プルトニウム
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放射性元素に中性子を照射すると容易に核分裂を起し、生成した中性子が別の核を分裂させるという連鎖反応によって瞬時に膨大な核エネルギーを産む。これが核兵器の原理である。一方、連鎖反応が非常に緩やかに進むよう制御して連続的にエネルギーを発生させるのが発電用核反応炉である。

放射性元素は、核兵器にはウランU-235およびプルトニウムU-239が、核反応炉にはU-235(3%)を使用する。

プルトニウムPu-239は核反応炉の中で自然ウランU-238が中性子の照射を受けて生成する人工の元素であり、その用途は軍事目的に限られてきた。そのためその物理的、化学的性質は一般に公表されることがなかった。しかし、アルバカーキ−トリビユーン誌が暴露したように、マンハッタン計画の一環としてプルトニウムの人体実験が行われ、その毒性は秘密裡に研究されてきた。最近、プルトニウムの諸特性を具体的に記述した文献が公表されたので、それを和訳してここに掲げる。 

原典:
http://www-users.cs.umn.edu/~dyue/wiihist/japarms/pu239.html

目 次
1.プルトニウム冶金学
2.プルトニウムの毒性
3.プルトニウムの製造
4.Pu-238
5.Pu-239
6.Pu-240
7.Pu-241
8.Pu-242
.兵器級プルトニウム
10.核反応炉級プルトニウム
11.変性プルトニウム

プルトニウム(Pu)

遊星プルート(冥王星)にちなんで命名された原子番号94のプルトニウムは1940年、カリフォルニア州バークレーでシーボーグ、マクミラン、ケネディ及びワールによって発見された。自然界では、この同位元素Pu-239はウラン鉱石の中でウランU-238が自然核分裂中性子を捕捉して生成したものが微量存在する。微量のPu-244(半減期八千年の最長寿プルトニウム同位元素)がセリウム鉱石の中で検出されたと報告されている。明らかに地球の成立時に存在したプルトニウムの遺物である。

プルトニウムは核反応炉の中で、遅い中性子をU-238に衝突させて大量に作られる(増殖と呼ばれる方法)。一個の遅い中性子を捕捉するとU-239ができ、これがすぐ崩壊してネプツニウム‐239に、そしてプルトニウムに変る:
U-238 + n -> U-239
U-239 -> (23.5分、ベータ崩壊) -> Np-239
Np-239 -> (2.35日、ベータ崩壊) -> Pu-239

プルトニウム同位元素は15種知られており、総て放射性である。うち、核兵器の設計に必要な同位元素とその半減期は:
Pu-238 -> (86年、アルファ崩壊) -> U-234
Pu-239 -> (24360年、アルファ崩壊) -> U-235
Pu-240 -> (6580年、アルファ崩壊) -> U-236
Pu-241 -> (14.0年、ベータ崩壊) -> Am-241
Pu-242 -> (370000年、アルファ崩壊) -> U-238

プルトニウムは非常に重い銀色の金属で、表面をきれいにするとニッケルのように輝く。高度に電気的陰性で、ウランよりかなり化学反応しやすい元素である。 プルトニウムはすぐに退色し連続した干渉色(油膜のようなもの)を形成し、最後には暗い黒紫色になる。腐食が進むと、表面に緩んだ黄緑色の粉末(PuO2)を形成する。

プルトニウムは酸化しやすく、微量の湿気でもすぐ腐食する。奇妙なことに、不活性な空気中でも湿気が存在すると、通常の大気あるいは純酸素内にいるよりずっと腐食しやすい。酸素で直接冒されると粘着性のある酸化プルトニウムの層を作りこれが腐食の進行を遅らせ、湿気に冒されると緩んだ酸化物と水素化物を作る。容易に酸化や腐食したり、湿気に冒されたりするのを防ぐ効率の良い乾燥剤が必要である。

プルトニウムは非常に特異な性質を数多く持つ。その熱伝導性は他のどの金属より低く、電気伝導性はマンガン(他の報告書はこれが最も低いと言う)を除くどの金属より低い。知られているうちで最も粘性の高い液体である。他のどの元素より温度により最も極端で奇怪な密度変化をする。

プルトニウムは硝酸や塩化水素酸(硝酸塩や塩化物)など強酸性溶液のみによく溶解する。プルトニウム塩は中性基礎溶液に接すると容易に加水分解し、不溶解性プルトニウム水酸化物になる。濃縮されたプルトニウム溶液は放射能分解により不安定になり沈殿する。

プルトニウムの基本特性は
融点摂氏641度
沸点摂氏3232度(アルミニウムと類似)
密度19.84(アルファ相の場合)

プルトニウムには他の元素にない六つの明確な相(結晶構造)がある(ある条件下では七番目の相がある)。そのうちの幾つかの相変化では、容積が劇的に変化する。これらの相のうち二つ(デルタとデルタプライム)は、プルトニウムの温度が上がると収縮するという独特の性質がある一方、他の相では非常に大きな熱膨張係数を持つ。またプルトニウムは溶解する時収縮し、溶解しないプルトニウムを浮かせる。最も高密度の形態であるアルファ相でプルトニウムは六番目の高密度元素である(より密度が高い元素はオスミウム、イリジウム、レニウム、及びネプツニウム)。

各相の密度と温度範囲:

安定範囲(℃)

アルファ

19.84(20℃)

122以下で安定

ベータ

17.8(122℃)

122-206

ガンマ

17.2(206℃)

224-300

デルタ/

   

デルタ プライム

15.9(319℃)

319-476

エプシロン

17.0(476℃)

478-641(融点)

液 相

16.65(641℃)

641-沸点まで

1995年末までに全世界でプルトニウム1,270トンが生産され、兵器用に257トンが残りは民生電力生産の副産物として産まれた。最近の全世界核電力企業の急速な成長により、核反応炉級ウランは、汎用事業に於いて現在のところ年間75トンのペースで生成されている。今まで、汎用のプルトニウムの約210トンが核燃料(及び勿論、軍用プルトニウムも総て)から分離されてきた。再処理により年間約18トンが生産されている(処理に携わっているのは英国、フランス、ロシア、日本、及びインドのみ)。

プルトニウムは核兵器以外に、汎用電力源として潜在的な需要がある。現在、日本だけがプルトニウムを電力に用いる計画を持っている。プルトニウムは今後数十年間幾つかの理由により、経済的にウランと競争できるようにはならない。核反応炉燃料からプルトニウムを抽出するための再処理コストは、低濃度濃縮ウランの一般の商業コストより高価になる。今日の殆どの燃料製造工場は厄介なプルトニウム酸化物を扱える施設を持っていない。兵器に使用する目的で盗んだり、転換したりするのを防止するためにプルトニウムを保護するコストも非常に重要である。現存の発電装置は非常に少量のプルトニウムを含む燃料のみ使用できるようになっている。それがプルトニウムの利用価値を下げ、その目的で新しい反応炉を設計し製造するコストがまた逆にプルトニウムのコストに影響を与える。

今日のウランの豊富な供給、過剰な濃縮能力、および混合して汎用に使用しようとする米国とロシアの兵器級ウランの大量備蓄は今後20から30年間ウラン価格を最低に維持している。

プルトニウムはそれ以外に僅かな用途がある。最も普及しているのは欧州で煙検知放射性同位体としての利用である(米国の煙検知器はその半減期が短いことからアメリシウムを使用している)。プルトニウム‐ベリリウム合金は研究所での中性子源として用いられる。その同位体Pu-238はその高い熱出力と長寿命により宇宙探査機に長期間電力を供給する放射性同位体で動かす熱電子発電機に用いられる。

自然界では非常に希薄だが、プルトニウム約5,000kgが核兵器実験によって大気中に放出されている。米国の土壌は死の灰により1平方キロメーター当り平均約2ミリキューリー(28ミリグラム)のプルトニウムを含んでいる。

1.プルトニウム冶金学

純粋のプルトニウムは室温で「アルファ相」と呼ばれる結晶構造をしている。この形態でプルトニウムの密度は20℃で最大の19.84である。アルファ相の中の原子は基本的には共有原子価的な化学結合(金属的化学結合とは対照的な)をしており、物理的性質は金属より鉱物に近い。固く、強く、もろく、そしてとても方向性のある砕け方をする。このアルファ相は普通の金属製造技術で加工できない。

デルタ相は最低密度(密度約15.9)で完全に可鍛性がある。またプルトニウムはガンマ相でも完全に可鍛性がある。デルタ相プルトニウムは優れた延性を含む通常の金属性質を持つ。デルタ相はアルミに似た強さと可鍛性を持ち、簡単に成型や機械加工ができる。デルタ相は加熱したとき縮むという異常な性質があるがその負の膨張係数は大きくはない。

デルタ相だけが不十分な安定状態にある。非常に低い圧力(通常よくあること)の下で密集したアルファ相に崩壊して行き、密度が25%増加する。圧力1000バール以上では、純プルトニウム中にはデルタ相は存在しない。比較のために、ウラン(またはアルファ相プルトニウム)の密度を25%増加させるには450,000バールの圧力が必要である。30,000バール以上ではアルファ相とベータ相プルトニウムのみ存在する。

プルトニウムを室温でデルタ相に安定化するには、ガリウム、アルミニウム、セリウム、インジウム、スカンジウム、およびアメリシウムのような3価原子と数モル% (合金作用物質である原子の%) の濃度で合金にすることである。

安定化させてもデルタ相は未だ容易に壊れやすく、数千バールの圧力でアルファ相に容易に戻すことが出来る。興味ある事実は、ガリウムで安定化されたプルトニウムの中でデルタ相はガリウム成分が4.0モル%以下なら実際にメタ安定である。このことは圧力で相変化を誘導されたアルファ結晶形は不可逆であるということを意味する。

兵器用にはプルトニウムは3-3.5モル%ガリウム(重量比0.9-1.0%)と合金にしてデルタ相に安定化する。この合金は少なくとも−75から475℃で安定である。この安定化は精密に作られた兵器の構成品を壊すような製造後に起る低温相変化を防止する。膨張係数は殆どゼロである。冷却時、エプシロンからデルタ相に変化するだけなので、鋳造も容易である。なお、ガリウムはプルトニウムを腐食しにくくしてくれる。

3%ガリウム合金はガゼットとフアットマン原爆に使用された。この合金剤を除いたプルトニウムは非常に純粋であった。

それでもアルファ相プルトニウムは兵器用に使用された。アルミは良い合金媒介剤だが、中性子が生成するアルファ→中性子反応(下記参照)のため兵器には使用できない。セリウムも耐腐食性がない(理由の一つ)ために使えない。

プルトニウムのピットは腐食防止と放射能障害軽減のために金属(通常ニッケル)メッキされる。試験用原爆ガゼットの二個の半球はニッケルで電気メッキされた(銀メッキされたとも言う)。その工程は万全ではなく、水ぶくれができてしまった。長崎原爆フアットマンのピットはニッケルメッキされ、Joe1/RDS-1もそうであった。アルミ蒸着と亜鉛電気メッキは使用できない。

プルトニウムを兵器に用いる際の重大な問題は、その高い自発的中性子放射率である。臨界質量組立中の中性子の存在は過早核反応(注)、すなわち能率の悪いエネルギーの解放を起し、兵器全体をことごとく損傷させるに至る。この中性子の背景には二つの原因がある。最も重要なのは同位元素Pu-240の存在であり、106n/sec/kgを解放するに十分なほどの過早核分裂を起す。第二の原因はプルトニウムの中の強いアルファ輻射と光元素汚染物質との相互作用による。マンハッタン計画で砲撃型原爆が最初に計画された時、この問題が大きな関心を呼びPu-240の発見でその計画が現実的意味を失った。この問題を最小限にする(しかし除去は出来ない)ため光元素の存在を百万分の一個に保つという相当困難な任務が課せられた。アルミニウムもまたアルファから中性子への反応を経るので兵器の合金剤としては使用できなかった。
(注)早期爆発とも言う

金属プルトニウムを作る独自の技法はハロゲン化プルトニウムをアルカリ金属で火薬化学的に還元する。一般に、PuF4をカルシウムとヨウ素で還元する方法で、これは米国では少なくとも1970年代に入るまでは標準的方法であった。より高い純度を得るには火薬化学的に作られた金属を電気精製する(兵器に使用する場合、この段階は不要)。ナトリウム、カリウム、及び塩化プルトニウム、そしてタングステンまたはタンタルを陰極にした700℃の電解槽を用いて純度99.99%のプルトニウムを作る。より新しい技術は酸化プルトニウムの電気精製物を直接火薬化学的に分解するものである。

今日、溶融プルトニウムおよびプルトニウム鋳物の運搬には、僅かに酸化したタンタルで出来た装置を使う。鋳型は機械加工された黒鉛、軟鉄又はフッ化カルシウム又はジルコニウム又はイットリウムの酸化物で内張りした鋳鉄から作られる。また、プルトニウムは冷却されたアルミ鋳型でうまく鋳造できることが分った。急速に冷却されるので、比較的緩やかに起る中間相転移は殆ど全く飛び越してしまう。

2.プルトニウムの毒性 

プルトニウムの化学的毒性は他の重金属と変わりないが、放射性毒性は取るに足らない(実際、認められない)。プルトニウムの毒性はそれが能動的なアルファ線放射体に由来するという事実による。アルファ粒子が(プルトニウムを飲み込むとかして)人体の内部で放射した時にのみ危険である。プルトニウムはまた、人体を外部から貫通するガンマ線と中性子を放射するが、その放射率は僅かな危険しか与えない。プルトニウムの毒性はそのアルファ線によって決まり、その同位体の構造が重要な影響を与える。特に、兵器級プルトニウムや遊離したアメリシウム(Am243)の毒性は低いと考えられる(アクティビティは約0.071Ci/g)。 

アルファ粒子はプルトニウムを含むか、又はそれに直接接触する組織にのみ影響を与える。二種の効果が重要である:急性及び慢性毒性。被爆率が十分高ければ、組織は中毒の効果が急速に表れて急性放射線中毒にかかる。被爆率が低い場合、累積的な発ガン効果を引き起す。 

溶けやすい塩類にして飲み込んでも、胃腸の内容物と固まりやすいので胃腸の器官系に吸収されることはほとんどない。水溶液からは沈殿し、他の材料と溶解しない合成物を作る傾向を持つので、プルトニウムの水の汚染物は自己制限現象になりやすい:
プルトニウム500ミリグラム(7キューリー)を細かくするか、又は溶解しやすい材料として飲み込むと、胃腸の器官系が急性被爆を受けて数日から数週間後に死に至る。
プルトニウム100ミリグラム(1.4キューリー)を肺が閉止する程度の大きさの粒にして吸入すると肺浮腫を起して1から10日のうちに死亡する。

20ミリグラムを吸入すると繊維腫を起して約1ヶ月以内に死亡する。

これらの値より少ない場合は、慢性癌腫の影響が重要になってくる。

プルトニウムが慢性効果を持続するには、体内に引き続いて存在しなければならない。肺分泌閉止に適当な寸法範囲の吸入した不溶解性の粒子(1-3ミクロン)は肺の中に永久に沈殿する(非核兵器の事故による高性能炸薬の爆発はここに示すプルトニウムの病状の20-50%に置き換えることが出来る)。人が曝される最も一般的な化学形態は酸化プルトニウムである。この酸化物は反応燃料として用いられ、金属プルトニウム粒子は急速に酸化する。この酸化物は殆ど水に溶けない。

成人の肺に沈殿したプルトニウムの粒子による肺ガンの生涯リスクはおおむね摂取量に比例する:
1マイクログラムのプルトニウム(0.07microCi)を摂取すると、ガンになるリスクが1%増加する(ガンが発生する通常の割合は20%)。
10マイクログラムの摂取は、ガンの障害リスク20%から30%に押し上げる。
100マイクログラム(7.1microCi)あるいはそれ以上摂取すると、数ヵ月後に肺の損傷が表面化し、最後に肺がんが発生(通常は数十年後)する。

プルトニウムは通常、化学的にFe 3+に似た+4酸化状態で生物学系の中に存在する。もしそれが循環系の中に吸収されると鉄分を含む細胞組織の中に蓄積される:骨髄(放射線にとても敏感)、肝臓、および脾臓。プルトニウムの生物学的半減期は80-100年であるが、骨組織に沈殿した場合は永久的である。肝臓に沈殿した場合の生物学的半減期は40年である。プルトニウムを除去するのに助けになる薬剤がある。成人の骨の中に1.4マイクログラム(0.1microCi)が沈殿すると免疫系の悪化が起り、数年のうちに骨ガンを発生する。 

放射能保護に関する国際委員会は年間吸飲制限(ALI)を20nanoCi/yr(280ナノグラム)と規定した。職業的露出に対し7picroCi/M^3の空気の濃縮に相当する。Pu-239の最大許容人体負荷(職業的露出)は40nanoCi(0.56マイクログラム)で、肺負荷は16nanoCi(0.23マイクログラム)である。汚染の問題があるため、米国の研究所ではプルトニウムに人が触れることを厳禁している。

3 プルトニウムの製造

プルトニウム239は兵器に適切な同位元素である。先に変質の項で考察したように、この同位元素は核反応炉内でU-238を遅い中性子流に当てて作られる。この反応は世界の大多数の原子炉内で日常的に起っている。何故なら、それらの炉に主にU-238低濃縮ウランまたは自然ウランを燃料として用いているからである。プルトニウムはまた高度に濃縮されたウランまたはプルトニウムを燃料として使用する特殊な反応炉内で作ることもできるが、プルトニウム増殖用に自然ウランまたは使用済ウランで包まれる。 

Pu-239が中性子を非核分裂的に捕捉すると、照射の結果としてPu-240という放射性物質を生成する。同様に、Pu-241とPu-242もまた少量だが蓄積する。
 Pu-239 + n -> Pu-240
 Pu-240 + n -> Pu-241
 Pu-241 + n -> Pu-242
また、側方反応鎖がPu-238を生成する:
 U-238 + n -> U-237 + 2n
 U-237 -> (6.75日、beta) -> Np-237
 Np-237 + n -> Np-238
 Np-238 -> (2.1 日、beta) -> Pu-238
ある燃料要素またはブランケット要素が受け取る全放射量はMWD(注参照)によって測定する。燃料要素の場合、これを燃料の「燃焼度」と呼ぶ。(兵器用の)より良質のプルトニウムは、他の同位体が濃縮される前に低いMWDで被曝させて作られる。現代の濃縮ウラン軽水炉内での燃料要素は3300MWDに達する。

兵器生産用の反応炉での代表的な被曝は1000MWD程度である。ハンフオードのグラファイトパイル内で造られる兵器級プルトニウムは600MWDであり、サバンナ河重水パイルは等価な組成のものを1000MWDで製造している。マンハッタン計画では、ハンフォードの反応炉内で自然ウラン燃料を戦時生産の緊急のため僅か100MWDの被曝しか受けないで超上級の兵器用プルトニウムを生産した(Pu-240は0.9-1.0%で、その他の同位体は無視しうるほどであった)。

(注)MWD:1トンのウラン燃料当たりどれだけの熱量(単位はメガワット/日)を発生させたかということを示す数字。正確には燃焼度(MWD/MT)。

4.Pu-238

この同位体の自発的核分裂率は1.1×10^6fission・sec-kg(Pu-240の2.6倍)で、熱出力も高い(567W/kg)。アルファ活動(Pu-239の283倍)が非常に高いため、alpha -> n反応によるとても厄介な中性子放射源になるからである。この同位体がプルトニウムの中に占める割合は僅か1パーセントにしか過ぎない。しかし、成分としては僅かでもそれが生成する中性子や熱量は大変厄介である。その放射能は17.5Ci/gである。

5.Pu-239

Pu-239だけが兵器利用に適した同位体で、他の同位体は逆の効果を持つ。Pu-239はU-235より高い核分裂および散乱断面積を有し、核分裂ごとに発生する中性子の数も多く、その結果臨界質量は小さくて済む。

純粋なPu-239は自発的核分裂より来る適度の中性子輻射率を持ち、その値は約10fission/sec-kg(30neutrons/sec-kg)である。必要な臨界質量が6kg以下と小さいため、Pu-239が純粋なら砲組立方式(リトルボーイ)に利用できる(だがPu-239のアルファ活動が高いので、軽い元素の不純物がアルファ−>n反応をするのを避けるために不純物を数ppmに保つ必要がある)。

Pu-239の半減期が(U-235と比較して)相対的に短いということは、放射性崩壊の過程でかなり多くのエネルギーが放出されるということである。実際、Pu-239が放出するエネルギーは1.92watt/kgである。この値は重量で比較すると成人の平均新陳代謝より高く、それが二十分の一の容積内に集中する。だから、Pu-239の断片は大変暖かい。その断片を完全に断熱すると、二時間以内に室温から水の沸騰点に達し、すぐにアルファ相からベータ相への遷移点(122℃)に達する。そのため、自己発熱による温度上昇は周囲の過熱は避けられても、兵器設計上の問題がある。兵器設計でアルファ相を避けるのはアルファ相ピットがアルファ->ベータ転換温度に接近するのが心配だからである。Pu-239の放射指数は61.5milliCi/gである。

米国の兵器用プルトニウムはワシントン州ハンフオードとジョージア州サバンナリバーで作られている。ソビエト/ロシアのプルトニウム生産工場はシェラビンスク付近のキスチムにある。

6.Pu-240

プルトニウム同位体の中でPu-240は兵器に用いる際、気になる主な汚染物質である。Pu-240はそれが高い自発的核分裂を起すから問題なのである。その自発的核分裂率は415,000fission/sec-kgで、分裂毎に中性子を2.2個放出するので1,000,000neutrons/sec-kgである。この値はPu-239の30,000倍以上になる。ただ1%混入しているだけで非常に多くの中性子を放出するので、効果的な爆弾にするには爆縮方式(フアットマン)が必要になる。標準の兵器級プルトニウムのPu-240含有量は6.5%以下である。含有量がもっと多いと、高性能の爆縮方式でも早期爆発(および威力低下)が起りうる。

Pu-240はU-235より核分裂しやすい元素である。にもかかわらず、Pu-240の含有量が多いと必要な臨界質量が増え中性子背景問題が更に悪化する。Pu-240の半減期は比較的短い(Pu-239の4分の1)ため、崩壊熱出力は高い(7.1watts/kg)。そのため爆弾の設計に冷却問題が生ずる。Pu-240の放射指数は0.227Ci/gである。

7.Pu-241

この同位体はPu-239と同じくらい核分裂しやすく、中性子放射率が低く、熱出力も適度であるから、プルトニウムを兵器に使用するのに悪影響は与えない。半減期は14.1年と短くアメリシウム241に崩壊して行くが、この元素は核分裂せず106W/kgという大量の熱を発生する。最初からPu-241を含む兵器が数年または十年経過すると、その反応力は多少低下するであろう。その兵器を設計する時に威力の減少、自己発熱の増加を考慮すべきである。Pu-241の半減期が短いにも拘らずあまり熱量(3.4W/kg)を発生しないのは、その弱いベータ放射崩壊モードによるからである。Pu-241の放射指数は106Ci/gである。

8.Pu-242

この同位体は中性子放射率(8,4×10^5fissions/sec-kg:Pu-240の二倍)が高く、核分裂しない。従って、これを十分に濃縮すると高い中性子バックグラウンドが得られるが、臨界質量が増えるという重大な逆効果を産む。その半減期は長く、比較的低い中性子捕捉断面積を持つので反応炉でリサイクルされたプルトニウムの中で蓄積していく傾向がある。その放射指数は4.0milliCi/gである。

9 兵器級プルトニウム

Weapon Grade Plutonium という用語は、米国ではPu-240の成分が7%以下のプルトニウムに対して用いられている。兵器級プルトニウムの代表的な分析値を下表に示す。最初の二列はハンフオードとサバンナ河で1968年6月に製造された兵器級プルトニウムの平均的分析値である。三列目はロッキーフラッツ工場の外側で1970年代に採取された土壌サンプルから分析され、同じく存在したアメリシウム241(Pu-241の崩壊生成物)の分析値も示した。 

代表的な兵器級プルトニウムの組成

 

Hanford
(avg. 6/68)

Savanna
(avg. 6/68)

Rocky Flats Soil
(Avg. 1970)

Pu-238

<0.05%

<0.05%

痕跡

Pu-239

93.17%

92.99%

93.6%

Pu-240

6.28%

6.13%

5.8%

Pu-241

1.54%

0.86%

0.6%

Pu-242

<0.05%

<0.05%

痕跡

米国はPu-240を3%しか含まないスーパーグレードのプルトニウムを、低グレードプルトニウムを濃縮するためと、恐らく特殊兵器を設計するための材料として製造している。米国で設計されているある兵器は、Pu-240の成分割合を1.5%以下にしなければならない。

「兵器級」という名称は実際、何を意味するのであろうか。広く認められている解釈は、兵器級とはPu-240の含有量が7%未満のものを意味し、そのグレードなら立派な兵器を造ることができ、この水準以下ならば兵器の性能に少なくとも重大な妥協をせざるを得なくなるだろう。

Pu-240の含有量は兵器設計の経過に明確な影響を持つ。それは中性子の背景を決定し、二次効果として(僅かだが)臨界質量と熱出力を増す。中性子の背景は、含まれるプルトニウムの量を制限すると同時にある規定の境界以上に爆縮速度を上げねばならないという設計上の拘束になる。上述のようにある米国の兵器設計(恐らくは古いもの)はこれらの理由からPu-240の含有量を低くする必要があった。

これらの問題が少なくとも1960年代初頭の米国で用いられた先進設計では重要でなくなったかどうかは明らかでない。最近秘密指定から外された政府資料(WASH-1037 Revised, _An Introduction to Nuclear Weapons_, June 1972)によると、「兵器級」という名称は純粋に経済的なものであるということが明らかになった。プルトニウムの価格はPu-240の含有量が多いほど下がる。他方、Pu-240含有量が多いほど臨界質量は多くなる。Pu-240含有率6-7%あたりで兵器に使用されるプルトニウムの全価格を最小限になる。

このことはPu-240を多量含有するプルトニウムが現存する兵器設計に使われていることを必ずしも意味しない。これらの兵器は特定の材料を用いて最適化され、そしてもしそれ以外のプルトニウム組成を用いたならば多分性能が劣るものになるであろう。

Pu-239が93.4%、Pu-240が6.0%、Pu-241が0.6%(他の同位元素は無視しうるとする)の平均的組成を考えてみると、その兵器級プルトニウムの特性は下記のごとくである。初期熱出力は2.2W/Kg、自発的核分裂率は27,100fissions/secと考えられる。この核分裂率は良好な爆縮システムによって過早爆発の確率が非常に小さくなるように組み立てられたプルトニウム4-5kgを用いた兵器に使用できる。数十年経つと殆どのPu-241はAm-241に崩壊していくので、その結果熱出力は2.8W/kgにまで上昇する。Pu-241はとても核分裂しやすく、Am-241はそうでもないので、これがこの兵器の中の反応余裕を少し減らすことを兵器設計に考慮しておかねばならない。

5キロのWG-Puの中性子輻射は3×10^5/secで、1メートルの距離で0.003rad/hrの暴露に相当する。これはそれを取り巻いている反射器や炸薬により減少する。ある軽量な兵器では5-10分の1に減衰するであろう。他方、中性子の高いRBE(注)が危険を増す。通常の労働計画で兵器に常に接触していると、年間作業限界に近い輻射暴露を受けることとなる。プルトニウム核を直接またはグローブ箱に入れたものを持ったりした兵器工場の従業員は特別の遮蔽物を備えたり、被爆を下げるために別の業務に交替させるべきであろう。
(注)RBE(relative biological effectiveness:生物理学的効果比):問題にしている放射線が標準放射線に比べ何倍の生物効果を与えるかを数字で表したもの。

Pu-239とPu-240との質量差が小さいので、ウランで用いられている通常の濃縮法でPu-240を取り除くことは実際的ではないと考えられた。電磁分離法が少量のプルトニウムについて研究目的で試みられた。高度な国家にとってPu-240を6%以下に減らす理由は特にない。と言うのは、効率の良い信頼性の高い核融合爆弾の引き金として利用出来るからである。Pu-240の割合が非常に少ないことは兵器設計に余分の柔軟性を与え、特殊目的あるいは風変わりな設計に望ましいものと考えられるである。

10 反応炉級プルトニウム

発電炉の燃料は経済的理由から燃料の燃焼度(Burnup)が非常に高い。使用済燃料から取り出されたプルトニウムは不純な同位体を高度に含んでいる。その組成は反応炉の設計とその正確な運転の歴史によって異なる。その代表的なものは:
軽水炉CANDU炉MAGNOX炉の同位体

 

代表的

33,000MWD

7,500MWD

3,000MWD

Pu-238

2%

1.5%

低い

0.1%

Pu-239

61%

56.2%

66.6%

80.0%

Pu-240

24%

23.6%

26.6%

16.9%

Pu-241

10%

14.3%

5.3%

2.7%

Pu-242

3%

4.9%

1.5%

0.3%

この33,000MWD燃焼度は1970年代と1980年代に普通に用いられた3%濃縮ウラン燃料の場合である。最近、濃縮ウランが安価になったため(世界の軍備競争後、濃縮能力が供給過剰になった)、より濃縮された燃料(4〜4.5%)が用いられるようになり45,000MWD以上の燃焼度(注)になった。その結果、Pu-238、240、241および242などが濃縮され、その含有率が増えるようになった。
(注)ウラン燃料(ウラン濃縮度:約4.1%)の最高燃焼度は48,000MWD 関西電力)

軽水を基礎として使用して計算すると、Pu-241が崩壊していく14年間に熱出力が14.5W/kgから19.6W/kgに増加し、最後には最高値の24ワットに達する。中性子輻射率は350,000neutrons/kgである。比放射能は11.0Ci/g(0.442Ci/g、アルファ活動)である。

同位体が希釈されていることが臨界質量(Pu-239とPu-241とは核分裂しやすく、他の同位体はそれほどでもない)に与える影響を考慮すると、そのプルトニウム8Kgでできた爆弾の発熱量は116ワット(同じワット数の白熱電球は手に持てないほど熱い)で、中性子輻射率は2.8million neutron/secでありこれは爆弾に使用できない。核のコア、炸薬およびその他の構成品の劣化や破損を避けるために絶え間なく積極的に冷却せねばならない。高い中性子放射率は非常に効率の良い爆縮システムにおいてさえ、早期爆発を避けることができない。しかしながら、比較的初歩的なフアットマンの設計においてさえ、この材料を用いて0.5キロトン以上の威力が得られた。最適な爆縮設計を行ったなら、少なくとも数キロトンの範囲の威力が得られただろう。もし核融合ブースタに用いたなら反応炉級プルトニウムの有害な影響をする特性は完全に克服できる。その材料を使用するに便利でないにも拘らず、効率の良い高威力設計に用いることが出来る。

反応炉級プルトニウムはより高級材料を入手しやすい国家にとり、興味がないだろうと思われるが、良い兵器設計が出来る国家ではより核分裂しやすい材料にアクセスしないで、効果的に用いられるようである。低技術の国家においてさえ、それから強力な兵器を造り出すことが出来る。唯の1キロトンの兵器さえどの通常兵器の破壊力を上回るのである。

長期間(数十年間あるいは一世紀)が経過すると、反応炉級燃料の熱出力はPu-238とAm-241の崩壊によって大幅に減少する。しかし、これは中性子背景にほんの少しの影響しか与えない。一般に、使用済み反応炉燃料は反応炉地区に近い封じ込めプールの中に無期限に貯蔵される。かくて、別のやり方で処分されるまで増殖リスクを持続し続ける。核分裂生成物の放射レベルとプルトニウムの熱出力が低下するに従って増殖リスクは増加していく。

40年間貯蔵すると、Pu-238の30%とPu-241の88%が崩壊する。そして、プルトニウムの組成は1.5% Pu-238、67.3% Pu-239、26.4% Pu- 240、1.3% Pu-241および 3.3% Pu-242となる。この時、熱出力は11.7W/kgとなり、製造後増加(最大13.8w/kg)してきた熱出力は安定する。

80年間貯蔵すると、組成は0.66% Pu-238、69.06% Pu-239、26.86% Pu-240、0.01% Pu-241および 3.41% Pu-242となる。安定的な熱出力は7.5W/kgになる。

ウラン濃縮技術を用いてやっかいな同位体を取り除くことは可能である。複数の同位体が存在するので複雑になり、ウランの中の3原子量単位の差と比較すると1原子量ごとに分離することになる。一般に、分離パラメータ(s-1)を三分の一に減らし、一段階の分離容量または工場を九倍にすることになる。そのうえ、複合濃縮過程が必要になるかもしれない。Pu-240と更に重いアイソトープを分離した後、Pu-238を取り出す第二の濃縮が必要かもしれない(濃縮前の材料の組成、および温度上昇効果がどれだけ差しさわりがあるかによって)。供給材料、廃棄物および製品の毒性、中性子放射および自己発熱が、ウランに比較して濃縮作業を複雑にする。

一方、爆弾を製造するに処理すべき供給材料の量は自然ウランの場合より二桁以上少量で済む。それはPu-239含有量が高いこと(0.72%に対し60-70%であること)および臨界質量が少ないこと(15kgに対し6kgで済むこと)による。上述のように複雑ではあっても、反応炉プルトニウムを格上げするための濃縮工場は自然ウラン工場より使用する技術に拘らずとても小型になるだろう。だから、この材料は国家レベルの危険をはらんだ増殖リスクを考慮されねばならない。

電磁分離によって反応炉級から兵器級プルトニウムを生産することは非常に簡単である。このプロセスの極端に高い濃縮率により、唯の一段階の濃縮が必要なだけで、工場からの製品は供給源材料の中の必要とするアイソトープの濃度に比例する。年間0.5個の爆弾を生産できる能力を持った電磁分離施設(イラクが計画中のものと類似の施設)は、もし反応炉級プルトニウムを入手できるなら年間100個の爆弾を製造できる。

ガス拡散と遠心分離もまた有力な候補である。六弗化プルトニウムの性質は六弗化ウランと似ているから、拡散装置や遠心分離装置の設計にちょっとした変更を加えるだけでよい。もし60% Pu-239/25% Pu-240を原料として使用し、94%Pu-239と50% Pu-239(供給されたPu-239の半分を含む生成物)を生成し、1kgの兵器級プルトニウムを得るのにただ2kg-SMUが必要となるだけである。このことは自然ウランから90%のU-235を1キログラム製造するに必要な努力の1%に相当するのみである。SWUの数が少ないことを考慮し、プルトニウムの臨界質量が少ないことを相殺すると、プルトニウム濃縮工場はそれに相当するU-235工場より29倍も多くの爆弾を生産できる。遠心式濃縮工場はただの数ダースの直列段階を必要とするのみである。

AVLIS技術は、商用反応炉級の材料を用いて安価に分離できる可能性をもたらした。80年代からAVLIS研究をしてきたことが動機付けをもたらしたのであろう。

11 変性プルトニウム

プルトニウムを反応炉燃料から抽出して再び出力反応炉で繰り返し使用すると、その組成は逐次兵器利用に適さなくなって行く。燃料再処理を数回繰り返すとPu-238、Pu-240およびPu-242が増加し、兵器として使用しにくくなる。このような再処理された燃料を混合して使用することは、退役した兵器級プルトニウムを「変性」して、あるいは増殖しにくくして供給する良い方法である。これは主に低技術設計に使用するのを抑止することになる。その高い熱出力や放射能レベルは、たとえ設計に重要な拘束を与えたり、運搬に問題を生じたりしたにしても、単なるはた迷惑な値に過ぎないし重大な妨害にならない。先進設計と適切な取扱い設備がこの障害を完全に克服するであろう。技術水準が低くても、この材料を用いて破壊装置が作られるであろう。
(以上)

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