1度、あとはファ、ラ、ドだから、、
            ファがルートの1全音下で7thだ、、ラがルートの1全音上で9thか、ドは、ソ・ラ・シ・ドで、
            置き換えると・・8、9、10、11、、分かった!  11th。 Gの11thだ。」
        マエ 「ぺん太! ずいぶん頼もしくなったな、、、オジさんは嬉しいよ・ウン!」
        ぺん太「いいから、それで?」
        マエ 「ハイ、はい! 結論から言えば、G11thすなわち7th系のコードとみなし、
            Gミクソリディアンのスケールが使える。 そして、このコード・フォームと同じ形のコードが
            実によく使われている、例えば、G/A、A/B、C/D、D/E など、数えたら、キリが無い。」
        ぺん太「キリは有るよ、12種類でしょ!」
        マエ 「あっ!アッタマ来た。 そういう態度なら、もう教えない!」
        ぺん太「スイマセン! ご免なさい! 勘弁して!」

        参考図13 G/A、A/B、C/D、D/E  後半2つのコードは1弦注意!

         参考図13

        ◎このコード・フォームは各々、G/A=Em7/A、A/B=F♯m7/B、C/D=Am7/D、D/E=Bm7/E、
         に置き換えることが出来ると同時に、A7(11)、B7(11)、D7(11)、E7(11)、と考えることも出来る。
         対応するスケールはミクソリディアン。
        ◎Am7/Dや、Bm7/Eというコード表記の時にはバレーの1弦も弾いた方が響きがいい。

        マエ 「今のコードは7th系コードに置き換えられたけど・・じゃあ、もう1つ。
            今度は、コード・パターンの繰り返しで演奏されるような、、そう!ロックでも使われてる、
            こんな感じのヤツ。
              参考図13_2
            この時に使うスケールは先に言っちゃうと、リディアン
            (Aリディアン=Eメジャー・スケールと同じ)なんだけど、、」

        参考図14
         参考図14

        譜面31 Aリディアン&Eメジャー・スケール
        譜面31


        ぺん太「分かった、このB/Aってコードが何というAのテンションコードかを分析するんですね?」
        マエ 「うん、やってみようか・・」
        ぺん太「よ〜し、ちょっと待って下さいよ〜・・この押さえ方だと1度、6度(13thと同じ)、9th、
            あと、この2弦が、、5度の半音下で、-5度だから、、、」
        マエ 「そこそこ、-5っていうのは他の言い方だと、、、」
        ぺん太「え〜と、・・+4?」
        マエ 「もうひと声! 9thが入ってるから、それより上に置き換えると、、」
        ぺん太「・・4度は、ド、レ、ミ、ファ、、、8、9、10、11。そうかぁ! +11th」
        マエ 「イエ〜イ! そ〜です。 Aの+11thだよ。」
        ぺん太「やった〜!」
        マエ 「ここまではOK! でも普通の+11thとの違いが、、、分かるかなぁ〜?」
        ぺん太「ドキッ! 何だ、何が違うんだ?? 落ち着け! Take it easy! まず音の並びが、
            1、6、9、11、、ん〜、、6、9、11。 7thが、7thが無い!」

        参考図15
         参考図15

        マエ 「その通り、7thが無い+11thだ! 7thが無いと言うより半音下の6thで構成されている為、
            コードBのトライアドが強調されたコードと言える。 だからソロをとる場合、このような
            コードの繰り返し(B/AとA)とか、分数では無い隣り合ったコードが繰り返し続く時も
            (B→A→B→Aとか、E→D→E→Dなど)ミクソリディアンとリディアン(同じスケール)を、
            あてはめて弾けば良い訳だ。」
        ぺん太「なぁ〜るほど。B/AとAの繰り返し、BとAの繰り返しどちらも使うスケールは同じってことか!」
        マエ 「そう!この場合は使うスケールであるKEY=Eの5度と4度のトライアド・コードを
            繰り返してると思えばいい訳だね。」
        ぺん太「なんか、分数コードっていうと難しく考えちゃうけど、こうやって分析してみることが
            大事なんですね、以外と納得しちゃった!」


3 代理コードと裏コード


        このスタジオでのバイトがきっかけで、マエストロから多くのことを教わったぺん太。
        今ではギターの腕も上がり、と同時にバンドの評判も良く、最近はライブの本数も増えてきていた。

        マエ 「ぺん太、最近バンドの評判がいいんだって?」
        ぺん太「お陰様で、いい感じでやってます。」
        マエ 「売れっ子になる前に、最後のレッスンをやっておかないと!(笑)」
        ぺん太「そんな〜・・でも、もうすぐだったりして!(笑)」
        二人の笑い声が、ロビーに響いた。
        マエ 「さ〜て、今日は代理コードをやろうか。」
        ぺん太「マエさん、それって代理って言うくらいだから、何かの振り変わりってこと?」
        マエ 「イエ〜ス!ぺん太も成長したね。」
        ぺん太「先生がいいもんで・・」
        マエ 「よろしい! では、説明に移ろうかね、オホン! 仮にKEY=Cの曲があるとして、
            このトニックであるCというコードはドミソで構成される和音だが、これと同じ構成音で
            出来てるコードは、ぺん太、何?」
        ぺん太「え〜と、ベースが変わって・・Am7ですね。」
        マエ 「正解!では、同じ考え方でサブ・ドミナント=Fと共通なコードは?」
        ぺん太「Fですか、、Fはファラドだから、と言うか平行調から考えてDmの・・7thで、Dm7だ!」
        マエ 「又しても正解! 要はこんな感じでベースの音が変わり、コード・ネームを変えて、
            その本来の役割とは違う響きにしたコードを、代理コードと呼ぶんだよ。」

        譜面32
        譜面32

        マエ 「同じように1度のC6=Am、C△7=Em、4度のF6=Dm、F△7=Amというような
            考え方ができるよね。」
        ぺん太「なるほど!そ〜か、曲のコード展開に変化をつけたい時とかに応用するんだ。」
        マエ 「さすが、まもなく売れっ子のプレーヤーだな。(笑) その通り! そういう使い方で
            曲に幅を持たせることができる訳だ。 次に5度7thだけど、これはギター・プレーヤーに
            分かりやすいポジションを選んで、KEY=Gで説明しようかな・・」
        ぺん太「KEYがGだったら、ドミナント7thはD7ですよね?」
        マエ 「そう、このD7のM3度と7thの音は各々F♯とCだけど、この2つの音程が増4度(3全音)
            関係にあり早くトニックに解決したがる、とても不安定なコードを演出してるんだよ、
            これはD7に限らず7thコードすべてに言えることなんだ。
            そこで7thの代理コードとして登場するのが、いわゆる裏コードってやつだ。」
        ぺん太「裏コードって何ですか?」
        マエ 「ひとことで言えば、あえてまともな進行に行かないでテンション感を出すために使う
            コードって感じかな。 トニックに戻る時などは5度7thを使うのが一般的だけど、
            わざと違うコードを持って来て不安定な響きを漂わせ、更に緊張感のあるコードから、
            トニックに戻るとどう感じる?」
        ぺん太「不安定から安定ってことですか?」
        マエ 「そう、曲を聴いてる人には戻ったトニックのコードが、とても落ち着きがあり
            安心感のある響きとなって聴こえ、一段と曲のスケール感が広がるようになる。」
        ぺん太「なるほど! でも実際に聴かないと・・」
        マエ 「OK!その前に少し説明するね、先程のD7のM3度と7thの立場を逆転させたのが、
            ズバリ!裏コード=G♯7だ。」
        ぺん太「そりゃ、また何で?」
        マエ 「D7のM3度をG♯7では7thとして、D7の7thをG♯7ではM3度としてお互いに共有してるからさ!」

        譜面33
        譜面33

        ぺん太「本当だ! でも具体的にはどんなふうに使うんですか?」
        マエ 「じゃあ、こんな感じのコード進行がボサノバの曲であったとしよう。」

        譜面34
        譜面34

        マエ 「どう、D7は聴き慣れた感じで違和感ないけど、G♯7の方はハッとしない?」
        ぺん太「いい感じだな、これ! それにG♯7の方がボサに合ってるっていうか、雰囲気がいいですよね。」
        マエ 「気に入ってもらえたようだね。」
        ぺん太「マエさん、何でこんなにうまくハマるの?」
        マエ 「じゃあ、もう1回コードを見直してみようか。D7のコードは5弦から2弦まで、ルート、M3度、
            7th、ルートという構成になってるけど、6弦の4フレG♯の音はDからみると♭5度の音で、
            その音をコードに混ぜると、D7(-5)というコードになるんだけど、OKかな?」
        ぺん太「はい!分かります。5度Aの半音下ですもんね。」
        マエ 「今度はG♯7の立場からみると6弦ルート、4弦7th、3弦M3度、2弦♭5、となり
            コード・ネームがG♯7(-5)に変わるってことだ。」
        ぺん太「なるほど! この2つのコードは構成音がまったく同じってことか!」

        参考図16 
            参考図16

        ぺん太「ってことは、7thコードの裏コードは♭5度の位置関係にあるんだ。」
        マエ 「そういうことだよ! この♭5度の位置関係はお互いに言えることで、
            例えばG♯7が5度7thになるKEY=D♭(C♯)のときにはG♯7の裏コードとしてD7を
            使ってもいいんだ。」
        ぺん太「え〜・・本当ですか?」
        マエ 「ま〜、むやみに使うのも・・どうかと思うけどね。」
        ぺん太「マエさん、裏コードとして使う場合のテンションって、どうなってんすか?」
        マエ 「そうね、曲の感じにもよるけど、例えばさっきのボサだとG♯7(+11)なんかいけてるんじゃない。」
        ぺん太「その他には?」
        マエ 「ざっと、裏コードで使うテンションをあげてみると、7th、7th(-5)、7th(+5)、9th、
            +11th、13th、-13thというように、かなりゴージャスなラインナップだね。」
        ぺん太「トータルで注意するようなことは?」
        マエ 「さっきも言ったけど、やたら使えばいいってもんじゃないし、又使う際にも気をつけて
            テンションを考えないとね。」
        ぺん太「そうか・・うまく使うにはセンスも磨かないと!」
        マエ 「それからね、この裏コードの関係はアドリブでも応用することが出来て、
            例えば5度7thの時に裏コードを使っていなくても、裏コードを想定した対応スケールで
            ソロをとることができる。」
        ぺん太「うわ〜、なんか難しそう!」
        マエ 「さっきのボサだとG♯7は5度7thの代理だから、5度7thでよく使うオルタード、
            イコールG♯のリディアン7thにあたるE♭のメロディック・マイナーなどが使えるってことだ。」

        譜面35
        譜面35

        ぺん太「これは勉強しないと、すぐには使いこなせないな・・」
        マエ 「そうね、簡単ではないけど、決まるとカッコいいぞ!」
        ぺん太「頑張ります!」
        マエ 「あと、この応用編というか、マイナーKEYでよくある進行に Imと♭II7、
            例えばAm7→B♭7(13)の繰り返しとか・・」
        ぺん太「マイナーですか・・」
        マエ 「この場合のアプローチとしては、平行調のメジャーKEYに置き換えると分かりやすいかな。」
        ぺん太「Amってことは、メジャーKEYはCですよね。そこから考えてB♭7(13)は何者かってことか・・
            待てよ、そ〜か♭VII7になるんだ。ということは、、リディアン7thでいけるんだな!」
        マエ 「さすがだな!ぺん太。」

        譜面36
        譜面36


        マエ 「マイナーKEYで『あれっ?』ってコードが出て来た時は、今の方式でメジャーKEYに
            変換してみると謎が解けると思うよ。」
        ぺん太「これからも、バリバリ勉強して練習するぞ!」
        マエ 「ぺん太、バリバリはいいんだけど、君にはすべて教えたし、これでもう卒業だ。
            俺もそろそろ、お役御免ってとこだな。」
        ぺん太「そんな〜・・マエさん、まだ出し惜しみしてる秘密があるんじゃないの?」
        マエ 「無いって! 本当だよ。」
        ぺん太「そんなこと言わずに、教えて、教えて!」
        マエ 「無い物は出せないって!」
        ぺん太「そこを何とか!」
        マエ 「もう、勘弁して〜・・」
        ぺん太「ちょっと待って、マエさ〜〜ん!」









        マエ 「今日はいい天気だな!」
        ぺん太「パンチの門出に、ふさわしいね。」
        パンチ「有難う!ぺん太。」
        マエ 「もう、一人前のエンジニアだな。新しいスタジオ行っても、たまには遊びに寄ってくれよ!」
        パンチ「マエさんには本当にお世話になりました。 有難うございました! ぺん太、お前もこれから
            忙しくなるだろうけど、マエさんに顔を忘れられないようにしろよ!」
        ぺん太「あぁ! ちょこちょこ来るつもりだよ。」
        マエ 「ぺん太もレコード会社が決まりそうだし、、2人には未来があるって感じでいいな〜!羨ましい〜!」
        パンチ「何言ってんですか! これまでの実績があるマエさんこそ、俺には羨ましいですよ。」
        マエ 「、、有難う! パンチ!」
        パンチ「マエさん!、、、」
        ぺん太「あの〜、、2人で雰囲気入ってるとこ悪いんですけど・・」
        2人 「・・・・」
        ぺん太「マエさん、来週の都合って?」
        マエ 「えっ?、、」
        ぺん太「これまでの復習を、・・・」
        2人 「、、お〜い!」



        作者より:
        最後まで読んで頂き本当に有難うございました。よく理解出来ないところは繰り返し読んで是非マスター
        して下さい。 いつでも、ペン太、マエストロ、パンチの3人がお待ちしてます!