伊豆諸島三宅島におけるオオバエゴノキの種子散布に関する研究

−特にオーストンヤマガラとの関係について−


指導責任教員 荒 木 眞 之
指導担当教官 上 條 隆 志


橋 本 啓 史 ( 9 6 1 0 0 3 )



1.はじめに

 オオバエゴノキStyrax japonica var.kotoensisは伊豆諸島の落葉広葉樹林の主要構成樹種のひとつ である。本種は果皮に毒(エゴサポニン)があるため、被食散布型ではなく重力散布型に分類されて いる(沼田・浅野,1970)。しかし、種子は乾燥に弱いため落下後に生き残る割合は低いと考えられて いる。一方、オーストンヤマガラParus varius owstoniがオオバエゴノキ種子を果皮を除去した上で 食べたり、貯食を行うことが報告されている(樋口,1975)。このオーストンヤマガラはオオバエゴノ キの種子を地中にも貯食することから有効な散布者となっている可能性が指摘されている(上條・樋口 ,1999)。そこで本研究では、オオバエゴノキが分布し、オーストンヤマガラが多く生息する三宅島に おいて、オオバエゴノキの果実・種子に対するオーストンヤマガラの関与程度を明らかにすることを目 的とした。
2.方法

 表に示す三宅島の6地点において、調査木のオオバエゴノキを1999年8月上旬と9月上旬に観察し、飛 来するオーストンヤマガラについて時刻・個体数・類型化した行動を記録した。果実をもぎ取った後の 行動は観察地点から見える範囲のみを記録し、追跡は行わなかった。
3.結果・考察

 調査木周辺では21種の鳥類が記録され、調査木へもヒヨドリなど7種の飛来が観察されたが、果実を 奪取したのはオーストンヤマガラ1種のみであった。オオバエゴノキに飛来したオーストンヤマガラの 行動は以下のように類型化できた。果実を選び、くちばしで果実をもぎ取る(果実奪取)。横枝上など で果実を両足で押さえ、くちばしでつついて果皮に穴を開けて種子を取り出す(果皮除去)。種子を食 べる場合は種皮に穴を開けて中身を食べる(種子消費)。種子を貯食する場合は種子をくわえて貯食場 所へ飛んで行き(種子運搬)、地中や枯れ枝の割れ目などに差し込む(貯食)。また、観察には果実・ 種子を持ったまま視界外へ飛去した例(持ち去り)が多数あった。これらの持ち去られた種子はほとん どが貯食されるものと考えられた。
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 観察結果から1時間・1調査木当たりのオーストンヤマガラの類型化された行動数に計算した値を表に 示した。調査地間の比較をすると、富賀神社は他の調査地と比較して運ばれる果実・種子の量が少なか った。この原因は、富賀神社はタブノキ林内のためヤマガラ個体数が少ないためと考えられた。他の地 点にはオーストンヤマガラの冬季の主食となる堅果を生産するスダジイが多いためオーストンヤマガラ の個体数が多く、周囲から本種が多数集まって来ていたと考えられた。次に調査時期で見ると、標高の 低い富賀神社・大路池では8月上旬に活発に種子の運搬が行われたが、標高の高い雄山林道沿いでは9月 上旬になってから種子が運ばれた。これは種子の成熟が暖かい低標高地のほうが早いためと考えられ た。
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 観察できた範囲では、貯食された種子の50%が地中へ埋められ、発芽の可能性を与えられた。そして 周囲からテリトリーを超えてオーストンヤマガラが集まってくる木では、数百mオーダーの種子散布が 行われるものと考えられた。活発にオーストンヤマガラが飛来した大路池南調査木1(図)では、1か月 間に2,235個の果実がオーストンヤマガラに奪取され、最大で2,151個の種子が貯食されるものと算出さ れた。したがって、推定された全果実数(7,191個)の31%の果実がオーストンヤマガラに奪取され、2 9.9%もの種子が貯食されたと推定された。
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図.大路池南1の8月上旬における1日のオーストンヤマガラの行動