エアドゥの経営破綻と全日空との提携について

1.民事再生法の申請
 6月25日、エアドゥは民事再生法に基づく手続きを申請して、自主再建を断念し、実質上経営破綻に陥った。
 前回の調査・研究報告を掲示して以来2ヶ月後の出来事であり、エアドゥの存続を願っていた筆者にとっては、大変残念なことであった。 

2.経営破綻の原因
   筆者としては、エアドゥの経営破綻の原因を考えると、第1に大手航空会社との価格競争を想定していなかったこと、第2に半額運賃の理念が先行し、機材リース料や地上業務委託料、整備費などのコストに見合う運賃を設定しなかったことが挙げられる。当然、大手航空会社に競争を挑むのであるから、スケールメリットのない中で低コスト、高効率の経営が必要であったと考えるが、残念ながら、理念と実態に乖離があったものと思われる。本来であれば、大手航空会社と同じ運賃レベルでの利用者数を想定し、経営が成り立つ運賃を設定するべきであり、それが、大手航空会社の運賃より高いのであれば、現状の環境においてはもともと事業としては成り立たなかったのではないかと考えるべきである。
   今回の経営破綻の原因について、大手航空会社と比較して人件費や委託費等のコストはどうだったのか、ターミナルビルや空港の運用において大手航空会社より不利益になっていないのかなど究明する必要がある。

 エアドゥは、今年2月に道に対して支援を要請し取り下げた経緯があるが、機材リース料の減免、ハンドリングの自社化などにより経費削減をすすめていた中、なぜ今経営が破綻し、民事再生法の手続きに入ったのか、どうして経営が成り立たなかったのかどうか、現時点では道民に対して残念ながら情報が公開されていない。これまでの道庁、札幌市の公的支援を踏まえると、納税者たる道民に対して、エアドゥはどうして経営が破綻したのか情報を公開する義務があると思われ、また、道庁、札幌市もエアドゥに対して情報公開を要請すべきである。 

3.ANAの提携
 なぜ全日空との提携の話が急速に進んだのか。その理由は、昨年11月のJAL・JASの経営統合発表以来、これが実現すると全日空にとっては国内幹線においてJAL、JASより優位に立っていたが、一気に劣勢になる危機感からエアドゥの発着枠の取り込みが必要不可欠になったことと思われる。全日空とJAL・JASグループの新千歳〜羽田館の便数は16:25と劣性になり、エアドゥを取り込んで初めて22:25と競争ができる便数となる。羽田〜大阪、福岡も同様な状況で、ANAグループとしては便数確保が最重要課題であり、ここにエアドゥとの連携という経営戦略の転換が余儀なくされたものと思われる。
 ANAの狙いは、発着枠の確保のために、エアドゥが債務を解消し身綺麗になった後、100%減資により一般株主を排除して、新規航空会社としての発着枠確保のための20%以内の出資より実質的経営権を握ることであると思われる。 新規航空会社への既存航空会社の出資制限は、新規航空会社の経営の主体性を確保するために、20%以内と設定していたが、国は恐らく他に50%を越える筆頭株主がいることを想定し、20%では実質的な経営権を掌握できないものと考えていたと思われる。
 しかし、エアドゥの場合は、今の計画では政策投資銀行が50%、道内企業に残りの30%の出資を要請するとしており、民間単独資本で20%を越える株主を想定していない。また、営業を初めとして予約システム、ハンドリング、整備等をANAの支援を受けるというより、ANAに経営を依存することから、例え20%の出資であっても実質的にANAが経営権を掌握し、エアドゥはANAグループの一員としての役割しか担えない状況になるものと思われる。

5.エアドゥの終焉
 このような中、ANAのコードシェアーの割合は50%とし、残りをエアドゥが単独で売るという計画が公表され、ANAはどのようにエアドゥ便を活用するか公表していないが、筆者の予想では恐らくANAは自社ブランブランドとの差別化のため、エアドゥ便を団体ツアー専用、安売りチケット専用便にするのではないかと思われる。
 また、エアドゥは残りの50%をどのような形で販売するのか、例えば、低運賃を設定した場合、これまでのようにJAL・JASグループが対抗すれば、必然的にANAも対抗せざる得ない状況になることが予想され、経営権を実質的に掌握している全日空はこのような状況を是とするのか疑問が残るところである。このようなことから、エアドゥはこれまでのような独自路線を継続することは困難であり、また、全日空との提携により、エアドゥの社員の内、営業やハンドリング、整備関係の社員は大幅に削減されることは否めないと思われことなどから、エアドゥが道民の翼として存続する意義を見いだすことは困難な状況である。残念ながらエアドゥの道民の翼としての役割は終演したものと言わざる得ない。 
 
6.今後の問題
○新規航空会社用発着枠
 エアドゥと全日空による国内コードシェアーについては、公正取引委員会が独占禁止法に抵触しないとの判断を示したところであるが、このような形で大手航空会社が新規航空会社の羽田発着枠を使用できるのであれば、新規航空会社としての位置づけはどうなるのだろうか。仮に、新規航空会社であるスカイマークやスカイネットアジアがエアドゥの枠を必要としたらどうなるのであろうか、今後の国土交通省の対応に注目するところである。
もし、エアドゥの羽田の発着枠が維持できないのであれば、全日空にとってはエアドゥの連携する必要性が無くなるのは明白であり、そのような状態において果たして全日空が協力すのかどうか疑問なところである。
 ロープライスリーダーとしてのエアドゥの役割が終焉した後、JAL、ANAの2社化の中、北海道の航空市場は寡占化に向かうのか、それとも2社における価格競争が続くのか、今後とも注目したい。

○大手航空会社との対抗
 大手航空会社の新規航空会社に対抗した運賃値下げについて、公正取引委員会は大手航空会社の運賃値下げが将来的に新規航空会社を排除して運賃上昇につながる懸念があるとして独禁法に抵触する可能性が高いとの意見を出したとの報道がある。仮に、新規航空会社を潰すために、採算性を度外視して運賃を下げたり、新規航空会社より安売りするのであれば問題は大きいが、同じ運賃レベルで競争ができるのであれば、利用者の立場からすると歓迎すべきことではないだろうか。今回、公正取引委員会の意見を受けて、大手航空会社が新規航空会社より2〜4千円高い運賃を設定するしていることから、新規航空会社に乗れない利用者にとっては逆に不利益に繋がることになるのではないかと懸念される。
 本来、大手航空会社より安い運賃を設定するのであれば、大手航空会社との価格競争を想定した運賃と利用者数により経営が成り立つことが前提条件であり、そうでなければ、安売りではなく大手航空会社との競争により経営が成り立つ運賃レベルを設定すべきであると考える。
また、既存航空会社と比較して、ターミナルビルの利用や空港の運用、諸規制において不利益を被るのであれば、これは国の責任において、新規航空会社が公平に競争できる環境整備を行う必要がある。
この度、国はエアドゥの経営破綻を教訓に新規航空会社が参入する環境整備について改善策を提示しているが、
より一層、規制などにおいて新規航空会社が既存航空会社と公平に、いや優位に競争ができる環境を整備する必要がある。
 最後に、エアドゥの経営破綻は、道民の一人として大変残念なことであるが、航空業界の価格破壊や自由化に一石を投じた役割は高く評価したいと考える。