アドフリミエロ
(モード、って・・ど〜も?)

※本書の著作権利は作者である林仁にあり、許可無く引用や複製することを固くお断りします。


        ここに若いロック・ギタリストがいる。彼の名前は、ぺん太。
        都内のある専門学校を卒業して、今はバイトをしながら自分のバンドでライヴ活動をしている。
        そんなぺん太の最近の悩みは「おれのアドリブって何かワンパターンだな!」と少し憂鬱な日々を
        送っているのだが・・・
        ある日ぺん太のところに★スタジオのバイトをやらないか?★とのメールが届いた 。
        (音響学科卒業の同期生で今はレコーディング・スタジオでアシスタントをしている 友人パンチからである。
         ちなみに、ぺん太自身はミュージシャン学科の卒業だ)今のバイトに不満がある訳でもないのだが、
        気分転換のつもりでOKの返事を携帯に打ち込んだ。
        このメールが、ぺん太のギター・プレイを大きく成長させる出発点であった。


第1章

----- ダイアトニック -----
1. コードとスケール(1)


        今日はぺん太のスタジオ・バイト初日である。彼の仕事は受付とそのデスクに置いてある
        コンピューターでのスタジオ・スケジュール管理そしてコーヒーを煎れたりと、まぁ言ってみれば
        雑用ありの一般事務ってところだ。 まだ慣れない仕事の合間をぬって、先程からドアの開け閉めと共に
        音の漏れてくるスタジオを覗いてみる。 中ではアシスタントのパンチがコンピューターの前に座り
        忙しくキーを叩いている。 何回となく聞こえてきたサウンドから察するに、今日はポップス系の
        レコーディングらしい。
        あわただしい1日も終わり、ぺん太はレコーディングの終わったスタジオへと入っていった。
        中ではパンチが今日のリージョン整理をしている。(注:リージョンとは音声波形のこと)

        ぺん太「ねぇ〜、手があいたらでいいんだけどさ〜。あとで1回今日のテイク聴かせてくれる?」
        パンチ「あぁ、いいよ!今ちょうど終わるところだから。ヨ〜シ!と。じゃあ、あたまから出すね!」

        パンチ「どぉ、聴き終わった感じ?」
        ペン太「ふぅ〜ん、思ったよりロックっぽい曲だったんだ!ギターの間奏も何気ないけどいい感じだね。」
        ???「まぁ、ダイアトニック・コードだからな!」

        太くて低い声がドアの脇にあるソファーから聞こえてきた。

        パンチ「あっ、こちらエンジニアのマエストロさん。マエストロさん、こいつ今日からバイトで来てる、
            学生時代からの友達でギターやってる、ぺん太っていいます」
        ぺん太「どうも、ぺん太です。宜しくお願いします。・・・ところでマエストロさん
            今、ダイアトニックって言ってましたけど、どういうことなんですか?」
        マエ 「いや、間奏で使ってるコードが、ダイアトニック・コードだけだから同じスケールで
            最後までいけちゃうでしょ。それで何気なく聴こえたのかなぁ〜と思って」
        ペン太「へぇ〜!そうなんですか?・・・でも何で、マエさん、そんなに詳しいの?」
        パンチ「おい!ぺん太!お前いきなり、ため口きいて失礼だぞ! ねぇ〜マエさん。」
        ぺん太「やっぱ、マエさんでいいんじゃん!」
        パンチ「バカ!おれと、マエさんとは・・」
        マエ 「まぁ、いいって。 それよりも何で、そんなこと知ってるのかって言うと、大学の時に
            ジャズ研でギター弾いててさ、仲間うちじゃ、モード・マエストロって呼ばれてたんだ。」
        ペン太「、、、モードって、・・ど〜も?」
        パンチ「ば〜か!」

        さあ、ではここでマエストロの説明を聞いてみよう。
        ♪ダイアトニックとは

        例えばKEYがC(調号に♯や♭などがまったく無い)であればドレミファソラシド(ピアノの白鍵の
        ドからドまでと同じ)を弾けば、それが「Cダイアトニック・スケール」と呼ばれるもので
        (Cメジャー・スケールと同じ)、ちなみに1全音上のKEY=Dであれば(調号に♯が2つ)ファとドを
        半音上げてレからレまでを弾けば「Dダイアトニック・スケール=Dメジャー・スケール」ということになる。
        でもギターだったら、さっきの「Cダイアトニック・スケール」をフレット2つ上に(ブリッジ側)
        ずらせばOK! これがギターのいいところなんだなぁ〜!  KEYが変わっても、ちゃ〜んと
        ドレミファソラシドって聞こえるからね。 ・・・・だけど、たまに
        「それってレ・ミ・ファ♯・ソ・ラ・シ・ド♯・レとしか聞こえないな〜」なんて奴もいるけどね、
        そういう奴は小さい頃からピアノを習ってる「ネカチモ」のお坊っちゃんか、お嬢さんだ!
        いわゆる『絶対音感』ってやつだな! あまり対抗意識持たない方がいいぞ!

        譜面1
        譜面1

        ◎ どちらのメジャー・スケールも同じ間隔で全音と半音が並んでいる。これによってダイアトニックという、
          それぞれのKEY=スケールが保たれているわけだ。

        ♪ダイアトニック・コードとは
        今のドレミファソラシド各音に3度の音を足して、又さらにもう1つ3度上の音を足すと3和音による
        ドレミファソラシドが出来上がる。これが「トライアド」(3声のコード)だ!  すなわち、コードの
        ドレミファソラシドってことだな。このコードのながれがダイアトニック・コードということになる。

        譜面2 Cのトライアド
        譜面2_1
            Dのトライアド
        譜面2_2

        さらに4声のコードもあるぞ! 今のトライアドに、又もう1つ3度上の音を足した
        ダイアトニック・コードで、7度の音=7th(呼び方はコードと共に変化)が加わったことにより、
        深い響きの有る、現代音楽には欠かせないコードって感じだな!

        譜面3 Cの4声コード
        譜面3_1
            Dの4声コード
        譜面_2

        Cのダイアトニック・コ−ドの並びを1全音上にずらしたのがDのダイアトニック・コ−ド。
        (さらに1全音上にずらせばEのダイアトニック・コ−ドということになる。)
        それぞれのコードの一番下の音が1度もしくはルートと呼ばれ、そのコードの基本となる音であり、
        一般的にはベースが弾く音になるわけだ。(KEYが変わってもコードネームの順番は変わらない)
        曲作りをする際、このダイアトニック・コードだけで構成されている曲を書いたと仮定してみよう。
        すると、良く言えば「自然な感じ。無理のない進行。」という仕上がりの曲になる訳だが、
        逆に違和感が無いことにより、悪く言えば「変化がない。素直すぎる。」など、思わぬところで
        コード進行に悩まされることも事実だなぁ〜。
        しかし、アドリヴをとる時には、この「ダイアトニック・コード」だけで構成されている曲はとても便利な訳だ。
        なぜ?って、さっきも言ったようにダイアトニック・スケールを弾いていれば音をハズすこともなく、
        「最初から最後まで全部弾けちゃう」ってことだからさ!

        マエ 「ところで、ぺん太君は、」
        ぺん太「あっ、ぺん太って呼んで下さい」
        マエ 「OK!・・君は、、パンチと同じ専門学校出てるんだよね?」
        ぺん太「はい!」
        マエ 「・・って、ことは理論とか、専門的な知識は教わったんじゃないの?」
        ぺん太「えっ?、あっ、、はい! でも、あの〜、おれ1年生の時からライヴ活動してて公休が多くて〜、
            それが〜、何故か理論とかの日にあたっちゃっ、て・・・」
        マエ 「あっ!(笑)そうなんだ!それじゃ〜、しょうがないね! もし、よければ俺が暇な時に習ってみる?」
        ぺん太「はい!!、是非、よろしくお願いします。」
        マエ 「じゃあ、さっそく宿題だ! パンチ、おれのギター持って来てくれる?」

        マエ 「おぉ、サンキュー!」
        ぺん太「うぇ〜!これって、335っすよね〜?」
        マエ 「ああ、70年ってとこかな!」
        ぺん太「やっぱ、しぶいな〜!」
        マエ 「当時はけっこう流行ったんだぜ!」
        ぺん太「俺達の仲間だと、あまり使ってる奴いなくて、、」
        マエ 「まぁ〜、ギターの話しは、おいと・い・て! ぺん太も知ってると思うけど、メジャー・スケール・・」
        ぺん太「それくらいなら、おれだって・・」
        マエ 「いや!わかってると思うけど、とっておきの2オクタ−ヴ・スケールを1つだけ教えるから。」
        ぺん太「とっておき?・・」
        マエ 「そう!5弦の3フレットから始まる、Cの2オクタ−ヴ・メジャースケール。じつはこれが、
            実用的かつ実戦的な運指なんだ!」

        譜面4
        譜面4

        ※下の数字は左指: 1=人さし指、2=中指、3=薬指、4=小指


        マエ 「じゃあ!今日の宿題はこれを下のド(5弦の3フレット)からも、上のド(1弦の8フレット)
            からも弾けるように覚えてくること! OK?」
        ぺん太「はい!」
        マエ 「あっ、それと!フレットを変えて、いろんなKEYで弾けるようにしておくと、あとあと便利だよ!
            その際、何のスケールを弾いてるのか頭で理解しながら練習することが必要だな!」
        ぺん太「頑張りま〜す!」


        我が家に戻ったぺん太は、さっそくギターを抱えた。
        「よ〜し! Tempo=120の16分で弾けるようになってやる〜!」
        エレキの生音が、夜中のワンルームで淋しく申し訳なさそうにスケールを繰り返していた。



2. スケール(2)


        徐々にバイトの仕事を覚えてきたぺん太は、同時に2オクターヴのスケールも身についてきていた。
        今日はマエストロの仕事が早く終わりそうだと、聞いていたので自分のギターを持って駅へと向かった。

        ぺん太「おはようございます!」
        パンチ「おぅ!ぺん太、おはよう!」
        ぺん太「あっ、パンチ・・早いじゃん!」
        パンチ「あぁ、今日は♪せ〜の、でリズム録りだから少し早めに来てセッティングしておかないとな!」
        ぺん太「何、それ? いま、言ってた・・その、♪せ〜の、って?」
        パンチ「あ〜、・・どうやら、みんなでいっぺんに録音することらしいよ。マエさんが言うには、
            昔は弦とか管も入って大人数でレコ−ディングすることを言ってたらしいんだけど、
            今は4リズムでも同時に録れば、♪せ〜の、だって!」
        ぺん太「へぇ〜、それだけ打ち込みのリズム録りが主流ってこと?」
        パンチ「もう、当たり前のようになってるよね!」
        ぺん太「おれは、コンピューターに負けないように、頑張るぞ〜!」
        パンチ「いいね〜!、その意気込みが背中に見えてる!」
        ぺん太「あっ、これ!・・暇な時に練習してようかと思って、スタジオ用に1本持って来たんだ!」
        パンチ「今日は早く終わりそうだから、マエさんのレッスンがあるんじゃない。」
        ぺん太「じゃあ、終わったら教えてくれる?」
        パンチ「オッケ〜!」

        その日の仕事も終わり、ぺん太はロビーでギターを弾いていた。
        「次は何教えてくれるんだろう?!・・・マエさん、まだ終わんないのかなぁ〜。」
        スタジオからパンチがこちらに向かってくる。

        パンチ「ぺん太!終わったぞ〜。」
        ぺん太「OK! 今いく〜!」
        マエ 「おぅ、ぺん太!どうだスケールの方は? 練習してる?」
        ぺん太「あっ、お疲れさまです! スケールの方、かなり覚えましたよ。」
        マエ 「そうか。 それじゃ早く次にいきたいよね〜!  おっ!、今日はギター持ち込みで、
            やるき満々って感じだね〜。」
        ぺん太「はい! ストラト持って来ました。」
        マエ 「いいね〜!おれもストラト好きだよ。特にフロントのクランチなんか最高だね!」
        ぺん太「??、クランチって!・・マエさん、ジャズやってたんじゃないんすか?」
        マエ 「ジャズ研には、いたけど。 フュージョン・バンドやロック・バンドもやってたんだ。」
        ぺん太「へぇ〜!、、もしかしてフォークもやってたりして?」
        マエ 「・・・高校の時に、、チョットだけ!  まぁ、いいじゃない!それより今日のレッスンだ!」
        ぺん太「お願いしまーす! 今日は何やるんすか?」
        マエ 「スケールだよ。」
        ぺん太「え〜っ! 又? それより、なんか・こ〜ぅカッコいいフレーズとか!」
        パンチ「教わってて、贅沢言ってんじゃないの!」
        マエ 「そ〜、あせるなって! 地味なことだけど、スケールをちゃんと理解しておくことが、
            このさき重要なんだから。」
        ぺん太「・・・はぁ〜い。」
        マエ 「じゃあ今日は、6弦の3フレットからはじまる、Gの2オクターヴ半のメジャー・スケールだ。」
        ぺん太「2オクターヴ半なんて、中途半端だな〜」
        マエ 「えっ、何?」
        ぺん太「いぇ、なんでもないっす。」
        マエ 「前回は5弦スタートのメジャースケールだったよね。」
        ぺん太「ええ!」
        マエ 「今回は6弦からのスタートなんだけど、この違い、というか意味、わかる?」
        ぺん太「違いは、スタートの弦が違うってことで〜、意味、、っていうのは、、、?」
        マエ 「前回も、今回も、同じ3フレットから始まってる。ってところが大事なんだ!
            コードでも、そうだけど。5弦ルートのバレー・コード、6弦ルートのバレー・コードがあるよね!」
        ぺん太「はい。」
        マエ 「例えば、前回の5弦3フレット、ルートのバレー・コードはC。今回の6弦3フレット、ルートの
            バレー・コードはG。っていうように5弦、6弦のルート・ポジションを把握するのが目的のひとつだ。」
        ぺん太「ひとつ、ってことは〜、まだ他にもあるんすか?」
        マエ 「まあね!でもそれは、その時期がくるまで、とっておこうかな。とりあえず弾いてみようか?」

        譜面5
           譜面5


        マエ 「どぉ?弾いてみた感じ!」
        ぺん太「あれ!マエさん。これってフレットの動きが2弦ずつ一緒ですね?」
        マエ 「おぉ!いいところに気が付いたね〜!。 そう、じつはこの運指、6弦と5弦。4弦と3弦。
            2弦と1弦がそれぞれ同じフレットなんだ!。」
        ぺん太「へ〜ぇ! こりゃ〜覚えやすいや!」
        マエ 「そう!ギターって楽器はスケールでも、コードでも1つ覚えると12種類(1オクターヴ)
            覚えたのと同じなんだ。」
        パンチ「そんな簡単だったんですか? ギターって?」
        ぺん太「ば〜か! そう簡単には、いかないの!」
        マエ 「ピアノとか鍵盤楽器はKEYが変われば白鍵、黒鍵が入り交じるけど、ギターだったら同じかたちのまま、
            フレットをずらすだけでOKだからね! だから、しっかりと各弦の音の位置(フレット・ポジション)
            を覚えないとダメなんだ」
        ぺん太「それが、大変なんだよなぁ〜!」
        マエ 「そうだね、、鍵盤は同じ音域の同じ音は1つしか無いけど、ギターには同じ音が4〜5つの
            ポジションをもってるものもあるからなぁ〜。」
        パンチ「そんなに、難しかったんですか? ギターって?」
        ぺん太「分かってきたじゃん!」
        マエ 「・・ってことで、前回と今回のこのスケール練習が5弦、6弦のフレット・ポジションを覚えるには
            大切なんだよ!」
        ぺん太「これも、フレットを変えて、いろんなKEYで練習するんですね?」
        マエ 「その通り!これで5弦、6弦の音の位置関係がバッチリ分かるはずだ!」
        ぺん太「それを言うなら、チリバツ!」

        注: ここまで5弦スタートのスケールと、6弦スタートのスケールを1つずつ表記したが、
           これはあくまでも作者のおすすめフォームと思ってもらいたい。 又、このスケール・フォームが
           あとで出てくるスケールとの兼ね合いも考慮してのことである。 当然のことながら、この他にも
           スケールの運指は・・・たくさんあります。ハイ!


        ということで
        いかがでしたか? 皆さん!
        まずはここまで第1章をhtmlに変換してみました。
        では、続きの第2章もお楽しみに!



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