「樹木のウロと小鳥の住処」

・ウロとは?

 大木の点在する林を歩くと、樹木の幹にぽっかりとあいた穴に気づくことがあるでしょう。このような穴はウロ(樹洞)とよばれ、大風などによって大枝が折れて芯が腐った部分などに形成されます。ウロのできやすさは木材の腐りやすさとも関係しており、シイやニレ科のケヤキ、エノキ、ムクノキの大木にはよくウロが見つかります。

・ウロにすむ生きもの

 樹木のウロはさまざまな生きものたちによって利用されます。
 昆虫ではニホンミツバチやスズメバチの仲間がウロに巣を作ります。雨が吹き込んで水が溜まるウロもありますが、このような生きた植物体の上にできた水溜りはファイトテルマータとよばれ、蚊をはじめとするさまざまな昆虫が発生します。熱帯ではこのような樹木の上の水溜りでオタマジャクシの時期を過ごすカエルもいますが、親になると餌や干上がりにくい新たな水溜りを探す必要があるので、いつまでも“井の中の蛙”ではいられません。
 哺乳類ではリスやムササビ、モモンガ、大きなものではツキノワグマなども樹木のウロを利用して子育てや冬眠をおこないます。一般に洞窟にすんでいるイメージが強いコウモリの仲間にも、樹木のウロにすむ種類のコウモリが多数います。
 ウロを子育ての場所として利用する鳥は樹洞営巣性鳥類とよばれ、シジュウカラのような小鳥からオシドリやフクロウ、国外ではサイチョウのような大型の鳥までさまざまな種がいます。ちなみにブッポウソウも声の仏法僧(コノハズク)もウロを利用します。樹木のウロの中は、外の風雨や暑さ寒さの影響を受けにくく、また開口部が大き過ぎなければカラスやタカなどによってヒナや卵が襲われる心配が無いので、鳥にとって都合の良い子育ての場となります。シジュウカラなどの小鳥の多くは草やコケなどの巣材をウロの中に運び込んで卵を産む場所を整えますが、フクロウの仲間は自分で巣材を運び込むことはほとんど無く怠け者です。
 私たちにとって身近な鳥であるスズメやムクドリも本来は樹木のウロで子育てをする鳥ですが、都会では雨戸の戸袋やブロック塀のすき間など、人工物にさまざまな“ウロ”を見つけて子育てをします。大きな木が少ない林では巣として適当な大きさのウロの数は限られており、鳥たちは住宅難です。同じフクロウの仲間であるフクロウとアオバズクが、同じウロを同じ年に順番に使って子育てすることがあります。またウロを利用する鳥は、巣箱を架けるとよく利用します。巣箱を架けることによって樹洞営巣性鳥類の数が大幅に増えたという報告がたくさんあります。
 キツツキの仲間は自分自身で木の幹に坑道を掘って巣穴とします。枯れた木の幹などに直径数センチメートルのまん丸の穴が開いていれば、それはおそらくキツツキが掘った穴です。樹木に穴を掘ることは大変な労力を必要とします。そのためでしょうか、さらに巣材を運び込むことはほとんどしないようです。キツツキによって開けられた穴はその後ほかの小鳥や動物たちによって利用されることもよくあります。

・身近な大木を見てみよう

 ウロのある大木は山奥の原生林まで行かないとみられないものではありません。材木として切られることのなかった鎮守の森や街中の神社にも大木が残されています。このような場所の大木のウロにはフクロウやアオバズクがひっそりとすんでいます。また、ウロだらけの古木はムクドリのアパートとなっていることもあります。しかし最近は、巨樹・名木の延命のためや、スズメバチが巣を作らないように、ウロをコンクリートやウレタンで塞ぐ処置がされている例が増えています。樹木のウロは生きものたちにとって貴重な資源です。うまく樹木の延命などと折り合いをつけて、維持していきたいものです。

橋本啓史(2002)樹木のウロと小鳥の住処(森本幸裕『NHK趣味悠々・樹木ウオッチング』, pp109, 日本放送協会), p58-59.(コラム)


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